紅華

序

咽返むせかえるような、甘い香り。
　そこに交じる胸の悪くなるような匂い。
　乱れた髪。露わになった肌。
肌を辿る指先。
　シーツの海に広がる黒い髪は、まるで夜の海のようにうねり、露わになった肌を申し訳程度に隠している。
　肌を辿る指先。
翻弄ほんろうされるように、横たえられた肢体は指先から与えられる快楽に震え、早咲きの薔薇を思わせる紅い唇からは甘い吐息がこぼれ落ちる。
　部屋に響く軋むベッドの音。
淫らに動く肢体。
快楽に酔い踊る―。
　濃くなっていく精の匂いとそこに混じる臭気。
　
シーツに散るは赤い花弁。
　骨を断つ、重い音。引きずり出される、臓物。
　精の匂いは、いつの間にか掻き消え、胸の悪くなるような甘い匂いに酔いしれる。
　視界を染める色。
　咀嚼そしゃくする。
　クチャクチャと不快な水音が部屋に響く。
その手を染める赤。
　白かったはずのシーツは、いつしか見事な深紅に染まり。
　そこに広がるのは黒い髪。
　散らばるのは、何かを形成していたはずの欠片たち。
　赤く染まった、腕の中、見つめてくる光を失った瞳。
　愛おしい人。
　視界が赤く染まっていく―