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そしてこうなる

オリバーside3

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「遠征任務を終えて疲れているところだったでしょうに、ごめんなさいね」

 護衛任務を命じられた翌日、初顔合わせでかけられたのは労わりの言葉だった。
 真綿のように優しく耳触りの良い声で、長い睫毛に縁どられた瞳を柔らかに細める表情はまるで天使の微笑みのように眩しく映る。

「いえ。これが仕事ですから、お気遣いは無用です」
「護衛にはクリス第一部隊長をという声もあったのだけれど、お忙しい方でしょうから……あなたを推薦していただいたの」
「そうでしたか」
「でも、オリバーで良かったわ」

 はにかむように笑んだセシリア王女はこの世の至高だった。思わず「うっ」と心臓をわし掴みそうになる。
 この時ばかりは、メリッサが神と崇めるダレル隊長を拝みたくなる気持ちがわかった。後光が差しているのでは? という御姿があまりに輝いていて、致命傷を負った心臓が痛い。

 王女のふわりとなびく薄桃色の細く柔らかそうな髪と大きく宝石のような赤い瞳、儚くも鈴を転がしたような可愛らしい声は、まさにオリバーの思い描く女性像そのものともいえた。
 それだけでなく、恥ずかしいのかうっすらと頬を染めながらも、丁寧に接しようとしてくださる姿勢は可愛らしい以外の何物でもない。
 普段は女性騎士が護衛に当たっていると聞いているので、オリバーのようないかつい男性騎士は慣れていないのだろう。これぞ純真無垢。理想の塊万歳。共にいると、あまりの可愛らしさに自然と顔もほころぶ。

 なのに、至高であるセシリア王女を前にしているというのに、オリバーの頭の中はその理想を押しのけて、ダレル隊長とともにいるだろうメリッサでいっぱいだった。

 馬鹿丸出しなのは重々承知だが、今この瞬間にもまさか……っ、と気が気じゃない。
 ──だって酒の勢いでこの俺とヤッてしまうような奴だぞ?! と。
 強く凛々しく、実は団内では憧れの女騎士とも言われているが、オリバーから見たメリッサはなかなかにぶっ飛んだ奴だ。だからこそこんな自分とも友として付き合ってくれているのだと思っている。

 とにかく、セシリア王女を前にして『容姿と仕草が可愛らしすぎる』以外の感情が何一つ湧かず、その事実に気が付いたときの衝撃は凄まじかった。不遜ながら、つまりオリバーのオリバーがピクリとも反応しなかったわけだ。そのときばかりは、一人呆然と「嘘だろ……」と呟いた。

 その動揺治まらぬまま、王女の護衛に任命されてから二週間会えなかったメリッサに再会する。
 
「オ、オ、オリバああぁー!」

 重量級魔獣の体当たりもかくやの勢いで突撃されて、渾身の力でしがみつかれた。流石のオリバーも押し倒されるかと思ったが、他騎士の目があるかもしれない宿舎の廊下で、失態はおかせないというプライドでなんとか受け止める。突然訪れた再会で驚いた頭の処理が追いつく前に──

「この……っ、元気だったか!?」

 ニッコォーッ! と弾けんばかりの満面の笑みが胸元から現れた瞬間、オリバーは心臓がギュンッと跳ねて胸を突き破り飛んで行ったのかと思った。触れ合う身体に体温は上がり、不整脈かのように乱れそうな呼吸とめまいでまともにメリッサを見ることができない。
 それでもなんとか心を落ち着けて言葉を交わすが、意識は完全にメリッサがギュウギュウと押し付けてくる胸の柔らかな膨らみに向いてしまうし、実際視線が何度も見上げてくる顔と胸を往復した。

 つまりムラムラが止まらない。
 心臓がバクバクする。
 任務で死ぬかもしれないときだってもっと冷静でいられるというのに。
 セシリア王女と並んでいてもこんな酷い反応は起きなかったというのに。
 これはもう、認めるしかないかもしれない……。と、オリバーが遠い目をしかけたときだった。

