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ダンジョン部の姫
第96話 お出かけ中
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これを開けたら……どうなるのか……?
石田さんによる部長への問いかけだったが、私は扉のぎりぎりまで顔を近づけてこう言った。
「開いていますけれど? これ……」
私の言葉に、ダンジョン部全員の視線が扉に集中する。
両開きになっている巨大な扉。
ほんのわずか、縦に伸びる黒い筋。扉の向こう側に広がっているであろう暗闇が覗いていた。
「す、隙間が!」
「開いている!?」
「!?」
「!?」
「!?」
動揺を隠せない部員たちに、
「とりあえず閉めておきましょうか」
と私は扉のハンドルに手を伸ばす。ハンドルは縦長で『コ』の形をしていた。
「ちょ、ちょっと……」
部長が私の手を止めた。
「まず、状況を整理しよう。扉を開けて中に入ったら、オーガを倒すまでは出てこられないはずだ」
「倒すか、全滅するか。であるか?」
石田さんの言葉に、部長が頷く。
「そうだね。そういうことになるね」
「扉を開けてそのままにしたら、どうなるのであろうか?」
「それは……どうなるんだ?」
ごくり、と部長は唾を飲んだ。
「そういう時は視聴者に聞いてみましょうか」
私はダンジョンデバイスの画面が見えるように、部員たちの方へと向けた。
「どなたかご存じの方はいらっしゃいませんか?」
私が問いかけると、コメントが返ってきた。
■オーガを討伐するときには扉は自動的にロックされる。そのため、外部の者には危険が及ばない。ただし、オーガが扉の外に出た場合、扉はロックされない。つまり、今はオーガは外にいる。
「なるほど、ありがとうございます」
私はデバイス画面に向かってぺこりとお辞儀をした。
■どういたしまして。
「オーガはいないそうです。お出かけ中ということですね。せっかくなので、部屋の中に入ってみましょうか」
「いやいやいや。いやいや……。いやいやいや……」
部長は半分パニックになった様子で、広げた手を振っている。
他の部員たちは自分の背後をやたらと気にしていた。
「ここにいないってことは、オーガがこの階層のどこかにいるってことなんだよ。むしろ、この部屋の中にいてくれたら良かったけれど、階層中のどこにいるかわからない状態だ。ここには他のパーティもいるだろうし、誰かが遭遇するかもしれないし。そうしたら、大惨事になりかねないし……。えっと、どうしたらいいんだ?」
それに対し、視聴者がコメントをしてくれた。
■可能性は低いだろうが、オーガがこの部屋に戻っていることもある。まずは部屋の中にオーガがいないかどうかを確かめたらどうだろう?
私はコメントに応える。
「そうですね。部屋の中にオーガがいないことを、まずは確認しましょう」
「え、ちょ。え? ちょっと、待って……。え?」
戸惑う部長と部員をよそに、私は『コ』の形状をした扉のハンドルを手に取る。両手を使って手前にゆっくりと引いていく。
3m近い高さの巨大な扉がゆっくりと開きだす。
「ほ、本当に開けるの……?」
部長の声は震えている。
扉が完全に開いた。
今から私はある作戦を決行しなければならない。
扉のハンドルはそのために都合の良い形状をしていた。腰にぶら下げているゴブリンソードに触れ、すぐに鞘から抜けるように準備をする。
「暗くてよく見えないですね」
私は言いながら、ダンジョンデバイスの機能であるライトを使って部屋の中を照らした。懐中電灯がわりに使える機能だ。
部屋はかなり広い。何本もの柱が天井まで伸びている。
壁には彫像を思わせる彫刻が彫られており、不気味さを醸し出していた。
奥の方まで視線を向けてみるが、モンスターの気配はない。やはりオーガはいなかった。
「大丈夫なようですね。みなさん、せっかくここまで来たのですから、オーガの間を見学していきませんか?」
私はなるべく明るく、気軽な感じで部員たちに話しかけた。
彼らにはなんとしてもこの中に入ってもらわないと困る。
「え、いや。え……。でも……」
戸惑う部長の背中を押す。
「さあ、さあ、せっかくなので。奥まで行っちゃいましょうよ。こんな機会はめったにないですよ。さあ……」
私と部長がオーガの間に入り、遅れて他の4人の部員たちも入ってきた。
「ここが……。オーガの間……」
「すごい……」
「壮観でござる……」
「ここで壮絶な戦いが行われるのであるか……」
部員たちはオーガの間の様子に目を奪われていた。
その隙に私は静かに、音を立てないようにして扉の外に出る。
