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第55話 悪魔的レッサースキル
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ガリュウは舐めまわすような目つきでミミカ、フィーネ、カルニバス、ドリルと順に見ていった。
「随分と賑やかになったものだね。これだけいると誰から遊ぼうか迷ってしまうよ。そうだ、みんなでバトルロイヤルでも始めようか」
おどける口調のガリュウに、カルニバスが顔を向ける。
「ガリュウよ、久しぶりだな」
妖艶なその表情には、この部屋に引きずり込まれたという動揺はない。
「ふん、カルニバスか。さんざんコケにしてくれたな。やっと仕返しができるよ」
ガリュウはカルニバスと面識があるようだった。何があったのかは知らないが、彼女のことをよく思っていないことは分かる。そんなガリュウをカルニバスは気に留める様子もない。
「ドーテーと引きあわせてくれて、ありがたく思うぞ」
カルニバスが俺の頭を抱えるように抱く。脳天に柔らかい感触が伝わる。悪魔のような黒い羽で俺のことを包み込む。
「ドリルもゾゾゲとまた会えて嬉しい」
ドリルは俺の足に抱きついてくる。獣のふわっとした毛の感触が足を包む。二人はガリュウを恐れる様子がない。いつもと変わらない二人の態度に心が緩んだ。そんな俺をフィーネは睨みつける。
「マヒロ、顔がだらしない」
背伸びしながらフィーネが俺の頬をつねった。カルニバスは俺の頭を抱きしめたままガリュウに声をかける。
「ガリュウよ、お前とドーテーの戦いは観察させてもらっていた。その戦いを見ていて分かったことがある。お前には三つの欠点があるよ」
横のフィーネが指で「三」の数字を作る。どうやらいっしょに俺達の戦いを分析していたようだ。ドリルも一生懸命、指で「三」の数字を作ろうとしているが、犬みたいな手をしているためグーにしか見えない。
「欠点その一。お前は自信過剰過ぎるのだ。いくら多くのスキルを持っていようがそれを使うのは転生人そのものだ。お前自身の能力が向上するわけではない。自動的に発動するスキルもあるようだが、選択を謝れば墓穴を掘ることもある。道具が良くとも使い方次第ではうまく働かないうえに、意図したことと反対に働くこともある」
そして消えてしまった部屋の扉を指す。
「こうしてこの部屋からの出口を失ったようにな。それと一千万以下のダメージを反射するスキルは確かに無敵だろうが、攻撃を受けなければなんの効果も発揮しない」
「だから何だというのだ? お前たちが無力であることに変わりはないだろう。俺を倒せるとでも言うのか?」
ガリュウの言葉を無視するかのように、二番目の欠点をドリルが説明した。
「けってん、そのに。いちまん、えっと……ごせんのスキルがあるといっても一度にすべてが、使えるってわけじゃないでしょ。わたし達をここに連れてきたことが失敗かな」
カルニバスがそれを補足する。
「フィーネの剣技、私の妖術と能力看破、ドリルの薬術と幻術、ミミカとやらの魔法、そしてドーテーの……その……なんだ……色気? 男の魅力? 快楽攻撃? それら一つ一つには対処できようが、すべて同時に対処できるわけじゃあるまい」
俺の能力だけ酷い扱い、というかカルニバスにしか効かんだろ、と突っ込みたい内容だった。
「ドリルは強いよー」
「フィーネも強いよ」
フィーネはいつの間にか魔剣を生成し、ドリルは周囲にたくさんの小人のような黒いシモベを引き連れていた。影のようにも見えるし、厚さがないので紙のようにぺらぺらだ。ゆらゆらと手足を動かして妙なおどりを踊っている。
ガリュウは憮然とした態度で口を開く。
「そこのゴブリンの娘はエラントの奴の人質にしようと思ったのだ。娘を取り返したくば、再びこの場所と地下室を結ぶしかなかろう」
ガリュウの言葉を無視するかのようにカルニバスは続ける。
「お前の欠点その三だ。最大の欠点、お前は知能が低い。さすがの強力なスキルでもその猿のような知能までは補えんようだな。知能が足りんということは戦闘において最大の欠点なのだ。だからいつかどこかで敗北する。現に今こうしてお前は皇帝に敗北しかかっているじゃないか。殺されずとも封じ込められれば、それは敗北といえる」
