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幽
参
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なんでこんなことになっているのだろうか…。
紀村は自分の向かいに座る、ナギとキザシ、一人掛けソファーに座り、ニコニコとこちらに笑いかけてくるユウと、三人を失礼にならない程度に見返した。
ナギは昨日と同じように軽薄な印象を与える笑みをその口元に張り付けている。どうやら彼はそれがデフォルトのようだ。そして、その隣で、眉間に微かに皺を寄せているキザシの様子から彼女は紀村が彼らと共に捜査に当たることをよく思っていないことがありありと感じ取れた。
「…兄さんも何を考えてるんだか」
「そらぁ、事件の早期解決でしょう」
キザシが溜息と共に言えば、ナギが間入れずに返した。
「大体、その為に都治野はあの場所にいるんだから」
「そうそう。それにナギじゃ他人と一緒に、なんて無理に決まってるもん。きっと、適当に引っ掻き回して終わっちゃうよ」
ナギの言葉に続き、ユウがサラリと酷いことを口にする。
「ユウは酷いなぁ」
「だって、いつも俺たちばっかり働かせて、自分は動かないじゃん」
「面倒だからでしょ?」と続けるユウの言葉にナギは、「まあ、それもあるけどね」と詫びれる様子もなく返した。
三人の会話からキザシが言った、兄さん、と言うのが都治野のことだと言うことは分かった。しかし、彼には家族はいないと聞いていたので、恐らく兄のような存在という意味なのだろうと、彼らの会話を聞きながらそんなことを思う。
「…体術関係が得意、とうことでいいですか?」
二人の会話を余所にナギから渡された資料に目を通していた紀村に話しかけてきた。その手には紀村の経歴が簡単に書かれた紙がある。
「…ええ。これでもそっち方面には自信がありますよ」
まるで面接みたいだな。そう思いながら紀村はキザシの言葉に頷いた。自慢ではないが小さいころから柔道を習い、中学高校では、それなりに大きな大会で成績も残している。体が大きいわけではないが、警察学校でもまずまずの好成績を収めていたし、今も時間があれば筋トレなどをしていた。経歴の割に細身の紀村である。キザシが確認するように聞いてきたのも、経歴だけを見るともっと大柄な人間を想像してしまうからだろう。
紀村の返事にキザシは軽く頷くと残りの資料に目を通す。
「キザシ、そんなモノに目を通したって事件は解決しないよ」
そう言ってナギが唐突にキザシが読んでいた資料を彼女の手から奪い取った。
「死体の発見現場と、状況。死体の状態…」
奪い取った資料にナギはさっと目を通す。
「これだけじゃ、ねぇ」
そう言って、目を通し終えた資料をテーブルの上に投げ捨てた。
「コレ、綺麗だねぇ」
テーブルの上に散らばった被害者たちの写真を見て、ユウがうっとりしたような声で言った。
「まるで、芸術品だよね」
そう言って写真の一枚を手に取り弄ぶようにしながら続ける。その言葉に紀村は微かに眉間に皺を寄せた。
例え、どれほど綺麗に飾られていようとも、写真に写っているのは被害者であり、芸術品ではない。もちろん、ユウだってそれを分かった上で写真から得た印象を口にしているのだろうが、それでもこの事件の犯人を追っている身としては、いい気分ではなかった。
「それよりさ!」
写真を眺めていたかと思えば、すぐにソレに興味を失ったようにテーブルに放り投げ、ユウは大事なことを思い出したと言わんばかりに身を乗り出してきた。
「キムラさんのナマエどうするの!?」
ユウの言葉にナギとキザシは顔を見合わせた。そのままナギはしばし思案するそぶりを見せると、紀村に目を向ける。
「大型犬みたいだから、『ポチ』とか?」
「ポチ!」
真顔でふざけたことを言うナギとそれを受けて、名案とばかりに繰り返すユウの頭をキザシが容赦なく叩いた。
「酷いなぁ。冗談に決まってるじゃないか」
「そうだよ~。そんなに思い切り叩かなくてもいいじゃん。これ以上バカになったらどうするんだよぉ」
「大丈夫。ユウはそれ以上馬鹿になりようないから」
文句を言ってくる二人に呆れたようにキザシは返した。ユウはともかく、ナギに関しては彼よりも年下のキザシの方がしっかりしているのも、どうなんだろうと思わなくもない。まして、彼はここの所長である。立場としては…。
「でも、呼び名は決めないとな」
「呼び名?」
別に普通に苗字呼びでいいだろうに、何故わざわざそんなことを言うのかと紀村は不思議に思った。
要はあだ名とかそういうことだろうか?
