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リリームの策略

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 魔王城の一室、執事であるガイルに飲み物を持ち込ませると私はようやく肩の荷を下ろし、話しかけた。
「ひひっ、全部、うまくいった」
「リリーム様、さすがです」
「まあねぇ~」
 魔王国に帰宅してからあたしは有頂天の気分だった。
 なにせ、あのマコトを手に入れることができたのだ。気分がよくならないわけがない。
(ワイルド王国には悪いけど、マコトは有効活用させてもらうね~)
 4年前、彼を戦場で見た日から絶対に手に入れようと画策していた。魔王国の精鋭相手に単身で無双した彼は魔王すらも仕留めようと野獣になっていた。あたしも一瞬だけ相手したが手加減されてしまった。
(戦場でも紳士だとか……マジ最高!)
 ゴブス王が消えてから4年間、あらゆる手を使ってマコトを手に入れようとしたがすべて失敗に終わっていた。そんな中でもっとも簡単であり、リスクが高いバクチ……そう、現王のセレスを挑発することで無防備なあたしに手を出させた。
 一歩間違えれば、一生マコトを手に入れる手段はなくなっていたであろうこの作戦が成功してホッとする。
(セレスもユキもマコトにべた惚れだもんねぇ~)
 サキュバスである血が騒ぐ……どころではなかった。というか、4年の月日もあって彼女たちが子を宿していないこと自体が驚きだ。終戦の日に、顔を見合わせただけであっこの子、マコトが好きなんだということが一目でわかった。
 それなのに、4年も好意を伝えられずにくすぶっているだけ……。人間と言う種族はなんてのんびりしているんだろうと思う。あたしだったら、その日の内に子供を作る。絶対に迫る。
(自分の子孫が最強になったらと思うと子宮がうずいちゃうな~)
 人族の間ではこの風習はあまり歓迎されないものと知っている。理由はわからないが貞操観念? というものがあるらしく、魔族には理解できなかった。強いモノの血は残したいというのは魔族であり、本能の美徳だと思っている。人族の考えはわからないものだ。
 だが、そんなことはどうでもいい。マコトはセレスが手をあげたお詫びとして魔王国に来てくれる。そう、願望が入るが夜中にベッドで迫れば子作りができるかもしれない。
 そうなれば、魔王国の精鋭を蹴散らせるほどのオスの血があたしと血と混じることになる。今からでもよだれが止まらなくなりそうだ。
(そうだ! 今の内に子供の名前でも考えおこっと。なにがいいかなぁ~)
 まだ他の兄弟、というか姉妹にはマコトが魔王国に来ることを伝えていないがすぐに情報が伝わることだろう。そうなれば、一緒に子育てができなくなりし出産も立ち会ってくれない可能性が高い。できることをやる。あたしはいつも通り今できることを考えようとしたその時だった。
「……リリーム様。マコト殿がご到着されました」
「マジッ!? 迎えに行ってくる!」
「その前に……口元の涎は拭いてください。はしたないですよ」
 ……どうやら、本当によだれが出てしまっていたみたい。子供ようで少しだけ恥ずかしかった。

 城を走り回り、途中で城付きメイドに「はしたないですよ」と言われたが気にしない。
 魔法で門を開く。ワクワクが止まらなかった。
「よく来てくれたね! マ……コト?」
「どうかしたのか?」
 出迎えに向かうとそこには燕尾服ではない私服のマコトがそこにいた。いや、それは重要なことじゃない。
(オスとしての匂いがすごいっ!)
 覚悟を決めたような最後に迸るオスとしての本能のような香りをマコトは身に纏っていた。
 目つきはいつもよりも鋭く、初めて会った日のことを思い出す。
「……マコトだよね?」
「それ以外に見えるか?」
「ううん。そうじゃなくて……」
 胸がどきどきする。今までも、この子種をもらうためにいろいろ危ない橋を渡ってきた。だが、それを比ではないぐらいに心臓の高鳴りを抑えきることができない。
(ダメダメ、マコトの子は欲しいけど、マコトはいらないんだから)
 魔族には恋愛感情と言う不要なものは切り捨てることの方が多い。強さが第一のため、弱い種族と恋に落ちても無ずばれることはないと言っていい。例外として魔王だけが好き勝手に孕ませて責任を取っていた。
 だからこそ、サキュバスという低級種族でありながらも魔王の血を引いている私は姫扱いされた。他の種族と比べても私は弱い部類に入る。
(だからこそ、子供には苦労させてあげたくないからねぇ~)
 どうせ、100年も生きられない種族。マコトなんて子種をもらえば適当に理由を付けて返せばいい。他に盗られなかったらだけど。
 だからそう、この締め付けるような胸の痛みは勘違いであり、顔が熱いのも気のせいで――――。
「おい」
「ひゃいっ!」
「魔王に挨拶がしたい。案内してくれるか?」
「わ、わかりました。お父様なら城にいると思うよ~」
 噛み噛みだ。緊張するのがばれてしまう。
 マコトは私のことは気にせず、魔王国に足を踏み入れる。その様子に少しは気を遣ってもいいじゃないかと思ってしまったが忘れることにした。
(だって、興味がないことにすねているみたいじゃん)
 私はもう子供じゃない。恋する乙女でもない。私の……子供の未来のためにマコトの精を搾り取るだけだ。
 そう、自分に言い聞かせた。

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