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第十六章
88話 ファーストコンタクト
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はるか昔の日本国。
九州東南部のとある山頂に、白狐に乗ったひとりの女が舞い降りる。
上裸の身体にうつくしい装飾品を身につけて、艶やかな黒髪を揺らしてあたりを見回す彼女の名は、ダキニという。
鏡の知る過去です、とタカムラは言った。
いつのことかと朱月丸が問うと、彼はじっくりと鏡を覗く。
「天界八部衆が結成されてまもないころ、第一回の寄合が開催されるときの画ですねえ。ダキニはこのときはじめて、八部衆の面々と顔をあわせることになる」
「八部衆──というと」
「ええ、当然ながら龍族もおりましょうな。私は鏡に、ダキニさまと龍族の因縁の始まりを見せるようにお願いしましたゆえ。ダキニさまと龍族もここが初顔合わせであったということです。……ほら、来た」
タカムラが顎で示した東の方角。
あらわれた。
うつくしいたてがみをなびかせて、白銀色の龍が山頂をめがけてやってくる。地へ降り立つと同時に人へと姿を変えたその龍は、すこし面立ちは若いが、たしかに大龍であった。
わあ、と朱月丸は歓声をあげた。
「大龍さまじゃァ」
「父上。……」
対して水守は苦々しく顔をゆがめた。彼の万年反抗期はいまも継続しているらしい。
大龍が砂利を踏む。
男女は山の頂で対峙した。
『…………』
『…………』
ピリッと。
こちらが息を呑むほどの緊張感。ダキニと大龍はわずかな時間、言葉は交わさず、視線を交えた。
先に動いたのは大龍だった。
ダキニから視線をはずして、山頂の一角にどっかりと腰をおろす。しかし、女の視線は大龍に釘付けのままだ。
彼女は、目をかっぴらいて大龍の一挙手一投足を注視している。
『天界八部衆』
大龍が言った。
『此処はその寄合の場である。なにか用が?』
『…………』
ダキニへ一瞥もくれない。
彼女はシナをつくって大龍の膝元に近付いた。
『つれないねェ。アンタ龍族の族長じゃないだろう、代理にしたってずいぶんな若造がきたもんだ。名前は?』
『……草々は、大龍と呼ぶ』
『へえ、だいりゅう』
ダキニは形のよいくちびるを歪めて、わらう。対して大龍は瞑っていた目を開けて、彼女をぎろりと睨み付けた。
『大陸あがりの邪神もどきが、この国で草々をみだらに惑わしているとか』
『へえ?』
『なんのつもりで此方へ来た、貴様。──ダキニであろう』
『…………』
一瞬の沈黙。
しかしダキニは、おもむろに大龍の頬へ手をのばす。透明感のあるその白い肌を指でなぞり、ダキニは端整な顔を近付けてニタリとわらった。
『おまえ、純龍のわりにずいぶんと草々に寄った思考だねえ』
『あ?』
『お前たち自然に添った一族が"穢い"と目を背けるもの──けれど草々が逃れられないもの。なんだとおもう』
大龍はなにも言わない。
『それが死であり性愛さね。時を経ようと、いつの世も変わらず男女たちに直面する。アタシは草々に、それから逃げるなと言っただけだよ』
『…………』
かわいそうに、とダキニはほくそ笑んだ。
『あいつらはちゃっちい肉体に縋るんだ。死にたくない死にたくないと嘆き悲しみ、死の先にあるものなんか見ようとしやしない。ねえ、かわいそうじゃないか』
と、ダキニは大龍の顔を穴があくほど見つめて、こんどは満面の笑みを浮かべた。
『アンタも知ってるはずだ。この世に、生も死もありゃしないってこと。……アンタたちはズルいんだよ。それを知っててなお綺麗なものに囲まれて、穢いものから隠れてサ。それが人を導くってんだから笑っちまうね』
『…………』
大龍は、なにを言い返すこともなかった。
苦虫を噛み潰したような表情を見るかぎり、言い返すことばがないらしい。
けれどダキニはそれをさらに責め立てることはしなかった。
それが悪いってんじゃない、と大龍からゆっくり身を離す。
『それがアンタら龍族なんだろう。アタシはアタシ。それだけのことさね』
『なぜ、この国に来た』
