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推しが隣りにいたら何年経ってもドキドキするんです♡♡

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「ぎゃーーーーーー!! 殺さないでーーーーーー!!」

「あれだけのことをしておいて、今更、命乞いだと!! 彼女にしたことは死をもって|償(つぐな)ってもらうからな!!」

「それは私だけど、私じゃないんですーーーーーーーー!!!」

 乙女ゲームの悪役令嬢カリアに転生した直後、私はヒロインを愛する王子に殺されそうになっていた。

 ヒロインの令嬢に大怪我をさせてしまったのだから、王子からしてみれば殺しても気が済まないくらいの怒りが湧いている感情もわからなくはない。

 しかし、転生する前のカリアがしていたことなのに、殺されるのは私だなんて、あんまりに理不尽な話ではないか……

 ゲームをしていた時はヒロインに感情移入をしていたので、カリアにもついに|報(むく)いがとか思ってたのに――

 まさか、私がその悪役令嬢に転生してこんな目に合わされるなんて……

 なんて憎らしい存在なのだろう。

 ドカッ!

 ――通路の曲がり角で、私は誰かにぶつかった。

「え、ラムド?!」

「お嬢様? ……物凄く酷い顔をされていますが、どうかなさいましたか?」

 きゃーーーーーーーー!!!
 
 本物のラムドだーーーーーーーー!!!

 黒髪碧眼のラムドは、私がしていた乙女ゲームの一番の推しメンで、カリアの近衛騎士をしている隠し攻略キャラだった。

 元々はカリアに想いを寄せているため、攻略に要する時間は千時間以上かかるが――

 ラムドが幸せになるシーンを見たい一心で、エンディングまでやり切った思い出深いキャラである。

「ああ、王子に追われているのですね……。ですから、あれほど行動を改めて下さいとお伝えしておりましたのに――」

 推しメンに逢えた喜びで、一瞬、状況を忘れてしまいそうになっていたが、今まさに殺されそうになっているところだ。

「ラムド、一生のお願い!! 私を助けて!!」

 私はそう言って深々と頭を下げた。

「カリア様でも頭を下げることがあるんですね……。わかりました、何とかしてみせます」

 悪役令嬢カリアの滅多に見せない行動に、ラムドは驚きながらそう答えた。

「ラムド、そこをどけ! 私が直々じきじきに、その女を殺す!!」

 ガキン!

「落ち着いて下さい、皇太子様」

 怒りに我を忘れて切りかかって来た皇太子の剣をラムドは軽くいなした。

「俺に逆らうのか、ラムド!! お前の命など、俺次第でなんとでもできるのだぞ!!」

「私は王国に忠誠を誓っております。――ですが、お嬢様の近衛騎士として、お嬢様が殺されそうになっている場面を見過ごすわけにはいきません」

 ラムドが片膝をついて、皇太子に忠誠の意を示す。

「なるほど……、であれば、お前がその女の身代わりとなって殺されても構わないというのだな!!」

「それで、お嬢様が助かるのであれば――」

「いい覚悟だ!!」

「ダメ!!!」

 私はとっさにラムドと皇太子との間に割って入った。

「お、お嬢様?!」

 私のためにラムドが殺されるなんて、絶対にあってはならない!!
 
 ――とはいえ。

 目の前には私を殺そうとしている皇太子。

 あまりの恐怖に、私の身体は固まってしまった。

「お嬢様!! 無理なさらないで下さい……。身体が震えているではありませんか――」

 怖くない、怖くない、怖くない。

 私は自分に必死にそう言い聞かせた。

「私はラムドに出逢えて、本当に幸せだったの!! そんなあなたが目の前で殺されるなんて死んでも嫌なの!!」

 ラムドは命に代えても殺させない!!

「お嬢様、そこまで私のことを……。それでは、私も覚悟を決めなければなりませんね」

 ラムドが立ち上がる。

 ガシッ!

「え、え?!」

 そして、ラムドが私をお姫様抱っこした。

「皇太子様、申し訳ございません。先ほどの発言、撤回させていただきます。お嬢様も私も死ぬわけにはいかなくなりました」

「なっ!? ラムド!!」

 皇太子が逆上して、ラムドに切りかかる。

 が。

 ドカッ!

