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第8話 最終話:やっぱり不幸体質は治っていないようです

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 私たち二人は絶好調だった。
 今もたくさんの人が見てくれている。

 今日2人で来ているダンジョンは岩山だった。

 ごつごつした岩に周囲を囲まれて、山頂に向かって道が伸びている。岩はとても高くて先は見通せない。

「よし、今日も稼ぐぞ」
「はい、稼いじゃいましょう」

 主な収入源は配信による収益だ。
 私はまだレベルが低いし、モンスターを倒すには効率がよくない。

 それにこのダンジョン、皐月さんの武器と相性が悪かった。モンスターの体が固く、皐月さんの短剣では刃が立たないのだ。

 それなのに、皐月さんはこんなことを言い出した。

「今日はさ、このダンジョンを攻略してやろうぜ」

「攻略ですか?」

「ああ、あんたのそのデスソードの威力を視聴者にみせつけてやろう」

「でも、そんなことができるでしょうか……?」

「まあ、ここのダンジョンボスはロック系だ。あんたのデスソードと相性がいいはず」

 過去に攻略されているダンジョンは情報が出回っている。そのためのダンジョン配信でもあった。

 岩山を登っていくと、岩の小人――ロックホビットが襲ってきた。十分に引き付けて、デスソードを振るう。

 本当に小さく剣を振らないと、大惨事になってしまう。
 私もようやく加減がわかってきた。

 地を這うのは岩のサソリ――ロックキャンサー。8本の足で地面をすばやく動く。単体でいるロックキャンサーは狙いを定めにくい。無視して集団で固まっているものだけを倒す。
 
 一方で皐月さんの短剣はこの岩山のモンスターとは噛み合わない。今回は攻撃の中心が私だった。
 皐月さんは私が倒しやすいようにモンスターを誘導する役にまわっていた。

「あんた、不幸体質っていってたけどさ。あんたがいなかったら、ここじゃ何もできなかった。この岩山とデスソードの相性は抜群だな」

「お役に立てて嬉しいです。まあ、まだこの剣を扱いきれていないんですけれど」

「いやあ、大丈夫。あんたの経験値も入るし、あとは今日の配信が好調だし。このままダンジョンを攻略しちまえば、おつりが来るんじゃねえの? やっと、あたいらにも運が巡ってきたかな」

 皐月さんはホクホク顔だ。

 たしかにここのモンスターたちは体が頑丈で硬い。岩のような体をしており、皐月さんの短剣では全く刃が立たないモンスターばかりだった。

 ほかの冒険者たちも苦労しているようで、私のデスソードがここでは有利に働く。

 しかも視界を塞ぐような巨大な岩がゴロゴロしている。デスソードで岩を壊しまくって、砕けた岩をよじのぼりながら山頂を目指す。

 上空に何羽かの鳥型と思われるモンスターが現れた。
 近づいてくるところを目を凝らしてみてみると、ただの鳥ではない。体はトカゲのように細く、翼はコウモリの羽を大きくしたかのようだった。

 皐月さんが上空を見上げながら言った。

「ロックホークだ」

 私たちの頭上までやってきて、ぐるぐると旋回する。ロックホークの数は5体。

 そのうち1体が皐月さんに向かってきた。皐月さんは私に助けを求める。

「あたいじゃ無理だ! 頼む!」

「わかりました!」

 私はデスソードを振る。だが、衝撃波はロックホークの足元をすり抜けた。ロックホークは上空へと逃げていく。

「すいません! 外しました!」

「いや、あれでいいかも」

 しばらく私たちの頭の上をぐるぐると回っていたが、やがて5体のロックホークは岩山の頂上へと去っていった。

「勝てそうにない相手に無理して立ち向かうことはない」

「そうですね」

「本当にヤバいのはワイバーンだ。ドラゴンほどではないけど、あの5倍の大きさはある冒険者泣かしのモンスターがいるんだ」

「そうなのですか」

「まあ、何年かに一度出現すると言われる幻のモンスターなんだけどさ。出現すると死人も多くでている。やばいやつなんだ」

「うわあ、そんなモンスターは相手にしたくないですね」

「あたいも嫌だよ。まだ死にたくないしな。まあ、出くわしちまったやつは、よっぽど運が悪かったんだろうよ」

「私たちは大丈夫でしょう。運気は上昇中です」

「あたいたちほど幸せな配信者はいないよな」

「はい。そうですね」

「あんたの不幸体質なんて、最初からなかったんじゃないのか?」

「もしかしたら、そうかもしれませんね。私が考えすぎていたのかも」

「そうだよ。考えすぎてたんだって」

 冷たい風が吹いてきた。
 二人の会話が途切れる。

 いつの間にか空は曇っており、少し薄暗くなってきた。

「そういえば周りに人がいないな」

 皐月さんに言われ、周囲を見回す。

 時々遭遇していた冒険者もいないし、人の気配がなくなっている。

「まあいっか。あたいらは、今ノリノリだよ。このまま山頂まで一気に……」

 皐月さんはダンジョンフォンを見て呟く。

「非常警報発令……?」

 私もそれを見て首を傾げる。

「なんのことでしょう?」

 今は自撮り棒で私と皐月さんの二人を映している。

 二人で仲良く並んでいる姿が視聴者には見えていた。
 その下にはコメントが勢いよく流れていく。

「なんか、コメントが多いですね」

「そ、そうだな……」

 コメントを見る皐月さんの顔がこわばっていた。

◆:うわ、なんじゃありゃ
◆:やば
◆:うしろ! うしろ!
◆:やべーぞ、あれ!

 さっきまで強い日差しが降り注いでいた。
 今は急に周囲が暗くなり、二人に影が差している。

 皐月さんと一緒に、ゆっくりと後ろを振り向く。

 小さなビルほどもある巨大な体躯。
 非常に大きな羽を広げている。
 眼光鋭く私たちを見下ろしていた。

 私は怯えながら、皐月さんに尋ねる。

「私たちの後ろのモンスター。あ……あれ……、なんですか!?」
「わ、わ……」

 皐月さんの口がうまく回っていなかった。
 私は聞き返す。

「わ……?」

「ワイバーン・ジャイアント!」

 皐月さんが叫ぶと同時だった。
 ワイバーン・ジャイアントは羽を大きく羽ばたかせ、宙に浮かび上がった。
 大きな影を私たちに落としながら、頭上へと舞い上がる。

 確実に私たちに狙いを定めていた。
 そのまま滑空しながらこちらに向かってくる。

 私と皐月さんは慌てて逃げ出す。
 皐月さんは走りながら叫んだ。

「やっぱ、あんた! 不幸体質じゃーーん!」

 二人は全力で駆ける。ワイバーン・ジャイアントはものすごい勢いでこちらにやってくる。
 さすがのデスソードでもあの巨体を倒せるとは思えなかった。
 何年かに一度しか出現しないモンスター。ワイバーン。
 死人もたくさん出ている。

 あれ? 皐月さんはワイバーンのあとにジャイアントとか言っていなかった?
 すると、さらに珍しいほどの危険なモンスター?

 運が悪いとしか思えなかった。
 私は謝ることしかできない。走りながら皐月さんに叫んだ。
 
「ごめんなさーーーい! まだ不幸体質、治っていなかったようですーー!」

 二人の叫び声が岩山に木霊する。
 全力で逃げる私たちと、滑るように滑空しながら迫ってくるワイバーン・ジャイアント。

 私たちの不運と反比例するかのように、視聴者数はうなぎのぼりに上昇していた。

(了)
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