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泥にまみれた戦い
第45話 かりそめの帰還
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ダンジョンシミュレーターが実行されている。
私はダンジョンデバイスの画面を通して、自分自身を見ている。
これは、架空の体験だ。
もう一人の私がかりそめの世界を生き、もうひとりの私がデバイスを通してその様子を観察する。
現実世界を、さもVRMMOのように味わうヴァーチャル体験。
私は地上へ帰還する。
お兄ちゃんが私を迎えてくれる。
「この人が私を助けに来てくれたんだよ」
嬉しそうに報告する私に、お兄ちゃんは静かに微笑む。
誰も本当のことを言わない。
お兄ちゃんも、もりもりさんも、そしてお兄ちゃんの結婚がなくなったその理由も。
私は事実を知らされないまま、何もなかったかのように中学校へ通う。
もりもりさんの消息はなかった。どこへ行ってしまったのか、わからない。
お兄ちゃんはダンジョンにこもりきりになった。一人でもくもくとレベルを上げていく。ワールドランクは1位となり、さらに下の階層へと挑戦する。なにかに取り憑かれたかのように、下へ、下へと降りていった。
お兄ちゃんと顔を合わせる時間は減り、結婚のことも相手のことも聞くことができずにいた。お父さんもお母さんも何も教えてくれない。
お兄ちゃんの結婚がいったいどうなったのか。その相手とはどうなったのか? 別れてしまったのか?
私には何も知らされない。
けれど。
ダンジョンデバイスを通して、すべてを見ることができる、もうひとりの私。
もうひとりの私はすべての真実を知る。
ぼろぼろと涙をこぼす。
こちら側の私はすべてが見えていた。
最初は、結婚を決めていたお兄ちゃんを困らせようと思って装備を持ち出したことが原因だった。
それから、無関係なもりもりさんを巻き込んでしまった。
命をかけて深層まで来てくれた。もりもりさんといっしょにヴァンパイアを倒して、帰還石を手に入れ、それを使ってしまった。
私は取り返しのつかないことをしていたのだ。
もりもりさん。
命をかけて、私を助けに来てくれたのに……。
消息を絶つ前、私にこんなことを言っていた。
「一度でいいので、私のことをお姉さんと呼んでもらえないでしょうか?」
なぜ、もりもりさんがそんなことを言い出したのか。
ダンジョンデバイスの向こう側、そこにいる私は照れていて呼ぶことはしなかった。
「何言ってるんですか、もりもりさんはもりもりさんじゃないですか」
それから、もりもりさんには会えていない。
私は真実を知らないまま、ありふれた日常を過ごす。
毎日を中学校で友達と。授業を受け、勉強し、遊び。
その様子をダンジョンデバイスを通して見ているこちら側の私。
私の涙は止まらない。
もりもりさんがハンターを引退するだけとか、そういう話ではなかった。取り返しのつかないことを、私はしてしまっていた。
ダンジョンデバイスが実行していたシミュレーターが終わる。
私は現実に引き戻される。
そこで見ていた記憶は消えている。
何も覚えていない。
けれど、仮想体験していた感覚と、そこで味わった感情の残滓だけは残っている。
深い、深い、後悔だけが、私の胸に残っている。
私はダンジョンデバイスの画面を通して、自分自身を見ている。
これは、架空の体験だ。
もう一人の私がかりそめの世界を生き、もうひとりの私がデバイスを通してその様子を観察する。
現実世界を、さもVRMMOのように味わうヴァーチャル体験。
私は地上へ帰還する。
お兄ちゃんが私を迎えてくれる。
「この人が私を助けに来てくれたんだよ」
嬉しそうに報告する私に、お兄ちゃんは静かに微笑む。
誰も本当のことを言わない。
お兄ちゃんも、もりもりさんも、そしてお兄ちゃんの結婚がなくなったその理由も。
私は事実を知らされないまま、何もなかったかのように中学校へ通う。
もりもりさんの消息はなかった。どこへ行ってしまったのか、わからない。
お兄ちゃんはダンジョンにこもりきりになった。一人でもくもくとレベルを上げていく。ワールドランクは1位となり、さらに下の階層へと挑戦する。なにかに取り憑かれたかのように、下へ、下へと降りていった。
お兄ちゃんと顔を合わせる時間は減り、結婚のことも相手のことも聞くことができずにいた。お父さんもお母さんも何も教えてくれない。
お兄ちゃんの結婚がいったいどうなったのか。その相手とはどうなったのか? 別れてしまったのか?
私には何も知らされない。
けれど。
ダンジョンデバイスを通して、すべてを見ることができる、もうひとりの私。
もうひとりの私はすべての真実を知る。
ぼろぼろと涙をこぼす。
こちら側の私はすべてが見えていた。
最初は、結婚を決めていたお兄ちゃんを困らせようと思って装備を持ち出したことが原因だった。
それから、無関係なもりもりさんを巻き込んでしまった。
命をかけて深層まで来てくれた。もりもりさんといっしょにヴァンパイアを倒して、帰還石を手に入れ、それを使ってしまった。
私は取り返しのつかないことをしていたのだ。
もりもりさん。
命をかけて、私を助けに来てくれたのに……。
消息を絶つ前、私にこんなことを言っていた。
「一度でいいので、私のことをお姉さんと呼んでもらえないでしょうか?」
なぜ、もりもりさんがそんなことを言い出したのか。
ダンジョンデバイスの向こう側、そこにいる私は照れていて呼ぶことはしなかった。
「何言ってるんですか、もりもりさんはもりもりさんじゃないですか」
それから、もりもりさんには会えていない。
私は真実を知らないまま、ありふれた日常を過ごす。
毎日を中学校で友達と。授業を受け、勉強し、遊び。
その様子をダンジョンデバイスを通して見ているこちら側の私。
私の涙は止まらない。
もりもりさんがハンターを引退するだけとか、そういう話ではなかった。取り返しのつかないことを、私はしてしまっていた。
ダンジョンデバイスが実行していたシミュレーターが終わる。
私は現実に引き戻される。
そこで見ていた記憶は消えている。
何も覚えていない。
けれど、仮想体験していた感覚と、そこで味わった感情の残滓だけは残っている。
深い、深い、後悔だけが、私の胸に残っている。
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