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第一章 美琴
5曲目 秘密
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次の日、美琴はいつものように早朝のバイト後に、登校した。いつもの教室で、いつも通りに授業を受ける。いつも通りの学生生活。
席の後ろのほうに座る灰島もいつもと同じだった。クラスで一番おとなしい生徒であり、幸の薄そうな雰囲気。目立った行動を取ることはなく、授業の合間の休憩時間はずっと読書をしている。
美琴は昨夜の琥珀の横顔を思い出した。なるほど、背格好も肌の色が白いのも、横顔の輪郭も重なる。
なぜ昨日まで気が付かなかったのだろう。
いや、気がつくはずがない! 人相も雰囲気も違いすぎる!
美琴は未だに昨日のことが夢だったのではないかと思っていた。
こんな事ってあるのだろうか、憧れていた歌手が実は女装したクラスメイトだったなんて。
自分はわざわざ金と時間を使って、リスクを背負ってまで琥珀に会いに行っていたのだ。教室で毎日あっているのに!
そもそも、なぜ高校生があんな所で、あんな姿で働いているんだ。
美琴は混乱しながらも、灰島の事で頭がいっぱいだった。しかし、そんな美琴に対し、灰島は何事もなかったかのようにいつも通りだった。移動教室や休憩時間の移動で何度か近くを通るが、美琴の方を気にする仕草も見せない。このまま知らない顔をするつもりなのだろうか。
昨日のことが何もなかったかかったかのように。
放課後、美琴は下駄箱前で灰島を呼び止めた。美琴が話がしたいと伝えると、相変わらずの無表情で頷き、特に抵抗するでもなく大人しくついてきた。
ほんの3週間ほど前に二人で掃除した多目的ルームに入ると、元の埃っぽい部屋に戻っていた。とりあえず入ったが、ここなら誰にも話を聞かれることはないだろう。
「あのさ、昨日のその店での事なんだけど。やっぱり、灰島って琥珀?」
「琥珀は源氏名……」
灰島の表情は相変わらず読めない。上ずったような男子にしては高めでガラガラ声だ。
「声だって、違いすぎるし! あ゛ーーー」
余計混乱してきた。灰島は一体何者なんだろう。
「あの、黙っててもらえませんか?」
「え?」
「俺が、夜にお酒を出す店で働いている事。学校にバレると問題になると思うし、店に迷惑かけたくないし」
灰島は静かに言った。
黙ってろも何も、誰かに言ったところで、誰も信じないだろうと美琴は思った。
「俺も大国さんが、歳誤魔化してバーで飲んでたことは誰にも言わないんで」
「是非そうしてくださいっ」
美琴は慌てて答えた。どちらかというとそっちの方が大事になるような気がした。
「じゃあ、お互いに何も見なかったってことで。それじゃ」
「あの、琥珀!」
美琴は慌てて、呼び止めた。
「あの、だからそれは源氏名で……」
「いつから、働いているのかな? あの店で」
「……高校一年の時から。店のオーナーは母親の幼馴染で元々親しかったし、それがきっかけで」
「あの……なんていうか、女装姿は」
「あれは、仕事だから。化粧も制服みたいなものだし。俺、顔薄いけど、化粧映えする顔だって、姉さん達に言われて」
恐る恐る聞く美琴に対して灰島は、涼しい顔で答える。夜の仕事をする人達とっては女装も大した問題では無いのだろうか。美琴には異世界のことすぎて頭が追いつけないでいた。
「人前に出る以上、見た目がいい方が客にウケるだろうし、俺が素顔で歌っても誰も聞きたく無いと思う」
灰島は答えた。
美琴は灰島の口から歌という言葉を聞いて、ハッとした。
身元が知られてしまった以上、美琴がサンドリヨンにはもう行くことが出来ないが、琥珀がクラスメイトということは、わざわざ店に足を運ばなくてもいつでも会えるし、いつでも歌声を聞けるということではないか。もう二度と聞けないのではと思った琥珀の美声をまた聞けるのではと思うと美琴の心は高鳴った。
「そうだ、琥珀、うちのギター部に協力してくれないかな! これも何かの縁だし! 琥珀が歌ってくれたら、後輩達の意識も高まるよ」
「いや……いいです」
灰島は小さな声で即答した。急に美琴を警戒するような表情になった。
しかし、美琴は逃してたまるかという思いでいっぱいになっていた。非凡な歌手が目の前にいるのにこのまま何も無かったことには出来ない。
「琥珀の歌唱力だったら、もっと大勢の前で歌った方がいいって! 何も女装して歌ってくれって言ってるわけじゃないよ。そのままの姿だって、歌えば学校中の人気者になれるって! 私が保証する」
「……興味ないです」
そういうと、灰島は踵を返し、早足に帰ろうとする。
「あ、待って」
帰ろうとする灰島に対し、美琴は慌てて灰島の腕を掴んだ。
「うわっ」
美琴が灰島を引き留めようとすると、灰島はバランスを崩した。すると、後ろに倒れかかった灰島を美琴が後ろで抱き抱えるような体勢になった。
「ちょっと! ちょっと引っ張られたくらいで、ひっくり返らないでよ。あんたどんだけ体重軽いのさ、私が怪力みたいじゃない」
「……離してください」
灰島はかすかにだがムッとしたような表情になり、小さい声で返すと美琴の腕から逃れるように体勢を戻した。
「俺、金が必要だからバイトで歌ってるだけで、好きでやっているわけじゃないし」
「え」
灰島は伏目がちに言った。美琴は灰島の言葉に唖然とした。
ーーーーーーーー今なんて? 歌が好きじゃないって言った?