「うるさい。だからお前たちに何ができるというのだ。俺を倒せるのか? 俺に勝てるのか? 俺は今からお前らを殺す。お前らは俺には勝てない。勝てない以上、敗北するしかない。違うか?」
「確かにお前の言うとおりだな。私たちはお前に勝てない。しかし敗北はしない。今からの戦いは私たちが一方的に展開するだろうよ。さあ、勝ち目のない、だが一方的な戦いを始めようじゃないか」
「いっぽうてきだぞ」
ドリルもそう後に続いた。横ではぺらぺらの黒い小人がゆらゆらと踊っている。
「私たちは負けません!」
魔剣を構えてフィーネが叫ぶ。その後ろではガリュウに聞こえないほど小さい呟きが聞こえた。
「あれ? でも私たち勝てないね……。そうか、勝ち目がないんだね……」
後ろで静かに控えていたミミカがそっと囁いていた。
「くだらん。お前らに何ができるというのだ。全員まとめて殺す。炎の海に呑まれろ――【ギガ・フレイム・オーシャン】」
ドリルの横で動きがあった。どこから取り出したのか、ぺらぺらの黒い小人の集団が太鼓を取り出して叩きだした。どんどこどんどこ。
部屋に太鼓の音が鳴り響く。どんどこどんどこ。
ガリュウは天井に足をつけ、後ろを向いて立っていた。壁のほうを向いて、逆さに天井からぶら下がっている状態だ。
そしてガリュウの目の前の壁が真っ赤に熱せられる。
「なっ!」
ガリュウは首だけを後ろに向けて俺達を振り返る。天井を蹴って床に降り立ち、一八〇度反転して俺達に向き直った。
「幻覚か……」
「わたし、この部屋に入ったとき、すぐにこれ使ったのに気づかないんだもん。ガリュウはさっきからずっと壁に向かってしゃべってたよ」
ドリルの耳がぴこぴこと動く。犬がお手をするようなしぐさで獣の右手を前に出して手首を曲げる。その仕草がガリュウを逆なでさせる。
「たかが犬ふぜいが……」
その言葉を聞いてドリルは耳をぴんと張り立てて、ぷんぷん怒り出す。
「『いぬ』じゃない、獣人だー」
どう見ても子犬にしか見えないが、その可愛らしい声と仕草で手玉に取られれば、誰でも頭にくるだろう。
「ふん、俺が対処するスキルを持っていないとでも思ったか。もう同じ手は食わん!」
そして幻覚に対抗するであろうスキルを発動しようとする。
その様子を見てカルニバスが含み笑いをする。
「くくくく、やはりそうか。スキルを検索し、適切なスキルを選び、それを発動させる。その時間差が致命的だな。しかも、あらかじめ敵の手を想定することすらしない。最初に説明したじゃないか、ドリルは薬術と幻術を使うと。この子はまだ薬師としての手の内は見せていないぞ。ドリルはこちらが本業なんだ。すでにいくつかの薬剤を散布しているというのに。その対処はいいのか? ガリュウよ」
カルニバスの言葉で慌ててあたりを見回すガリュウ。部屋になにか変わったところがないか視線を動かす。しかし何も見つけられないでいる。そしてカルニバスの顔を見て気がつく。彼女のわざとらしい笑みを見て。これはただのハッタリであると。
カルニバスのこの話はブラフだった。当のドリルは両腕で、そんなことしてないよ、のポーズを取っている。犬のような手を上に向け、まるで欧米人が「Oh, No」とでも言いそうなその仕草はこちらからみると可愛らしいのだが、ガリュウには癪に障ったことだろう。
ちっと舌打ちをしたあと、
「ふざけんな。スキルなど使わなくても十分なほどレベルを上げてある」
そう言って剣を手にフィーネに突進した。
「なんで私に向かってくるの? 剣技で私に勝てるわけないよね?」
ただでさえ左腕一本のガリュウは軽くフィーネにあしらわれる。そのフィーネの攻撃をわざとその身で受けようとしたガリュウだったが、フィーネは寸前でぴたっと剣を止める。
「その手は食わないよ。攻撃を当てさせて跳ね返そうっていうんだね。見てたから知ってるんだよ」
目論見が外れたガリュウは闇雲に剣を振るう。フィーネはそれを魔剣で受ける。そしてそのまま剣を弾き返すようにしてガリュウを壁まで飛ばした。ガリュウは壁に激しく衝突した。壁は激しく振動する。