静かに、静かに、扉を閉めていく。
だが、扉を閉めていくとオーガの間は暗くなる。
私の行動にいち早く気がついたのは部長だった。
「春菜さん……何を……」
出口に向かって歩き出したのを見て、私は一気に扉を閉めた。
腰からゴブリンソードを引き抜き、『コ』の形状をした扉のハンドルに剣を差し込む。
部長は中から扉を開けようと、ガチャガチャとハンドルを操作しているようだ。
だが、開けることはできず、ドンドンと扉を叩いていた。
「春菜さん……! 何をしているんですか!? え? 春菜さん……? 春菜さん!!」
オーガは部屋の外にいる。
この部屋こそが、今この階層において最も安全な場所なのだ。
「ごめん、みんな……。倒したらすぐに戻って来るから……」
オーガがここにいないとわかった時に、とっさに思いついた作戦だ。
彼らをここに閉じ込め、私がオーガと戦う。
急ごしらえの作戦だったが、うまくいった。
しかし、思いつきの作戦には穴があるもので……。
■みんなを安全な場所に待機させて、そのあいだにオーガを倒そうというんだね
■さすがハルナっち
■ハルナっちならきっと倒せるよ
■それにしても、ゴブリンソードで扉を封鎖するなんてよく考えたね
■扉が開かないように、つっかえ棒にしたんだね
■まあ、剣じゃなくて鞘でも同じだったと思うけれど
■そうだね、結果は同じだね
■たぶんね
■同じ結果になるだろうね
■まあ、無駄なことをしただけだよね
■意味のない行為だね
■それに、手ぶらで倒しに行くつもり?
■武器は?
「あ」
私はオーガを倒すための剣がないことに気づく。
そして、扉を振り返る。
内側から、ドンドンと叩きつけるような音。部員たちが体当たりをしていると思われた。
やがて、バキンッと大きな音がしてゴブリンソードは折れ、扉が大きく開かれた。
弾け飛ぶのは剣の刀身と柄。
5000DPで買った剣は無惨な姿になった。
オーガの間から飛び出してくる5人の部員たち。
「ひどいよ。春菜さん。僕たちを閉じ込めるなんて……」
口をへの字に曲げ、部長は不平を漏らした。
その時、遠くから激しい轟音が聞こえてきた。洞窟内が地響きで震えた。
固いものを岩に叩きつけるような音。そして悲鳴が聞こえてきた。
石田さんによる部長への問いかけだったが、私は扉のぎりぎりまで顔を近づけてこう言った。
「開いていますけれど? これ……」
私の言葉に、ダンジョン部全員の視線が扉に集中する。
両開きになっている巨大な扉。
ほんのわずか、縦に伸びる黒い筋。扉の向こう側に広がっているであろう暗闇が覗いていた。
「す、隙間が!」
「開いている!?」
「!?」
「!?」
「!?」
動揺を隠せない部員たちに、
「とりあえず閉めておきましょうか」
と私は扉のハンドルに手を伸ばす。ハンドルは縦長で『コ』の形をしていた。
「ちょ、ちょっと……」
部長が私の手を止めた。
「まず、状況を整理しよう。扉を開けて中に入ったら、オーガを倒すまでは出てこられないはずだ」
「倒すか、全滅するか。であるか?」
石田さんの言葉に、部長が頷く。
「そうだね。そういうことになるね」
「扉を開けてそのままにしたら、どうなるのであろうか?」
「それは……どうなるんだ?」
ごくり、と部長は唾を飲んだ。
「そういう時は視聴者に聞いてみましょうか」
私はダンジョンデバイスの画面が見えるように、部員たちの方へと向けた。
「どなたかご存じの方はいらっしゃいませんか?」
私が問いかけると、コメントが返ってきた。
■オーガを討伐するときには扉は自動的にロックされる。そのため、外部の者には危険が及ばない。ただし、オーガが扉の外に出た場合、扉はロックされない。つまり、今はオーガは外にいる。
「なるほど、ありがとうございます」
私はデバイス画面に向かってぺこりとお辞儀をした。
■どういたしまして。
「オーガはいないそうです。お出かけ中ということですね。せっかくなので、部屋の中に入ってみましょうか」
「いやいやいや。いやいや……。いやいやいや……」
部長は半分パニックになった様子で、広げた手を振っている。
他の部員たちは自分の背後をやたらと気にしていた。
「ここにいないってことは、オーガがこの階層のどこかにいるってことなんだよ。むしろ、この部屋の中にいてくれたら良かったけれど、階層中のどこにいるかわからない状態だ。ここには他のパーティもいるだろうし、誰かが遭遇するかもしれないし。そうしたら、大惨事になりかねないし……。えっと、どうしたらいいんだ?」
それに対し、視聴者がコメントをしてくれた。
■可能性は低いだろうが、オーガがこの部屋に戻っていることもある。まずは部屋の中にオーガがいないかどうかを確かめたらどうだろう?