「他に取り柄がなかったから歌ってるだけ。他に金になることがあったら、そっちに行ってた」
美琴は灰島の言葉が信じられなかった。
あれだけ人を惹きつける歌唱力を持っていながら、歌が好きではないと?
灰島はあくまで、お金儲けのために歌っていたというのか? たまたま歌が得意だったという理由で初めて、数年であれだけの歌唱力が身についたというのか?
「大国さんの曲を勝手に歌ったのは、悪かったと思うけど、もう二度と歌わない。もうこの件に関わるのやめてもらえますか? あと数ヶ月の学校生活を平穏に過ごしたいので」
灰島が帰ろうとする。
すると、美琴は灰島のカバンをガッチリと掴んだ。
「じゃ、じゃあさ、私の作曲活動を手伝ってくれるってのはどうかな。時間が空いている時でいいから。創作中の曲を試しに歌ってもらったり、感想もらえるだけでいいから」
「は?」
「次の夏休みまででいい。その代わり、私のオリジナル曲はどこでもいつでも好きに歌ってもらっていいし」
「いや、いいです。二度と歌わないって店のママにも約束したし」
灰島はカバンを引き、取り返そうとするが、美琴がガッチリ掴んでいるので、灰島の力では取り返せない。美琴はもはや意地になっていて、思わず叫んだ。
「もちろん、お礼もするし、あ、協力してくれてたら、お昼奢るよ」
「お昼……」
カバンを取り戻そうと引っ張っていた灰島の力が緩んだ。
「私、コンビニで毎朝バイトしててさ。ほんとはいけないんだけど、期限が過ぎて店頭に置けなくなった弁当とかパンを店長からこっそり譲ってもらってるんだよね。協力してくれたら、灰島のももらってきてあげようかなと」
昼を奢るというのはとっさに口をついて出てきた言葉だったが、灰島は興味を示しているのか、美琴の提案に耳を傾けているようだ。
「あ、期限切れって言っても。そんなに古いものじゃなくって、時間過ぎとか1日くらいの……」
「昼休みの時間だけでよかったら」
灰島は美琴の方を向くと、小さく答えた。目は節目がちだが、美琴に言っているようだった。つまりそれは、OKということだろうか。
「あ、うん! じゃあ、昼休みに。明日の昼に旧校舎の、第2音楽室にいるから」
灰島はカバンを握り直すと、静かに多目的ルームから出ていき、美琴を背に帰っていった。
次の日、美琴は及川に部活に集中したいからと、しばらく昼食を部室で一人で食べると伝えた。
音楽室の使用許可が下りるかだけ心配だったが、顧問に頼み込んだらOKをもらえた。そもそも第二音楽室は半ばギター部の部室のようなものになっていた。放課後は合唱部と取り合いになることもあったが、それ以外の時間は美琴が(名目上は部活動として)自主練習に使わせてもらっていることが多かったので、今更というような反応だったし、あっさり使用許可を貰えた。
昼休みになり、早速美琴はギターを背負い第2音楽室に行くと灰島も来てくれていた。相変わらずの無表情だが、律儀なやつなのかもしれないと美琴は思った。
「あ、来てくれてありがとう。これ、書きかけの曲の歌詞と楽譜なんだけど、灰島って楽譜読めるかな」
「少しなら」
楽譜を手渡すと灰島は受け取り、目を通す。
いきがかり上、灰島に作曲を手伝ってもらうことになったが、美琴はそれまで書きかけの曲を他人に見せたことがなかった。美琴の手作りの楽譜に目を通している灰島の横顔を見て、変に緊張している自分に気がついた。
灰島は楽譜を見たまま、美琴に言った。
「とりあえず出来ているところだけ音聞きたいんだけど」
美琴は音楽室のグランドピアノを開くと簡単に弾いてみせた。
「わかった」
何がわかったんだろうと美琴は思ったが、灰島は唐突にアカペラで歌い出した。
最初だから遠慮しているのか、声量は抑えられていたが、音が綺麗に響く。サンドリヨンで聞いた琥珀の声に間違いなかった。初見とは思えないほど落ち着いた様子で歌ってみせるので、美琴はあっけに取られてしまう。
「す……すごい。本物だ」
感動して、思わず聞き入ってしまった。惹きつけられるというより、精神を引きずり込まれる感覚を感じた。
本物だ。
今更だが、プロの歌声を独占していることに優越感を感じる。そして、やはり琥珀の歌声で聞くと、美琴がイメージしていた曲とは全く違った曲に聞こえた。
「ねえ、サビのところなんでああいうアレンジにしたの?」
「え、アレンジ? 音違ってた? 俺、そんなに音感いい訳じゃないから……ごめん」
「いや、責めている訳じゃなくって、琥珀のアレンジの方が良かった! もう一回歌ってくれる? 音はわかるんだけど、琥珀の声でもう一回聴いてみたい」
