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3-1 (悠side)
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甘い、匂いがする…。
悠は目が覚めたばかりのぼんやりとした意識の中でそんなことを思った。自分が抱えているモノの温度が心地よくて、それに頬を寄せる。サラサラとした髪の感触が頬を撫でた。
頬擦りされた相手はそれに起きることなく、悠の胸に頬を寄せて寝息を立てている。その髪を撫で、さらに自分の方へと抱き寄せた。抱き寄せれば、更に甘い匂いが強くなった気がした。
「んん…っ」
抱き寄せられて苦しかったのか、小さく呻きながらもぞもぞと身じろぐ。その感覚に悠は閉じたままだった瞼を開き、そのまま固まった。
抱き枕よろしく自分が抱きしめていたのは、昨夜出会いそのまま一緒に飲んでいた、陽詩と言う女性だった。固まったまま、昨夜のことを思い出そうとするが、まだ酒が残っている感じのする頭は望むように働いてはくれず、悪戯に空回りをするだけだった。
その間に、先程の動きで目が覚めたらしい陽詩がまだ眠気の残る、覚醒しきっていない視線を悠に向けてくる。
「ふぁ…、おはよぉ…。よく眠れた?」
気だるそうにしながら、そう聞いてくる陽詩に悠はとりあえず頷き返した。そんな悠の様子に陽詩はあくびを噛み殺しながらにこっと笑み崩れる。
「起きるなら、部屋の物は好きに使っていいよ…。わたし、もう少し、ねる…」
そう言って、またすぐに寝息を立て始めた陽詩に、再び固まった様に動けなくなってしまった悠だったが、陽詩の温かな体温と規則正しく聞こえる寝息に誘われるように、彼もまた再び眠りへと落ちていった。
結局、二人共に二度寝し、改めて起きたのは午後も遅い時間になってからだった。
悠は陽詩に出されたコーヒーを飲みながら、今朝までのことを陽詩から聞いていた。
彼女曰く、タクシーに乗ってすぐ、悠が寝てしまったらしい。どんなに声を掛けても揺すっても起きないので、とりあえず自宅の住所を伝えて、先に自分の家に向かったのだという。その間に起きてくれればいいし、最悪家についてからでも起きてくれればそれでいい、と思ったんだけどね、と彼女は言った。
だが、結局悠は陽詩の家に着くまでどころか、着いても起きる気配もなく、仕方なくタクシーの運転手に手を貸してもらって、何とか陽詩が悠を支えて彼女の家まで連れてきた、と言うことだった。
ちなみに同じベッドで寝ていた理由は客用布団を出すのが面倒だったのと、これだけ熟睡していれば何も起きないだろう、という判断を陽詩がしたかららしい。
「実際、何もなかったでしょう?」笑いながらそう言う彼女に悠は面倒を掛けた事への申し訳なさと共に何とも言えない気持ちにさせられた。
その後は陽詩が作った軽食を食べつつ昨夜の続きのようなとりとめのない話をした。
それで分かったのはお互い職場が近かったと言うことだった。もしかしたらどこかですれ違うくらいはしていたのかもしれない。
そんな話をしながら悠は不思議な感じがした。
今まで他人に抱いたことのない種の『好意』を自分が陽詩に抱いているように感じたのだ。それは、昨夜バーで話したような『他人』に対しての『好意』のような気もするし、今まで感じたことのない『好意』のような気もした。今までとは違う、抱いたことのない気持ちに僅かに戸惑いながらも、今こうやって一緒にいることを心地よく感じた。
何より今まで外で飲んで潰れたことのなかった悠が潰れて、介抱されている間も起きなかったのである。
一度寝たらなかなか起きれない自覚はあったが、それにしても全く起きた記憶がない。それほどまでに昨夜出会ったばかりの陽詩に対して無意識のうちに警戒を解いていたのかと思うと、何とも言えない気分にはなったが、それでも彼女とこうして過ごす時間は悪くないものかもしれないとも思えた。
