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異世界畜産07・センチピード国④
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前回のあらすじ・桜は第一王子にあっさり捕まった。
「こ、これならどうでしょうか」
僕が差し出した、水色のカラフルなクリップを、シルダール王子は胡散臭そうな半眼で見つめた。
「これは何かね?」
僕は、ショルダーバッグのポケットから、イヤホンを取り出し、クリップに刺した。
そう、これは超小型の音楽プレーヤー。
小さすぎてスピーカーはないけれど、録音機能だって付いていて、千円くらいのお買い得品だった。
「こうやって使います」
まずは、僕がイヤホンを耳に差し込んでみて、それからシルダール王子へと差し出した。
シルダール王子は怪しんで、自分でイヤホンを耳に入れようとはせずに、近くに控えていた侍従に差し出した。
「なっ、こっ、これは……
このような魔道具は初めてです。
音色が……こんな小さな物の中から、歌が聞こえてきます」
今、流れているのはプニキュイの主題歌だと思うけれど、ネコ科っぽい耳をはやした侍従は感動したように目を潤ませていた。
「歌だと?」
侍従からイヤホンを受け取ったシルダール王子が耳に当て、それからゆっくりと目を見張る。
「確かに。
聞いたことのない音色だ。
素晴らしい……なんと完成度の高い」
入ってるの、ふくちゃんが好きなアニソンとかおかあさんと〇っしょの歌ばっかりなんで……そこまで評価されるとむずがゆくなってくる。
「これは、何という楽器の音なんだね?
聞いたことのない音色だが」
シルダール王子の食いつきに焦りつつ、懸命にプニキュイの主題歌を思い浮かべる。
「多分、エレキギターとかシンセサイザーとかドラムとか……
この世界にはない楽器だと思います」
「そうか」
あからさまにがっかりした様子のシルダール王子に、僕はもうひとつ残念な情報を伝える。
「それと、そのプレイヤーなんですけど、この世界では、多分、6時間くらいしか持たないと思います」
「……なんだと?」
眉間にしわを寄せるシルダール王子の不機嫌さに押されて、僕はあわあわと説明した。
とてもじゃないけど、このファンタジーっぽい世界に、USB電源があるとは思えない。
「それっ、動力が電気なんです。
電気っていうのは、冬とかに金属を触るとバチッってくるやつで、僕の国の主要な動力源なんです。
でも、この国の動力って、魔素?魔力?そんなんだって聞きました。
この国だと、動力を補充出来ないんです……」
「チッ」
今、舌打ちした?
したよね?
どんだけ音楽好きなの、この人。
「まあ、いい。
この素晴らしい音楽が聞こえなくなってしまうのは残念だが、六時間あるのなら、その間に、王宮付きの楽師に暗譜させ、後で楽譜に起こさせよう。
六時間もあるならば、そのうちの五時間半は私が楽しむこともできるだろうしね」
「えっ、でも、それ、四十曲は入ってるんで……」
「なに!?」
思わず口を出した僕は、シルダール王子の形相にひぃっとのけぞった。
「ごっ、ごめんなさい……」
「四十曲!?
この小さな魔道具の中にかね!?