そういうと、灰島は素直にもう一度歌ってくれた。男子とは思えないくらい透明感のある高音、声量は抑えて歌われているが、音に輝きがあり、綺麗に伸びる。凡人のものとは違う、本物の歌声だ。
実際、灰島は作曲の協力者としても、優秀なようだった。本人は音感があまり良くないとは言っているが、飲み込みは悪くないようで、美琴がリクエストに対し、素直に歌ってみせてくれた。何より、綺麗な声を聞いているだけで、曲のイメージがどんどん膨らみ、美琴のモチベーションも爆上がりだった。
美琴は思わず、灰島の両肩を掴んでいた。
「琥珀! やっぱり、うちのギター部入ろう!」
「だから、琥珀は源氏名……それに昨日も言ったけど」
「う、そっか」
無理に誘って、協力してもらえなくなったら、困る。美琴は今のところはすぐに引き下がることにした。時間をかけて説得することにしよう。
「じゃあ、次はーーーー」
「あの、昼休み終わっちゃうけど」
美琴は時計を見た。昼休憩終了の15分前だった。なんで休憩時間がこんなに短いのかと、時計を恨んだ。
「そっか、食べる時間なくなっちゃうよね。今日はここまででいいや。ありがとう」
美琴は持ってきていたコンビニ弁当を灰島に渡した。オーソドックスな唐揚げ弁当を持ってきていた。
「ほんとはこの部屋飲食ダメなんだけど、時間ないし、こっそり食べちゃって」
「どうも」
灰島は弁当を受け取ると静かに音楽室の隅に行き、腰をかけると食べ始めた。なぜわざわざ離れたところに座るのだろうと気になったが、そのことには触れないことにした。そんなことよりも灰島の美声の余韻が残っている美琴は灰島に色々話を聞きたくてしょうがなかった。
美琴は自分用に用意していたおにぎりをそっちのけで。灰島に話しかけた。
「あの、歌はどうやって? どんなふうに技術を磨いたのかな」
「店の、樹さんていう先輩からずっとレッスン受けてて」
「樹さんって、あの超絶歌上手いお姉さんでしょ? すっごい美人の」
「あの人、もともとプロのミュージカル女優だった人だから。今でもたまに他のステージにも上がってるみたいだし」
というと灰島は樹が過去に所属していたという有名劇団の名前を言った。それほどミュージカルには詳しくない美琴でも、知っている劇団だった。やはり只者ではなかったようだ。
「まじで!? めちゃくちゃすごい人じゃん!」
「うん……」
灰島は弁当を口に運びながらも質問に対して返答を返す。美琴は灰島にまだまだ聞いてみたいことがたくさんあったが、あまり一度に話しかけると灰島の食事の邪魔になるだろうとぐっと抑えた。
それにしても、灰島は部活に入るつもりがないのに、なぜ作曲に協力してくれる気になったのだろうか?
「あの……明日も、その次の日もしばらく協力してくれるってことでいいんだよね? 好きな食べ物とか嫌いな物とかあれば言ってよ」
「うん、大丈夫好き嫌いないし。……ありがとう」
唐揚げを頬張りながら、小さく答えた。
そういえば、灰島はいつもどこで昼をどこで食べていたのだろうか。おうちの人の弁当を食べてたとしたら、家の人にも不審に思われないだろうか。
「あの琥珀……灰島はいつもは、昼どうしていたの?」
「……一食くらい食べなくても大丈夫かなって」
「え! いつも昼抜いてたの? お腹空くじゃん!」
もしかして、昼にありつけると思って、美琴に協力する気になったのだろうか。美琴は灰島の襟の擦り切れた制服のシャツや所々敗れかけた靴を見た。
そんなに金に困っているのだろうか、夜のバイトをしているし時給良さそうだが。親が借金抱えてるとかなのだろうか。
すると昼休憩終わりの予鈴が鳴った。
「うわっヤバっ。もう時間じゃん」
「じゃあ、ごちそうさま」
美琴が慌てておにぎりに齧り付くと、灰島はもう食べ終わっていたようで、教室に一人で帰っていった。
次の日もその次の日も、灰島は毎日協力してくれた。
美琴が書いた歌詞を灰島に歌ってもらい、歌いにくいところがないかなどを意見を聞いて、直す。それの繰り返しだった。灰島にとっては面白い作業でもなんでもないだろうが、嫌がる素振りも見せず、素直に協力してくれた。
無意識にやっているのだろうか、それとも店で歌っているうちに身についた物なのだろうか、同じフレーズでも灰島が同じ歌い方をする事は一度もなかった。その日その日で毎日声の雰囲気や歌い方が微妙に違うように感じた。いつ聞いても灰島の歌声には惹きつけられ、飽きさせられない。灰島の働く店に常連多かったのも頷ける。
美琴はギターをケースにしまうと、食事にしようと灰島に声をかけた。いつものように美琴は灰島に、礼のコンビニ弁当を渡した。今日はボロネーゼとコーンサラダだ。