「うっ」
声を出したのはガリュウではなくフィーネだった。フィーネががくっと膝を折れた。
「あら、こんなダメージまで反射しちゃうのね。ほんとにやっかい」
カルニバスが困ったような顔をした。
「くくくく」
ガリュウが小さく笑う。
「想定外、だったか? 壁にすら飛ばすこともできない。そうかわかったよ。お前らにも想定外は常にある。こちらを無能だと思わせること、それがカルニバスの作戦だな。俺のスキルは一万五千あるんだ。どんなスキルが飛び出すかわからない。お前らの方こそ、それらすべてに対処することなんて不可能だろう。いつかはこちらの攻撃が通る。それこそ欠点だらけだろうが!」
カルニバスは「あら、ばれちゃったね」と小さく呟いた。こちらが有利であるかのようにガリュウに錯誤させていたのだ。やはり倒せない上にこの狭い空間に閉じ込められている以上、ガリュウの有利は動かない。問題はそれを双方がどう認識するかだ。
「お姉ちゃん、案外早くばれたね。ガリュウ、それほど頭わるくなかったか」
「そうねー、昔は餌を沢山運んできてくれた抜けた子だったんだけど」
「散々俺に貢がせやがったよな、カルニバス。そうそう、もう一つ気づいたことがあるんだ。お前ら、後ろのミミカをかばっているだろ」
その場の全員、顔は動かさずに目だけをミミカに向けた。全員の視線がミミカに集まる。
「なるほど。エラントから何かを聞いているな。さしずめ、ミミカが状況を打開する鍵といったところか。ならミミカを最初に殺そう。殺してからゆっくりミミカを守っていた理由を聞くとしようか」
「別に理由なんてないわよ。本当に。ただ、ガリュウを倒せる可能性があるならミミカって聞いていただけ」
「ふん。それだけ聞けば十分だ。ならミミカを殺してその可能性を断ってやろう。この場を支配しているのは俺だ。覚えておけ、スキルにはこんな使い方もあるってことを」
ガリュウは左手の指の間にずらっとスキル玉四つを挟み込んだ。そして四つを同時に発動。【タイム・スロー】、【フロスト・レッグ・ロック】、【ソリッド・エアー】、【ストレッチ・アーム】。スキル玉を使うことで同時に発動ができる。
俺達の時間の流れを遅くし、足元を凍らせることで動きを封じ、空気の振動を止めることで魔法や妖術、幻術の発動を制限し、左腕をゴムのように伸ばす。これら四つのスキルを同時に発動し、手にはスキル玉の代わりに剣が握られる。剣を持った左腕がまっすぐミミカの元へと伸びていく。
剣先がミミカの胸元に迫った。
体が動かない。フィーネ、カルニバス、ドリル、そして俺の四人がミミカを守ろうと必死に手を伸ばす。カルニバスとドリルが魔法か幻術か妖術か、何かを唱えようとするが、音にならない。
フィーネが叫ぼうとするがそれも声にならない。ミミカはただ、なされるがままに、その胸に剣を受けようとしていた。
とっさだった。共同墓地の地下で拾った緑のスキル玉を発動していた。
剣が破砕されるような錯覚を覚える、そんな光の破片だけが見えた。武器が壊れるようなエフェクトだけが起こったが実際には武器はそのままだった。きいん、と音がしてガリュウの剣がミミカの着ている神官服に弾かれた。
俺は反射的に【ウェポン・ブレイカー】のスキルを使用していた。このスキルでガリュウの攻撃を最小攻撃単位に変換していた。しかし二度は使えない。もう一度同じ攻撃を仕掛けられたら防ぐ手段がない。
「くだらない。一度攻撃を避けたくらいでいい気になるな。同じことを繰り返すだけだ」
ガリュウは吐き捨てて、剣を握り直した。
だがこれと同時にミミカのスキルも発動していた。
「私のスキルが発動した。悪魔的レッサースキルの【1ダメカウンターアタック】が」
俺が使ったスキルはノーマルスキルの【ウェポン・ブレイカー】。攻撃力を最小単位の「1」に変換するスキル。
ミミカのスキルは【1ダメカウンターアタック】。受けたダメージが1だった場合にのみ反射する。
「なるほど、スキルで俺の攻撃を跳ね返したというのか。貧相なスキルだな。俺のスキルは一千万以下のダメージをすべて跳ね返す。一方のお前は1ダメージのみ。1ダメージしか反射できないのか。くだらんスキルだな」
