上 下
11 / 127
フレイムドラゴン討伐編

第11話 剣を奪還する

しおりを挟む
 ダンジョンは立体構造になっている。
 一番高い場所が212層だとすると、一番低い場所は215層だ。
 ドラゴンは215層の場所にいて、4層分もの身長があるのだ。

 真ん中が学校の校庭くらいの広い空間になっている。そこにドラゴンがいて、洞窟の出口がいくつも口を開いている。4層なので、4段の列になってたくさんの穴が空いていた。

「誘い込むにはこの場所が一番ですね」

 私の利点はダンジョンの道筋をほぼすべて把握していること。これはダンジョンデバイスのマップアプリの能力でもある。

 今日までの行動でわかったことは、フレイムドラゴン・ロードはモンスターなどの強者をなんらかの方法で感知しているが、私のようなレベルの低い弱者に対しては反応が鈍いことだ。

 ところが「神王スキル」のような特別な力を使うと、それは感知されてしまう。つまり、私は隠れて隠密行動を取ることができる一方、「神王スキル」でドラゴンの反応を引き出せるということだ。

「まさに、ここしかない。絶妙なこの場所まで誘導します」

 そして行動を開始し、順調に作戦が進む。

「つまり、こういうことなんですよね」

 この時点で計画の第一段階は終わろうとしていた。

 マップを睨みつけるように探したこの場所。神王スキルでドラゴンをおびきよせた。この空間にドラゴンの首がまっすぐに入り、左右に洞窟のような穴が空いている。ちょうどドラゴンの左眼と右眼の高さだ。

 まんまとやつの首がこの場所にすっぽりと収まった。そりゃそうだ。右眼を奪った憎いやつなのだ。その姿を忘れることはないだろう。

 神王スキルを察知したドラゴンは私を視界に捉えようとした。
 ここに首を突っ込み、左眼で捕らえているのは私の姿。ただし偽物だ。

 岩をマネキン状に加工し、神王装備を着せている。
 偽物だと気がつかれる前にすべてを終わらせる。

 私がいるのはちょうどマネキン岩の反対側。ドラゴンの頭の右側だ。こちらの眼には長剣が刺さっているので何も見ることはできない。死角になっていて見えないうえ、弱い存在である私を感知することはできない。

 フレイムドラゴン・ロードの巨大な眼球が今、目の前にある。神王の長剣が刺さっていた。

 ゆっくりと手を伸ばし、柄に手をかけ、一気に引き抜く。

「取り返しました!」

 言うと同時に、私は走り出す。ドラゴンは首を大きくくねらした。 
 私が走る経路にはモンスターがいない。安全な通路を急ぐ。

「モンスターを減らしてしまったことが裏目に出ましたね!」

 そうなのだ。この作戦は他のモンスターがいたら成立しなかった。
 神王装備を脱いだ私は制服姿だ。中学校の制服でダンジョン内を走る。こんな姿でモンスターに襲われたらひとたまりもなかっただろう。

 一方でドラゴンは混乱しながら、神王装備を着せた岩に向かって頭突きを食らわせた。
 神王装備は粉々に砕け散り……

「残念、鏡でーす」

 砕け散ったのは身だしなみを整えるために使っていた大鏡だ。

 私は高らかに笑い声を上げながら、マネキンの元へと戻りダンジョンデバイスに神王装備を格納した。装備している暇などないからだ。

 さらに洞窟の奥へと走る。
 後方ではドラゴンのブレス。

 洞窟が真っ赤に染まる。
 本当は危なかった。
 制服の裾が少し焦げていた。

 まさに間一髪。
 なんとか、かんとか、神王の長剣を取り返し、安全な場所まで避難してから黄金の装備で身を包んだ。

 私は無言のまま、剣を天井に向けて突き上げる。
 神王装備、フルセットが戻った。
 映像に映るのは、全身を黄金の装備で身を包んだ私の姿。
 剣を高らかと上げる、その勇姿。

 コメント欄はとんでもない勢いで流れていた。
 スパチャが次々と入る。

 ドラゴンを倒してすらいないのに、すでにお祭り騒ぎが起こっている。
 一度は減ってしまったチャンネル登録者数だったが、減ったときの勢いが嘘のように、爆上がり。軽く10万人を突破していた。

 コメントが勢いよく流れる。
 わけもわからない内容の発言
 おめでとうなどの賛辞
 泣き叫ぶような声
 単に喚き散らす者
 次々に鳴り止まないスパチャの通知
 外国からの閲覧者も多いようで、さまざまな国の言葉が行き交う

 そんな時、もりもりさんからコメントが入った。

 ■もりもり:それで、例の仕込みはどうなったのですか? よく見えなかったので

「ばっちりですよ」

 私は握りこぶしを作る。
 そう、剣を引き抜くときに仕込んでおいた。

「これからが本番です」

 すべてはドラゴン退治への布石。
 こんなものはまだ序の口に過ぎなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...