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ハロー、アメリカ
第167話 春日井君を介抱する湊ちゃん
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膝蹴りを食らい、地面に倒れ込む春日井君。今は湊ちゃんに介抱されている。
アスファルトの上に座り込む彼の隣で、湊ちゃんがかがんで寄り添っていた。春日井君は湊ちゃんの肩に頭をもたれさせている。
「ひ、ひでえよ、筑紫……。思いっきり急所に入った」
苦しげにうめきながら、湊ちゃんに体重を預けている。湊ちゃんは彼のお腹を押さえる手にそっと自分の手を添えていた。
そんな二人を見て、ミリアが深く頷いている。
「なるほど。お姉様はこれを狙っていた。すべてはお姉様の計算通り……」
感心した様子のミリアをよそに、私はダンジョンタブレットを操作する。
「私は何も狙ってないし計算もしてない。ほら、春日井君。ポーション。これ飲んで」
低級ポーションを実体化し、春日井君に渡す。彼は受け取るとすぐに飲み干した。
みるみる顔色が良くなり、痛みも消えたようだ。
「100DPの最安ポーションでもちゃんと効くな。すげえよな、ダンジョンのアイテムは」
「そうだね。今やダンジョン産のアイテムが私たちの暮らしを変えつつあるよね」
「アメリカのダンジョンは日本と違うのかな? 珍しいものが手に入ったりするんかな?」
「私はロサンゼルス・ダンジョンの地下1階層しか見ていないけれど、そこはあまり変わらなかったね」
春日井君はすっかり回復したようで、立ち上がり普通に歩いている。湊ちゃんもその隣を歩いていた。
「私もいろいろ調べたんだけれど、外国のダンジョンは日本と少し違うらしいね。噂では下へ降りると固有モンスターが出てきたり、特殊なアイテムもあるらしいよ。あくまでも、ネットの噂だけれどね」
「へー」と私は感心しながら頷いた。
湊ちゃんは私が知らないこともよく知っている。
「春菜や春日井君も知っていると思うけど、一般の人に開放されているダンジョンは日本だけだよね。他の国はダンジョンの存在自体を秘密にしていたり、特定の人にだけ探索の許可を与えたりしている。日本だけが特殊なんだよね」
「俺もそのくらいは知っているよ。でも、そんな日本のダンジョンだからこそ、俺たちは自由に探索することができる。自由だからこそ、多くのアイテムが市場に流通し、活用されている。日本ほどダンジョン産のアイテムが手に入りやすい国はない。日本は優秀なハンターが多いと言われる由縁だし、ダンジョンに関しては日本が一歩抜きん出ている」
「そんな自分はまだレベル12だけどね」
私は少しからかうような口調で春日井君を横目で見た。
「うるせ」
湊ちゃんはくすくす笑っている。
「それにさ。私たちは情報が豊富だよ。ダンジョン配信は日本だけなんだし、Dungeon Wikiもオリジナルは日本語で書かれている。もちろんAIで各国語に翻訳はされるけれど、日本人がすぐに情報を得られ、大量の情報を持っているのは事実だよね。一番ダンジョンに詳しいのは日本人だと思うよ。みんなダンジョン配信を見ていたりするし」
「そんな湊も意外と詳しいね。ハンターじゃないのに」
「まあね。けっこうマニアックに調べちゃうんだよね」
「俺だって、まあ、いろいろと調べたりしているんだけれどな。ただ、実際に情報を知るのと体験するのはまったく違うんだよ。剣道の経験を活かしたらもっと早くレベルが上がるかと思ったけど、通用しなかったし」
「私もハンターじゃないけれど、アメリカのダンジョンに行って、日本との違いを知りたいよね。ダンジョンをこの目で見てみたいんだ。戦うのは怖いから嫌だけど、ダンジョン探索は洞窟探検みたいで、ちょっと興味がある」
「そうだな、行きてえな。俺もアメリカのダンジョンに行けねえかな」
二人の言葉を聞いて、私は呟いた。
「アメリカかあ。でも、船で10日もかかるんだよね……。遠いんだよね」
私が遠くの空を眺めながら呟いた言葉に、湊ちゃんと春日井君は疑問形で繰り返した。
「船?」
そして二人は何かを思い出したように、一言だけを発した。
「あ」
「あ」
私たちの間には変な空気が流れていた。おそらくはアメリカ軍の飛行機に乗ったときの無言動画を思い出していたのだ。
「筑紫は飛行機が……」
「春菜は飛行機が……」
それ以上は言ってはいけないと思ったのか、二人とも黙り込んだ。
私が飛行機が苦手なことはすっかりバレていたのだ。
そう、私は飛行機が苦手だ。嫌いだ。二度と乗りたくはない。
遠くの空のもっと遥か彼方を眺めながら、私は呟く。
「なんとか飛行機に乗らずにアメリカへ行く方法はないものかねえ。できれば短時間で」
手に持っていたダンジョンタブレットを鞄にしまおうとしたら、急に音声が流れた。