「もう一度言う。私のスキルが発動した」
この時点でまだ何が起こるのか、誰も理解していなかった。ミミカは確信を持って断言した。
「つまり、ガリュウ、あなたは死ぬということ」
俺はすぐには理解できなかった。どういうことだ? ふと女神様の顔がよぎる。
そうだ、女神様に会った時に言っていたことを思い出した。ただ一人、悪魔的レッサースキルの【1ダメカウンターアタック】を引き当てた女の子がいると言っていた。スキルダイスで一億五千万分の一を引き当てた女の子がいると。それがミミカのことだったんだ。
その時はただ使いどころのないスキルだな、と思っただけだった。
そして女神様はそのスキルについて説明してくれていた。確か受けたダメージを貯めこむ、そんなことを言っていた。
1ダメージを相手に反射するが、同時にスキルの中にも1ダメージを貯めこむと。
「私のスキルには特殊効果がある。受けたダメージを蓄積するの。そして一億分の一の確率でそれを相手に放出する」
そこまで言ってガリュウは悟った。そして俺も、フィーネも、カルニバスも、ドリルも理解した。
「あ……ありえない……そんな……」
フィーネが使う必要のなくなった魔剣を消し去り、動揺するガリュウを見据える。
「終わりだね、ガリュウ」
フィーネがそう言ったと同時だった、ガリュウの体が風船のように一気に膨らみ、弾け飛んだ。跡形もなかった。何の残骸もそこには残らなかった。まるで最初からそこには誰もいなかったようだった。
部屋の隅には水色のローブが掛かったラミイが横たわる。ローブの下から「やったね、マヒロ、ミミカちゃん」そんな声が聞こえてきた気がした。
ミミカの攻撃力は圧倒的だった。
攻撃力が正確に分かるはずのカルニバスでさえも、おおよその数値しかわからなかった。推定で一億一千二百万のダメージだったそうだ。
なぜこんなことになったのか。ガリュウがミミカを攻撃した僅かな時間に予想もつかないことが起こっていた。
俺がガリュウの攻撃力を1ダメージに変換した。
問題はその後だ。
ミミカがそのダメージをガリュウに反射した。
当然ガリュウもそのダメージを反射する。そのダメージはミミカへと返る。
さらにミミカはそれをガリュウへと返す。
起こっていたのは、たった1ダメージの往復。
本来なら無限に続く連鎖だった。だが、ミミカのスキルの特殊効果がいつかは発動する。
百、二百、五百、一千……一万……十万……。蓄積ダメージは跳ね上がる。どのくらいの速さでダメージが往復したのだろうか。短時間で一億一千二百万まで膨れ上がった。一億一千二百万回サイコロが振られる。そして一億分の一が当選したその時、発射のスイッチが入れられた。
「随分と賑やかになったものだね。これだけいると誰から遊ぼうか迷ってしまうよ。そうだ、みんなでバトルロイヤルでも始めようか」
おどける口調のガリュウに、カルニバスが顔を向ける。
「ガリュウよ、久しぶりだな」
妖艶なその表情には、この部屋に引きずり込まれたという動揺はない。
「ふん、カルニバスか。さんざんコケにしてくれたな。やっと仕返しができるよ」
ガリュウはカルニバスと面識があるようだった。何があったのかは知らないが、彼女のことをよく思っていないことは分かる。そんなガリュウをカルニバスは気に留める様子もない。
「ドーテーと引きあわせてくれて、ありがたく思うぞ」
カルニバスが俺の頭を抱えるように抱く。脳天に柔らかい感触が伝わる。悪魔のような黒い羽で俺のことを包み込む。
「ドリルもゾゾゲとまた会えて嬉しい」
ドリルは俺の足に抱きついてくる。獣のふわっとした毛の感触が足を包む。二人はガリュウを恐れる様子がない。いつもと変わらない二人の態度に心が緩んだ。そんな俺をフィーネは睨みつける。
「マヒロ、顔がだらしない」
背伸びしながらフィーネが俺の頬をつねった。カルニバスは俺の頭を抱きしめたままガリュウに声をかける。
「ガリュウよ、お前とドーテーの戦いは観察させてもらっていた。その戦いを見ていて分かったことがある。お前には三つの欠点があるよ」
横のフィーネが指で「三」の数字を作る。どうやらいっしょに俺達の戦いを分析していたようだ。ドリルも一生懸命、指で「三」の数字を作ろうとしているが、犬みたいな手をしているためグーにしか見えない。
