上 下
1 / 18

プロローグ

しおりを挟む


暫く静かだな、と思っていたらユアが護衛を連れて現れた。

「ごめんね、もう閉店なんだ。」

「閉店だから来たんですよ。
 サノヤマさん、この国から出て行ってくれませんか?」

 直球で何言ってんだ、このガキ。

「貴方がいるせいで、ジョージ様とクイン様が僕に冷たくするんです。」

「あのさ、救世主って色々大変そうだけど、あの二人が優しくするとなんか出来るようになるの?」

 後ろに控えていた護衛が、腰に帯剣してある剣に手を掛けていた。
 
「僕はあの方々に娶られたいのです!
 なのに、ジョージ様もクイン様も、まったく僕に無関心で、冷たくされるんです!
 これでは救世主として魔力を供給する事も出来ません!
 もし、この世界から魔力が枯渇して、皆の生活がうまく行かなくなったとしたら、貴方の所為ですからね!」

 いや、お前の所為だろうよ。
 大体、救世主と娶られたいって欲望は関係ないじゃないか。

「ユア君、供給しないのは君の意思であって、俺は関係ないよね?」

「関係ある!
 アンタが二人を解放してくれないと、僕のモチベーションが上がらないんだよ!
 僕は根っからのゲイで、ここでイケメンに抱かれて、ハーレムの生活がしたいんだから、アンタ邪魔なの!
 二十五にもなって、何でそんな可愛いんだよ!
 しかも綺麗系の可愛さって反則だろ!!
 キャラ被ってんだし、アンタなんか救世主でも何でも無いんだから、この国じゃなくて良いだろうよ」

 これ、救世主とかそんなの関係無い所で、この世界の人が困るのは本意じゃなかった。
 せっかくカフェも軌道に乗って、知り合いも出来たからあの人達が困るのは嫌だった。

「ここから出て行ったら、ちゃんと供給してくれるんですよね?」

「約束するよ。
 ちゃんと、出て行ってよね。」

 そう言うと、護衛を連れてユアは出て行った。
 出て行くときに、護衛の一人はその剣でカウンターを斬って行った。
 これじゃぁ、明日から開店出来ないって事で今夜にでも出て行けって事か。





 荷物をバッグに入れながら、シイラの事を考えた。

「シイラ、お願い来て」

 水の精霊王の名前を呼んだ。
 空気中の水が集まって、人の形を作ると精霊王シイラが現われた。

「ライカ、アレが救世主とはな。
 私も驚いたぞ。」

「シイラも知ってたんだ」

 苦笑した。

「救世主からの魔力供給が無くて、困る輩が沢山出ていてな。
 他の精霊王達からも話しが出ていた。」

「それ、俺の所為なんだって。」

「そんな訳無いだろ、何言ってんだ。
 ただ色に狂った救世主ってだけだろう?
 でもなぁ、救世主があれだと多分供給するほどの魔力は無いと思うぞ。」

「でも、魔力が一番多い金色だったってどっかの貴族が言ってたよ?」

「金色でも、魅了の魔法を常に使い続けてんだから、無理だろ。
 枯渇するのもすぐじゃないか?」

 枯渇するものなんだ。

「魅了魔法?」

「そうだ、魅了魔法がなきゃ、ほれ、あの騎士隊長とか王太子があんなのを野放しにして、好き勝手させる訳無かろう?」

 確かに、脳筋で正義が全てみたいな考え方の人が、理不尽な要求に騎士連れてきてまで、俺のところに来て拘束とかあり得ないよな。

「まぁ、その救世主様が俺にここを出ていけって言ってるんで、今夜にでも出て行こうと思ってるんだ。
 シイラはどこにでも来れるなら良いなって思って呼んで、聞いてみたかったんだ。」

 救世主のお尻事情なんてどうでも良いけど、絡まれるのは面倒だし、出て行けば魔力供給してくれるって言うんだし、新しい国に行くには冒険者登録で国外へ行けるし、行った先の国でまたカフェが開店できれば良いなとか思ってた。

「ライカの居る所なら、どこでも行けるぞ。
 他の精霊王も同じだしな。」

「これから他の国へ行くので、シイラが遊びに来てくれるなら安心だ」

 友達を失くさなくて良いと思うと、こんな夜の旅立ちでも寂しくなかった。

「おい、ライカ、夜中は危ないぞ?
 それに門も閉まってんじゃないか?」

「でも救世主が早く出ていけって。
 明日になったら、他の人たちも来て騒ぎになったら面倒だし…
 シイラが遊びに来てくれるなら、どこでもいいんだし。」

 こんな時シイラが精霊王だと安心してどこにでも行けるなって、ニコニコ笑っていたと思う。

「ライカ、その笑顔はちょっと。」

「あ、ごめん、気持ち悪かった?
 昔から、笑うと気持ち悪いって言われてて」
「違うな、可愛すぎてそれを言えない馬鹿どもの言葉が気持ち悪いだったんだろう。
 アホウどもが。」

 シイラが眉間に少し皺を寄せて、不機嫌になった。

「シイラったら、あんまり面白い事言わないでよ。」

 声を上げて笑ってしまった。

「ライカは自分を鏡で見ないのか?」

「ん?見るよ?
 ちょっと目が悪いけど。
 俺はちょっとだけ女顔なのかな?とは思うけど、そんなに良い顔もしてないよ。
 イケメンって言われた事ないしね。」

「イケメンとはどんな物か分からないが、ライカは綺麗で可愛い。
 これは誰が見てもそう思っている。
 夜に旅立つなら、私が護衛をしてやろう。
 行く先でトラブルに巻き込まれないようにな。」

「本当?
 一緒に行ってくれるの?」

 一人で行くと思って準備していた暗い心が、パァッと明るくなった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ダメな君のそばには私

蓮水千夜
恋愛
ダメ男より私と付き合えばいいじゃない! 友人はダメ男ばかり引き寄せるダメ男ホイホイだった!? 職場の同僚で友人の陽奈と一緒にカフェに来ていた雪乃は、恋愛経験ゼロなのに何故か恋愛相談を持ちかけられて──!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...