悠は目が覚めたばかりのぼんやりとした意識の中でそんなことを思った。自分が抱えているモノの温度が心地よくて、それに頬を寄せる。サラサラとした髪の感触が頬を撫でた。
頬擦りされた相手はそれに起きることなく、悠の胸に頬を寄せて寝息を立てている。その髪を撫で、さらに自分の方へと抱き寄せた。抱き寄せれば、更に甘い匂いが強くなった気がした。
「んん…っ」
抱き寄せられて苦しかったのか、小さく呻きながらもぞもぞと身じろぐ。その感覚に悠は閉じたままだった瞼を開き、そのまま固まった。
抱き枕よろしく自分が抱きしめていたのは、昨夜出会いそのまま一緒に飲んでいた、陽詩と言う女性だった。固まったまま、昨夜のことを思い出そうとするが、まだ酒が残っている感じのする頭は望むように働いてはくれず、悪戯に空回りをするだけだった。
その間に、先程の動きで目が覚めたらしい陽詩がまだ眠気の残る、覚醒しきっていない視線を悠に向けてくる。
「ふぁ…、おはよぉ…。よく眠れた?」
気だるそうにしながら、そう聞いてくる陽詩に悠はとりあえず頷き返した。そんな悠の様子に陽詩はあくびを噛み殺しながらにこっと笑み崩れる。
「起きるなら、部屋の物は好きに使っていいよ…。わたし、もう少し、ねる…」
そう言って、またすぐに寝息を立て始めた陽詩に、再び固まった様に動けなくなってしまった悠だったが、陽詩の温かな体温と規則正しく聞こえる寝息に誘われるように、彼もまた再び眠りへと落ちていった。
結局、二人共に二度寝し、改めて起きたのは午後も遅い時間になってからだった。
悠は陽詩に出されたコーヒーを飲みながら、今朝までのことを陽詩から聞いていた。
彼女曰く、タクシーに乗ってすぐ、悠が寝てしまったらしい。どんなに声を掛けても揺すっても起きないので、とりあえず自宅の住所を伝えて、先に自分の家に向かったのだという。その間に起きてくれればいいし、最悪家についてからでも起きてくれればそれでいい、と思ったんだけどね、と彼女は言った。
だが、結局悠は陽詩の家に着くまでどころか、着いても起きる気配もなく、仕方なくタクシーの運転手に手を貸してもらって、何とか陽詩が悠を支えて彼女の家まで連れてきた、と言うことだった。
ちなみに同じベッドで寝ていた理由は客用布団を出すのが面倒だったのと、これだけ熟睡していれば何も起きないだろう、という判断を陽詩がしたかららしい。
「実際、何もなかったでしょう?」笑いながらそう言う彼女に悠は面倒を掛けた事への申し訳なさと共に何とも言えない気持ちにさせられた。
その後は陽詩が作った軽食を食べつつ昨夜の続きのようなとりとめのない話をした。
それで分かったのはお互い職場が近かったと言うことだった。もしかしたらどこかですれ違うくらいはしていたのかもしれない。
そんな話をしながら悠は不思議な感じがした。
今まで他人に抱いたことのない種の『好意』を自分が陽詩に抱いているように感じたのだ。それは、昨夜バーで話したような『他人』に対しての『好意』のような気もするし、今まで感じたことのない『好意』のような気もした。今までとは違う、抱いたことのない気持ちに僅かに戸惑いながらも、今こうやって一緒にいることを心地よく感じた。
何より今まで外で飲んで潰れたことのなかった悠が潰れて、介抱されている間も起きなかったのである。
一度寝たらなかなか起きれない自覚はあったが、それにしても全く起きた記憶がない。それほどまでに昨夜出会ったばかりの陽詩に対して無意識のうちに警戒を解いていたのかと思うと、何とも言えない気分にはなったが、それでも彼女とこうして過ごす時間は悪くないものかもしれないとも思えた。
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