 私を抱えながらも、余裕で剣を交わし、皇太子を蹴り飛ばした。

「では、失礼させていただきます」

 ラムドは一礼をして、その場を立ち去った。

「ラムドーーーーーー!!」

 後ろから皇太子の叫び声が聞こえたが、私達が振り返ることはなかった。

 ◇

「ここまで来れば大丈夫でしょう」

「ありがとう、ラムド」

 ラムドが馬から私を降ろしてくれた。
 城を出た後、私達は馬に相乗りして、急いで国境の外(はず)れまで移動した。

「ハハハ、とんだ目にあいましたね」

 そう言いながらも、ラムドの顔は笑顔だった。
 
 推しのラムドが、私の目の前で笑っている。

 さっきまではその価値を堪能する余裕がなかったので―― 

 今になって、私の顔は真っ赤に染まっていた。

「本当に、ごめんなさい!!」

 私はラムドに深々と頭を下げた。

「頭を上げて下さい、お嬢様……」

「でも、私のせいで、ラムドの人生が――」

「お、俺も、嬉しかったですから――。カリア様にかばってもらえて……」

 キターーーーーーーーーーーー!!!

 ラムドは好感度が上がると、一人称の呼び方が『俺』に変わるのだ。

 ――それに、お嬢様ではなく、名前で呼んでくれた。

 よく見ると、ラムドは顔をそむけながら耳まで赤面していた。

 ツ、ツンデレイベントまで、キタこれ!!

 推しメンが目の前で私に赤面してるとか、もう死んでもいいや。

 まあ、さっきまで死にかかってたんだけどね――

 私はそんなことを思いながら苦笑した。

「カリア様は、これからどうしたいですか?」

「さすがに、もう戻れないよね……」

 逃げて来たのはいいが、これからのことは何も考えていない。

「もし、カリア様が嫌でなければですが――」

「ラムド?」

「俺と一緒に新たな地で暮らしませんか?」

 うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
 
 なにこれ、なにこれ!!

 夢?
 
 これは夢なのか?

 推しのラムドと一緒に暮らすなんて、妄想するだけで鼻血が出そうになる。

「あ、嫌でしたら、無理にとは言いませんよ……」

「いえ、ぜひ、お願いします!!」

 私は間髪入れずにそう答えた。

「よかったーー!! 断られたらどうしようかと思っていました!!」

 ラムドが声を上げて、ほっとしている。
 
 嬉しそうな表情をしているラムドを見ながら、私も嬉しくなった。

 断るはずがない。

 ずっと夢に見ていたから――

 ラムドに本当に逢えたらって、もし一緒に暮らせたらって……

「これからも、よろしくね、ラムド」

「はい、よろしくお願いします、カリア様」

   ◇

 私達は王国から遠く離れたラムドの故郷の街で新たな生活を始めた。

 ラムドの地の利と私の現代知識を駆使して行商を始めると、その商売は立ちどころに成功した。

 財力を得た私達は、徐々にその地位を高め、伯爵の地位まで上り詰めた。

 現代の発達した倫理観で領民と接したことで、領民は私達を非常に信頼し尊重してくれた――

 因みに、私達を殺そうとした王子は、ヒロインによって簡単に左右されてしまう無能王子だったため、私達が成り上がりを果たしている間に、王国はどんどん衰退していってしまったようだった。

 まあ、どうでもいい話だが――

 今日はラムドと私の結婚式。

「「「カリア様、ラムド様、おめでとうございます!!」」」
 
 領民は、みんな笑顔で私達を祝福してくれていた。

 私はウエディングドレスを身にまといながら、タキシード姿のラムドに目を奪われていた。

 ドキ!ドキ!

 もう、ラムドに出逢ってから何年一緒に過ごしていると思ってるのよ……

 いまだに、ラムドが傍にいるというだけで、私はドキドキしてしまっていた――

「カリア、俺がこの日をどれだけ待ち望んでいたか」

 ズキューーーーン!!

 これ、本当にラムドが私に向かって言ってるんだよね。

 これからが結婚式の本番なのに、既に私の心は満たされ切ってしまっていた。

「わ、私もです、ラムド」

 は、恥ずかしい。

 どもってしまった。

「これからも、ずっと俺の傍にいてくれますか?」

「も、もちろんです!! 私はラムドの傍にずっといます!!」
 
 私の答えを確認すると――

 ラムドは目を細めながら、ゆっくりと顔を近づけてきた。

 ドクン!ドクン!

 心臓の鼓動が早くなる。

 そして――

 私達は誓いのキスを交わした。


 私、推しだったラムドと本当にキスしちゃったんだ……
 
 もう何年も経ってて今更だけど――、これって夢じゃないよね?

「ふふ、これは始まりですよ、カリア♡」

 ラムドは微笑みながらそう言った。

 そ、それって、どういう……

 ラムドの濃艶のうえんな言葉に、私の頭は真っ白になった。

「これからも、よろしく、カリア」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします、ラムド」


 こうして、乙女ゲームで推しメンだったラムドと私の期待と不安の入り混じった新婚生活が始まった――
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