上 下
39 / 40
魔族生活の薦め

8

しおりを挟む



「ロズ様と魔王様、お二人で大丈夫でしょうか?」


バルコニーの手前で待機をしているノワは背後に意識を集中させながら、隣で同じ様に警戒しているレフィナードに話を振った。
以前はこの竜の部下だったが、時々レフィナードの考えている事が予測できない。元は魔術の研究者として働き、魔王の側近として働く経緯を知っている故に、研究者=独特な感性を持っている、といった印象だった。


「さてな、魔王様の身に何かあればお護りするまで……」


「どうしたんです?」


考え込むような仕草で俯くレフィナードに、やはり研究者独特の空気を感じる。言葉を選び、憶測で判断しないようレフィナードは考えているのだ。
ノワは慣れた沈黙にため息を吐く。


「あれはスクロールを見てたか?」


「ロズ様ですよ。呼ばわりはしないでください。しかし、スクロールはまだ見れてないかと。レフィナード様に教えて頂こうかと思いましたが、なかなか会ってくれなかったじゃないですか」


ふむ、と再び考え会話が止まる。レフィナードとの会話はテンポが悪いと内心で文句を言う。
ノワの感情が表情に出ていたのか、しかめた顔でレフィナードがため息を吐いた。


「あれの能力値は理解ができなかった。全ての基本ステータスは上限まで極められていた。人の内包する魔力ではなく、星竜や大精霊の扱う量をあの小さな体に留めている。
人であれば魔力の濃度が高くて死んでいる筈だ」


「ロズ様がですか?しかし、スクロールで解析できたのであればレフィナード様よりロズ様の経験値は下かと思ってましたが……。ロズ様は通常の異世界人とは違うのですか?」


「私はをスクロールで解析できなかった。なので、鑑定ライブラリーで能力を測った。私の鑑定スキルは前魔王様側近より受け継いだ特殊スキルで、物の価値として能力を出した」


本当の意味でロズをあれ扱いしていたレフィナードに呆れたが、ロズが通常の異世界人でない事に納得する。
魔王であるギルウスの真名を与えた唯一の人。
そして、ギルウスの執着も納得できた。


「そんな方が人の国に渡ったら大変です。人は貪欲ですからロズ様を礎に魔族を滅ぼそうとするかもですね」


「そうだ。だから魔王様の為、魔族の為にもあの娘にはここにいてもらいたい」



「しかし、その力はロズ様のものであって、意思に反した利用をしてはなりません」


不安が過るが、ロズの立場を考えてレフィナードに進言する。
ロズの様子が気になり、バルコニーに視線を移した瞬間にゾワリとした感覚が床から伝わる。
同じ感覚を察知したレフィナードが素早くバルコニーに移動し、ノワが後を追う。
ロズの姿を確認し安堵したが、顔面は蒼白して今にも倒れそうだった。


「ロズ様!!」


魔王であるギルウスを睨むが、その腕からロズを離そうとはしなかった。


「私の花嫁だ、私の部屋に連れて行く。心配しなくていい、傍で休ませればすぐに回復する」


「花嫁?」


レフィナードも話を理解出来ずに、狼狽えている有様でノワは舌打ちをする。
ギルウスは影を拡げ、その中に姿を消した。
自室に影を使って移動したのだろう。


ノワはレフィナードを置いて走りだす。広間の地位ある魔族にぶつかりもしたが構わなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔王様はレベル1の勇者に恋をする! 〜ヤンデレ系こじらせ魔王は愛する勇者のレベルを上げさせない〜