「まぁ、似たようなものだけどね」
思ったままを口に出せば、ナギが何とも言えない返事をくれる。
「端的に言ってしまうと、僕たちには名前がない。元々符号番号しかもってないんだ。でも、街中で番号で人を呼ぶことなんてないだろう?」
「…まぁ、普通は名前で呼びますね」
何が言いたいんだ?と言わんばかりの不信感を露わに紀村はそう返した。普通の生活をしていて符号番号で呼ばれるなんてことは、まずない。
それに彼らはちゃんと互いに名前を呼び合っている。それを問えば、施設を出た時に互いに呼び名を決めたのだと返された。
「僕たちはまず生い立ちが普通じゃなくてね。はっきり教えることはできないけど、みんなある施設で育ったんだ」
そこから、ナギは掻い摘んで、自分たちのことを説明した。
紀村は自分の向かいに座る、ナギとキザシ、一人掛けソファーに座り、ニコニコとこちらに笑いかけてくるユウと、三人を失礼にならない程度に見返した。
ナギは昨日と同じように軽薄な印象を与える笑みをその口元に張り付けている。どうやら彼はそれがデフォルトのようだ。そして、その隣で、眉間に微かに皺を寄せているキザシの様子から彼女は紀村が彼らと共に捜査に当たることをよく思っていないことがありありと感じ取れた。
「…兄さんも何を考えてるんだか」
「そらぁ、事件の早期解決でしょう」
キザシが溜息と共に言えば、ナギが間入れずに返した。
「大体、その為に都治野はあの場所にいるんだから」
「そうそう。それにナギじゃ他人と一緒に、なんて無理に決まってるもん。きっと、適当に引っ掻き回して終わっちゃうよ」
ナギの言葉に続き、ユウがサラリと酷いことを口にする。
「ユウは酷いなぁ」
「だって、いつも俺たちばっかり働かせて、自分は動かないじゃん」
「面倒だからでしょ?」と続けるユウの言葉にナギは、「まあ、それもあるけどね」と詫びれる様子もなく返した。
三人の会話からキザシが言った、兄さん、と言うのが都治野のことだと言うことは分かった。しかし、彼には家族はいないと聞いていたので、恐らく兄のような存在という意味なのだろうと、彼らの会話を聞きながらそんなことを思う。
「…体術関係が得意、とうことでいいですか?」
二人の会話を余所にナギから渡された資料に目を通していた紀村に話しかけてきた。その手には紀村の経歴が簡単に書かれた紙がある。
「…ええ。これでもそっち方面には自信がありますよ」
まるで面接みたいだな。そう思いながら紀村はキザシの言葉に頷いた。自慢ではないが小さいころから柔道を習い、中学高校では、それなりに大きな大会で成績も残している。体が大きいわけではないが、警察学校でもまずまずの好成績を収めていたし、今も時間があれば筋トレなどをしていた。経歴の割に細身の紀村である。キザシが確認するように聞いてきたのも、経歴だけを見るともっと大柄な人間を想像してしまうからだろう。
紀村の返事にキザシは軽く頷くと残りの資料に目を通す。
「キザシ、そんなモノに目を通したって事件は解決しないよ」
そう言ってナギが唐突にキザシが読んでいた資料を彼女の手から奪い取った。
「死体の発見現場と、状況。死体の状態…」
奪い取った資料にナギはさっと目を通す。
「これだけじゃ、ねぇ」
そう言って、目を通し終えた資料をテーブルの上に投げ捨てた。
「コレ、綺麗だねぇ」
テーブルの上に散らばった被害者たちの写真を見て、ユウがうっとりしたような声で言った。
「まるで、芸術品だよね」
そう言って写真の一枚を手に取り弄ぶようにしながら続ける。その言葉に紀村は微かに眉間に皺を寄せた。
例え、どれほど綺麗に飾られていようとも、写真に写っているのは被害者であり、芸術品ではない。もちろん、ユウだってそれを分かった上で写真から得た印象を口にしているのだろうが、それでもこの事件の犯人を追っている身としては、いい気分ではなかった。
「それよりさ!」
写真を眺めていたかと思えば、すぐにソレに興味を失ったようにテーブルに放り投げ、ユウは大事なことを思い出したと言わんばかりに身を乗り出してきた。
「キムラさんのナマエどうするの!?」
ユウの言葉にナギとキザシは顔を見合わせた。そのままナギはしばし思案するそぶりを見せると、紀村に目を向ける。
「大型犬みたいだから、『ポチ』とか?」
「ポチ!」
真顔でふざけたことを言うナギとそれを受けて、名案とばかりに繰り返すユウの頭をキザシが容赦なく叩いた。
「酷いなぁ。冗談に決まってるじゃないか」
「そうだよ~。そんなに思い切り叩かなくてもいいじゃん。これ以上バカになったらどうするんだよぉ」
「大丈夫。ユウはそれ以上馬鹿になりようないから」
文句を言ってくる二人に呆れたようにキザシは返した。ユウはともかく、ナギに関しては彼よりも年下のキザシの方がしっかりしているのも、どうなんだろうと思わなくもない。まして、彼はここの所長である。立場としては…。
「でも、呼び名は決めないとな」
「呼び名?」
別に普通に苗字呼びでいいだろうに、何故わざわざそんなことを言うのかと紀村は不思議に思った。
要はあだ名とかそういうことだろうか?
「まぁ、似たようなものだけどね」
思ったままを口に出せば、ナギが何とも言えない返事をくれる。
「端的に言ってしまうと、僕たちには名前がない。元々符号番号しかもってないんだ。でも、街中で番号で人を呼ぶことなんてないだろう?」
「…まぁ、普通は名前で呼びますね」
何が言いたいんだ?と言わんばかりの不信感を露わに紀村はそう返した。普通の生活をしていて符号番号で呼ばれるなんてことは、まずない。
それに彼らはちゃんと互いに名前を呼び合っている。それを問えば、施設を出た時に互いに呼び名を決めたのだと返された。
「僕たちはまず生い立ちが普通じゃなくてね。はっきり教えることはできないけど、みんなある施設で育ったんだ」
そこから、ナギは掻い摘んで、自分たちのことを説明した。
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