『……そんなことアタシが知るもんか。気が付いたらこの国に流れ着いたんだ。だけど──アンタと話してわかった気もするよ』
『なに?』
『きっと、この国にはアンタたちのようなのばかりだから、アタシみたいなのを送り込んだんじゃないかとサ。この世には、光も闇も片っぽだけじゃ成り立たない。アンタとアタシは対なんだよ。きっとね』
『…………』
おや八部衆が来たようだ、とダキニは顔を西の方角へ向けた。臥せていた白狐を指笛で呼び寄せ、その背に腰かける。
白狐が、地を蹴りとびあがる。
見上げる大龍は切なげに瞳を細めた。
『それじゃあね』
と天高く舞い上がったダキニは、常世への入口に向かって飛び去った。
その行方を、彼はじっと見届ける。まるで焦がれるような熱い目で。
映像は、途切れた。
※
「これが、おふたりの初対面──」
どっと冷や汗が出た。
これまで大龍が、ダキニに対して悪辣な誹謗をぶちまけるところを見てきた朱月丸にとって、いまの映像は心底心臓にわるかった。
いつ、地がふるえるほどの大喧嘩をするものか、と。
しかしタカムラはちがった。
嗚呼、と満足げに息を吐き出している。
「おもしろかったなぁ」
「どこがじゃ。いつ喧嘩になるんじゃないかとヒヤヒヤしましたぞ」
「なにを言う。ちゃんと見とらんかったんか」
「ど、どういう意味です」
「水守さまはお分かりになったでしょうな」
と向けられた笑みに、水守は不可解な顔で「え?」と返した。
想定外の反応である。
タカムラは呆れたように深く息を吐いた。
「ちょっと、お二方はいったいなにしにここまでやってきたのですか。こりゃ人選ミスだぞ──」
「き、聞き捨てなりませんな。それがしはともかく、水守さままで人選ミスとはいったい」
「まあ、タヌキと堅物に理解しろというほうが無理な話か。もういいです」
というと、タカムラは真経津鏡に触れた。つぎに映すべき映像を探っているらしい。
その扱いを不服とする水守が、じろりと白輪王を睨みつけた。完全な八つ当たりである。
案の定、白輪王はアッハッハと爆笑する。
「ま、まあね。水緒や庚月丸のほうが、こういうのは得意分野かもしれないね……」
「白輪王──この水守が水緒より劣っていると申されるか」
水守は唸るようにつぶやいた。
しかしいまのヒントで、朱月丸はようやく思い至ったらしい。ハッと顔をあげて尻尾をぶんとひと振りした。
「水守さまァ。ひとつありますよ、それがしらよりあのふたりの嗅覚がするどいこと!」
「……なんだ」
「色恋の察知能力ですよう。誰々が誰々のこと好きっぽい、とか、最近かわいくなったから彼氏できたハズ、とか。そんなふたりの会話を聞いたことございますよって」
「…………」
「たしかにそういうことは、おなごである水緒さまの方がお得意かもしれませぬなー」
と、朱月丸は能天気にわらう。
しかし話を聞いた水守の表情は、とたんに先ほどよりもはげしく歪んだ。まるでおぞましいものを見てしまったかのような、不穏な顔をしている。
「ど、どうされましたので」
「つまり──いまの映像のなかに色恋につながるなにかがあったと、そう言いたいのか貴様。タカムラよ」
「あったあった。あったでしょう、大龍さまの目。ありゃ確実に恋しちゃったんでしょ」
「へェッ」
朱月丸はおどろきのあまり変化した。しかしよほど動揺したのだろう、身体は人だが顔はタヌキのままである。
「だだだ大龍さまが、ダキニの姐さまに? 逆でしょ。目の錯覚では?」
「なにを言う。あれほど焦がれた瞳でその背を追いかけるなど、よほどの恋慕です。ダキニさまは年上らしく、ガツンと言いましたからのう。思いきり恋の淵へと落とされてしまったようだ」
「や、やめろ」
「あァでも。言われてみれば御前さまもダキニの姐さまとよく似ておりますなぁ。きっとタイプなんじゃな、ああいう姉御タイプ」
「やめろと言うのがわからんか──朱月丸」
「あっ、す、すみません」
水守は息も絶え絶えである。
胸に大穴があいていたときでさえ、こんなに酷くはなかった。
「ま、反抗期の息子にはキツい話だな。父親の恋愛遍歴なんぞ──しかしまだ一場面しか見ておりませんぞ、肝ふとく踏んばりなさい。さあつぎだ、次!」