何と素晴らしい技術だ……」
シルダール王子がククッと笑うと、執務机の下から、重そうな革袋を三つ取り出し、机の上にドシャッと置いた。
「私にとって価値のあるものだと認めよう。
これは、その代金だ。
新しい曲が四十曲。
あの愚弟は思いつきもしないだろうが、新しい文化というのは、それだけで立派な他国への武器となり得るんだよ。
これだけあれば、センチピード国で家を買って暮らすにも、デントコーン王国までの護衛を雇うにも充分だろうね」
「デントコーン王国?」
急に出てきた新しい名称に、僕は首をかしげた。
「この大陸中央に位置する大国だ。
恥ずかしながら、このセンチピード国というのは、バミューダ小国群と言われる田舎にある小国でね。
デントコーン王国とは国力も比ぶるべくもない」
「その、デントコーン王国っていうところに、僕らが行くと思っているんですか?」
「君は、元いた世界に戻りたがっていた、との報告を受けている」
確か、僕はシルダール王子に、そんな話はしてなかったはずだ。
ということは、あの召喚の儀式にいた人間の中に、シルダール王子の息のかかった人間がいた、ということなんだろう。
「帰りたいです。
そのデントコーン王国に行けば、僕たちは帰れるんですか!?」
「知らん」
「えっ」
勢い込んで聞いたのに素っ気なく返されて、僕は固まった。
「だが、わが国には、君たちを返す方法がないのは確実だ。
そして、私が知っているのは、デントコーン王国の初代国王が、『竜の棲む山脈』におわす神に直訴し、戦乱の世を治め短期間で強大な大国を作り上げた、という話だけだ。
その神は、国王に降嫁したと聞く。
君たちが帰れるとしたら、その神への直訴くらいしかないだろうと思う」
「願いを叶えてくれる、神、ですか」
日本人の感覚からすると、神様に頼んで家に帰る、なんてピンとこないけれど、そもそも僕たちの現状が神隠しみたいなものだし、僕にも『龍神の加護』とかがついているらしいし、この世界なら、そんなこともあるのかもしれない。
何も情報がないのに比べたら、遥かにマシだ。
「わかりました」
デントコーン王国へ行くとは明言しないまま、僕はお金の袋を受け取った。
おそらく、紙幣じゃないんだろう、ずっしりとした重さは、一つでも僕が持ちあげるのによろめくほどだった。
僕が売ってしまった音楽の著作権、とかいう言葉が脳裏をよぎったけれど、きっと誰も、異世界まで僕を捕まえに来たりしないだろう。
っていうか来るならむしろ来て欲しい。
えっと、まとめると。
この世界に魔王は今のところいないのに、功を早った第二王子が僕らを勝手に勇者候補として拉致してきて、第一王子にとっては頭の痛い事態。ところがうっかり僕とふくちゃんには『龍神の加護』ってのがあって殺せない。だから、早くどこかへ行ってくれると助かる。何なら遠い国まで行ってくれるといいな、ってことだよね?
ひどい言い草だけど、逆に信じられるっていえば信じられる。
見ず知らずのおじいさんに意味もなく急に親切にされても、かえって怪しい気がするし。
「それでは、二度と会うことはないと思うが、達者でな。
もし死ぬ予定があるのなら、うちの国を出てから死んでくれると助かる」
親切で助けてくれるわけじゃない以上、二度とこの人を頼れない、ってことも確定だよね。
僕らのほうを再び見もせずに執務に取り掛かったシルダール王子の耳には、キッチリイヤホンがくっついている。
あれだと、楽師に聞かせる、とかいう前に、充電終わっちゃうんじゃないかな……。
まあ、でも、対価は受け取ったし。
お金の袋を運ぶかふくちゃんを運ぶかで迷った僕は、当然、ふくちゃんを背負い直し、金貨の袋を侍従さんに持ってもらった。
失礼かな、とは思ったけれど、部屋を出る前にお金の袋を開けて中を確認すると、金貨ではなくて銀貨だった。
侍従さんによると、大陸の通貨は、金貨ではなく銀貨らしい。
なんでも、大陸最大の金山に棲む竜が金好きで、人間が採掘することを許さず、人間の間では貨幣に使えるほど流通していないから、とのことだった。
それなので金はとても高価で、金を使った装飾品を持つことが高位貴族や王族のステータスなんだそうだ。
そうか、コショウより金を持ってるべきだったんだ。
って本物の金なんて日本でもほとんど見たことなかったけどね!
というより、金てむしろ、異世界から日本に持って帰って一儲け、の定番品だよね?
