22 / 47
新人魔法師の調べもの
12月12日、忙しい日々の始まり
しおりを挟む
とうとう12月12日が来てしまった。日付が変わった瞬間から、魔法狩りの被害は爆発的に増えた。魔法考古学省は、地域や課を問わず、その対応に追われていた。
「朱音、足元!」
「うわあああああ!」
襲い掛かって来た攻撃魔法をどうにか避ける。敵側にひたすらクナイを投げて、せめて足止めくらいはできるようにと戦う。
「千波が歌うぞ!」
「うわあああああ!」
耳を塞いだうえに防音の魔法をかける。雷斗は半泣きだった。ドラゴンが泣くとああなるのか、と朱音はどこか遠くで思った。
千波が息を吸い、鎮静の魔力が込められた歌声を響かせる。防音の魔法のおかげで、こちら側に影響も被害もなかった。
「……これで何件目ですか?」
「もう数えてねえよ……」
ぐったりとした光が短剣を仕舞った。やや離れたところで、璃香が大きく鎌を振り回して最後の一撃を決めている。
「怪我人は?」
「大丈夫」
「これで帰れる!」
歌いすぎて疲れた、と千波が掠れた声で言った。かれこれ数時間、広範囲攻撃ができる千波は歌いっぱなしだった。その度に雷斗が涙目になって逃げている。
「……やっと人型に戻れた」
「飛行魔法より速いからつい……すみません」
現場に移動する際、魔力の消費を抑えるために全員を乗せて飛んでいた雷斗は、人間の姿に戻って肩を回していた。羽のあたりが疲れているのだろう。
「直と柚子は?」
「支部でひたすら書類仕事」
報告書の山だ、と光が言うと、
「あと通報窓口だろ」
と雷斗が付け足す。魔法狩りの通報を受け、何度も直から伝言の魔法を使って指令が飛んできていた。
「支部長起きれたんですかね……」
「さすがに起きてたぞ」
「直、頑張った」
「なんだ、起こされてたのか」
もうあまり魔力が残っていない一同は、歩きながら支部を目指していた。千波は光特製ののど飴を舐めている。効果は覿面だがあまり美味しくはないので、終止無言でひたすら飴を溶かすことに集中していた。
「……おい、悲報」
「うう、副支部長からですか……?」
「西と東で暴動。2手に別れんぞ。東は俺と璃香と朱音、千波と雷斗は西な」
「またか……」
「先にのど飴もらっといていい? 多分足りない」
一瞬でドラゴンの姿になった雷斗の背に、のど飴を大量に抱えた千波が飛び乗った。そのまま西の方角に飛び立つ。
「こんなに騒動ばっかり起きてたら国内の魔法師が減りそうですね……」
「檻の中に大量にぶち込まれてるからな」
「牢屋、足りない」
璃香が深い溜息を吐いた。
「ほら、行くぞ」
「……ん」
この調子だと、今日は1日中支部に戻れないかもしれない。本格的に魔力切れを起こしそうだ。朱音はふらつく足でついていった。
「お疲れ様! 皆怪我はないかしら?」
支部に戻ることができたのは、日付が変わるころだった。残っていた面子が食事を用意してくれている。
「千波の声が枯れちまった」
雷斗は千波を背負っていた。魔力を使い果たし、そのまま眠ってしまったのだ。人魚にとって、声は魔法を使うのに必要不可欠なもの。しばらくは休まないと、魔法は使えない。現に、彼女の足はゆっくりと魚の尾に戻り始めている。
「医務室……っていうかプールね」
人魚の彼女のために、この支部にはプールが用意されていた。プールとは言っても、浴場を改造して広めの水風呂を作っただけだが。
「奏介ちゃん、千波ちゃんをお願い」
「……今行くよ……げほっ」
「やだこっちもこっちで大変」
今日も今日とて具合の悪い奏介が、顔を青くしながらふらふらと歩いている。雷斗は彼の後について、千波をプールに移動させた。
「今日は……っていうかもう昨日になっちゃったのね。アタシたちが頑張ったから、明日以降は他の支部ができるだけ担当してくれるらしいの。だから、今のうちに体を休めててちょうだい。アタシもできるだけ現場に出るわ」
「でも、明るいうちに襲撃があったら……」
「どうにかするわ」
さ、ほら、早く食べて寝ちゃいなさい。
直はそう言うと、自身は仕事をするために執務室に籠った。他の支部との連携や、魔法考古学省との連絡など、支部に残っていても彼には大量の仕事が残されているのだ。
「……これ、いつまで続くと思います?」
「魔法が見つかるまでだな」
「ん」
半ば眠っている璃香が、スプーンを握りしめながら頷いた。経験の差か、朱音は掠り傷だらけだというのに、彼女は傷一つついていない。
「……体がもつ気がしません」
「鍛え方が足んねえんだよ」
「……体力、大事」
「おい、食いながら寝るな、ガキか」
普段早寝早起きの璃香に、今日の仕事はかなり辛かったようだ。長い髪が皿に入りそうになっているのを、光が避けてやっている。
「……疲れた」
「そうだな」
恐らく、今日最も魔力消費量が多かったのは璃香だ。医療魔法などのサポートに回ることも多い光に比べて、戦闘を得意とする彼女は常に強い魔法狩りの相手をしなければならなかった。それでも倒れずにいるのだから、流石は混乱の時代を生き抜いた猛者だ。
「さっさと食って、ゆっくり寝ろ」
「……ん」