「…………」
タカムラはだれよりも楽しそうにいった。
九州東南部のとある山頂に、白狐に乗ったひとりの女が舞い降りる。
上裸の身体にうつくしい装飾品を身につけて、艶やかな黒髪を揺らしてあたりを見回す彼女の名は、ダキニという。
鏡の知る過去です、とタカムラは言った。
いつのことかと朱月丸が問うと、彼はじっくりと鏡を覗く。
「天界八部衆が結成されてまもないころ、第一回の寄合が開催されるときの画ですねえ。ダキニはこのときはじめて、八部衆の面々と顔をあわせることになる」
「八部衆──というと」
「ええ、当然ながら龍族もおりましょうな。私は鏡に、ダキニさまと龍族の因縁の始まりを見せるようにお願いしましたゆえ。ダキニさまと龍族もここが初顔合わせであったということです。……ほら、来た」
タカムラが顎で示した東の方角。
あらわれた。
うつくしいたてがみをなびかせて、白銀色の龍が山頂をめがけてやってくる。地へ降り立つと同時に人へと姿を変えたその龍は、すこし面立ちは若いが、たしかに大龍であった。
わあ、と朱月丸は歓声をあげた。
「大龍さまじゃァ」
「父上。……」
対して水守は苦々しく顔をゆがめた。彼の万年反抗期はいまも継続しているらしい。
大龍が砂利を踏む。
男女は山の頂で対峙した。
『…………』
『…………』
ピリッと。
こちらが息を呑むほどの緊張感。ダキニと大龍はわずかな時間、言葉は交わさず、視線を交えた。
先に動いたのは大龍だった。
ダキニから視線をはずして、山頂の一角にどっかりと腰をおろす。しかし、女の視線は大龍に釘付けのままだ。
彼女は、目をかっぴらいて大龍の一挙手一投足を注視している。
『天界八部衆』
大龍が言った。
『此処はその寄合の場である。なにか用が?』
『…………』
ダキニへ一瞥もくれない。
彼女はシナをつくって大龍の膝元に近付いた。
『つれないねェ。アンタ龍族の族長じゃないだろう、代理にしたってずいぶんな若造がきたもんだ。名前は?』
『……草々は、大龍と呼ぶ』
『へえ、だいりゅう』
ダキニは形のよいくちびるを歪めて、わらう。対して大龍は瞑っていた目を開けて、彼女をぎろりと睨み付けた。
『大陸あがりの邪神もどきが、この国で草々をみだらに惑わしているとか』
『へえ?』
『なんのつもりで此方へ来た、貴様。──ダキニであろう』
『…………』
一瞬の沈黙。
しかしダキニは、おもむろに大龍の頬へ手をのばす。透明感のあるその白い肌を指でなぞり、ダキニは端整な顔を近付けてニタリとわらった。
『おまえ、純龍のわりにずいぶんと草々に寄った思考だねえ』
『あ?』
『お前たち自然に添った一族が"穢い"と目を背けるもの──けれど草々が逃れられないもの。なんだとおもう』
大龍はなにも言わない。
『それが死であり性愛さね。時を経ようと、いつの世も変わらず男女たちに直面する。アタシは草々に、それから逃げるなと言っただけだよ』
『…………』
かわいそうに、とダキニはほくそ笑んだ。
『あいつらはちゃっちい肉体に縋るんだ。死にたくない死にたくないと嘆き悲しみ、死の先にあるものなんか見ようとしやしない。ねえ、かわいそうじゃないか』
と、ダキニは大龍の顔を穴があくほど見つめて、こんどは満面の笑みを浮かべた。
『アンタも知ってるはずだ。この世に、生も死もありゃしないってこと。……アンタたちはズルいんだよ。それを知っててなお綺麗なものに囲まれて、穢いものから隠れてサ。それが人を導くってんだから笑っちまうね』
『…………』
大龍は、なにを言い返すこともなかった。
苦虫を噛み潰したような表情を見るかぎり、言い返すことばがないらしい。
けれどダキニはそれをさらに責め立てることはしなかった。
それが悪いってんじゃない、と大龍からゆっくり身を離す。
『それがアンタら龍族なんだろう。アタシはアタシ。それだけのことさね』
『なぜ、この国に来た』
『……そんなことアタシが知るもんか。気が付いたらこの国に流れ着いたんだ。だけど──アンタと話してわかった気もするよ』
『なに?』
