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【過ぎ去りし、絶望】

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「っ?」

 赤刀の猿は満足そうな顔をするとその場から去り、奥へと進んでいく。
 銀二には、赤刀の猿が……妖怪がしゃべったように聞こえた。
(気のせいか……いや、それにしては……)
 あまりにも都合のいい言葉だった。
「行ったのか?」
「助かったんだよな……」
 現実を受け止めきれない退魔師たち。
 理由はどうであれ、銀二たちは見逃されたのだった。
「はぁはぁ……マジかよ」
「何人……生き残った?」
「あんなの災害じゃん……」
 生存者たちは身を寄せ合い、自身の安全に安堵の言葉を漏らす。  
「……千里」
「お、お兄ちゃん?」
 銀二は千里の傍に駆け寄る。
 ひどい外傷はあまりないが、荒々しく息をしている。
(こんな千里を見るのは初めてだ)
 一歩踏み出そうと足を前に出した。
 だが―――。
「―――っ!?」
 今まであったはずの足は無くなっている。
「あっ―――、がっ!」
 無様に転げた銀二はようやく自分自身が生と死の狭間にいる事に気付いた。
「桃華っ! 早くっ!!」
 千里が叫んだ。
 だが、頼りになるはずの桃華は気が動転し頭が回らない。
 それどころか―――。
「おいっ! なにやってんだよ!!」
「早く直せ! 俺は腕がなくなって―――!!」
「頼むよ!! まだ、間に合うはずなんだ! だから……!!」
 それぞれが赤刀の猿の一撃によって起きた悲劇を嘆いて、助けを求めている。
 本来であれば桃華の他に2人の回復を使えるものがいた。
 だが、その2人は一瞬にして命が途絶えている。
「あっ、えっと……あ、あぁ……」
 刻一刻と助けを求める声に17歳という年齢は選択をするという行為は重すぎる。
 例え、それが戦場に出る経験を積んでいたとしてもこれほどまでの声に桃華は精神的にきつすぎた。
「やめてくれ! 近づくな!!」
 父である勉は刀を抜いた。
「てめぇ……やろうっていうのか!!」
「そっちがその気なら、俺たちだって……!!」
 他の退魔師も刀を抜こうとしたその時。

「やめなさいっ!!」
「「「っ!!」」」
 この中で一番の実力者である千里が叫んだ。
 本来なら自分のために使うはずの術符を銀二に張り付けて両腕に抱えている。
 腕の中で虫の息の銀二は顔色が悪く、限界寸前だ。
「みんな、聞きなさい。仲間の死を悲しんでいる場合は無いわ。あの妖怪は私よりも強い……ここは、脱出するわよ」
 千里の言い分に誰もが戸惑い、怒りを覚えた。
 だが、この場では千里が一番の実力者である。吐きかけた言葉を飲み込み、大人しくしたがった。
 生きているというだけで儲けものだったという事実を誰もが受け止めきれていない。
(だけど……あんなのがいるなんて……)
 タワーの中でも黒色に近いものでなければ存在しない上位存在。
 大名として一度も苦戦したことがなかった千里にとって未知の出来事だった。

(でも、あの実力。まるでお父さんみたいな……)

 千里は何かをつかみかけていた。
 しかし、肉体的疲労もあり、頭が回らない。
「桃華、帰還の護符は使えるか?」
「あ、あ……人が、人が……」
「桃華……帰還の護符を使うんだ」
「は、はい……う、うぅ……」
 勉は娘の桃華に帰還の術符を使うように促した。 
 
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