私はコメントに応える。
「そうですね。部屋の中にオーガがいないことを、まずは確認しましょう」
「え、ちょ。え? ちょっと、待って……。え?」
戸惑う部長と部員をよそに、私は『コ』の形状をした扉のハンドルを手に取る。両手を使って手前にゆっくりと引いていく。
3m近い高さの巨大な扉がゆっくりと開きだす。
「ほ、本当に開けるの……?」
部長の声は震えている。
扉が完全に開いた。
今から私はある作戦を決行しなければならない。
扉のハンドルはそのために都合の良い形状をしていた。腰にぶら下げているゴブリンソードに触れ、すぐに鞘から抜けるように準備をする。
「暗くてよく見えないですね」
私は言いながら、ダンジョンデバイスの機能であるライトを使って部屋の中を照らした。懐中電灯がわりに使える機能だ。
部屋はかなり広い。何本もの柱が天井まで伸びている。
壁には彫像を思わせる彫刻が彫られており、不気味さを醸し出していた。
奥の方まで視線を向けてみるが、モンスターの気配はない。やはりオーガはいなかった。
「大丈夫なようですね。みなさん、せっかくここまで来たのですから、オーガの間を見学していきませんか?」
私はなるべく明るく、気軽な感じで部員たちに話しかけた。
彼らにはなんとしてもこの中に入ってもらわないと困る。
「え、いや。え……。でも……」
戸惑う部長の背中を押す。
「さあ、さあ、せっかくなので。奥まで行っちゃいましょうよ。こんな機会はめったにないですよ。さあ……」
私と部長がオーガの間に入り、遅れて他の4人の部員たちも入ってきた。
「ここが……。オーガの間……」
「すごい……」
「壮観でござる……」
「ここで壮絶な戦いが行われるのであるか……」
部員たちはオーガの間の様子に目を奪われていた。
その隙に私は静かに、音を立てないようにして扉の外に出る。
静かに、静かに、扉を閉めていく。
だが、扉を閉めていくとオーガの間は暗くなる。
私の行動にいち早く気がついたのは部長だった。
「春菜さん……何を……」
出口に向かって歩き出したのを見て、私は一気に扉を閉めた。
腰からゴブリンソードを引き抜き、『コ』の形状をした扉のハンドルに剣を差し込む。
部長は中から扉を開けようと、ガチャガチャとハンドルを操作しているようだ。
だが、開けることはできず、ドンドンと扉を叩いていた。
「春菜さん……! 何をしているんですか!? え? 春菜さん……? 春菜さん!!」
オーガは部屋の外にいる。
この部屋こそが、今この階層において最も安全な場所なのだ。
「ごめん、みんな……。倒したらすぐに戻って来るから……」
オーガがここにいないとわかった時に、とっさに思いついた作戦だ。
彼らをここに閉じ込め、私がオーガと戦う。
急ごしらえの作戦だったが、うまくいった。
しかし、思いつきの作戦には穴があるもので……。
■みんなを安全な場所に待機させて、そのあいだにオーガを倒そうというんだね
■さすがハルナっち
■ハルナっちならきっと倒せるよ
■それにしても、ゴブリンソードで扉を封鎖するなんてよく考えたね
■扉が開かないように、つっかえ棒にしたんだね
■まあ、剣じゃなくて鞘でも同じだったと思うけれど
■そうだね、結果は同じだね
■たぶんね
■同じ結果になるだろうね
■まあ、無駄なことをしただけだよね
■意味のない行為だね
■それに、手ぶらで倒しに行くつもり?
■武器は?
「あ」
私はオーガを倒すための剣がないことに気づく。
そして、扉を振り返る。
内側から、ドンドンと叩きつけるような音。部員たちが体当たりをしていると思われた。
やがて、バキンッと大きな音がしてゴブリンソードは折れ、扉が大きく開かれた。
弾け飛ぶのは剣の刀身と柄。
5000DPで買った剣は無惨な姿になった。
オーガの間から飛び出してくる5人の部員たち。
「ひどいよ。春菜さん。僕たちを閉じ込めるなんて……」
口をへの字に曲げ、部長は不平を漏らした。
その時、遠くから激しい轟音が聞こえてきた。洞窟内が地響きで震えた。
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