灰島は小さくお礼を言うと、いつものようにわざわざ離れたところに腰掛け静かに食事を口に運び始める。
歌っている時は悠々としているように見えるが、歌った後の灰島はやはり灰島だった。毎日顔を合わせていても、いつも話しかけるのは美琴からだった。そしてクラスメイトにもかかわらず、二人が顔を合わせるのは昼休みの音楽室のみで教室で会話することはなかった。
「そうだ、灰島のラインまだ聞いてなかったよね。教えてよ」
「自分の携帯持ってないから」
灰島は言いにくそうに答えた。
「え! 今時!? 大丈夫なのそれ? 学校の連絡とか、友達と連絡取り合う時とかどうしてんの?」
「別に、そんなに困ってないけど」
灰島は無表情で答えた。
家庭の事情で持たせてもらえないのだろうか。それとも金銭的な問題で? どちらにしても、友人がほとんど居なそうな、灰島にはこの話題は触れない方がいいだろうと美琴は思った。
気まずくなった空気をなんとかしなければと美琴は頭を巡らせた。
「灰島ってさ、普段はどんな曲聴くの?」
沈黙に破るように話題を帰ると、美琴は焼きそばパンの袋を破り、頬張った。
「仕事でリクエストがある曲を覚えたり」
そっけないが、話しかけると一応灰島から返事は返ってくる。
「好きな音楽のジャンルとか」
「自分からはあまり……」
そのまままた沈黙する。会話が終わってしまった。
いつものパターンだ。もう少し、会話に協力的でも良いと思うが。
「じゃあさ、好きな歌手は?」
「……特に……」
音楽の才能は認めているし、美琴の作曲に協力的なのにも感謝はしていたが、やはりコミュニケーション力は皆無のようだ。なぜ、ここまで気を遣わなければいけないのだろう、だからいつもクラスで浮いているんだと文句を言いたいのを、美琴はグッと堪える。
「あ、大国さんは? 好きな音楽……?」
小さな声で灰島が言った。流石に少しは話したほうがいいと思ったのだろうか。それにしても、もう少し興味があるように話しかけてくれてもいいんじゃないだろうか。しかし、会話らしい言葉が灰島から返ってきただけでも一歩前進だろうと美琴は思った。
「私はジャンル関係なく、色々な音楽を聞くよ。クラシックでもポップスでも。最近は洋楽をよく聞くかな。あ、とくに弦楽器の音が好きでさ。気に入るアーティストがいると、わざわざ昔出してたCD集めたりしてる」
「作曲、わざわざ俺に頼まなくても、彼氏に頼んだら?」
「は?」
質問しておいて、急に話題変えるのかよ。それに彼氏ってなんの話? 美琴は首を捻る。
「よく女子たちが騒いでる、1組の……八上? 仲良いんでしょ。俺と組むより、そっちと組むほうが、部活動も盛り上げられるんじゃない?」
「は? なんで八上が今出てくるわけ? 同中で前に組んで歌ってたけどさ、付き合ってるわけじゃないし」
「組んでたのに、高校でも一緒やろうと思わなかったの?」
「それは……私、電気楽器の音より、生の弦楽器の音が好きだし。自分の音楽をやりたかったし」
灰島から八上の話題が出るのも意外だったが、なぜ急にそんなことを話題に出したのだろうか。美琴への協力を降りたいと言うことだろうか。
「弦楽器って、ピアノとか、ギターとか? 電気楽器とそんなに音違うかな」
「違うよ。音の伸び方とか。それにフォークソング部の活動場所が音楽室ってのもポイント高かった。生のグランドピアノ弾き放題だしさ。あと、フォークソングの魅力はやっぱり弾き語りかな。私、人の声が好きなんだよね。軽音楽みたいに各パートでのチームプレイって感じより、人の声の魅力を引きたたせる音楽が好きでさ。最近特に好きなのはソウルシンガーのアルデとか、ハンガリー出身のテノール歌手とか」
「夜の店で働くクラスメイトの歌とか?」
「え……」
美琴は思わず灰島を凝視した。いつも伏目がちの灰島の顔が珍しくこちらを向いている。しかし、灰島はいつもの無表情であり、感情が読めない。
「え、それは」
「サンドリヨンに何度か来てたよね。飲食代だってかかるのに。大国さんって変わってるよね」
ちょうど昼休憩の予鈴がなった。灰島はいつの間に食べ終わっていたようだった。弁当殻を手に静かに立ち上がると音楽室を出ていった。
席の後ろのほうに座る灰島もいつもと同じだった。クラスで一番おとなしい生徒であり、幸の薄そうな雰囲気。目立った行動を取ることはなく、授業の合間の休憩時間はずっと読書をしている。
美琴は昨夜の琥珀の横顔を思い出した。なるほど、背格好も肌の色が白いのも、横顔の輪郭も重なる。
なぜ昨日まで気が付かなかったのだろう。
いや、気がつくはずがない! 人相も雰囲気も違いすぎる!
美琴は未だに昨日のことが夢だったのではないかと思っていた。
こんな事ってあるのだろうか、憧れていた歌手が実は女装したクラスメイトだったなんて。
自分はわざわざ金と時間を使って、リスクを背負ってまで琥珀に会いに行っていたのだ。教室で毎日あっているのに!
そもそも、なぜ高校生があんな所で、あんな姿で働いているんだ。
美琴は混乱しながらも、灰島の事で頭がいっぱいだった。しかし、そんな美琴に対し、灰島は何事もなかったかのようにいつも通りだった。移動教室や休憩時間の移動で何度か近くを通るが、美琴の方を気にする仕草も見せない。このまま知らない顔をするつもりなのだろうか。
昨日のことが何もなかったかかったかのように。
放課後、美琴は下駄箱前で灰島を呼び止めた。美琴が話がしたいと伝えると、相変わらずの無表情で頷き、特に抵抗するでもなく大人しくついてきた。
ほんの3週間ほど前に二人で掃除した多目的ルームに入ると、元の埃っぽい部屋に戻っていた。とりあえず入ったが、ここなら誰にも話を聞かれることはないだろう。
「あのさ、昨日のその店での事なんだけど。やっぱり、灰島って琥珀?」
「琥珀は源氏名……」
灰島の表情は相変わらず読めない。上ずったような男子にしては高めでガラガラ声だ。
「声だって、違いすぎるし! あ゛ーーー」
余計混乱してきた。灰島は一体何者なんだろう。
「あの、黙っててもらえませんか?」
「え?」
「俺が、夜にお酒を出す店で働いている事。学校にバレると問題になると思うし、店に迷惑かけたくないし」
灰島は静かに言った。
黙ってろも何も、誰かに言ったところで、誰も信じないだろうと美琴は思った。
「俺も大国さんが、歳誤魔化してバーで飲んでたことは誰にも言わないんで」
「是非そうしてくださいっ」
美琴は慌てて答えた。どちらかというとそっちの方が大事になるような気がした。
「じゃあ、お互いに何も見なかったってことで。それじゃ」
「あの、琥珀!」
美琴は慌てて、呼び止めた。
「あの、だからそれは源氏名で……」
「いつから、働いているのかな? あの店で」
「……高校一年の時から。店のオーナーは母親の幼馴染で元々親しかったし、それがきっかけで」
「あの……なんていうか、女装姿は」
「あれは、仕事だから。化粧も制服みたいなものだし。俺、顔薄いけど、化粧映えする顔だって、姉さん達に言われて」
恐る恐る聞く美琴に対して灰島は、涼しい顔で答える。夜の仕事をする人達とっては女装も大した問題では無いのだろうか。美琴には異世界のことすぎて頭が追いつけないでいた。
「人前に出る以上、見た目がいい方が客にウケるだろうし、俺が素顔で歌っても誰も聞きたく無いと思う」
灰島は答えた。
美琴は灰島の口から歌という言葉を聞いて、ハッとした。
身元が知られてしまった以上、美琴がサンドリヨンにはもう行くことが出来ないが、琥珀がクラスメイトということは、わざわざ店に足を運ばなくてもいつでも会えるし、いつでも歌声を聞けるということではないか。もう二度と聞けないのではと思った琥珀の美声をまた聞けるのではと思うと美琴の心は高鳴った。
「そうだ、琥珀、うちのギター部に協力してくれないかな! これも何かの縁だし! 琥珀が歌ってくれたら、後輩達の意識も高まるよ」
「いや……いいです」
灰島は小さな声で即答した。急に美琴を警戒するような表情になった。
しかし、美琴は逃してたまるかという思いでいっぱいになっていた。非凡な歌手が目の前にいるのにこのまま何も無かったことには出来ない。
「琥珀の歌唱力だったら、もっと大勢の前で歌った方がいいって! 何も女装して歌ってくれって言ってるわけじゃないよ。そのままの姿だって、歌えば学校中の人気者になれるって! 私が保証する」
「……興味ないです」
そういうと、灰島は踵を返し、早足に帰ろうとする。
「あ、待って」
帰ろうとする灰島に対し、美琴は慌てて灰島の腕を掴んだ。
「うわっ」
美琴が灰島を引き留めようとすると、灰島はバランスを崩した。すると、後ろに倒れかかった灰島を美琴が後ろで抱き抱えるような体勢になった。
「ちょっと! ちょっと引っ張られたくらいで、ひっくり返らないでよ。あんたどんだけ体重軽いのさ、私が怪力みたいじゃない」
「……離してください」
灰島はかすかにだがムッとしたような表情になり、小さい声で返すと美琴の腕から逃れるように体勢を戻した。
「俺、金が必要だからバイトで歌ってるだけで、好きでやっているわけじゃないし」
「え」
灰島は伏目がちに言った。美琴は灰島の言葉に唖然とした。
ーーーーーーーー今なんて? 歌が好きじゃないって言った?