愛善楽笑
ファンタジー
 魔王ヨーケス・ブーゲンビリアは絶賛片想い中だ。  相手の女性の名はユーナ・ステラレコード、神に選ばれし勇者である。  ──そんな二人の出会いは、幼き頃に遡る。  魔族と人族の戦いの戦火の中で、ヨーケスとユーナは出会う。彼らは生き延びるために、種族の違いを乗り越えて互いに手を取り合ったのだった。  父も母も、友人さえも失ったヨーケスにとって、ユーナは大事な存在になる。  そんな時二人の前に凶悪な魔王軍が現れ、人間であるユーナの命を容赦なく奪おうとする。しかし、すでにユーナに恋をしているヨーケスは彼女を守るため、魔族の子供ながら勇気を握りしめて一人、魔王軍に立ち向かう。  それをきっかけに二人の絆は分かたれてしまい──やがて月日は流れ、どういうわけかヨーケスは魔王として魔族の頂点に君臨する。そんな彼が再びユーナに再会すると、なんと彼女は神に選ばれし神託の勇者となっていた。  敵同士となる二人。  だが、そんなことを全く気にしないヨーケスはブレることなく、ユーナへ愛の告白をする。そんな彼に対し、ユーナは「ヨーケスは魔王だから、ユーナは付き合わんよ?」と、バッサリと切り捨ててしまうのだった。  それでも魔王は挫けない。  幾度恋破れても立ち上がり、ユーナへ愛の告白をしていく。そしてその溺愛ぶりは加速していき──ヨーケスが魔王軍へ下した命令は、魔王らしからぬものだった。 「勇者を攻撃したらおまいらぬっころす」 「伝説の剣? 勇者が抜きやすいように周りをほじくっとけ! さっさとやれ! 今すぐ!」  そんなヤンデレ系拗らせ魔王のまわりには、頭は少しおかしいけれど、どこか憎めない魔王軍四天王、勇者パーティーのBLショタ大魔法使い、お腐れ腐女子の大聖女など変態ばかり。  ──これは、どんなに片想いだとしても、めげずに唯一人をだけを愛し続ける魔王の……ほっこりとしてキュンとする、ハッピーエンドな物語。 ☆★☆ ファンタジーであり、ほのぼのとしてコメディ強めの片想い系ラブストーリーです。 第一話にめちゃくちゃシリアスな部分がありますが、以降は基本、おバカな魔王たちのお話しになっていきます。時折、シリアス展開あります。 魔族も人族も敵同士なのに、どこか仲良さそうだったりとツッコミどころはありますが、ゆるっとしてふわっとする本作品をどうぞほっこりしながら、のんびりと読んでください。

拝啓、私に愛を教えてくれた君へ

星燈 紡(ほしあかり つむぎ)
現代文学
正夢になってほしくない夢から始まる。 あの日、感じたこと、起きたこと。 ※生々しい物語なので苦手な方はご遠慮ください。 この作品は下記サイトにも投稿しております。 ■#カクヨム https://x.gd/H9Dax ■#note https://x.gd/k3zBV ■#NOVELDAYS https://x.gd/R5Xug ■#アルファポリス https://x.gd/JIIAV ■#ノベルアップ+ https://x.gd/7fBPj ■#小説家になろう https://x.gd/PSe5O

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

王子様達に養ってもらっています inダンジョン

天界
ファンタジー
気づいたらここに居た。 目の前には光輝く文字で書かれた『ルール一覧』。 恐怖と絶望に押しつぶされそうになりながらも出会った王子様と共に私は家への帰還を望む。

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

とびきりのクズに一目惚れし人生が変わった俺のこと

未瑠
BL
端正な容姿と圧倒的なオーラをもつタクトに一目惚れしたミコト。ただタクトは金にも女にも男にもだらしがないクズだった。それでも惹かれてしまうタクトに唐突に「付き合おう」と言われたミコト。付き合い出してもタクトはクズのまま。そして付き合って初めての誕生日にミコトは冷たい言葉で振られてしまう。 それなのにどうして連絡してくるの……?

愛玩犬は、銀狼に愛される

きりか
BL
《漆黒の魔女》の呪いにより、 僕は、昼に小型犬(愛玩犬?)の姿になり、夜は人に戻れるが、ニコラスは逆に、夜は狼(銀狼)、そして陽のあるうちには人に戻る。 そして僕らが人として会えるのは、朝日の昇るときと、陽が沈む一瞬だけ。 呪いがとけると言われた石、ユリスを求めて旅に出るが…

処理中です...