2 / 18
執事長、マコトの日常 前編
しおりを挟む
『どうして、僕なんかを拾ったんですか?』
『なんだ? 構ってほしいのか。ガキ』
『違います。質問しているだけです。僕はスラムに……誰にも必要にされなかった落ちこぼれです。どうした拾ってくれたんですか?』
『ああ? ガキの癖に変な言葉ばっかり知ってやがるな。理由は単純だ。落ちていたから拾った。お前が必要だと、利用できる価値があるやつだと感じたからだ』
『理解できません。僕は文字も書けないし、力もない。魔法の才能もありません』
『そうだな。俺の娘の方が字も書けるし、計算もできる。力はないが魔法が使える』
『はい。ですので、僕は必要ないです』
『バカ野郎!』
『っ!?』
『お前はバカだ。うじうじ考えて何もできないバカだ。だが、そんなバカでもできることがある』
『できること……そんなものは……』
『ある。絶対にある。だから、それを見つけるために……そうだな。まずは僕って言うな。今からは俺に変えろ』
『俺?』
『そうだ。そしたら、俺が何かしたいのか考えろ。バカなことを思いつけ。そして、実行しろ。バカはバカらしく行動しやがれ』
『……俺はバカ』
『ああ、バカだ』
『ふふっ』
『おっ、ようやくバカらしく笑ったな』
……。
…………。
………………。
目を開けると日差しが目に入り、朝と言うことを思い知らされる。
「……夢か」
懐かしい夢を見た。ゴブス王に拾われてひねくれていたころの夢だ。
あの頃の俺が今の俺を見ることになったらどう思うだろうか……。
いや、そんなバカなことを考えている時間は惜しい。今の俺はとにかく忙しいんだ。
クローゼットを開き、手早く黒を基調とした燕尾服に身を包み、厨房に出かける。料理人が夜のうちに仕事を終わらせてくれた調理済みの朝食をかけ食い、流し込む。さあ、今日が始まる。
夢の中に現れた王様に拾われた俺はあれから努力を重ね、気がつけば執事長と言う立ち位置についていた。がむしゃらに頑張った結果だった。
同じく王様に拾われたメイドのユキが向こうから歩いてきた。
「マコト、寝室の掃除は済みました。次は大広間を掃除してきます」
「わかった。それが終わったら休んでくれ」
「了解しました」
ぺこりっと事務的に会釈を済ませると一瞬にして姿を消した。
さあ、今日も忙しい一日が始まるぞ!
「執事長、すみません。少しいいですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「執事長、来客の予定ですが……」
「14時、17時に入っている。食事の内容とかは料理長に伝えているから確認しておいてくれ」
「執事長! カーペットの色って何色ですか?」
「黒と赤だ。もし、今後、行商人が訪ねて来たら緑を頼んでおいてくれ」
「執事長。料理長が呼んでいます」
「わかった。すぐに行く」
マジで仕事の量が多い。一応、すべてのことには精通しているが部署で上司がいるんだからそっちにも聞いてほしい。
まあ、頼られているっていうのは悪くない気分だ。
「と、そろそろ食べておいた方がいいか」
調理場に向かうと残りはもう俺だけだと嫌みを言われる。今度から気を付けると毎回同じことを繰り返してサンドイッチを受け取った俺は誰にも見つからないように場内を歩いた。
すでに13時は過ぎている。14時から来客予定が入っているため急がなければならない。遅い昼食を城壁の頂上で隠れて食べる。いつものお気に入りの場所だ。ここなら愚痴をこぼしても誰にもばれる心配はない。そして、なによりここが一番城下町を見渡すことができる一番景色のいい場所でもあった。
「はぁ、疲れる」
と、サンドイッチを広げた瞬間、飲み物を取るのを忘れていた。
「しまったな……」
「お疲れ様」
振り返るとメイドのカチューシャを外したユキが飲み物をもってきていた。幼い頃から一緒に育ってきたからなんでもお見通しらしい。
レモネードを受け取り、一口飲むとユキも横でちょこんと座り込んだ。
「ユキ。休憩はとったのか?」
「充分、休んだ。マコトもそろそろ休んで」
「今、休んでいるだろ。心配するな、この後はよほどのことがない限りは……」
「マコトー!! どこにいるのー!!」
このワイルド王国の元お姫様。現王の探す声が聞こえる。
「よほどのことがあったか」
「はぁ、姫様も困ったものですね」