逆は考えないよ。
「こちらへ」
なるべく目立たない、使用人用の通用口をこっそりと抜けて、僕たちは王宮を後にした。
ふくちゃんを背負ったまま、長い距離を歩くのは辛かったけれど、夜中に馬車なんか使えば余計に目立つし、「シルダール王子の命令で」なんてやたらに使っちゃうと、後で王子の立場が悪くなるんだろう。
僕だってここは、いつの間にやら雲を霞と消え果た――って感じにさりげなく消えたいところだしね。
むしろ、僕たちが消えたのに気づかないでくれると助かる。
王宮の庭がやたら広大だったり、街まで距離があったらどうしよう、と思っていたけれど、意外と城壁を抜けるとすぐに街が広がっていた。
真っ暗かと思ったけれど、ちゃんと所々に街灯が立っていて、下は石畳、周りに並んでいる家も石造りで、窓枠や扉は白いけれど、壁はパステル系のピンクや青、黄色に塗られているようだった。
家の前に庭はなく、直接道に面しているから、お店とかなのかもしれない。
人っ子一人いないことを除けば、どこかのテーマパークに迷い込んだかのようなおしゃれな街だった。
遠くから酔っ払いの喧騒が聞こえる。
僕の背骨と腰が悲鳴をあげるけれど、侍従さんは無言で進んでいく。
かなり重い袋を持ってもらっているのに、足取りはしっかりしていて、疲れた様子もない。
まだ涼しい夜で助かったけど、この世界の今の季節は何なんだろう?
日本では、ちょうど紅葉が見ごろな十月の終わりだったけど。
『コンコン』
どれくらい歩いたのか、僕が汗でびっしょりになった頃、侍従さんがある家の裏口の戸を叩いた。
隣の家とくっついているように建っているのは他の家と同じだけれど、他の家よりは幅があって、大きな家のようだった。
ギィッ
あらかじめ連絡が行っていたのか、夜中だというのに、そう待たずに戸が開いた。
中からは、日に焼けていてがっしりした、いかにもガテン系のオジサンが顔を出した。
黒くて小さい耳に、物凄いふっさふさのしっぽが生えている。
「おう、待ってた。
入んな」
顎をしゃくられるままに僕が家の中に入ると、侍従さんはどさりとお金の袋を置いて帰って行った。
後は、この人に聞け、ってことなのかな?
侍従さんの持って来てくれたお金が、僕たちの始末料、とかじゃないといいけど……
「俺はマルコ・ウイッカム。
アリクイの獣人で、この冒険者ギルドのギルドマスターだ」
後書き
牛雑学・判別精液の欠点は、受胎率が下がること。雄が産まれる確率も一割あること。それなので、基本的に受胎率が良い育成牛(未経産)につけることが多い。判別精液をつけておいて、雄が生まれた時のガッカリ感といったら、もぉ。
「こ、これならどうでしょうか」
僕が差し出した、水色のカラフルなクリップを、シルダール王子は胡散臭そうな半眼で見つめた。
「これは何かね?」
僕は、ショルダーバッグのポケットから、イヤホンを取り出し、クリップに刺した。
そう、これは超小型の音楽プレーヤー。
小さすぎてスピーカーはないけれど、録音機能だって付いていて、千円くらいのお買い得品だった。
「こうやって使います」
まずは、僕がイヤホンを耳に差し込んでみて、それからシルダール王子へと差し出した。
シルダール王子は怪しんで、自分でイヤホンを耳に入れようとはせずに、近くに控えていた侍従に差し出した。
「なっ、こっ、これは……
このような魔道具は初めてです。
音色が……こんな小さな物の中から、歌が聞こえてきます」
今、流れているのはプニキュイの主題歌だと思うけれど、ネコ科っぽい耳をはやした侍従は感動したように目を潤ませていた。
「歌だと?」
侍従からイヤホンを受け取ったシルダール王子が耳に当て、それからゆっくりと目を見張る。
「確かに。
聞いたことのない音色だ。
素晴らしい……なんと完成度の高い」
入ってるの、ふくちゃんが好きなアニソンとかおかあさんと〇っしょの歌ばっかりなんで……そこまで評価されるとむずがゆくなってくる。
「これは、何という楽器の音なんだね?
聞いたことのない音色だが」
シルダール王子の食いつきに焦りつつ、懸命にプニキュイの主題歌を思い浮かべる。
「多分、エレキギターとかシンセサイザーとかドラムとか……
この世界にはない楽器だと思います」
「そうか」
あからさまにがっかりした様子のシルダール王子に、僕はもうひとつ残念な情報を伝える。
「それと、そのプレイヤーなんですけど、この世界では、多分、6時間くらいしか持たないと思います」
「……なんだと?」
眉間にしわを寄せるシルダール王子の不機嫌さに押されて、僕はあわあわと説明した。
とてもじゃないけど、このファンタジーっぽい世界に、USB電源があるとは思えない。
「それっ、動力が電気なんです。
電気っていうのは、冬とかに金属を触るとバチッってくるやつで、僕の国の主要な動力源なんです。
でも、この国の動力って、魔素?魔力?そんなんだって聞きました。
この国だと、動力を補充出来ないんです……」
「チッ」
今、舌打ちした?