 メリッサが、元彼であるバージルと再会したのは。
 その男は思っていた以上にクソ野郎だったし、初対面ながらオリバーとは欠片たりともそりが合わないだろうと本能が理解した。現に奴の態度はメリッサを下に見ているようだったし、完全に過去のことと割り切っているようには見えなかった。クリス隊長の言うクソ野郎成分をグッツグツに死ぬほど煮詰めて高濃度で抽出したかのような胸糞悪さだ。
 なのに当事者たるメリッサがあまりにのほほんと、未練がないなどと言うものだから怒りのような思いが湧いた。

 メリッサに未練がなかろうとも、相手はそう見えなかったし、ただでさえダレル隊長という存在にオリバーの精神面はボロボロに乱されたというのに、クソみたいな元彼まで出てきた。

 加えてこの時のオリバーは約二週間に渡ってメリッサと致していなかった。欲求不満最高潮だった。性欲と怒りに支配された頭の思考はパーン! と弾け、危うい思考に辿り着く。

 ──よし、抱き潰そう。他に目移りしないくらい抱き潰してやろう。

「さっきムラムラしていると言っていただろう。俺の部屋の方が近いぞ」
「さすがだなオリバー。ああ、私は今とてもムラムラしている!」

 オリバーがこんな馬鹿な考えに至ったとは露知らず、メリッサこそ馬鹿みたいに目を輝かせて言い放った。後から思い返して、オリバーはこのとき廊下に人がいなくて心底良かったと心から安堵したものだ。

 そして、思う存分抱き潰した。


「……はぁっ、あ、え、待っ……オリバー、今いったとこ、だか、らあああっ!」

 力の入っていない制止など容易く払いのけ、引き締まった腰を掴んで再度奥まで自身で深く突いたら、敏感になっていたメリッサの身体は大きく背を反らした。向かい合っていたおかげで、胸の上でふるんと揺れる膨らみの動きも良く見える。オリバーにとっては絶景だった。
 ピンと尖り天を向く先端を摘まんで指の腹で擦れば悲鳴のような甲高い声が上がり、同時にメリッサの中は大きくうねってオリバーのものを更にギュウッと強く咥え込む。痙攣するように肉壁が震えた。

「締め過ぎ……っ」
「だっ、て……」
「またイッたのか? 上を弄っただけなのに」
「ハッキリ言うなぁっ! オ、オ、オリバーがいつも胸ばっかり弄るからだろっ!」
「──……っ!」

 真っ赤な顔と泣き出しそうな目で抗議してくる姿と、恥を忍んだように抗議してくる台詞と、相性抜群の身体から与えられる快感にオリバー自身も達してしまいそうだったのを寸でで堪える。

 今のが無自覚だから困る。
 思わず天を仰いだ。
 俺がこの胸を育てました。

「だから、そういうことを言うな!」
「どういうことだ!」

 冷静沈着で女ながら第二部隊の副隊長を務めるような、凛々しい女騎士なのに夜はこんなに可愛い。セシリア王女にはピクリとも反応しなかったオリバーの性欲が、底なしに湧いてくる。自分でも慄いてしまいそうなくらい下半身が元気いっぱいですごい。
 そしてやはり、見せたくないな、と思うのだ。自分はこんなに独占欲のある男だったのかと、オリバー自身が思うほどに、普段とのギャップ激しく喘いでよがるメリッサを誰の目にも触れさせたくない気持ちは関係を重ねるほど強くなっている。

 埋まっていたものをズルリと引き抜いて、くるりとメリッサを右向きにすると、左膝の下に腕を入れて左足を持ち上げた。この間「ひあっ、え、なに!? うわあっ」なんて狼狽えるメリッサに構わず、萎えることなくガチガチに勃ち上がったままのものを突き入れる。

「んっふあぁっ! あっあっ! やっ、これ、やぁっだあ……! っ、あぁ!」

 今まで当たらなかった部分をゴリッと抉るように穿てば、驚きと強すぎる刺激からかメリッサが目を見開いた。オリバーが腰を打ち付けるたびに、半開きの口からは「いや」と懇願するような嬌声が飛び出す。
 いやと言いつつ、声は完全に感じている。正直言ってとんでもなく興奮した。
 こんな乱れたメリッサを見ることが出来るのは自分だけだという思いと、膨らむ独占欲に気持ちが昂る。

