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新人魔法師の調べもの
同日、聞いたことのない種族
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次に手を伸ばしたのは、10年後の日付、すなわち今から90年前の日記だった。さらに細かく事柄が書かれている。大臣職について10年、慣れてきたはずだというのに天音は反省や改善点を探すことはやめず、むしろさらによいものにしようとしていた。
「薄々気づいてたけど、完璧主義な人だなあ」
内容を見ていく。前回のものと変わらない、会談の内容を記したものばかりだ。ドラゴンとの交渉に成功したことや、「ゆずこ」が支部長として活躍していることが書いてある。
朱音はさらにページを捲っていった。流し読みしていたが、見慣れない単語を見つけて手が止まった。
「クーリャ族……?」
聞いたこともない種族だ。養成学校でも習ったことはない。気になって読み進めてみた。
〈今まで魔法で隠されていた土地が見つかった。そこにはクーリャ族という種族が暮らしているという。聞いたことのない種族だ。小説や漫画で読んだこともない〉
高祖母は、魔法が架空の存在だった時代も生きている。その当時、魔法と言えばファンタジーと呼ばれるジャンルのもので、天音はそういった小説などを好んでいたのだと、母や祖母は語っていた。
〈クーリャ族の住む島を訪れたが、既に襲撃され、建物が壊されて火の海だった〉
その土地は、水晶がよく採れる島だったらしい。初めは貿易などで上手くいっていたそうだが、段々と水晶を求める犯罪者に狙われるようになってしまった。島中の水晶は全て採りつくされ、さらには――
〈クーリャ族は不老不死だとして、その血を飲めばどんな病も治り、不老不死になれると噂され、何百人ものクーリャ族が殺された〉
「惨い……」
〈手遅れだと思われたが、どうにか生き残りを見つけることができた。どう見ても成人女性に近い姿だが、彼女はまだ8歳だという。彼女を保護し、話を聞いた〉
そうして、そこからはクーリャ族について記されていた。
クーリャ族が住む島は、酷く寒くほとんど植物も育たないような島だった。その環境を生き抜くために、早く成長し、ゆっくりと老いていく。死が近くなっても、30代程度の見た目のまま。その様子を見て、不老不死の噂がたったのだろう、と天音は推測している。
〈この子が家族を失ったのは、魔法を復活させたうえに、この島が襲われる前に来れなかった私のせいだ。私が彼女を育て、守ろう〉
生き残った少女は、リスティと名乗った。以後、リスティは何度も日記に登場する。天音の子、朱音の曾祖母と共に育ち、養成学校まで卒業すると、魔法師として働き始めたと書いてある。初めは高祖父と共に、大臣の補佐官として働いていたが、やがて魔法保護課に異動し、あちこちの支部で働いていたらしい。
「このクーリャ族のリスティって人、まだ生きてるのかな……」
寿命について書かれていないが、不老不死と噂されるほどなのだ。寿命の長い種族の可能性はある。
そして、もし彼女が生きているのならば。天音が魔法を授けた人物の候補が1人増える。
「写真とかないかなあ」
日記を振ったり、近くを探してみたりしたが、写真は挟まっていない。奥の方にアルバムが仕舞われていたので、それを開く。
だが、あるのは高祖父母や曾祖母の写真ばかりだった。撮影、リスティと書かれている。
〈リスティは自分の見た目が変わらないことを気にして、写真に写りたがらなかった〉
日記のほうにそう書かれていた。だから写真が1枚も残っていないのか。だとすると、名前しかわからない。せめて高祖母が容姿について書いてくれていれば、と思うが、それもなかった。
「珍しい名前だからそれだけでも探せるかも?」
そう考えた朱音だが、次の一文で頭を抱えることになる。
〈リスティは、私たちと同じような名前が欲しいと言って改名した〉
「嘘でしょ、それじゃ何もわからない!」
せめてその名前がわかれば、と思い読み進めていくが、天音の中ではずっと彼女は「リスティ」だったようで、新しい名前が1度も出てこなかった。
せっかく手がかりを得たのに、それもなくなってしまった。
「なら、そうだ! クーリャ族の特徴とか書かれた本があれば……」
本棚を漁って探す。だが、1人しか生き残りがいない種族だからか、どの本にも書かれていない。
「支部長なら知ってる? でも……」
今、柚子に話を聞くのは危険だ。彼女は天音と親しかったことが明らかになっているし、高祖母が復活させなかった魔法について知っている可能性がある。さらにはそのことを隠しているかもしれない相手だ。
「あと、私が話を聞けそうな、長生きしてる種族の方は……」
吸血鬼の直。ただし、27歳。半ドラゴンの雷斗。だが、確かまだこちらも20代。人魚の千波。年齢不詳。
「聞けそうなのは潮崎さんか……」
知らなーい。
そんな風に軽く返されそうな気もするが、聞いてみる価値はある。
「でもどうやって切り出すの……?」
本にも出てこないような種族。手がかりは高祖母の日記だけ。自分の出自がバレない質問の仕方がわからない。