「欠点その一。お前は自信過剰過ぎるのだ。いくら多くのスキルを持っていようがそれを使うのは転生人そのものだ。お前自身の能力が向上するわけではない。自動的に発動するスキルもあるようだが、選択を謝れば墓穴を掘ることもある。道具が良くとも使い方次第ではうまく働かないうえに、意図したことと反対に働くこともある」
そして消えてしまった部屋の扉を指す。
「こうしてこの部屋からの出口を失ったようにな。それと一千万以下のダメージを反射するスキルは確かに無敵だろうが、攻撃を受けなければなんの効果も発揮しない」
「だから何だというのだ? お前たちが無力であることに変わりはないだろう。俺を倒せるとでも言うのか?」
ガリュウの言葉を無視するかのように、二番目の欠点をドリルが説明した。
「けってん、そのに。いちまん、えっと……ごせんのスキルがあるといっても一度にすべてが、使えるってわけじゃないでしょ。わたし達をここに連れてきたことが失敗かな」
カルニバスがそれを補足する。
「フィーネの剣技、私の妖術と能力看破、ドリルの薬術と幻術、ミミカとやらの魔法、そしてドーテーの……その……なんだ……色気? 男の魅力? 快楽攻撃? それら一つ一つには対処できようが、すべて同時に対処できるわけじゃあるまい」
俺の能力だけ酷い扱い、というかカルニバスにしか効かんだろ、と突っ込みたい内容だった。
「ドリルは強いよー」
「フィーネも強いよ」
フィーネはいつの間にか魔剣を生成し、ドリルは周囲にたくさんの小人のような黒いシモベを引き連れていた。影のようにも見えるし、厚さがないので紙のようにぺらぺらだ。ゆらゆらと手足を動かして妙なおどりを踊っている。
ガリュウは憮然とした態度で口を開く。
「そこのゴブリンの娘はエラントの奴の人質にしようと思ったのだ。娘を取り返したくば、再びこの場所と地下室を結ぶしかなかろう」
ガリュウの言葉を無視するかのようにカルニバスは続ける。
「お前の欠点その三だ。最大の欠点、お前は知能が低い。さすがの強力なスキルでもその猿のような知能までは補えんようだな。知能が足りんということは戦闘において最大の欠点なのだ。だからいつかどこかで敗北する。現に今こうしてお前は皇帝に敗北しかかっているじゃないか。殺されずとも封じ込められれば、それは敗北といえる」
「うるさい。だからお前たちに何ができるというのだ。俺を倒せるのか? 俺に勝てるのか? 俺は今からお前らを殺す。お前らは俺には勝てない。勝てない以上、敗北するしかない。違うか?」
「確かにお前の言うとおりだな。私たちはお前に勝てない。しかし敗北はしない。今からの戦いは私たちが一方的に展開するだろうよ。さあ、勝ち目のない、だが一方的な戦いを始めようじゃないか」
「いっぽうてきだぞ」
ドリルもそう後に続いた。横ではぺらぺらの黒い小人がゆらゆらと踊っている。
「私たちは負けません!」
魔剣を構えてフィーネが叫ぶ。その後ろではガリュウに聞こえないほど小さい呟きが聞こえた。
「あれ? でも私たち勝てないね……。そうか、勝ち目がないんだね……」
後ろで静かに控えていたミミカがそっと囁いていた。
「くだらん。お前らに何ができるというのだ。全員まとめて殺す。炎の海に呑まれろ――【ギガ・フレイム・オーシャン】」
ドリルの横で動きがあった。どこから取り出したのか、ぺらぺらの黒い小人の集団が太鼓を取り出して叩きだした。どんどこどんどこ。
部屋に太鼓の音が鳴り響く。どんどこどんどこ。
ガリュウは天井に足をつけ、後ろを向いて立っていた。壁のほうを向いて、逆さに天井からぶら下がっている状態だ。
そしてガリュウの目の前の壁が真っ赤に熱せられる。
「なっ!」
ガリュウは首だけを後ろに向けて俺達を振り返る。天井を蹴って床に降り立ち、一八〇度反転して俺達に向き直った。
「幻覚か……」
「わたし、この部屋に入ったとき、すぐにこれ使ったのに気づかないんだもん。ガリュウはさっきからずっと壁に向かってしゃべってたよ」
ドリルの耳がぴこぴこと動く。犬がお手をするようなしぐさで獣の右手を前に出して手首を曲げる。その仕草がガリュウを逆なでさせる。
