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61.内緒

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 私は黒騎士団所属なので、先ずはアレク団長に相談しようと思ったのでした。

 腕輪で事前に連絡するのが礼儀だと思いますが、レリック様が近くにいるかもしれません。
 失礼は承知で、連絡せずに黒騎士団の執務室へ向かい、扉の前で様子を窺いました。

 レリック様の声は聞こえませんから、大丈夫そうです。
 アレク団長はいるでしょうか?いなければ日を改めるしかありません。

 ノックをしてドアノブに手をかけました。
 鍵はかかっていないようです。

「失礼します。」

 扉を開けて入室すると、アレク団長が執務机で執務をしていました。
 良かった。いらっしゃいました。

「セシル嬢、今日は来る予定ではないよね。どうしたのかな?」

 顔を上げたアレク団長に、クスリと笑われてしまいました。
 何かおかしな事をしたでしょうか?
 心当たりがないのですが……って今はそれどころではありません。

「アレク団長、お忙しいところ、突然申し訳ございません。ご相談がありまして。今、よろしいでしょうか?」
「勿論。令嬢の相談なら、いつでも聞くよ。ただ、レリックではなくて、僕でいいのかな?」

 楽しそうにコテリと首を傾げるアレク団長に、しっかりと頷きました。

「レリック団長には内緒にしたい事なのです。でも、疚しいことは何一つありませんので、聞いて頂けないでしょうか。」
「良いよ。話してごらん。」

 任務の日にお守りを渡したい事や、アレク団長に相談すると決めた経緯について話しました。

「サプライズプレゼントなんて、レリックは幸せ者だね。羨ましい限りだよ。セシル嬢の言う通り、贈り物に陣を付与すれば、寄付は出来ないし、お守りとしての効果も上がるね。良い考えだと思うよ。それでもレリックがいらないと言ったら、僕が貰うよ。言わないと思うけれどね。」

 にっこりと微笑むアレク団長に、ウインクされてしまいました。

 お顔も美しく、優しくて頼りがいもあるなんて、令嬢が心を打ち抜かれるのも納得です。
 こんな素敵な方が上司とは、幸運でした。
 所属が黒騎士団で良かったです。

「アレク団長、相談に乗って頂き、ありがとうございます。では、シアーノにお願いしてみます。」

 お辞儀をして執務室を出ようと扉に体を向けました。

「待って。それは僕がエドに頼んであげるよ。あまり出歩いてはレリックに見つかるかもしれないからね。」
「それはとても助かります。あと、陣を描いて頂いた場合、お金はいくら位になるでしょうか?」

 私用として使う物ですし、仕事がある中で描いて頂くのですから、無料というわけにはいかないでしょう。

 持参していたのは、ペアの鈴と二枚のハンカチです。
 鈴は小さいので、大変な労力になる筈です。

「必要無いよ。レリックを守る為なら、エドも快く引き受け……あ!セシル嬢、レリックが来る!机の下に隠れて。早く!」
「え!?はい。」

 アレク団長に急かされて執務机の下に隠れました。と同時に扉をノックする音がして、ガチャリと扉の開く音が聞こえました。

「アレク、明日からの任務だが――――」
「レリック、僕は今から急ぎの用で、エドの所へ行かなければならないんだ。青騎士団の執務室で話を聞くので良いかな?」
「構わない。エドにも話があるからちょうど良い。」

 扉の閉まる音がして、執務室は静かになりました。 
 どうやら二人とも退室したようです。

 まさか、このタイミングでレリック様が来るとは思いませんでした。
 アレク団長は、どうしてレリック様が来ると分かったのでしょう。
 お陰で見つからずに済みました。

 不用意に出歩いては、誰かに見つかって、騎士棟へ来ている事がレリック様に報告されるかも知れません。
 このまま、アレク団長が戻るまで、執務机の下に隠れて待ちました。

 暫く隠れていると、執務室の扉が開く音がして、足音が近付いて来ます。
 誰でしょう?

「いやぁ、まさかレリックが来るとは思わなかったよ。でもバレてないから大丈夫。」

 良かった。アレク団長でした。

「あと、これね。鈴には祓いの陣、ハンカチは転送陣だって。上から好きなように刺繍しても問題無いって。」
「有り難うございます。」

 アレク団長から、陣を描いて貰ったペアのハンカチと鈴を受け取りました。
 嬉しくて、ギュッと胸に抱き締めてから、ポケットにしまいました。

 きっと任務でレリック様を守ってくれる筈です。
 それに、孤児院にも寄付されないでしょう。

「レリックは赤騎士団の執務室に戻ったから、今のうちに戻った方が良い。」
「お忙しいところ、有り難うございます。お礼は後程させて頂きます。」

「お礼なんて必要ないよ。僕もエドもセシル嬢に助けられたし、お互い様だよ。さあ、行って。」

 アレク団長が執務室の扉を開けて下さいました。

 急いで北棟から渡り廊下を通って、南棟にあるレリック様の個室へ向かいます。
 幸い、誰にも会わずに個室までたどり着けました。
 個室内にある転移陣で私室へ転移して、無事、レリック様に見付からずに戻って来られました。

 刺繍は数日あれば出来るでしょう。

 安堵してふと時計を見ると、もう、五時前です。
 早ければそろそろレリック様がお戻りになります。

 夕食は、レリック様がお風呂を済ませてからと決まっています。
 それまでに私もお風呂を済ませなければなりません。
 ただ、私の方がレリック様より、お風呂に時間がかかるのです。

 急いで自分の個室へ戻ると、ベルを鳴らして侍女を呼びました。

「お風呂の準備ですね。お任せ下さい。」

 お風呂を済ませて、大部屋のテーブルに着きました。

 時間は六時。
 まだ、レリック様は来ていません。
 侍女のレミとラナのお陰で、レリック様よりも先に、お風呂を終えられたようです。
 安堵していたら、レリック様が大部屋にやって来ました。
 本当に間一髪でした。

「レリック様、お帰りなさいませ。」
「ただいま。」

 いつも通り、レリック様と夕食を取ります。

 今日、私が騎士棟へ行っていたなんて知ったら、レリック様は驚くでしょうか?
 お守りをお渡ししたら、どんな反応をされるでしょうか?

 気になりますが、任務前日までは内緒です。
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