『きっと、この国にはアンタたちのようなのばかりだから、アタシみたいなのを送り込んだんじゃないかとサ。この世には、光も闇も片っぽだけじゃ成り立たない。アンタとアタシは対なんだよ。きっとね』
『…………』
おや八部衆が来たようだ、とダキニは顔を西の方角へ向けた。臥せていた白狐を指笛で呼び寄せ、その背に腰かける。
白狐が、地を蹴りとびあがる。
見上げる大龍は切なげに瞳を細めた。
『それじゃあね』
と天高く舞い上がったダキニは、常世への入口に向かって飛び去った。
その行方を、彼はじっと見届ける。まるで焦がれるような熱い目で。
映像は、途切れた。
※
「これが、おふたりの初対面──」
どっと冷や汗が出た。
これまで大龍が、ダキニに対して悪辣な誹謗をぶちまけるところを見てきた朱月丸にとって、いまの映像は心底心臓にわるかった。
いつ、地がふるえるほどの大喧嘩をするものか、と。
しかしタカムラはちがった。
嗚呼、と満足げに息を吐き出している。
「おもしろかったなぁ」
「どこがじゃ。いつ喧嘩になるんじゃないかとヒヤヒヤしましたぞ」
「なにを言う。ちゃんと見とらんかったんか」
「ど、どういう意味です」
「水守さまはお分かりになったでしょうな」
と向けられた笑みに、水守は不可解な顔で「え?」と返した。
想定外の反応である。
タカムラは呆れたように深く息を吐いた。
「ちょっと、お二方はいったいなにしにここまでやってきたのですか。こりゃ人選ミスだぞ──」
「き、聞き捨てなりませんな。それがしはともかく、水守さままで人選ミスとはいったい」
「まあ、タヌキと堅物に理解しろというほうが無理な話か。もういいです」
というと、タカムラは真経津鏡に触れた。つぎに映すべき映像を探っているらしい。
その扱いを不服とする水守が、じろりと白輪王を睨みつけた。完全な八つ当たりである。
案の定、白輪王はアッハッハと爆笑する。
「ま、まあね。水緒や庚月丸のほうが、こういうのは得意分野かもしれないね……」
「白輪王──この水守が水緒より劣っていると申されるか」
水守は唸るようにつぶやいた。
しかしいまのヒントで、朱月丸はようやく思い至ったらしい。ハッと顔をあげて尻尾をぶんとひと振りした。
「水守さまァ。ひとつありますよ、それがしらよりあのふたりの嗅覚がするどいこと!」
「……なんだ」
「色恋の察知能力ですよう。誰々が誰々のこと好きっぽい、とか、最近かわいくなったから彼氏できたハズ、とか。そんなふたりの会話を聞いたことございますよって」
「…………」
「たしかにそういうことは、おなごである水緒さまの方がお得意かもしれませぬなー」
と、朱月丸は能天気にわらう。
しかし話を聞いた水守の表情は、とたんに先ほどよりもはげしく歪んだ。まるでおぞましいものを見てしまったかのような、不穏な顔をしている。
「ど、どうされましたので」
「つまり──いまの映像のなかに色恋につながるなにかがあったと、そう言いたいのか貴様。タカムラよ」
「あったあった。あったでしょう、大龍さまの目。ありゃ確実に恋しちゃったんでしょ」
「へェッ」
朱月丸はおどろきのあまり変化した。しかしよほど動揺したのだろう、身体は人だが顔はタヌキのままである。
「だだだ大龍さまが、ダキニの姐さまに? 逆でしょ。目の錯覚では?」
「なにを言う。あれほど焦がれた瞳でその背を追いかけるなど、よほどの恋慕です。ダキニさまは年上らしく、ガツンと言いましたからのう。思いきり恋の淵へと落とされてしまったようだ」
「や、やめろ」
「あァでも。言われてみれば御前さまもダキニの姐さまとよく似ておりますなぁ。きっとタイプなんじゃな、ああいう姉御タイプ」
「やめろと言うのがわからんか──朱月丸」
「あっ、す、すみません」
水守は息も絶え絶えである。
胸に大穴があいていたときでさえ、こんなに酷くはなかった。
「ま、反抗期の息子にはキツい話だな。父親の恋愛遍歴なんぞ──しかしまだ一場面しか見ておりませんぞ、肝ふとく踏んばりなさい。さあつぎだ、次!」
「…………」
タカムラはだれよりも楽しそうにいった。
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