「たかが犬ふぜいが……」
その言葉を聞いてドリルは耳をぴんと張り立てて、ぷんぷん怒り出す。
「『いぬ』じゃない、獣人だー」
どう見ても子犬にしか見えないが、その可愛らしい声と仕草で手玉に取られれば、誰でも頭にくるだろう。
「ふん、俺が対処するスキルを持っていないとでも思ったか。もう同じ手は食わん!」
そして幻覚に対抗するであろうスキルを発動しようとする。
その様子を見てカルニバスが含み笑いをする。
「くくくく、やはりそうか。スキルを検索し、適切なスキルを選び、それを発動させる。その時間差が致命的だな。しかも、あらかじめ敵の手を想定することすらしない。最初に説明したじゃないか、ドリルは薬術と幻術を使うと。この子はまだ薬師としての手の内は見せていないぞ。ドリルはこちらが本業なんだ。すでにいくつかの薬剤を散布しているというのに。その対処はいいのか? ガリュウよ」
カルニバスの言葉で慌ててあたりを見回すガリュウ。部屋になにか変わったところがないか視線を動かす。しかし何も見つけられないでいる。そしてカルニバスの顔を見て気がつく。彼女のわざとらしい笑みを見て。これはただのハッタリであると。
カルニバスのこの話はブラフだった。当のドリルは両腕で、そんなことしてないよ、のポーズを取っている。犬のような手を上に向け、まるで欧米人が「Oh, No」とでも言いそうなその仕草はこちらからみると可愛らしいのだが、ガリュウには癪に障ったことだろう。
ちっと舌打ちをしたあと、
「ふざけんな。スキルなど使わなくても十分なほどレベルを上げてある」
そう言って剣を手にフィーネに突進した。
「なんで私に向かってくるの? 剣技で私に勝てるわけないよね?」
ただでさえ左腕一本のガリュウは軽くフィーネにあしらわれる。そのフィーネの攻撃をわざとその身で受けようとしたガリュウだったが、フィーネは寸前でぴたっと剣を止める。
「その手は食わないよ。攻撃を当てさせて跳ね返そうっていうんだね。見てたから知ってるんだよ」
目論見が外れたガリュウは闇雲に剣を振るう。フィーネはそれを魔剣で受ける。そしてそのまま剣を弾き返すようにしてガリュウを壁まで飛ばした。ガリュウは壁に激しく衝突した。壁は激しく振動する。
「うっ」
声を出したのはガリュウではなくフィーネだった。フィーネががくっと膝を折れた。
「あら、こんなダメージまで反射しちゃうのね。ほんとにやっかい」
カルニバスが困ったような顔をした。
「くくくく」
ガリュウが小さく笑う。
「想定外、だったか? 壁にすら飛ばすこともできない。そうかわかったよ。お前らにも想定外は常にある。こちらを無能だと思わせること、それがカルニバスの作戦だな。俺のスキルは一万五千あるんだ。どんなスキルが飛び出すかわからない。お前らの方こそ、それらすべてに対処することなんて不可能だろう。いつかはこちらの攻撃が通る。それこそ欠点だらけだろうが!」
カルニバスは「あら、ばれちゃったね」と小さく呟いた。こちらが有利であるかのようにガリュウに錯誤させていたのだ。やはり倒せない上にこの狭い空間に閉じ込められている以上、ガリュウの有利は動かない。問題はそれを双方がどう認識するかだ。
「お姉ちゃん、案外早くばれたね。ガリュウ、それほど頭わるくなかったか」
「そうねー、昔は餌を沢山運んできてくれた抜けた子だったんだけど」
「散々俺に貢がせやがったよな、カルニバス。そうそう、もう一つ気づいたことがあるんだ。お前ら、後ろのミミカをかばっているだろ」
その場の全員、顔は動かさずに目だけをミミカに向けた。全員の視線がミミカに集まる。
「なるほど。エラントから何かを聞いているな。さしずめ、ミミカが状況を打開する鍵といったところか。ならミミカを最初に殺そう。殺してからゆっくりミミカを守っていた理由を聞くとしようか」
「別に理由なんてないわよ。本当に。ただ、ガリュウを倒せる可能性があるならミミカって聞いていただけ」
「ふん。それだけ聞けば十分だ。ならミミカを殺してその可能性を断ってやろう。この場を支配しているのは俺だ。覚えておけ、スキルにはこんな使い方もあるってことを」
