上 下
8 / 40
転生しました。

8

しおりを挟む



鈍器で殴られたかの衝撃。
頭の隅では、あの世界の半分を差し出してきた魔王がぼんやりと思い浮かぶ。
ベタだとも思うが、異世界転生後の展開としてはセオリー通りと言うべきか。
ロズは深呼吸し、情報を整理する。

この後の選択は、
『勇者の仲間になりますか?』
『勇者の誘いを断りますか?』
になる事を予測する。

仲間になれば、ガンガン行こうぜ魔王退治。
断れば、ソロで命大事に魔王退治。
どちらにしても、ロズが自由にこの世界で暮らす為にも魔王討伐は避けては通れないだろう。


「その魔王の復活で、私はどう関係するのでしょう?」


ロズが挙手してスリザスに尋ねる。



「魔王の復活に対してはあまり驚かないんだね……」


スリザスが虚をつかれた顔でロズを見ると、深い息を吐いてマグカップに入った飲み物を飲んだ。
深みを帯びた瞳に暖炉の炎が映る。
パチパチと爆ぜる音が心地よく部屋に響いた。



「召喚された勇者が、同じ時期に転生もしくは召喚された人物を探しているのです。
その人物を見つける事を魔王討伐の条件に勇者は提案してきた。今この国はその人物を探すのに躍起になっていて、地方の被害なんて考えていないのが現状ですが」


「勇者が魔王討伐に仲間を探しているって事?」


「そこまではまだ分からなくて、勇者は多くを話したがらない様子でした。
ただ、探してきたらその後は魔王を討つと。
自信のある発言だとは思いますが、確かに今回召喚された勇者は並みの力の持ち主ではありませんでした」


呆れたようにスリザスは言うと、白衣の内ポケットから丸いエンブレムのような物を出す。
その様子を見てエリオが背筋を伸ばした。
大きな大樹を中心とした繊細な細工にロズは目を奪われる。
スリザスは目を細めてエンブレムを撫でると、細い鎖を指に絡めてロズに見せた。


「……恩人である貴女にこんな願いを言いたくありませんでした。
ですが、『エバーティム』の為にどうか勇者の元へ一緒に来てくれませんか?
ロズこそ、勇者の求める人に違いありません」


「僕からもお願い。魔王が復活して、スライムだけじゃなくて強い魔物まで出てきて、怪我人も出てるんだ」


エリオも苦しげにロズに伝えた。
スリザスの持つエンブレムは貴族の身分証のようなものか、二人とも改まった様子でロズに視線を向ける。
勇者が召喚された事を知っているのも、二人の立場があっての情報だ。ロズが二人に出会わなければ、早く知る機会を失っていた。


「スリザスもエリオもこの世の終わりみたいな顔してるよ。
勇者に会うだけで私は魔王と戦う事はしないし、勇者が探している転生者が私じゃないかもしれない。
『友人』の頼みなら断る理由もないし、『エバーティム』を案内してもらいながら勇者の所に行くのもいいよね」


スリザスとエリオの手を取り、ロズは笑みを向ける。
身内も友人もいない世界で、初めて知り合った仲だ。冒険の目的もないロズに急ぐ理由はない。



「一緒に勇者に会いに行こうか」



驚いた様子のスリザスに、喜ぶエリオの姿。
二人の友人を得たロズは『エバーティム』の王城を目指す事になった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔王様はレベル1の勇者に恋をする! 〜ヤンデレ系こじらせ魔王は愛する勇者のレベルを上げさせない〜

愛善楽笑
ファンタジー
 魔王ヨーケス・ブーゲンビリアは絶賛片想い中だ。  相手の女性の名はユーナ・ステラレコード、神に選ばれし勇者である。  ──そんな二人の出会いは、幼き頃に遡る。  魔族と人族の戦いの戦火の中で、ヨーケスとユーナは出会う。彼らは生き延びるために、種族の違いを乗り越えて互いに手を取り合ったのだった。  父も母も、友人さえも失ったヨーケスにとって、ユーナは大事な存在になる。  そんな時二人の前に凶悪な魔王軍が現れ、人間であるユーナの命を容赦なく奪おうとする。しかし、すでにユーナに恋をしているヨーケスは彼女を守るため、魔族の子供ながら勇気を握りしめて一人、魔王軍に立ち向かう。  それをきっかけに二人の絆は分かたれてしまい──やがて月日は流れ、どういうわけかヨーケスは魔王として魔族の頂点に君臨する。そんな彼が再びユーナに再会すると、なんと彼女は神に選ばれし神託の勇者となっていた。  敵同士となる二人。  だが、そんなことを全く気にしないヨーケスはブレることなく、ユーナへ愛の告白をする。そんな彼に対し、ユーナは「ヨーケスは魔王だから、ユーナは付き合わんよ?」と、バッサリと切り捨ててしまうのだった。  それでも魔王は挫けない。  幾度恋破れても立ち上がり、ユーナへ愛の告白をしていく。そしてその溺愛ぶりは加速していき──ヨーケスが魔王軍へ下した命令は、魔王らしからぬものだった。 「勇者を攻撃したらおまいらぬっころす」 「伝説の剣? 勇者が抜きやすいように周りをほじくっとけ! さっさとやれ! 今すぐ!」  そんなヤンデレ系拗らせ魔王のまわりには、頭は少しおかしいけれど、どこか憎めない魔王軍四天王、勇者パーティーのBLショタ大魔法使い、お腐れ腐女子の大聖女など変態ばかり。  ──これは、どんなに片想いだとしても、めげずに唯一人をだけを愛し続ける魔王の……ほっこりとしてキュンとする、ハッピーエンドな物語。 ☆★☆ ファンタジーであり、ほのぼのとしてコメディ強めの片想い系ラブストーリーです。 第一話にめちゃくちゃシリアスな部分がありますが、以降は基本、おバカな魔王たちのお話しになっていきます。時折、シリアス展開あります。 魔族も人族も敵同士なのに、どこか仲良さそうだったりとツッコミどころはありますが、ゆるっとしてふわっとする本作品をどうぞほっこりしながら、のんびりと読んでください。

拝啓、私に愛を教えてくれた君へ

星燈 紡(ほしあかり つむぎ)
現代文学
正夢になってほしくない夢から始まる。 あの日、感じたこと、起きたこと。 ※生々しい物語なので苦手な方はご遠慮ください。 この作品は下記サイトにも投稿しております。 ■#カクヨム https://x.gd/H9Dax ■#note https://x.gd/k3zBV ■#NOVELDAYS https://x.gd/R5Xug ■#アルファポリス https://x.gd/JIIAV ■#ノベルアップ+ https://x.gd/7fBPj ■#小説家になろう https://x.gd/PSe5O

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

王子様達に養ってもらっています inダンジョン

天界
ファンタジー
気づいたらここに居た。 目の前には光輝く文字で書かれた『ルール一覧』。 恐怖と絶望に押しつぶされそうになりながらも出会った王子様と共に私は家への帰還を望む。

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

とびきりのクズに一目惚れし人生が変わった俺のこと

未瑠
BL
端正な容姿と圧倒的なオーラをもつタクトに一目惚れしたミコト。ただタクトは金にも女にも男にもだらしがないクズだった。それでも惹かれてしまうタクトに唐突に「付き合おう」と言われたミコト。付き合い出してもタクトはクズのまま。そして付き合って初めての誕生日にミコトは冷たい言葉で振られてしまう。 それなのにどうして連絡してくるの……?

愛玩犬は、銀狼に愛される

きりか
BL
《漆黒の魔女》の呪いにより、 僕は、昼に小型犬(愛玩犬?)の姿になり、夜は人に戻れるが、ニコラスは逆に、夜は狼(銀狼)、そして陽のあるうちには人に戻る。 そして僕らが人として会えるのは、朝日の昇るときと、陽が沈む一瞬だけ。 呪いがとけると言われた石、ユリスを求めて旅に出るが…

処理中です...