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マコトの覚悟

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 昨日の昼に休憩していた場所で空を見上げる。夜風が気持ちいい。
(バカとはいえ、やることはわかっていないとな……)
 俺1人だけで魔王国に行く。そして、どうにかして魔王国を支配する方法を考えなければならない。
 実際問題としては失敗したらゴブス王国は破滅するだろう。魔王国に人質に行ったやつが謀反を起こしたなどとならば諸国からも、帝都からも批判を逃れることはできない。俺の問題であるが、俺の責任が取れる範囲ではない。
(だからこそ、慎重に――)
「マコト?」
「セレス……」
 秘密の場所にセレスまでもやってきた。これではもう秘密の場所とは言えないかもしれない。
 俺のラフな姿を見るといきなり叫び出した。
「どこに行くつもり……なのよ!」
「…………」
 俺は答えることができない。いや、できなかった。
「あんたの部屋は空っぽになってた! ねぇ、教えてよ! どこに行くつもりなのよ!!」
 胸ぐらをつかまれて揺らされる。セレスの言葉が心に刺さる。
「あんたは私のものでしょ! 魔王国に行くなんて許さないんだからね!!」
「……それは違う」
 それだけは否定した。
「俺は俺だ。お前の物じゃない」
「えっ」
「それに俺はバカだからな……国を守るために行動するしかやり方を知らないんだ」
 腕を放させて、俺はこの場から逃げようと思った。ここは……すでに俺の居場所ではない。
「なにを……するつもりなの?」
「そうだな……」
 もう一度、この場所に帰ってくるために考えて、閃いた。
 惚れ魔法。
 これを使えばリリームを誑かし、更にはセレスまでも手中に収めることができる。
 そうだ。簡単なことだったんだ。
『女は男の力強さに惹かれるもの』
 ガイルさんの言葉を思い出す。惹かれるつまりは好きになるってことだ。
 俺はこの国が好きだ。だったら、俺のことを好きになってもらえばセレスもリリームもこの国の間手に動いてくれるはずだ。
 そのための……惚れ魔法。
 ユキの人生を奪った魔法……ああ、そうだ。俺が奪ったんだ。
 だったら、責任をもって行動するしかない。
(というか、これいい方法じゃないか?)
 セレスとリリーム、それにすでにかかっているユキを手中に収めてこの国の王になる。そうすれば、セレスの言動を抑制できるし、リリームの間接的な交渉もなくなる。
 うん。そうしよう……これが一番、全員が幸せになる方法だ。
「すぐに帰ってくる。それまで我慢していろ」
「いか、ないでよ……そんなことを言うんだったら……」
 俺はセレスの言葉は深く受け止めず、その場を去った。



 正門に向かうとそこには気配を消して俺を待っている人物がいた。
「マコト。もう、行くのですか?」
「ああ、後のことは任せるよ。メイド長」
 ユキだ。俺の後任を任せられるのはユキしかいないと思い、無理やりメイド長の座に仕立て上げた。
 おかげで引継ぎもスムーズに進み、安心してこの国を預けられる。
「私だけで制御しきれると思いますか?」
「……そうだな。無理かもしれないな。でも、お前しか任せられないんだ」
 自分でも勝手な言い分だと思う。だけど、この国を守るためにはこの方法しかない。
 全員、惚れさせて俺は王になれば問題がなくなるんだ。
「行かないで」
「お前も引き留めるのかよ」
 服の裾を引っ張られる。懐かしい感じがした。そうだ、小さい頃、スラムにいた時はいつもユキは俺の裾を掴んでいたことを思い出す。
「当たり前です。行かないでください。魔王国に行ったら帰ってこれないです」
「……いや、帰ってくるよ」
「どうやって……ですか」
 ユキの人生を奪った惚れ魔法でと答えることができなかった。決めたことなのに、彼女にその事実を言うのは嫌だった。
(まだ、迷っているのか……俺は)
 だけど、もう決めたこと……たとえ、ゴブス王が現れてもこの計画は止める気はない。
 俺はユキの手を振り払い、顔を向けずに答えた。
「俺はこの国を王様に任されたんだ……だから魔王国に行ってけじめをつけてくる」
「私は……連れて行ってくれないのですね」
「ここから先は俺の問題だ」
 そう言い残し、ユキの横を通り過ぎる。
「マコト。いってらっしゃい」
「いってくるよ」
 振り返ることは……なかった。
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