ガリュウは左手の指の間にずらっとスキル玉四つを挟み込んだ。そして四つを同時に発動。【タイム・スロー】、【フロスト・レッグ・ロック】、【ソリッド・エアー】、【ストレッチ・アーム】。スキル玉を使うことで同時に発動ができる。
俺達の時間の流れを遅くし、足元を凍らせることで動きを封じ、空気の振動を止めることで魔法や妖術、幻術の発動を制限し、左腕をゴムのように伸ばす。これら四つのスキルを同時に発動し、手にはスキル玉の代わりに剣が握られる。剣を持った左腕がまっすぐミミカの元へと伸びていく。
剣先がミミカの胸元に迫った。
体が動かない。フィーネ、カルニバス、ドリル、そして俺の四人がミミカを守ろうと必死に手を伸ばす。カルニバスとドリルが魔法か幻術か妖術か、何かを唱えようとするが、音にならない。
フィーネが叫ぼうとするがそれも声にならない。ミミカはただ、なされるがままに、その胸に剣を受けようとしていた。
とっさだった。共同墓地の地下で拾った緑のスキル玉を発動していた。
剣が破砕されるような錯覚を覚える、そんな光の破片だけが見えた。武器が壊れるようなエフェクトだけが起こったが実際には武器はそのままだった。きいん、と音がしてガリュウの剣がミミカの着ている神官服に弾かれた。
俺は反射的に【ウェポン・ブレイカー】のスキルを使用していた。このスキルでガリュウの攻撃を最小攻撃単位に変換していた。しかし二度は使えない。もう一度同じ攻撃を仕掛けられたら防ぐ手段がない。
「くだらない。一度攻撃を避けたくらいでいい気になるな。同じことを繰り返すだけだ」
ガリュウは吐き捨てて、剣を握り直した。
だがこれと同時にミミカのスキルも発動していた。
「私のスキルが発動した。悪魔的レッサースキルの【1ダメカウンターアタック】が」
俺が使ったスキルはノーマルスキルの【ウェポン・ブレイカー】。攻撃力を最小単位の「1」に変換するスキル。
ミミカのスキルは【1ダメカウンターアタック】。受けたダメージが1だった場合にのみ反射する。
「なるほど、スキルで俺の攻撃を跳ね返したというのか。貧相なスキルだな。俺のスキルは一千万以下のダメージをすべて跳ね返す。一方のお前は1ダメージのみ。1ダメージしか反射できないのか。くだらんスキルだな」
「もう一度言う。私のスキルが発動した」
この時点でまだ何が起こるのか、誰も理解していなかった。ミミカは確信を持って断言した。
「つまり、ガリュウ、あなたは死ぬということ」
俺はすぐには理解できなかった。どういうことだ? ふと女神様の顔がよぎる。
そうだ、女神様に会った時に言っていたことを思い出した。ただ一人、悪魔的レッサースキルの【1ダメカウンターアタック】を引き当てた女の子がいると言っていた。スキルダイスで一億五千万分の一を引き当てた女の子がいると。それがミミカのことだったんだ。
その時はただ使いどころのないスキルだな、と思っただけだった。
そして女神様はそのスキルについて説明してくれていた。確か受けたダメージを貯めこむ、そんなことを言っていた。
1ダメージを相手に反射するが、同時にスキルの中にも1ダメージを貯めこむと。
「私のスキルには特殊効果がある。受けたダメージを蓄積するの。そして一億分の一の確率でそれを相手に放出する」
そこまで言ってガリュウは悟った。そして俺も、フィーネも、カルニバスも、ドリルも理解した。
「あ……ありえない……そんな……」
フィーネが使う必要のなくなった魔剣を消し去り、動揺するガリュウを見据える。
「終わりだね、ガリュウ」
フィーネがそう言ったと同時だった、ガリュウの体が風船のように一気に膨らみ、弾け飛んだ。跡形もなかった。何の残骸もそこには残らなかった。まるで最初からそこには誰もいなかったようだった。
部屋の隅には水色のローブが掛かったラミイが横たわる。ローブの下から「やったね、マヒロ、ミミカちゃん」そんな声が聞こえてきた気がした。
ミミカの攻撃力は圧倒的だった。
攻撃力が正確に分かるはずのカルニバスでさえも、おおよその数値しかわからなかった。推定で一億一千二百万のダメージだったそうだ。