「他に取り柄がなかったから歌ってるだけ。他に金になることがあったら、そっちに行ってた」
美琴は灰島の言葉が信じられなかった。
あれだけ人を惹きつける歌唱力を持っていながら、歌が好きではないと?
灰島はあくまで、お金儲けのために歌っていたというのか? たまたま歌が得意だったという理由で初めて、数年であれだけの歌唱力が身についたというのか?
「大国さんの曲を勝手に歌ったのは、悪かったと思うけど、もう二度と歌わない。もうこの件に関わるのやめてもらえますか? あと数ヶ月の学校生活を平穏に過ごしたいので」
灰島が帰ろうとする。
すると、美琴は灰島のカバンをガッチリと掴んだ。
「じゃ、じゃあさ、私の作曲活動を手伝ってくれるってのはどうかな。時間が空いている時でいいから。創作中の曲を試しに歌ってもらったり、感想もらえるだけでいいから」
「は?」
「次の夏休みまででいい。その代わり、私のオリジナル曲はどこでもいつでも好きに歌ってもらっていいし」
「いや、いいです。二度と歌わないって店のママにも約束したし」
灰島はカバンを引き、取り返そうとするが、美琴がガッチリ掴んでいるので、灰島の力では取り返せない。美琴はもはや意地になっていて、思わず叫んだ。
「もちろん、お礼もするし、あ、協力してくれてたら、お昼奢るよ」
「お昼……」
カバンを取り戻そうと引っ張っていた灰島の力が緩んだ。
「私、コンビニで毎朝バイトしててさ。ほんとはいけないんだけど、期限が過ぎて店頭に置けなくなった弁当とかパンを店長からこっそり譲ってもらってるんだよね。協力してくれたら、灰島のももらってきてあげようかなと」
昼を奢るというのはとっさに口をついて出てきた言葉だったが、灰島は興味を示しているのか、美琴の提案に耳を傾けているようだ。
「あ、期限切れって言っても。そんなに古いものじゃなくって、時間過ぎとか1日くらいの……」
「昼休みの時間だけでよかったら」
灰島は美琴の方を向くと、小さく答えた。目は節目がちだが、美琴に言っているようだった。つまりそれは、OKということだろうか。
「あ、うん! じゃあ、昼休みに。明日の昼に旧校舎の、第2音楽室にいるから」
灰島はカバンを握り直すと、静かに多目的ルームから出ていき、美琴を背に帰っていった。
次の日、美琴は及川に部活に集中したいからと、しばらく昼食を部室で一人で食べると伝えた。
音楽室の使用許可が下りるかだけ心配だったが、顧問に頼み込んだらOKをもらえた。そもそも第二音楽室は半ばギター部の部室のようなものになっていた。放課後は合唱部と取り合いになることもあったが、それ以外の時間は美琴が(名目上は部活動として)自主練習に使わせてもらっていることが多かったので、今更というような反応だったし、あっさり使用許可を貰えた。
昼休みになり、早速美琴はギターを背負い第2音楽室に行くと灰島も来てくれていた。相変わらずの無表情だが、律儀なやつなのかもしれないと美琴は思った。
「あ、来てくれてありがとう。これ、書きかけの曲の歌詞と楽譜なんだけど、灰島って楽譜読めるかな」
「少しなら」
楽譜を手渡すと灰島は受け取り、目を通す。
いきがかり上、灰島に作曲を手伝ってもらうことになったが、美琴はそれまで書きかけの曲を他人に見せたことがなかった。美琴の手作りの楽譜に目を通している灰島の横顔を見て、変に緊張している自分に気がついた。
灰島は楽譜を見たまま、美琴に言った。
「とりあえず出来ているところだけ音聞きたいんだけど」
美琴は音楽室のグランドピアノを開くと簡単に弾いてみせた。
「わかった」
何がわかったんだろうと美琴は思ったが、灰島は唐突にアカペラで歌い出した。
最初だから遠慮しているのか、声量は抑えられていたが、音が綺麗に響く。サンドリヨンで聞いた琥珀の声に間違いなかった。初見とは思えないほど落ち着いた様子で歌ってみせるので、美琴はあっけに取られてしまう。
「す……すごい。本物だ」
感動して、思わず聞き入ってしまった。惹きつけられるというより、精神を引きずり込まれる感覚を感じた。
本物だ。
今更だが、プロの歌声を独占していることに優越感を感じる。そして、やはり琥珀の歌声で聞くと、美琴がイメージしていた曲とは全く違った曲に聞こえた。
「ねえ、サビのところなんでああいうアレンジにしたの?」
「え、アレンジ? 音違ってた? 俺、そんなに音感いい訳じゃないから……ごめん」
「いや、責めている訳じゃなくって、琥珀のアレンジの方が良かった! もう一回歌ってくれる? 音はわかるんだけど、琥珀の声でもう一回聴いてみたい」
