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14 トゥオネタル族

318 トゥオネタルの魔王7

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 サタンが死んだ悪魔系統のモンスターのエネルギーを力に変換していると知ってイロナが怖いことを言うので、ヤルモは説得しなくてはならない。

「ほら? まだまだ階段からモンスターが上がって来てるだろ?」
「まだ伸びしろがあるってことだな」
「ほら? イロナが攻撃すると、弱くなるだろ?」
「手を抜けってことか……」

 しかし、説得を繰り返してもイロナの笑顔がどんどん悪い笑顔になっていくので、ヤルモは戦法を変える。

「ほら? 絵本ではサタンは蠅っぽかっただろ? アレが第二形態じゃないかな~??」
「ムッ……第二形態でエネルギーを集めたほうが強くなるかもしれないのか……」

 残念ながら、藪蛇。だが、ヤルモは強くならないほうにすがるしかない。

「か、かもしれない……その方向でいかない?」
「うむ! 主殿も協力しろ!!」
「は~い」

 いちおうイロナが共同作業に乗り気になってくれたので、ヤルモはいい返事。サタンが強くならないことを祈りながら前進するのであった。


 二人が喋っている間も、サタンは死んだ悪魔のエネルギーを集めてHPを回復しており、イロナの攻撃で減った強さも戻りつつある。

「いくら余に攻撃を加えようとも、同じことを繰り返すだけだ」

 ヤルモとイロナが近付くと、サタンは知ってか知らずか二人の行き着いた答えの正解のようなことを口走った。

「「それはどうかな?」」

 ここでヤルモとイロナは、息の合った返事。息の合っているのは返事だけでなく、戦闘にも反映される。

 ヤルモが守り、イロナの攻撃。たまに合体したような攻撃。

 ヤルモが大盾で守って崩すと、すかさずイロナの連続斬り。そこにヤルモが追い討ちして、さらにイロナの追い討ち。
 その攻撃を嫌ったサタンが強力な魔法で反撃すると、ヤルモがイロナを射程範囲まで運んで、サタンの僅かばかりの隙にイロナの連続斬り。さらに追い討ち×2。

 トゥオネタル族が悪魔系統のモンスターを殺すより早くに二人のダメージが加算され、サタンの膨大なHPがガンガン減って行く。それに加え、サタンの強さも必然的に下がって行くので、HPの減りは加速する。

「「うおおぉぉ!!」」

 サタンに攻撃を開始して、およそ1時間……

 ボロボロになったサタンが急に笑い出した。

「クァ~ハッハッハッハッ。よくぞ余をここまで追い詰めた」

 サタンは劣勢の状態なのに、それでも笑う。ヤルモとイロナも、まったく警戒を解かない。

「第二形態だ~~~! クァ~ハッハッハッハッ……」

 ここからがサタンの本番。サタンは巨大な竜巻と雷鳴に包まれて体が変容する。
 その竜巻はヴァンパイア魔王の時と同じ大きさがあり、密閉された空間でそんな暴風が吹き荒れたならば、この場にいる全ての生き物を吹き飛ばした。

「イロナってMP減ったりするのか?」
「スキルを使えばな」
「じゃあイロナも飲んでおけよ。ポーションもあるぞ」

 ヤルモとイロナ以外……

 二人は竜巻が来るタイミングがわかっていたので、ヤルモが呪いの大盾を地面に突き刺して風除けにしていたから被害は軽微。サタンが第二形態になる時間を使って各種アイテムで完全回復まで持って行く。
 そうして雑談しながら待っていたら竜巻が消え去り、サタン第二形態が姿を現した。

 その姿は、絵本に描かれた姿より禍々しい姿。10メートル程の巨体でドス黒く、体は蠅のようになっているが、腕は人間の腕が四本。その全てが大きな剣を握っている。顔は、二つの複眼の中央に、先程までの紫色の人間の顔が付いている。
 サタンはニ枚の羽をブーンと高速で動かし、人間のような二本の足で着地したのであった。


「クハハハハ。これでお前たちはもう終わりだ」

 第二形態だと言うのに、アルタニアの魔王と同じように意識を保っているので、ヤルモに緊張が走る。

「我より強くなっていればな」

 イロナは通常運転。しかし、ヤルモが焦って割り込んだ。

「まさか第三形態まであったりしない?」

 意識があるということは、もう一段の変身の可能性があるので、ヤルモは知りたいみたいだ。

「第三形態など存在しない。そんなことを言う魔王は、ただのペテン師だ」

 サタンは色好い返事をくれたように思えるが、それは魔王第三形態より強いと言っているようなもの。イロナは悪い笑みを浮かべ、ヤルモは額に汗を浮かべながらコソコソと喋る。

「だってよ。発狂中にアレを使うのがベストじゃないかな?」
「さあな……まぁまずは味見からだ」
「少しは俺にも協力させてくれよ」
「ついて来られたらな!」

 二人が喋っていたら、急にイロナが動いてヤルモを後ろに向かせた。

「ぐおっ!? 速え……」

 サタンが高速で空を飛び、後ろに回り込んで一本の剣を振ったからだ。その動きに合わせて、イロナがヤルモの盾で防御させたのだ。

「クハハハ。その男には、余と立ち合う資格もなさそうだ」
「それはどうだろうな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」

 このまま戦闘が始まると、ヤルモはイロナとサタンに挟まれて戦うハメになってしまう。しかし、ヤルモが焦って待ったを掛けても、二人はお構い無し。

「喰らえ」
「ぐおおぉぉ~~~!!」
「チッ……後ろが守れてないぞ」

 サタンの四本の剣による斬撃が襲い掛かる。正面だけならばヤルモでもなんとか守れるが、サタンは素早く回り込むので、イロナが対応せざるを得ない。

 くして、サタン第二形態との戦いは、ヤルモが足を引っ張りながら始まったのであった。
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