なぜこんなことになったのか。ガリュウがミミカを攻撃した僅かな時間に予想もつかないことが起こっていた。
俺がガリュウの攻撃力を1ダメージに変換した。
問題はその後だ。
ミミカがそのダメージをガリュウに反射した。
当然ガリュウもそのダメージを反射する。そのダメージはミミカへと返る。
さらにミミカはそれをガリュウへと返す。
起こっていたのは、たった1ダメージの往復。
本来なら無限に続く連鎖だった。だが、ミミカのスキルの特殊効果がいつかは発動する。
百、二百、五百、一千……一万……十万……。蓄積ダメージは跳ね上がる。どのくらいの速さでダメージが往復したのだろうか。短時間で一億一千二百万まで膨れ上がった。一億一千二百万回サイコロが振られる。そして一億分の一が当選したその時、発射のスイッチが入れられた。
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至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。
ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。
基本ゆったり進行で話が進みます。
四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
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ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
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転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
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ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
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ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
【R18】異世界魔剣士のハーレム冒険譚~病弱青年は転生し、極上の冒険と性活を目指す~
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病弱ひ弱な青年「青峰レオ」は、その悲惨な人生を女神に同情され、異世界に転生することに。
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※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・思想・名称などとは一切関係ありません。
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1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
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23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
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トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
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男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
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