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ダンジョン部の姫

第79話 ダンジョンデバイスに制限をかけられました

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 翌朝、朝ご飯を食べながらお兄ちゃんに訊ねられる。

「春菜、お前。制服姿で行かないよな?」

 ダンジョンのことだ。私はすぐにでもレベルアップの申請をしたかった。
 いつもはパジャマ姿で朝食を食べる私が、すでに制服を着ているのだ。
 兄が察しないわけがない。
 
「え? だめ? 都会へ行くときは制服で行きなさいって、学校の先生が」

「ダンジョンは都会じゃありません。奥多摩だし、そもそも田舎だし。たしかにあそこだけ都会っぽい雰囲気は醸しているが、奥多摩は奥多摩だ」

「制服じゃ駄目なの? じゃあ、私服?」

「中学校の制服じゃあ浮いちゃうんだよ。私服だって同じだ。まわりはハンターばかりだから、ちゃんとした装備をしていかないと。俺の装備を貸してやるよ。初級用だけど」

「えーーー。神王装備がいい」

 拗ねるように言う私に、お兄ちゃんは目を吊り上げる。

「あれはもうだめ。強すぎる。そもそもダンジョンへ行くのを禁止したいくらいなんだ。まずは上層で学びなさい」

「……はーい」

 お兄ちゃんが装備を実体化する。身に着けてみると、とても貧相だ。
 胸や腹などの急所部分は金属で補強されているが、基本は皮でできている。
 いわゆる革鎧というやつだ。

 ダンジョンデバイスで装備の情報を確認してみる。

――――――――――――――――――――――
初級用革鎧 防御力30
――――――――――――――――――――――

 とある。
 なにこれ、弱……。

 まあいいか。
 自分で買うかモンスターから手に入れるかすればいいのだ。

 ところが、私の心を読んだかのように、お兄ちゃんはこんなことを言った。

「春菜は50階層以下へ降りるのは禁止」

「えーーーー」

 上の階層ではろくな装備が手に入らないと聞いている。
 でも、まあいいか。
 勝手に行っちゃえばいいんだし。かなりレベルアップするだろうから、きっと大丈夫なはずだ。

「勝手に行こうとか思っているだろ? ダンジョンデバイスの安心フィルタリング機能で制限しているからな」

「ノオーーーー!!」

 私はムンクの叫びの絵画のような、口を縦に開けた顔で悲鳴を上げる。
 お兄ちゃん、私のデバイスの制限ができるの?
 もしかして、昨日寝ている間に設定された?

 保護者じゃないんだからさ……
 私だって、もう中学二年生なんだし……

「俺のデバイスから、春菜のデバイスの見守り機能を有効にしたから。春菜のいる場所も丸わかりになっているからな」

「ノオーーーー!! プライバシーの侵害だよーーー!!!!」

 厳しい、厳しすぎるよ……。
 私は食卓に突っ伏し、それからゾンビのように顔を持ち上げながら訴えかける。

「でも、ほら。お兄ちゃん……。私は世界を救わなくちゃいけないんだよ。お兄ちゃんはもう知っていると思うけれど、覚醒レベルっていうものがあってさ」

「覚醒スキルは使用禁止に設定……っと」

「ノオーーーー!!」

「一応、AIが判定して、本当に危ないときには機能が解放されるから」

「ぐぬぬぬぬ」

 それなら、いいか……
 いや、いいのか……?

「あと、春菜。スパチャ多すぎ。中学生の1ヶ月のお小遣いとしては教育上よくない。だから、使用できるダンジョンポイントを1ヶ月あたり5万DPに設定……っと」

「!?」

 これはかなりの衝撃を受けた。
 ダンジョン配信で視聴者からもらったスパチャは1000万DPを超えていた。モンスターから獲得したDPも含めると3000万DPはあったはずだ。アイテムを売ったら1億DPにだって届くかもしれなかった。

「ちょ、ちょっと待って……」

 5万DPは日本円で5万円と等価だ。
 5万円といえば中学生にとって大金ではある。しかしダンジョンハンターにとってははした金でしかない。

 5万円でどんな装備が買えるというのか。
 ポーションがいくつ買えるというのか。

 ダンジョンでシャワー代わりに使ったあの高級回復ポーションなんて1本1万DPだ。
 本当にこれでダンジョンハンターとしてやっていけるというのか?
 そんなことを考えている間に、お兄ちゃんは衝撃なことを言い出した。

「ダンジョン配信は1日1時間まで、……と」

 私はバンッと食卓に手をつき、立ち上がる。

「それは無理! 絶対に無理!! そんな設定にしたら、お兄ちゃんの結婚式に出ない! ボイコットする!」

 お兄ちゃんは私の突然の反逆に、あっけにとられたような顔をした。

「そこまでか」

 私は片手を大きく開く。指を5本立てた。

「せめて、1日5時間!」

「じゃあ、妥協して2時間」

 指をピースの形にするお兄ちゃん。

「4、4時間……」

 私は指を1本たたみ、4を作る。

「3時間」

 兄の毅然とした声。
 おそらく妥協できる限界ギリギリのラインだった。

「わかりました……」

 私はうなだれ、茶碗から箸でご飯をすくい、口元へと運ぶ。

 まあ、あれだけの大騒動を巻き起こしたのだ。
 ダンジョンへ行くことを許されただけでも、良しとしなければならなかった。

 それでも私はレベルアップのことを考えると、顔がにやけてきた。

「レベル100とかいっちゃうかな?」

 私のつぶやきに、

「せいぜい70前後ってとこかな」

 とお兄ちゃん。

「そんなもん?」

 私の問いかけに、

「おいおい。レベル70になるのに俺がどのくらいかかったと思う?」

 と訊ねてくる。

「うーん、1ヶ月くらい?」

 適当に応える私。

「しばらく上層で学びなさい」

 とお兄ちゃん。

 どうやら私はダンジョンの一般常識をわかっていないらしい。
 しばらくはお兄ちゃんの言う通り、上層で学ぶことにしよう。

 朝ご飯を一気にかきこむ。
 家を出てダンジョン快速に乗り、奥多摩駅へと向かった。
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