この人、本当に98歳なのだろうか。朱音は世話を焼かれる璃香を見て、子どものようだと密かに思った。
「朱音、足元!」
「うわあああああ!」
襲い掛かって来た攻撃魔法をどうにか避ける。敵側にひたすらクナイを投げて、せめて足止めくらいはできるようにと戦う。
「千波が歌うぞ!」
「うわあああああ!」
耳を塞いだうえに防音の魔法をかける。雷斗は半泣きだった。ドラゴンが泣くとああなるのか、と朱音はどこか遠くで思った。
千波が息を吸い、鎮静の魔力が込められた歌声を響かせる。防音の魔法のおかげで、こちら側に影響も被害もなかった。
「……これで何件目ですか?」
「もう数えてねえよ……」
ぐったりとした光が短剣を仕舞った。やや離れたところで、璃香が大きく鎌を振り回して最後の一撃を決めている。
「怪我人は?」
「大丈夫」
「これで帰れる!」
歌いすぎて疲れた、と千波が掠れた声で言った。かれこれ数時間、広範囲攻撃ができる千波は歌いっぱなしだった。その度に雷斗が涙目になって逃げている。
「……やっと人型に戻れた」
「飛行魔法より速いからつい……すみません」
現場に移動する際、魔力の消費を抑えるために全員を乗せて飛んでいた雷斗は、人間の姿に戻って肩を回していた。羽のあたりが疲れているのだろう。
「直と柚子は?」
「支部でひたすら書類仕事」
報告書の山だ、と光が言うと、
「あと通報窓口だろ」
と雷斗が付け足す。魔法狩りの通報を受け、何度も直から伝言の魔法を使って指令が飛んできていた。
「支部長起きれたんですかね……」
「さすがに起きてたぞ」
「直、頑張った」
「なんだ、起こされてたのか」
もうあまり魔力が残っていない一同は、歩きながら支部を目指していた。千波は光特製ののど飴を舐めている。効果は覿面だがあまり美味しくはないので、終止無言でひたすら飴を溶かすことに集中していた。
「……おい、悲報」
「うう、副支部長からですか……?」
「西と東で暴動。2手に別れんぞ。東は俺と璃香と朱音、千波と雷斗は西な」
「またか……」
「先にのど飴もらっといていい? 多分足りない」
一瞬でドラゴンの姿になった雷斗の背に、のど飴を大量に抱えた千波が飛び乗った。そのまま西の方角に飛び立つ。
「こんなに騒動ばっかり起きてたら国内の魔法師が減りそうですね……」
「檻の中に大量にぶち込まれてるからな」
「牢屋、足りない」
璃香が深い溜息を吐いた。
「ほら、行くぞ」
「……ん」
この調子だと、今日は1日中支部に戻れないかもしれない。本格的に魔力切れを起こしそうだ。朱音はふらつく足でついていった。
「お疲れ様! 皆怪我はないかしら?」
支部に戻ることができたのは、日付が変わるころだった。残っていた面子が食事を用意してくれている。
「千波の声が枯れちまった」
雷斗は千波を背負っていた。魔力を使い果たし、そのまま眠ってしまったのだ。人魚にとって、声は魔法を使うのに必要不可欠なもの。しばらくは休まないと、魔法は使えない。現に、彼女の足はゆっくりと魚の尾に戻り始めている。
「医務室……っていうかプールね」
人魚の彼女のために、この支部にはプールが用意されていた。プールとは言っても、浴場を改造して広めの水風呂を作っただけだが。
「奏介ちゃん、千波ちゃんをお願い」
「……今行くよ……げほっ」
「やだこっちもこっちで大変」
今日も今日とて具合の悪い奏介が、顔を青くしながらふらふらと歩いている。雷斗は彼の後について、千波をプールに移動させた。
「今日は……っていうかもう昨日になっちゃったのね。アタシたちが頑張ったから、明日以降は他の支部ができるだけ担当してくれるらしいの。だから、今のうちに体を休めててちょうだい。アタシもできるだけ現場に出るわ」
「でも、明るいうちに襲撃があったら……」
「どうにかするわ」
さ、ほら、早く食べて寝ちゃいなさい。
直はそう言うと、自身は仕事をするために執務室に籠った。他の支部との連携や、魔法考古学省との連絡など、支部に残っていても彼には大量の仕事が残されているのだ。
「……これ、いつまで続くと思います?」
「魔法が見つかるまでだな」
「ん」
半ば眠っている璃香が、スプーンを握りしめながら頷いた。経験の差か、朱音は掠り傷だらけだというのに、彼女は傷一つついていない。
「……体がもつ気がしません」
「鍛え方が足んねえんだよ」
「……体力、大事」
「おい、食いながら寝るな、ガキか」
普段早寝早起きの璃香に、今日の仕事はかなり辛かったようだ。長い髪が皿に入りそうになっているのを、光が避けてやっている。
「……疲れた」
「そうだな」
恐らく、今日最も魔力消費量が多かったのは璃香だ。医療魔法などのサポートに回ることも多い光に比べて、戦闘を得意とする彼女は常に強い魔法狩りの相手をしなければならなかった。それでも倒れずにいるのだから、流石は混乱の時代を生き抜いた猛者だ。
「さっさと食って、ゆっくり寝ろ」
「……ん」
この人、本当に98歳なのだろうか。朱音は世話を焼かれる璃香を見て、子どものようだと密かに思った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる