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8話 ドワーフ王国と温泉

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「――ところで、そのハリネズミは何なんだ?」

「あ、これは、さっきそこで拾ったハリネズミのハーリって言うの、かわいいでしょ」

『ここで話し合ったことは誰にも話さないように。もし誰かに話せば、約束を交わした仲とはいえ、命はないと思え』

 デミストに口止めされているので、私はエアルの力で彼から逃げたということにした――

 外に漏れては困る情報まで私が聞いてしまったので、念を押してそう言ったのだとは思うが……

 因みに魔獣ハリネズミちゃんの名前は、ルランド達と合流する少し前に思いつきで決めた。

「ま、まあ、かわいいと言われれば、かわいく見えなくもないが――」

「フッ、フッ!」

「……俺を挑発しているように見えるのは気のせいか?」

 何故か、ルランドを見てハーリが興奮している。

「どうしたの? ハーリ、よしよし」

「ピーピー」

 私が撫でると、満足そうな鳴き声に変わり、穏やかな表情になった――

「ルランドの顔が怖かったんじゃない?」

「……俺、そんなに怖い顔してるのか?」

 自覚なかったんだ。

「うん、少しだけね」

 かっこいいとは思うが、キリっとした顔立ちをしているので、初見しょけんは怖く見えやすいとは思う――

「そ、そうなのか……」

 私がそう言うと、ルランドは思った以上にショックを受けていた。

   ◇

「ここがドワーフ王国なのね」

 私達は、ようやく当初の目的であったドワーフ王国へと到着した。
 
 デミストと出会ったことが不幸中の幸いだったのか。

 ブラグラ王子の兵士達とは遭遇することなく、無事にたどり着くことができた。

「ワッハッハッ! やっと故郷に戻って来れたわい」

 故郷に戻れて、ワグリナは嬉しそうだ。

 そう言えば、私もしばらく故郷には戻れていないんだよね……

 両親は元気に過ごしているのだろうか――

 ちょっと出かけて来ると伝えただけで、長く帰れていないので、きっと心配しているに違いない。

「しかし、魔族の現状に関しては、嬢ちゃんが直接聞き出したようじゃし、お主達がここまで来た意味はなかったかもしれんな……」

 デミストから亜人大陸を侵略している魔族の状況は聞かせてもらったので、デミストの怒りに触れなさそうな範囲で、仲間とも情報は共有した。

「私は剣の修理と魔法付加エンチャントほどこしてもらいたいのだが――」

「おお、もちろん、それはさせてもらおう」

 そう言って、グランデルはワグリナに剣を預けた。

「ルランドに渡した魔剣は、まだ修理は必要ないと思うが、魔剣の簡単な使い方は教えておいた方がよさそうだな」

「ああ、頼む。まだ、ただの剣としてしか使いこなせていないようだ……」

 グランデルとルランドはデミストとの戦いで、このままの強さではいけないと感じているようだった――

「焦る気持ちはわかるが、旅の疲れもあるじゃろう。訓練は明日からにして、まずは美味しいものでも食べようではないか。それに、ここには温泉もある。食後は温泉にでも浸かって、ゆっくりと身体を休めてくれ」

「それもそうだな……」

 ルランドは私の方をチラッと見ながら答えた。

 私の身体を気にしてくれているのだろう。

「温泉があるんですね」

 ワグリナの魅力的な話に、私は思わず再確認をしてしまった――

「ああ、あるぞい。ドワーフの建築技術を駆使した最高の温泉がな」

 ワグリナは得意げな表情でそう答えた。

「ふふ、それは楽しみです」

 久しぶりの温泉。

 しかも、建築を得意とするドワーフが造った温泉となれば、期待せざる得ない……


「はぁ、最高!」

 温泉に浸かりながら、私は思わずそう声を漏らした。

『ここの温泉には様々な効能があるのでな、旅の疲れも癒えるじゃろうて――』

 ワグリナがここの温泉について色々と解説してくれていたが、私は入って直ぐにその効果を実感した。

 身体の芯まで温まる。

 私は身も心も癒されていくのを感じていた。

「ハーリちゃんも、温泉が楽しいのかな?」

 ハーリちゃんは、今、私の頭の上に乗っている。

 温泉の温度は、ハーリちゃんにとっては熱いようだ……

 でも、水で遊ぶことは好きなようで、さっきまで水遊びをしていた。

「よくよく考えると、とんでもないことに巻き込まれていってるのよね」

 久しぶりに、くつろげる時間を持てたことで、ようやく最近の出来事を整理する時間が持てた――

 最初は故郷を護るために始めたことが、女神ファレス様から使命を与えられたり、魔王二大天王のデミストと関わることになったりと、亜人大陸に渡る前には考えられなかった事態が続いている。

 デミストの件については、ルランドにも相談ができないんだよね……

「はぁ」
 
 気がつくと私は溜息をついていた。

 温泉は最高なのだが、考えれば考えるほど気が重くなっていく。

「ま、でも、考えてばかりいても仕方がないし、すぐに何かできるわけでもないから――、今の私にできることをやっていくだけだよね」

 私は手の平の上に乗せたハーリに、そう語りかけながら、まずは温泉を満喫することにした。

   ◇

「わぁ! きれーーい!!」

「確かに綺麗だな」

 今日はワグリナの案内で、洞窟の中で一番鉱石が美しく広がっている場所へと案内してもらった。

 ここ数日、ルランドは魔剣を使いこなす訓練をずっとしていたので、一緒にいられる時間を作れていなかった――

 綺麗な鉱石の景色を見られたこともよかったが、久しぶりにルランドと過ごせる時間を持てたことが何よりも嬉しかった。

「今抱えてる問題が解決したら、また街で買い物もしたいですね」

「ああ、そうだな」

「……ルランド?」

「ん、どうした?」

「私と一緒にいてもルランドは楽しくないの? さっきから返事が上の空になってるけど――」

 ルランドはずっと何か考え事をしているようだった。

「すまない……、魔剣の扱いが上手くいっていなくてな、そのことを考えてしまっていた」

「魔剣の使い方なんて、魔法学校で習わないもんね」

 グランデルからも、ルランドが魔剣の扱いに苦戦しているとは聞いていた。

 気分転換になると思って、鉱石を見に行こうと誘ったのだが、どうやら逆効果だったようだ……

「せっかく、ラティリスとこんな綺麗な景色を見れているんだからな。なるべく考えないように気をつけるよ」

「無理しなくても大丈夫ですよ。時間がない中、早く魔剣が扱えるようになりたいと焦っているルランドの気持ちはわかりますから――。少し早いですが、そろそろ切り上げましょうか」

「すまない」

 今日のルランドは、私に何回も謝っている。

 以前のルランドからは考えられない振る舞いだ……

 力の差をデミストに見せつけられて、ルランドがこんなにも落ち込むとは思わなかった。

 魔王二大天王のデミストが、とてつもない力を持っている魔族だということを、人間の中でも最強クラスの剣士であるルランドの姿を見ながら私はそう強く実感していた――
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