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転生者と魔王
6.5
しおりを挟む魔王は産まれない。世界に必要とされれば顕現する王だ。
人間と対立し、領土を守る為。
人間と和平を結んで、豊かな世界を創造する為。
これまでの歴史は様々だった。
しかし、どの魔王も魔族の頂点に立つ強者だった。
粛々と己の使命を果たし、その命を魔族の為に捧げた。
そんな存在に私は造られる。
しかし、考える力と歴代魔王の記憶を持っている私でも分からない事は多くある。
例えば今の状況。
歴代達の記憶には無い、私が造られた間際のこの状況。
暗く重たい体の感覚、自分が存在しているのかも不確かだ。
そして、私以外の存在。これが一番問題なのかもしれない。
光り輝く道しるべのような女は泣いていた。
「もう誰かを傷つけないで、私がいなければあの人も狂わなかつた。私がいなければ。私が早く消えれば良かった」
何を言っているか分からなかった。この女は何を悲しみ、後悔しているのか?
「ただ愛されたかった。好きだった。でも私の存在が消えないと終わらない」
消えると言えば、消える。この空間は彼女の望みを叶えようとしていた。すでに彼女の足は無かった。
女は誰を愛していたのか?考えれば不愉快な感情が滲むように湧く。存在したばかりの私に容赦ない負の感情を与える。
「何故泣く。泣けば泣くほど、私は不愉快だ」
「貴方は……」
女と目が合い、やっと泣き止む。
不愉快な感情は風に飛ばされたかの様に消え、全身に血が巡るような感覚。熱い脈動は私が生まれた瞬間のように感じた。
「私は、自由に生きたかった。強くて、誰にも負けない自分になりたかった。……大切な人を愛して、幸せになりたい」
「……強くあり、守れる力を得ればいい。
そして、愛した者も守り幸せになればいい」
手を握れば、彼女の足は元通りになった。
手放したくなる温もりを愛しいと感じる。
「私にできるかしら」
「なら願えばいい。ここではそれができる」
「ありがとう。貴方に言われるとそんな気がする」
握り返された手は力強く、彼女の瞳は真っ直ぐに私を見た。
彼女が笑えば、さらに愛しさが増す。
彼女の光はさらに強くなり、握っていた手は光の粒となって霧散する。
時間が惜しい。一緒に居たいと思えば、思うほど惜しく、胸は苦しい。
「……また会いたい」
切に願ったのは彼女との繋がり。
彼女の体は消えてしまい、代わりに光り輝く扉が現れる。
彼女と再び出会うまで、私は私の役割を果たさなければならない。
扉を通れば、魔王としての自分が世界に誕生する。
彼女との再会を願いながら扉を通った。
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