 けれど、そうなればなるほど、あの腹立たしい元彼の顔がチラついた。そのたび、こめかみにビシバシ青筋が浮かぶのが自分でもわかる。

 内心渦巻くふつふつとした感情を振り払うように、ひと際激しく責め立てれば、中でうねる膣壁が精気を絞り取るように絡みつき、一度は堪えた熱が一気に下半身へ集まった。

「──やばっ」
「あっ、あっ! ああっ! やっ! んっ、わ、たしもっ、また、イく……っ! ひい、あ、あああっ!」
「くっ、俺も……っ」

 感じすぎて悲鳴のようになってしまった喘ぎ声に煽られて、オリバーも果てる。あまりの快楽に全ての感覚が引きずられそうになり、肩で息をしながらなんとか意識を保った。
 相変わらず良すぎる。
 どの体位で致してもお互いに感度抜群で、もはや、他の誰かを抱いたとしても満足できるのか自信がないという由々しき事態だ。
 それでいて──

 一度達したものを引き抜いて、横を向くメリッサを仰向けに返す。すると現れたのは溺れたように息を乱して、普段涼やかな青い瞳に恍惚とした色を宿し、とろんと溶けきった顔だった。わずかに開いた口からチロチロとのぞく赤い舌が、余計にオリバーの情欲を煽る。つい、ゴクリと喉が鳴った。

 それでいて──この顔だ。
 酒の勢いだったとはいえ、男女の交わりに快感を見出して以降、メリッサは回を重ねるごとにそれを素直に顔に出してくるようになった。オリバーが触れて追い立てれば追い立てるほど与えられる刺激を喜んで受け入れ、可愛く尚もねだってくる。他に見せてたまるかとなっても仕方ないだろうと思う。

 となれば、当然のようにオリバーの下半身はみるみる復活した。

 腰を掴んで引き寄せ、遠慮なく押し入ると一心不乱に腰を振る。都度、よがり狂ったような嬌声が耳から脳に突き刺さり思考を麻痺させる。
 煩わしい思考を振り払うように、オリバーはその夜がむしゃらにメリッサを抱いた。



「またこれか!」

 パァンッ!
 つらつらとした回想がいつの間にか先日のやりすぎた夜にまで及んだところで、自らの右頬を思いっきり叩く。おかげで、ウズウズし始めたオリバーの下半身は多少落ち着きを取り戻してくれたようだ。

 ──まあ、やりすぎた感は否めないな。

 最後はあまりに興奮してしまい、我を失ってしまったともいえる。思い出しただけでこうやって煩悩が溢れだすくらいだ。
 まあ、ことが終わってからさすがにやりすぎたと焦ったのだが、横のメリッサが瞳を爛々とさせて興奮冷めやらぬ様子だったので問題はなかったのだろう。それどころか満足度は同じく高かったに違いない。
 そうか、ある程度激しくしても問題ないんだな。考えてみればお互い鍛えた騎士同士なんだから体力的にはもっと……はっ!

 パァンッ!
 止まらない煩悩を今度は両頬を叩いて吹き飛ばす。

 ──本当に、どこもかしこもおかしい。特に性欲面が。主に性欲面が。

 メリッサと酔った勢いでヤッてから思春期の少年も真っ青の性欲だ。とはいえ、今は──と、頬に両手を添えた状態のまま周囲を見回す。
 そこにはポカンと口をおっ広げてオリバーを見つめる第二部隊の面々がいた。

 クソ野郎ことバージルの、唾を吐き捨てたくなるような挑発を受けて、オリバーはメリッサに会いに訓練場へやって来たのだ。聞きたいことと言いたいことなら、それこそ山のようにある。積み上がりすぎて崩れ落ちてしまいそうなほどに。
 だが、どれだけ見回しても目当ての人物はいなかった。
 苛立ちを隠して近くの騎士に声をかける。

「メリッサ副隊長はどうした?」

 そして聞かれされた話に──

「……あ?」

 先日の第二飲み会エピソードを聞いた時よりも更にワントーン低い、渾身のドスの効いた声を出してしまった。
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