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潜入!? 無理無理!!
しおりを挟む西暦2000年。
人類を支配すると突如、人外の力を持った怪人が表れて数年で、この世界は、怪人に蹂躙され、支配されていた。
人々は怯え、希望を失い、絶望していた。
ある者は積み上げた社会的地位を。ある子供は大切だった宝物を。ある青年は大事な家族、友人、恋人まですべて奪われてしまった。
「こんな、世界……絶対に間違っている……!!」
そんな世界に現れたのが、英雄【ヒーロー】たちである。
彼、彼女らは、人の自由と平和のために戦う戦士達だ。
ある者は、規格外の怪力で怪人を蹂躙するを。ある子供は、一瞬で凍結させて、道を作る絶対零度を。ある青年は、自然を操り、果実を生成し、人々を守る力を。
人々はそれを【ヒーローの力】と呼び、怪人とヒーローの戦いが始まった。
そして…………100年の月日が流れ、形勢はある程度まで逆転した。
普通の生活を取り戻した人々は、ヒーローに戦いを任せ、感謝しつつも今の平和を満喫していた。
そんな世界で、グールと呼ばれる元人間の怪人は、組織のボスにある命令を下される。
その裏で、とんでもないことが起ころうとしていることも知らずに……。
「ふわぁぁぁ~~~、めんどくせぇ」
俺の名前はグール。元人間の怪人だ。
ある日、遊園地で後ろから撲殺されて、怪人たちの手で生まれ変わった存在だ。
元の日常に戻りたいが、見た目が変わってしまい家族も俺のことを死んだと思って過ごしているだろう。
未練はないこともないが、俺にできることはない。
なぜなら……。
「おい! グール!! 早く来い!!」
「はい! すみません!!」
怪人のボスに呼び出されて、俺は急いで立ち上がり向かった。
「知っての通り、私たち怪人は人類を支配するために戦っている」
「…………」
足を組み、鋭い目つきで見下される。
怪人のボスだ。名前は知らない。
どたぷんとその豊満な胸と申し訳程度の布切れが、痴女らしい雰囲気を醸し出しているが名前は知らない。
ただ、俺はボスに拾われ、生まれ変わった。
怪人として……怪人、グールとして。
そんな彼女の実力は、怪人の俺をはるかに上回る。その実力は未知数で、俺は歯向かうことができない。
「だが、貴様の戦績はどうだ? 50戦0勝50敗北とは、どうして生きている?」
「…………」
どれだけ無様な姿を晒しても、俺は言い返せない。
怪人なら実力を示せ。
それは社会なら当たり前のことであり、ごく自然なことだ。
「このまま100敗するまで、見ておこうと思ったが、気が変わった。貴様の逃げ足と能を使って、ヒーロー達の支部に潜入しろ」
「…………は?」
「どこに潜入するか任せる。結果を残せ。残せなかったら……私がお前を殺す」
「りょ、了解です!!」
拒否権はない。
俺は必至に震える足で、出ていく。
こうして俺はスパイとして活動することになった。
とりあえず、情報収集が必要だ。どこに潜入し、どのような形にするか決めなくてはならない。
俺は町で出て、ネカフェへと足を向けるのであった…………。
いつも通りの無茶ぶり……いや、いつも以上の無茶ぶりか。
俺たち怪人が手を取り合って数年、連携することで生存率を高めているが、限界がある。
組織として形を作って、このボスがビルを支配しているが、普通の土地の権利を俺が買っただけだ。
怪人体で唯一人間と見た目が変わらない。それが俺の強みだ。
背中に翼をはやしたり、角が生えているボス達とは根本的な違いがある。
そして、この姿だからこそ、今まで逃げだすことにできた……まあ、それ以外にも特殊能力があるのだけど。
ボスもそのことを知って、潜入を提案しているのだろうが……。
「うわぁ……まじかぁ」
一番規模の少ない組織だけで、構成員は1000人近くいるじゃん。
ヒーローは3人だけど、それをサポートする人が多すぎる。
「こうなると、俺の催眠術は使えないか?」
俺の力は、催眠術。発動が早く、相手の意識を一瞬で持っていける最強の能力だ。
使うことさえできれば、相手を自分の言いなりにできる。
だが、欠点が多すぎる。
屋内でないと発動せず、1時間以上かけ続けないと能力を解除した瞬間に、正気に戻ってしまう。
更に、言いなりになった後も本人が嫌なことをすると瞬時に溶けてしまう。
攻撃したりすれば、問答無用で解けるし、女性にかけて犯そうとしても一瞬で解除される。
さらに、使えるのは一人だけ。別のやつをかければ最初の一人は解除されてしまう。
その間の記憶はあるし、命令で消すことなんてできない。
そんな能力でどうやって、潜入しろというんだよ。
無理だ。無理ゲーだ。マゾゲーじゃん。
でも、やらないと死ぬしなぁ……。
「覚悟、決めるか」
まずは、ターゲットを絞ろう。
催眠術さえ、かけてしまえばそいつを協力者にできるのは俺の最大の強みだ。
ヒーローの核となる人物。リーダーか。それとも司令塔か。
俺は何缶目になるかわからないドリンクの蓋を開けた。
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