さて、今日は一旦どんな要件だろうか。
昼食を流し込んだ俺は、身なりを整えてセレス様のもとへと向かった。
厨房では料理長がオロオロとして、こっちを見ている。
「あなたねぇ!! これはどういうことよ!!」
「それは……」
14時の来客に出す会食の料理に問題があったらしい。
だが、これと言って問題はないと思う。
「私、言ったわよね! こういう刺激の強い野菜は苦手だって」
ああなるほど、そういうことか。いつものことだ。俺が手配しておいた食事にセレス様が苦手をするものが入っている。この食事自体は相手側の好みに合わせている。味付けはセレス様の好みのものに変えてあるし、なによりもセレス様自身の健康にいいと思ったからお出しした。
「ですが、それは栄養もあり美容にもいいと聞きます。お嬢様に必要な食事でして」
「うるさい! 口答えしないの!!」
「っ!」
手に持った扇子で頭を叩かれる。どうやら、今日は気分が悪いらしい。
「申し、わけありません。すぐに別のものを作らせます」
「もういいわ。それよりも支度をしなさい」
「支度ですか?」
「ええ、そうよ。今日は帝都に買い物に出かけるわ!!」
とんでもないことを言い出した。セレス様も今日は来客の予定は入っていることを知っているはずだ。
万が一、忘れていないかと確認のために叫んだ。
「お、お待ちください! 今日はこの後、会談の予定が……」
「全部キャンセルよ!!」
こうなってしまったセレス様を止める方法を俺は知らない。いや、今は亡き王がいたならば止めることはできただろうか? そんなバカなことを考えている場合じゃない。こういう時にこそ、責任を取るのが俺の仕事だ。
「……わかりました」
「よし、10分後に部屋に来なさい」
それだけを言い残し、セレス様は厨房を去っていった。
「執事長、よろしいのですか?」
「よくはない。後で頭を地面につけるつもりだ。先方には失礼が無いよう……はもう無理か。とにかく、できるだけの誠意を見せておいてほしい。後は、俺が何とかする」
「了解しました。お気をつけて」
胃がキリキリするがいつものことだ。
どうにか頑張るとしよう。
『なんだ? 構ってほしいのか。ガキ』
『違います。質問しているだけです。僕はスラムに……誰にも必要にされなかった落ちこぼれです。どうした拾ってくれたんですか?』
『ああ? ガキの癖に変な言葉ばっかり知ってやがるな。理由は単純だ。落ちていたから拾った。お前が必要だと、利用できる価値があるやつだと感じたからだ』
『理解できません。僕は文字も書けないし、力もない。魔法の才能もありません』
『そうだな。俺の娘の方が字も書けるし、計算もできる。力はないが魔法が使える』
『はい。ですので、僕は必要ないです』
『バカ野郎!』
『っ!?』
『お前はバカだ。うじうじ考えて何もできないバカだ。だが、そんなバカでもできることがある』
『できること……そんなものは……』
『ある。絶対にある。だから、それを見つけるために……そうだな。まずは僕って言うな。今からは俺に変えろ』
『俺?』
『そうだ。そしたら、俺が何かしたいのか考えろ。バカなことを思いつけ。そして、実行しろ。バカはバカらしく行動しやがれ』
『……俺はバカ』
『ああ、バカだ』
『ふふっ』
『おっ、ようやくバカらしく笑ったな』
……。
…………。
………………。
目を開けると日差しが目に入り、朝と言うことを思い知らされる。
「……夢か」
懐かしい夢を見た。ゴブス王に拾われてひねくれていたころの夢だ。
あの頃の俺が今の俺を見ることになったらどう思うだろうか……。
いや、そんなバカなことを考えている時間は惜しい。今の俺はとにかく忙しいんだ。
クローゼットを開き、手早く黒を基調とした燕尾服に身を包み、厨房に出かける。料理人が夜のうちに仕事を終わらせてくれた調理済みの朝食をかけ食い、流し込む。さあ、今日が始まる。
夢の中に現れた王様に拾われた俺はあれから努力を重ね、気がつけば執事長と言う立ち位置についていた。がむしゃらに頑張った結果だった。
同じく王様に拾われたメイドのユキが向こうから歩いてきた。
「マコト、寝室の掃除は済みました。次は大広間を掃除してきます」
「わかった。それが終わったら休んでくれ」
「了解しました」
ぺこりっと事務的に会釈を済ませると一瞬にして姿を消した。
さあ、今日も忙しい一日が始まるぞ!