そういうと、灰島は素直にもう一度歌ってくれた。男子とは思えないくらい透明感のある高音、声量は抑えて歌われているが、音に輝きがあり、綺麗に伸びる。凡人のものとは違う、本物の歌声だ。
実際、灰島は作曲の協力者としても、優秀なようだった。本人は音感があまり良くないとは言っているが、飲み込みは悪くないようで、美琴がリクエストに対し、素直に歌ってみせてくれた。何より、綺麗な声を聞いているだけで、曲のイメージがどんどん膨らみ、美琴のモチベーションも爆上がりだった。
美琴は思わず、灰島の両肩を掴んでいた。
「琥珀! やっぱり、うちのギター部入ろう!」
「だから、琥珀は源氏名……それに昨日も言ったけど」
「う、そっか」
無理に誘って、協力してもらえなくなったら、困る。美琴は今のところはすぐに引き下がることにした。時間をかけて説得することにしよう。
「じゃあ、次はーーーー」
「あの、昼休み終わっちゃうけど」
美琴は時計を見た。昼休憩終了の15分前だった。なんで休憩時間がこんなに短いのかと、時計を恨んだ。
「そっか、食べる時間なくなっちゃうよね。今日はここまででいいや。ありがとう」
美琴は持ってきていたコンビニ弁当を灰島に渡した。オーソドックスな唐揚げ弁当を持ってきていた。
「ほんとはこの部屋飲食ダメなんだけど、時間ないし、こっそり食べちゃって」
「どうも」
灰島は弁当を受け取ると静かに音楽室の隅に行き、腰をかけると食べ始めた。なぜわざわざ離れたところに座るのだろうと気になったが、そのことには触れないことにした。そんなことよりも灰島の美声の余韻が残っている美琴は灰島に色々話を聞きたくてしょうがなかった。
美琴は自分用に用意していたおにぎりをそっちのけで。灰島に話しかけた。
「あの、歌はどうやって? どんなふうに技術を磨いたのかな」
「店の、樹さんていう先輩からずっとレッスン受けてて」
「樹さんって、あの超絶歌上手いお姉さんでしょ? すっごい美人の」
「あの人、もともとプロのミュージカル女優だった人だから。今でもたまに他のステージにも上がってるみたいだし」
というと灰島は樹が過去に所属していたという有名劇団の名前を言った。それほどミュージカルには詳しくない美琴でも、知っている劇団だった。やはり只者ではなかったようだ。
「まじで!? めちゃくちゃすごい人じゃん!」
「うん……」
灰島は弁当を口に運びながらも質問に対して返答を返す。美琴は灰島にまだまだ聞いてみたいことがたくさんあったが、あまり一度に話しかけると灰島の食事の邪魔になるだろうとぐっと抑えた。
それにしても、灰島は部活に入るつもりがないのに、なぜ作曲に協力してくれる気になったのだろうか?
「あの……明日も、その次の日もしばらく協力してくれるってことでいいんだよね? 好きな食べ物とか嫌いな物とかあれば言ってよ」
「うん、大丈夫好き嫌いないし。……ありがとう」
唐揚げを頬張りながら、小さく答えた。
そういえば、灰島はいつもどこで昼をどこで食べていたのだろうか。おうちの人の弁当を食べてたとしたら、家の人にも不審に思われないだろうか。
「あの琥珀……灰島はいつもは、昼どうしていたの?」
「……一食くらい食べなくても大丈夫かなって」
「え! いつも昼抜いてたの? お腹空くじゃん!」
もしかして、昼にありつけると思って、美琴に協力する気になったのだろうか。美琴は灰島の襟の擦り切れた制服のシャツや所々敗れかけた靴を見た。
そんなに金に困っているのだろうか、夜のバイトをしているし時給良さそうだが。親が借金抱えてるとかなのだろうか。
すると昼休憩終わりの予鈴が鳴った。
「うわっヤバっ。もう時間じゃん」
「じゃあ、ごちそうさま」
美琴が慌てておにぎりに齧り付くと、灰島はもう食べ終わっていたようで、教室に一人で帰っていった。
次の日もその次の日も、灰島は毎日協力してくれた。
美琴が書いた歌詞を灰島に歌ってもらい、歌いにくいところがないかなどを意見を聞いて、直す。それの繰り返しだった。灰島にとっては面白い作業でもなんでもないだろうが、嫌がる素振りも見せず、素直に協力してくれた。
無意識にやっているのだろうか、それとも店で歌っているうちに身についた物なのだろうか、同じフレーズでも灰島が同じ歌い方をする事は一度もなかった。その日その日で毎日声の雰囲気や歌い方が微妙に違うように感じた。いつ聞いても灰島の歌声には惹きつけられ、飽きさせられない。灰島の働く店に常連多かったのも頷ける。
美琴はギターをケースにしまうと、食事にしようと灰島に声をかけた。いつものように美琴は灰島に、礼のコンビニ弁当を渡した。今日はボロネーゼとコーンサラダだ。
灰島は小さくお礼を言うと、いつものようにわざわざ離れたところに腰掛け静かに食事を口に運び始める。
歌っている時は悠々としているように見えるが、歌った後の灰島はやはり灰島だった。毎日顔を合わせていても、いつも話しかけるのは美琴からだった。そしてクラスメイトにもかかわらず、二人が顔を合わせるのは昼休みの音楽室のみで教室で会話することはなかった。
「そうだ、灰島のラインまだ聞いてなかったよね。教えてよ」
「自分の携帯持ってないから」
灰島は言いにくそうに答えた。
「え! 今時!? 大丈夫なのそれ? 学校の連絡とか、友達と連絡取り合う時とかどうしてんの?」
「別に、そんなに困ってないけど」
灰島は無表情で答えた。
家庭の事情で持たせてもらえないのだろうか。それとも金銭的な問題で? どちらにしても、友人がほとんど居なそうな、灰島にはこの話題は触れない方がいいだろうと美琴は思った。
気まずくなった空気をなんとかしなければと美琴は頭を巡らせた。
「灰島ってさ、普段はどんな曲聴くの?」
沈黙に破るように話題を帰ると、美琴は焼きそばパンの袋を破り、頬張った。
「仕事でリクエストがある曲を覚えたり」
そっけないが、話しかけると一応灰島から返事は返ってくる。
「好きな音楽のジャンルとか」
「自分からはあまり……」
そのまままた沈黙する。会話が終わってしまった。
いつものパターンだ。もう少し、会話に協力的でも良いと思うが。
「じゃあさ、好きな歌手は?」
「……特に……」
音楽の才能は認めているし、美琴の作曲に協力的なのにも感謝はしていたが、やはりコミュニケーション力は皆無のようだ。なぜ、ここまで気を遣わなければいけないのだろう、だからいつもクラスで浮いているんだと文句を言いたいのを、美琴はグッと堪える。
「あ、大国さんは? 好きな音楽……?」
小さな声で灰島が言った。流石に少しは話したほうがいいと思ったのだろうか。それにしても、もう少し興味があるように話しかけてくれてもいいんじゃないだろうか。しかし、会話らしい言葉が灰島から返ってきただけでも一歩前進だろうと美琴は思った。
「私はジャンル関係なく、色々な音楽を聞くよ。クラシックでもポップスでも。最近は洋楽をよく聞くかな。あ、とくに弦楽器の音が好きでさ。気に入るアーティストがいると、わざわざ昔出してたCD集めたりしてる」
「作曲、わざわざ俺に頼まなくても、彼氏に頼んだら?」
「は?」
質問しておいて、急に話題変えるのかよ。それに彼氏ってなんの話? 美琴は首を捻る。
「よく女子たちが騒いでる、1組の……八上? 仲良いんでしょ。俺と組むより、そっちと組むほうが、部活動も盛り上げられるんじゃない?」
「は? なんで八上が今出てくるわけ? 同中で前に組んで歌ってたけどさ、付き合ってるわけじゃないし」
「組んでたのに、高校でも一緒やろうと思わなかったの?」
「それは……私、電気楽器の音より、生の弦楽器の音が好きだし。自分の音楽をやりたかったし」
灰島から八上の話題が出るのも意外だったが、なぜ急にそんなことを話題に出したのだろうか。美琴への協力を降りたいと言うことだろうか。
「弦楽器って、ピアノとか、ギターとか? 電気楽器とそんなに音違うかな」
「違うよ。音の伸び方とか。それにフォークソング部の活動場所が音楽室ってのもポイント高かった。生のグランドピアノ弾き放題だしさ。あと、フォークソングの魅力はやっぱり弾き語りかな。私、人の声が好きなんだよね。軽音楽みたいに各パートでのチームプレイって感じより、人の声の魅力を引きたたせる音楽が好きでさ。最近特に好きなのはソウルシンガーのアルデとか、ハンガリー出身のテノール歌手とか」
「夜の店で働くクラスメイトの歌とか?」
「え……」
美琴は思わず灰島を凝視した。いつも伏目がちの灰島の顔が珍しくこちらを向いている。しかし、灰島はいつもの無表情であり、感情が読めない。
「え、それは」
「サンドリヨンに何度か来てたよね。飲食代だってかかるのに。大国さんって変わってるよね」
ちょうど昼休憩の予鈴がなった。灰島はいつの間に食べ終わっていたようだった。弁当殻を手に静かに立ち上がると音楽室を出ていった。
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