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ダンジョン部の姫
第91話 自己紹介
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2階層へ降りてきたこの場所は袋小路となっている。ちょっとした会議室くらいの小部屋となっていた。
カツアゲをしてきた中学生を追い払い、最初にここに来たときと同じように、私を中心として部員たちが円形に座っている。
無事に災難が去った私たちは、ここで自己紹介をすることにした。
「じゃあ、あの。改めて自己紹介を。私は筑紫春菜。千の宮中学の2年生です」
ダンジョン部では最初に部長が挨拶をする。
「僕は難高校の2年生、ダンジョン部の部長をしている高峰康介といいます。そして彼らがダンジョン部の部員です。全員2年です」
続けて、端から順に4人の部員が自己紹介をする。
ずっと気になっていたけれど、みんな変な口調だった。
「よ、よろしくお願いしまする。拙者は石田光朗と申す」
「我は九条颯太なり」
「我は……葛城太郎」
「えっと、僕は……我は……椎名学です」
年上なので「さん」付けて呼んだほうがいいだろう。
石田さんは少し贅肉があって、丸みを帯びた顔をしている。彼がもっとも不思議な口調でしゃべる部員だ。
九条さんは目付きが鋭く、痩せぎすの体型だ。
葛城さんは部長と同じくメガネをかけていて勉強ができそうなタイプ。
椎名さんは一番小柄で背が低く、私と同じくらいの身長かもしれない。
「みんな割と内気な性格だけど、いいやつだから。少し言葉が変なのは石田君の影響かな。どうも彼の言葉は他人に伝染する傾向があるようなんだ」
その石田さんが、私に問いかける。
「それで、姫。姫に聞きたいことがあるのでござる」
「ひ……姫? え? 姫って私のこと?」
質問の内容以前に、『姫』という呼称が気になった。
「そうでござる」
「え? なんで姫? いったいどうして?」
「春菜どのはおそらく権力者のご令嬢だったりするのであろう? ならず者どもが一睨みで逃げていったでござる」
私は顔の前で手を振りながら否定をする。
「いや、いや、普通の家だけれど。でも、お兄ちゃんが強いので、その威厳で逃げていったのかな?」
「そうであるか」
「お兄ちゃんもダンジョンハンターなんだけど、ワールドランカーなんです」
「おおお!」
「おおお!」
「おおお!」
「おおお!」
部員の一同は同調するように感嘆の声をあげた。
「まあ、私はまだダンジョンに来たのは2回目なんですけどね」
言いながら、頭をぽりぽりかく。
「しかし、姫には2度も助けていただいたでござる。この恩には報いなければならないでござる」
「いや、大したことはしていないような……」
「我々は姫に忠誠を誓うのでござる」
他の部員もこくこくと頭を振りながら頷いている。
「忠誠を誓われても……困るというか……」
「我々は女子としゃべることがとても苦手なのでござる。しかるに、姫と思えばしゃべれるような気がするのでござる」
「いや、そう言われても……。さすがに姫って呼ばれるのは……。どうなの……?」
「では、『春菜どの』、『春菜姫』、ただの『姫』、どれがいいであろうか? 呼び方を選んでくだされ」
「明らかに選択肢が足らない気が。普通に筑紫さんとか、春菜さんとか、春菜ちゃん、とか? 普通でいいのでは?」
「かしこまり申した。『春菜さん姫』でござるな」
「なんで、そうなる……」
呆れながら応えると、部長が説明する。
「僕たちね。女子としゃべるのがとても苦手なんだ。僕はまだ姉がいるけれど、彼らはみんな男兄弟だからね。姫とその配下という設定を設けることで、女子と話しやすいということじゃないかな?」
「そのとおりでござる!」
「そのとおりでござる!」
「そのとおりでござる!」
「そのとおりでござる!」
4人は一斉に同調して応える。
「姫と呼ぶことならできるでござる! しかし、は、は、は、は、は、は、は、春菜ちゃ、ちゃ、ちゃん、は無理……でござる……」
はあはあ、と息を切らしながら石田さんは言った。まるで酸欠のような状態だった。
「じゃあ……。まあ……。姫で……」
私の言葉に、一斉に4人は返す。
「姫!!」
「姫!!」
「姫!!」
「姫!!」
4人とも、目をキラキラと輝かせて私を見てきた。ここにきて初めて目があった気がする。まともに顔を見てもらえた気がする。
しかし……。
うわあ。
彼らの目はまるで城主でも見るような目だよ……。
これ、絶対にお兄ちゃんには見せてはいけないやつだ。
自分より年上の男子高校生を配下にしていると思われてしまいそうだ。
レベル71をいいことに、彼らを力で従わせたと思われてしまうかもしれない。
いったいどうして、こんなことになってしまったのだ?
配信画面のコメント欄も姫で埋め尽くされている。
■姫(わら
■姫(笑)
■姫とは。うける
■俺らも姫と呼んでいい?(笑)
■姫と呼ぶ発想はなかった
■ハルナっち姫
■姫についていきます
■私も姫って呼ぶね
■俺も、今日から姫と呼ぶ
■俺の嫁を勝手に姫と呼ぶなああ!!
■お前の嫁じゃねえ 俺の姫だ
カツアゲをしてきた中学生を追い払い、最初にここに来たときと同じように、私を中心として部員たちが円形に座っている。
無事に災難が去った私たちは、ここで自己紹介をすることにした。
「じゃあ、あの。改めて自己紹介を。私は筑紫春菜。千の宮中学の2年生です」
ダンジョン部では最初に部長が挨拶をする。
「僕は難高校の2年生、ダンジョン部の部長をしている高峰康介といいます。そして彼らがダンジョン部の部員です。全員2年です」
続けて、端から順に4人の部員が自己紹介をする。
ずっと気になっていたけれど、みんな変な口調だった。
「よ、よろしくお願いしまする。拙者は石田光朗と申す」
「我は九条颯太なり」
「我は……葛城太郎」
「えっと、僕は……我は……椎名学です」
年上なので「さん」付けて呼んだほうがいいだろう。
石田さんは少し贅肉があって、丸みを帯びた顔をしている。彼がもっとも不思議な口調でしゃべる部員だ。
九条さんは目付きが鋭く、痩せぎすの体型だ。
葛城さんは部長と同じくメガネをかけていて勉強ができそうなタイプ。
椎名さんは一番小柄で背が低く、私と同じくらいの身長かもしれない。
「みんな割と内気な性格だけど、いいやつだから。少し言葉が変なのは石田君の影響かな。どうも彼の言葉は他人に伝染する傾向があるようなんだ」
その石田さんが、私に問いかける。
「それで、姫。姫に聞きたいことがあるのでござる」
「ひ……姫? え? 姫って私のこと?」
質問の内容以前に、『姫』という呼称が気になった。
「そうでござる」
「え? なんで姫? いったいどうして?」
「春菜どのはおそらく権力者のご令嬢だったりするのであろう? ならず者どもが一睨みで逃げていったでござる」
私は顔の前で手を振りながら否定をする。
「いや、いや、普通の家だけれど。でも、お兄ちゃんが強いので、その威厳で逃げていったのかな?」
「そうであるか」
「お兄ちゃんもダンジョンハンターなんだけど、ワールドランカーなんです」
「おおお!」
「おおお!」
「おおお!」
「おおお!」
部員の一同は同調するように感嘆の声をあげた。
「まあ、私はまだダンジョンに来たのは2回目なんですけどね」
言いながら、頭をぽりぽりかく。
「しかし、姫には2度も助けていただいたでござる。この恩には報いなければならないでござる」
「いや、大したことはしていないような……」
「我々は姫に忠誠を誓うのでござる」
他の部員もこくこくと頭を振りながら頷いている。
「忠誠を誓われても……困るというか……」
「我々は女子としゃべることがとても苦手なのでござる。しかるに、姫と思えばしゃべれるような気がするのでござる」
「いや、そう言われても……。さすがに姫って呼ばれるのは……。どうなの……?」
「では、『春菜どの』、『春菜姫』、ただの『姫』、どれがいいであろうか? 呼び方を選んでくだされ」
「明らかに選択肢が足らない気が。普通に筑紫さんとか、春菜さんとか、春菜ちゃん、とか? 普通でいいのでは?」
「かしこまり申した。『春菜さん姫』でござるな」
「なんで、そうなる……」
呆れながら応えると、部長が説明する。
「僕たちね。女子としゃべるのがとても苦手なんだ。僕はまだ姉がいるけれど、彼らはみんな男兄弟だからね。姫とその配下という設定を設けることで、女子と話しやすいということじゃないかな?」
「そのとおりでござる!」
「そのとおりでござる!」
「そのとおりでござる!」
「そのとおりでござる!」
4人は一斉に同調して応える。
「姫と呼ぶことならできるでござる! しかし、は、は、は、は、は、は、は、春菜ちゃ、ちゃ、ちゃん、は無理……でござる……」
はあはあ、と息を切らしながら石田さんは言った。まるで酸欠のような状態だった。
「じゃあ……。まあ……。姫で……」
私の言葉に、一斉に4人は返す。
「姫!!」
「姫!!」
「姫!!」
「姫!!」
4人とも、目をキラキラと輝かせて私を見てきた。ここにきて初めて目があった気がする。まともに顔を見てもらえた気がする。
しかし……。
うわあ。
彼らの目はまるで城主でも見るような目だよ……。
これ、絶対にお兄ちゃんには見せてはいけないやつだ。
自分より年上の男子高校生を配下にしていると思われてしまいそうだ。
レベル71をいいことに、彼らを力で従わせたと思われてしまうかもしれない。
いったいどうして、こんなことになってしまったのだ?
配信画面のコメント欄も姫で埋め尽くされている。
■姫(わら
■姫(笑)
■姫とは。うける
■俺らも姫と呼んでいい?(笑)
■姫と呼ぶ発想はなかった
■ハルナっち姫
■姫についていきます
■私も姫って呼ぶね
■俺も、今日から姫と呼ぶ
■俺の嫁を勝手に姫と呼ぶなああ!!
■お前の嫁じゃねえ 俺の姫だ
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