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マコトの帰還

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 マコトが王国を出て、半年が立とうとした日。外には雪が降っていた。
 積もるほどではなく、毎年マコトが走り回る時期だなと執務に励んでいると気合を入れ直す。
 その時、扉が開かれた。
「帰った。ユキ、問題はあったか?」
「帰ったよ~」
「えっ」
 何もなかったかのようにマコトが現れた。横でリリームがマコトの腕にくっついているのが気になるがそれよりももっと気になることが――――。
「その前に質問があります。マコト、そのメスはどうしてマコトの腕を絡めとっているんですか? しかも、普段気ないドレスなんか着て」
「言葉の刃が痛いな~。私が彼の腕を絡めている理由? そんなの私が彼の物になったからだよ~」
「はっ?」
(えっ)
 嘘だ……信じたくない。だけど、顔をほめて照れるセレスは嘘を言っている気配がない。
 同じく衝撃を受けたユキが声を震わせながら聞いた。
「う、そですよね。マコト……そんなメスを嫁にしたんですか?」
「……ああ」
 その相槌は私の心奥底に深く刺し込まれた。
 いろんなことが頭によぎる。ワイルド王国を見捨てたのか? なんでリリームを嫁にしたのか? どうして今戻ってきたのか?
 ……私のことはもうどうでもいいのだろうか?
 頭を抱えて落ち込む私はかろうじて、言葉を飲みこんだ。だけど、ユキは我慢できなかった。
「どう……して……どうしてですか!? なぜ、そのメスなんかを嫁に……私の方が……!!」
「…………」
 黙って近づくマコト。
 涙を流しながら叫び続けるユキと頭の高さを合わせると目を合わせて言った。
「ユキ。俺はお前も欲しいんだ」
「……はっ?」
 その言葉の返答を聞く前にマコトは動いていた。ユキの身体に手を回し、抱き寄せ口づけをした。
 舌と舌が絡め込む濃厚なキスにユキは一瞬だけ目を見開いたけど、すぐに受け入れた。
 思わず見とれてしまう痴態に声も出せなかった。横でリリームがにやにやと笑って、こっちの傍に近づいてくる。
「セレスはまだ、だよね? よ~く見ておいた方がいいよ。マコトのは激しいから」
 ジュバジュバと卑猥な音が耳に届く。それを見つめているだけで身体の芯が熱を帯び始める気がする。
 生まれて初めて見るキスがこんなにも激しく、心を締め付けるものだとは……知らなかった。
「んくっ、強引なキスなんて……どこで覚えたんですか」
「ずっと、俺はこうしたいって思っていたよ」
「かって……ですね……」
 まるで恋人のように会話をする2人。気づけば、私の頬には涙が伝っていた。
 どうにか絞り出した震える声でマコトに問いかける。
「マコト……何をしてるのよ。あなたは、あなたは……」
「セレス。俺は魔王国に行って、いや、ここを旅立つ前に決意したことがある」
 マコトがユキを放して、私の元へと歩いてくる。
「俺はこの国が好きだ。王様が任されたこの国を守りたいと思っている」
 その足取りは昔とは違う。主をほめたたえる謙虚な動きではない。王者としての風格を纏い、ただならぬ足取りで私を見下した。
「だから、それを邪魔するセレスは俺に惚れてもらうことにした」
「何を……言って……」
 マコトの言っていることがわからない。長年一緒にいたのに、今のマコトは別人のように思えた。
「今から、それを教えてやるよ」
「っ!?」
 マコトの手がゆっくりと顔に近づいてくる。
 その手を振りほどいて、逃げ出せば逃げれると思った。
 身体が動かない訳じゃない、ゆっくりと近づいてくるからには猶予が与えられている。
 でも、どうしても私は身体を動かしたくなかった。
(どうして……あんたがそんな顔をしているのよ……)
 圧倒的優位に立ちながらもマコトは泣きそうな顔をしていた。
 その顔は一度だけ見たことがある。4年前の戦争で、相手を殺す覚悟をしたときの顔だ。
 自分の国のため、自分を捨てようとするバカな顔……あの時は、お父様がマコトを叱った。
(もう、お父様はいない……どこに行ったか分からないけど、今のマコトを叱ってやれる人はいない)
 その時やっと気づいた……私が本当ならマコトを叱らなければならない。
 誰よりもお父様に近く、マコトとも近かったんだ。
「…………」
「……うん。わかったわよ」
 マコトの手が頭の上に置かれる。この後どうなるかわからない。
 でも……マコトになら惚れてもいい。
「私を惚れさせてみなさいよ……バカ」
 
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