したよね?
どんだけ音楽好きなの、この人。
「まあ、いい。
この素晴らしい音楽が聞こえなくなってしまうのは残念だが、六時間あるのなら、その間に、王宮付きの楽師に暗譜させ、後で楽譜に起こさせよう。
六時間もあるならば、そのうちの五時間半は私が楽しむこともできるだろうしね」
「えっ、でも、それ、四十曲は入ってるんで……」
「なに!?」
思わず口を出した僕は、シルダール王子の形相にひぃっとのけぞった。
「ごっ、ごめんなさい……」
「四十曲!?
この小さな魔道具の中にかね!?
何と素晴らしい技術だ……」
シルダール王子がククッと笑うと、執務机の下から、重そうな革袋を三つ取り出し、机の上にドシャッと置いた。
「私にとって価値のあるものだと認めよう。
これは、その代金だ。
新しい曲が四十曲。
あの愚弟は思いつきもしないだろうが、新しい文化というのは、それだけで立派な他国への武器となり得るんだよ。
これだけあれば、センチピード国で家を買って暮らすにも、デントコーン王国までの護衛を雇うにも充分だろうね」
「デントコーン王国?」
急に出てきた新しい名称に、僕は首をかしげた。
「この大陸中央に位置する大国だ。
恥ずかしながら、このセンチピード国というのは、バミューダ小国群と言われる田舎にある小国でね。
デントコーン王国とは国力も比ぶるべくもない」
「その、デントコーン王国っていうところに、僕らが行くと思っているんですか?」
「君は、元いた世界に戻りたがっていた、との報告を受けている」
確か、僕はシルダール王子に、そんな話はしてなかったはずだ。
ということは、あの召喚の儀式にいた人間の中に、シルダール王子の息のかかった人間がいた、ということなんだろう。
「帰りたいです。
そのデントコーン王国に行けば、僕たちは帰れるんですか!?」
「知らん」
「えっ」
勢い込んで聞いたのに素っ気なく返されて、僕は固まった。
「だが、わが国には、君たちを返す方法がないのは確実だ。
そして、私が知っているのは、デントコーン王国の初代国王が、『竜の棲む山脈』におわす神に直訴し、戦乱の世を治め短期間で強大な大国を作り上げた、という話だけだ。
その神は、国王に降嫁したと聞く。
君たちが帰れるとしたら、その神への直訴くらいしかないだろうと思う」
「願いを叶えてくれる、神、ですか」
日本人の感覚からすると、神様に頼んで家に帰る、なんてピンとこないけれど、そもそも僕たちの現状が神隠しみたいなものだし、僕にも『龍神の加護』とかがついているらしいし、この世界なら、そんなこともあるのかもしれない。
何も情報がないのに比べたら、遥かにマシだ。
「わかりました」
デントコーン王国へ行くとは明言しないまま、僕はお金の袋を受け取った。
おそらく、紙幣じゃないんだろう、ずっしりとした重さは、一つでも僕が持ちあげるのによろめくほどだった。
僕が売ってしまった音楽の著作権、とかいう言葉が脳裏をよぎったけれど、きっと誰も、異世界まで僕を捕まえに来たりしないだろう。
っていうか来るならむしろ来て欲しい。
えっと、まとめると。
この世界に魔王は今のところいないのに、功を早った第二王子が僕らを勝手に勇者候補として拉致してきて、第一王子にとっては頭の痛い事態。ところがうっかり僕とふくちゃんには『龍神の加護』ってのがあって殺せない。だから、早くどこかへ行ってくれると助かる。何なら遠い国まで行ってくれるといいな、ってことだよね?
ひどい言い草だけど、逆に信じられるっていえば信じられる。
見ず知らずのおじいさんに意味もなく急に親切にされても、かえって怪しい気がするし。
「それでは、二度と会うことはないと思うが、達者でな。
もし死ぬ予定があるのなら、うちの国を出てから死んでくれると助かる」
親切で助けてくれるわけじゃない以上、二度とこの人を頼れない、ってことも確定だよね。
僕らのほうを再び見もせずに執務に取り掛かったシルダール王子の耳には、キッチリイヤホンがくっついている。
あれだと、楽師に聞かせる、とかいう前に、充電終わっちゃうんじゃないかな……。
まあ、でも、対価は受け取ったし。
お金の袋を運ぶかふくちゃんを運ぶかで迷った僕は、当然、ふくちゃんを背負い直し、金貨の袋を侍従さんに持ってもらった。
失礼かな、とは思ったけれど、部屋を出る前にお金の袋を開けて中を確認すると、金貨ではなくて銀貨だった。
侍従さんによると、大陸の通貨は、金貨ではなく銀貨らしい。
なんでも、大陸最大の金山に棲む竜が金好きで、人間が採掘することを許さず、人間の間では貨幣に使えるほど流通していないから、とのことだった。
それなので金はとても高価で、金を使った装飾品を持つことが高位貴族や王族のステータスなんだそうだ。
そうか、コショウより金を持ってるべきだったんだ。
って本物の金なんて日本でもほとんど見たことなかったけどね!
というより、金てむしろ、異世界から日本に持って帰って一儲け、の定番品だよね?
逆は考えないよ。
「こちらへ」
なるべく目立たない、使用人用の通用口をこっそりと抜けて、僕たちは王宮を後にした。
ふくちゃんを背負ったまま、長い距離を歩くのは辛かったけれど、夜中に馬車なんか使えば余計に目立つし、「シルダール王子の命令で」なんてやたらに使っちゃうと、後で王子の立場が悪くなるんだろう。
僕だってここは、いつの間にやら雲を霞と消え果た――って感じにさりげなく消えたいところだしね。
むしろ、僕たちが消えたのに気づかないでくれると助かる。
王宮の庭がやたら広大だったり、街まで距離があったらどうしよう、と思っていたけれど、意外と城壁を抜けるとすぐに街が広がっていた。
真っ暗かと思ったけれど、ちゃんと所々に街灯が立っていて、下は石畳、周りに並んでいる家も石造りで、窓枠や扉は白いけれど、壁はパステル系のピンクや青、黄色に塗られているようだった。
家の前に庭はなく、直接道に面しているから、お店とかなのかもしれない。
人っ子一人いないことを除けば、どこかのテーマパークに迷い込んだかのようなおしゃれな街だった。
遠くから酔っ払いの喧騒が聞こえる。
僕の背骨と腰が悲鳴をあげるけれど、侍従さんは無言で進んでいく。
かなり重い袋を持ってもらっているのに、足取りはしっかりしていて、疲れた様子もない。
まだ涼しい夜で助かったけど、この世界の今の季節は何なんだろう?
日本では、ちょうど紅葉が見ごろな十月の終わりだったけど。
『コンコン』
どれくらい歩いたのか、僕が汗でびっしょりになった頃、侍従さんがある家の裏口の戸を叩いた。
隣の家とくっついているように建っているのは他の家と同じだけれど、他の家よりは幅があって、大きな家のようだった。
ギィッ
あらかじめ連絡が行っていたのか、夜中だというのに、そう待たずに戸が開いた。
中からは、日に焼けていてがっしりした、いかにもガテン系のオジサンが顔を出した。
黒くて小さい耳に、物凄いふっさふさのしっぽが生えている。
「おう、待ってた。
入んな」
顎をしゃくられるままに僕が家の中に入ると、侍従さんはどさりとお金の袋を置いて帰って行った。
後は、この人に聞け、ってことなのかな?
侍従さんの持って来てくれたお金が、僕たちの始末料、とかじゃないといいけど……
「俺はマルコ・ウイッカム。
アリクイの獣人で、この冒険者ギルドのギルドマスターだ」
後書き
牛雑学・判別精液の欠点は、受胎率が下がること。雄が産まれる確率も一割あること。それなので、基本的に受胎率が良い育成牛(未経産)につけることが多い。判別精液をつけておいて、雄が生まれた時のガッカリ感といったら、もぉ。
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