『あるぞ。しかも、飛行機よりも早い』
タブレットに搭載されたAI、タブさんの声だった。
アスファルトの上に座り込む彼の隣で、湊ちゃんがかがんで寄り添っていた。春日井君は湊ちゃんの肩に頭をもたれさせている。
「ひ、ひでえよ、筑紫……。思いっきり急所に入った」
苦しげにうめきながら、湊ちゃんに体重を預けている。湊ちゃんは彼のお腹を押さえる手にそっと自分の手を添えていた。
そんな二人を見て、ミリアが深く頷いている。
「なるほど。お姉様はこれを狙っていた。すべてはお姉様の計算通り……」
感心した様子のミリアをよそに、私はダンジョンタブレットを操作する。
「私は何も狙ってないし計算もしてない。ほら、春日井君。ポーション。これ飲んで」
低級ポーションを実体化し、春日井君に渡す。彼は受け取るとすぐに飲み干した。
みるみる顔色が良くなり、痛みも消えたようだ。
「100DPの最安ポーションでもちゃんと効くな。すげえよな、ダンジョンのアイテムは」
「そうだね。今やダンジョン産のアイテムが私たちの暮らしを変えつつあるよね」
「アメリカのダンジョンは日本と違うのかな? 珍しいものが手に入ったりするんかな?」
「私はロサンゼルス・ダンジョンの地下1階層しか見ていないけれど、そこはあまり変わらなかったね」
春日井君はすっかり回復したようで、立ち上がり普通に歩いている。湊ちゃんもその隣を歩いていた。
「私もいろいろ調べたんだけれど、外国のダンジョンは日本と少し違うらしいね。噂では下へ降りると固有モンスターが出てきたり、特殊なアイテムもあるらしいよ。あくまでも、ネットの噂だけれどね」
「へー」と私は感心しながら頷いた。
湊ちゃんは私が知らないこともよく知っている。
「春菜や春日井君も知っていると思うけど、一般の人に開放されているダンジョンは日本だけだよね。他の国はダンジョンの存在自体を秘密にしていたり、特定の人にだけ探索の許可を与えたりしている。日本だけが特殊なんだよね」
「俺もそのくらいは知っているよ。でも、そんな日本のダンジョンだからこそ、俺たちは自由に探索することができる。自由だからこそ、多くのアイテムが市場に流通し、活用されている。日本ほどダンジョン産のアイテムが手に入りやすい国はない。日本は優秀なハンターが多いと言われる由縁だし、ダンジョンに関しては日本が一歩抜きん出ている」
「そんな自分はまだレベル12だけどね」
私は少しからかうような口調で春日井君を横目で見た。
「うるせ」
湊ちゃんはくすくす笑っている。
「それにさ。私たちは情報が豊富だよ。ダンジョン配信は日本だけなんだし、Dungeon Wikiもオリジナルは日本語で書かれている。もちろんAIで各国語に翻訳はされるけれど、日本人がすぐに情報を得られ、大量の情報を持っているのは事実だよね。一番ダンジョンに詳しいのは日本人だと思うよ。みんなダンジョン配信を見ていたりするし」
「そんな湊も意外と詳しいね。ハンターじゃないのに」
「まあね。けっこうマニアックに調べちゃうんだよね」
「俺だって、まあ、いろいろと調べたりしているんだけれどな。ただ、実際に情報を知るのと体験するのはまったく違うんだよ。剣道の経験を活かしたらもっと早くレベルが上がるかと思ったけど、通用しなかったし」
「私もハンターじゃないけれど、アメリカのダンジョンに行って、日本との違いを知りたいよね。ダンジョンをこの目で見てみたいんだ。戦うのは怖いから嫌だけど、ダンジョン探索は洞窟探検みたいで、ちょっと興味がある」
「そうだな、行きてえな。俺もアメリカのダンジョンに行けねえかな」
二人の言葉を聞いて、私は呟いた。
「アメリカかあ。でも、船で10日もかかるんだよね……。遠いんだよね」
私が遠くの空を眺めながら呟いた言葉に、湊ちゃんと春日井君は疑問形で繰り返した。
「船?」
そして二人は何かを思い出したように、一言だけを発した。
「あ」
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それ以上は言ってはいけないと思ったのか、二人とも黙り込んだ。
私が飛行機が苦手なことはすっかりバレていたのだ。
そう、私は飛行機が苦手だ。嫌いだ。二度と乗りたくはない。
遠くの空のもっと遥か彼方を眺めながら、私は呟く。
「なんとか飛行機に乗らずにアメリカへ行く方法はないものかねえ。できれば短時間で」
手に持っていたダンジョンタブレットを鞄にしまおうとしたら、急に音声が流れた。
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タブレットに搭載されたAI、タブさんの声だった。
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