「……しばらくは自分で調べてみよう」
どうにもならなくなったら、誰かに聞こう。
時計を見ると、そろそろ戻らなければならない時間だった。持って行く本を纏めて、軽量化の魔法をかける。大きな鞄にそれを詰めて、慌てて支部へ戻った。
「薄々気づいてたけど、完璧主義な人だなあ」
内容を見ていく。前回のものと変わらない、会談の内容を記したものばかりだ。ドラゴンとの交渉に成功したことや、「ゆずこ」が支部長として活躍していることが書いてある。
朱音はさらにページを捲っていった。流し読みしていたが、見慣れない単語を見つけて手が止まった。
「クーリャ族……?」
聞いたこともない種族だ。養成学校でも習ったことはない。気になって読み進めてみた。
〈今まで魔法で隠されていた土地が見つかった。そこにはクーリャ族という種族が暮らしているという。聞いたことのない種族だ。小説や漫画で読んだこともない〉
高祖母は、魔法が架空の存在だった時代も生きている。その当時、魔法と言えばファンタジーと呼ばれるジャンルのもので、天音はそういった小説などを好んでいたのだと、母や祖母は語っていた。
〈クーリャ族の住む島を訪れたが、既に襲撃され、建物が壊されて火の海だった〉
その土地は、水晶がよく採れる島だったらしい。初めは貿易などで上手くいっていたそうだが、段々と水晶を求める犯罪者に狙われるようになってしまった。島中の水晶は全て採りつくされ、さらには――
〈クーリャ族は不老不死だとして、その血を飲めばどんな病も治り、不老不死になれると噂され、何百人ものクーリャ族が殺された〉
「惨い……」
〈手遅れだと思われたが、どうにか生き残りを見つけることができた。どう見ても成人女性に近い姿だが、彼女はまだ8歳だという。彼女を保護し、話を聞いた〉
そうして、そこからはクーリャ族について記されていた。
クーリャ族が住む島は、酷く寒くほとんど植物も育たないような島だった。その環境を生き抜くために、早く成長し、ゆっくりと老いていく。死が近くなっても、30代程度の見た目のまま。その様子を見て、不老不死の噂がたったのだろう、と天音は推測している。
〈この子が家族を失ったのは、魔法を復活させたうえに、この島が襲われる前に来れなかった私のせいだ。私が彼女を育て、守ろう〉
生き残った少女は、リスティと名乗った。以後、リスティは何度も日記に登場する。天音の子、朱音の曾祖母と共に育ち、養成学校まで卒業すると、魔法師として働き始めたと書いてある。初めは高祖父と共に、大臣の補佐官として働いていたが、やがて魔法保護課に異動し、あちこちの支部で働いていたらしい。
「このクーリャ族のリスティって人、まだ生きてるのかな……」
寿命について書かれていないが、不老不死と噂されるほどなのだ。寿命の長い種族の可能性はある。
そして、もし彼女が生きているのならば。天音が魔法を授けた人物の候補が1人増える。
「写真とかないかなあ」
日記を振ったり、近くを探してみたりしたが、写真は挟まっていない。奥の方にアルバムが仕舞われていたので、それを開く。
だが、あるのは高祖父母や曾祖母の写真ばかりだった。撮影、リスティと書かれている。
〈リスティは自分の見た目が変わらないことを気にして、写真に写りたがらなかった〉
日記のほうにそう書かれていた。だから写真が1枚も残っていないのか。だとすると、名前しかわからない。せめて高祖母が容姿について書いてくれていれば、と思うが、それもなかった。
「珍しい名前だからそれだけでも探せるかも?」
そう考えた朱音だが、次の一文で頭を抱えることになる。
〈リスティは、私たちと同じような名前が欲しいと言って改名した〉
「嘘でしょ、それじゃ何もわからない!」
せめてその名前がわかれば、と思い読み進めていくが、天音の中ではずっと彼女は「リスティ」だったようで、新しい名前が1度も出てこなかった。
せっかく手がかりを得たのに、それもなくなってしまった。
「なら、そうだ! クーリャ族の特徴とか書かれた本があれば……」
本棚を漁って探す。だが、1人しか生き残りがいない種族だからか、どの本にも書かれていない。
「支部長なら知ってる? でも……」
今、柚子に話を聞くのは危険だ。彼女は天音と親しかったことが明らかになっているし、高祖母が復活させなかった魔法について知っている可能性がある。さらにはそのことを隠しているかもしれない相手だ。
「あと、私が話を聞けそうな、長生きしてる種族の方は……」
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「聞けそうなのは潮崎さんか……」
知らなーい。
そんな風に軽く返されそうな気もするが、聞いてみる価値はある。
「でもどうやって切り出すの……?」
本にも出てこないような種族。手がかりは高祖母の日記だけ。自分の出自がバレない質問の仕方がわからない。
「……しばらくは自分で調べてみよう」
どうにもならなくなったら、誰かに聞こう。
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