「執事長、すみません。少しいいですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「執事長、来客の予定ですが……」
「14時、17時に入っている。食事の内容とかは料理長に伝えているから確認しておいてくれ」
「執事長! カーペットの色って何色ですか?」
「黒と赤だ。もし、今後、行商人が訪ねて来たら緑を頼んでおいてくれ」
「執事長。料理長が呼んでいます」
「わかった。すぐに行く」
マジで仕事の量が多い。一応、すべてのことには精通しているが部署で上司がいるんだからそっちにも聞いてほしい。
まあ、頼られているっていうのは悪くない気分だ。
「と、そろそろ食べておいた方がいいか」
調理場に向かうと残りはもう俺だけだと嫌みを言われる。今度から気を付けると毎回同じことを繰り返してサンドイッチを受け取った俺は誰にも見つからないように場内を歩いた。
すでに13時は過ぎている。14時から来客予定が入っているため急がなければならない。遅い昼食を城壁の頂上で隠れて食べる。いつものお気に入りの場所だ。ここなら愚痴をこぼしても誰にもばれる心配はない。そして、なによりここが一番城下町を見渡すことができる一番景色のいい場所でもあった。
「はぁ、疲れる」
と、サンドイッチを広げた瞬間、飲み物を取るのを忘れていた。
「しまったな……」
「お疲れ様」
振り返るとメイドのカチューシャを外したユキが飲み物をもってきていた。幼い頃から一緒に育ってきたからなんでもお見通しらしい。
レモネードを受け取り、一口飲むとユキも横でちょこんと座り込んだ。
「ユキ。休憩はとったのか?」
「充分、休んだ。マコトもそろそろ休んで」
「今、休んでいるだろ。心配するな、この後はよほどのことがない限りは……」
「マコトー!! どこにいるのー!!」
このワイルド王国の元お姫様。現王の探す声が聞こえる。
「よほどのことがあったか」
「はぁ、姫様も困ったものですね」
さて、今日は一旦どんな要件だろうか。
昼食を流し込んだ俺は、身なりを整えてセレス様のもとへと向かった。
厨房では料理長がオロオロとして、こっちを見ている。
「あなたねぇ!! これはどういうことよ!!」
「それは……」
14時の来客に出す会食の料理に問題があったらしい。
だが、これと言って問題はないと思う。
「私、言ったわよね! こういう刺激の強い野菜は苦手だって」
ああなるほど、そういうことか。いつものことだ。俺が手配しておいた食事にセレス様が苦手をするものが入っている。この食事自体は相手側の好みに合わせている。味付けはセレス様の好みのものに変えてあるし、なによりもセレス様自身の健康にいいと思ったからお出しした。
「ですが、それは栄養もあり美容にもいいと聞きます。お嬢様に必要な食事でして」
「うるさい! 口答えしないの!!」
「っ!」
手に持った扇子で頭を叩かれる。どうやら、今日は気分が悪いらしい。
「申し、わけありません。すぐに別のものを作らせます」
「もういいわ。それよりも支度をしなさい」
「支度ですか?」
「ええ、そうよ。今日は帝都に買い物に出かけるわ!!」
とんでもないことを言い出した。セレス様も今日は来客の予定は入っていることを知っているはずだ。
万が一、忘れていないかと確認のために叫んだ。
「お、お待ちください! 今日はこの後、会談の予定が……」
「全部キャンセルよ!!」
こうなってしまったセレス様を止める方法を俺は知らない。いや、今は亡き王がいたならば止めることはできただろうか? そんなバカなことを考えている場合じゃない。こういう時にこそ、責任を取るのが俺の仕事だ。
「……わかりました」
「よし、10分後に部屋に来なさい」
それだけを言い残し、セレス様は厨房を去っていった。
「執事長、よろしいのですか?」
「よくはない。後で頭を地面につけるつもりだ。先方には失礼が無いよう……はもう無理か。とにかく、できるだけの誠意を見せておいてほしい。後は、俺が何とかする」
「了解しました。お気をつけて」
胃がキリキリするがいつものことだ。
どうにか頑張るとしよう。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ダメな君のそばには私
蓮水千夜
恋愛
ダメ男より私と付き合えばいいじゃない!
友人はダメ男ばかり引き寄せるダメ男ホイホイだった!?
職場の同僚で友人の陽奈と一緒にカフェに来ていた雪乃は、恋愛経験ゼロなのに何故か恋愛相談を持ちかけられて──!?
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~
蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。
中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。
役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる