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14 トゥオネタル族

299 トゥオネタル族の里1

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 トゥオネタル族の集落に辿り着いた翌日……

「つつつ……」

 ヤルモの体はバッキバキ。昨夜はイロナを慰めるために優しく抱き締めて夜を明かしたヤルモなのだが、イロナは力強く抱き締め返していたから痛かったのだ。
 しかし、イロナは悲しんでいるはずなので、ヤルモは空気を読んでそのことは口に出せず。だから清々しくない朝になったのだ。

「起きたか」

 ヤルモが目覚めるとイロナはすでに起きており、軽くストレッチしていた。

「もういいのか?」

 イロナがスッキリした顔をしているので、ヤルモはよけい心配になる。

「まぁ思うところはあるが、誰でも必ず死は訪れるのだ。ましてはジイさんは歳だったのだから、そろそろ死んでいてもおかしくない。最後は華々しく散れたのだから、きっと本望であっただろう」
「イロナは強いな」
「何をいまさら……主殿も知っておろう」
「……ああ。イロナは最強だ」

 ヤルモは心の強さを言ったのに、イロナには伝わらず。『最強』には誇らしい顔をしていたから伝わったっぽい。
 それから二人で昨日の大部屋に顔を出したら、男連中からめっちゃ睨まれたヤルモ。その顔に恐怖を感じ、イロナにコソコソと質問している。

「お義父さんたちってあんな顔だったか? ボコボコで迫力が凄いんだけど……」
「ああ。アレは我の部屋の前で、男を連れ込んでるとか騒いでいたからボコボコにしてやったんだ」
「あ、そう」

 今朝イロナが先に起きていたのは、トピアスたちを半殺しにしていたとわかったヤルモは、その怒りはイロナにぶつけてくれと思いながら席に着いた。
 それから山積みの肉が揃えば朝食が始まったのだが、ヤルモが皆の注目を集める。

「昨日はいろいろあってお土産を渡しそびれてしまった。お菓子は食後にでも食べてください。こっちの酒は、夜にでもどうぞ」

 ヤルモは日持ちするお菓子とちょっと無理した高級なお酒を並べると、アイリにずいっと差し出した。たぶん当たりが弱いから、母親のアイリを選んだのだろう。

「あらあら。そんなのいいのに。でも嬉しいわ。ありがとう」

 人族の常識が通用したとホッとしたヤルモであったが、トピアスが酒のビンを手に持ち、口の部分を親指で割って飲み出したから緊張が走る。

「なんだ。この程度か」
「口に合わなかったですか……申し訳ありません」
「気にしないで。この人、これしか言わないから」

 トピアスの発言に焦って謝罪したヤルモに、アイリの助け船。よくよく考えたら、今日も肉の山積みしか食べ物がないので、トゥオネタル族全員が味オンチだと考えてしまったヤルモ。
 しかし、食後のデザートに出した焼き菓子は好評だったので、そこまで味オンチの集団ではないと意見を変えていた。


「それで……魔王はいつ殺しに行くのだ?」

 お腹が落ち着いたら、イロナが昨夜の話を切り出した。

「イロナがいるなら百人力だ。すぐにでも向かおう!」

 するとトピアスはいまから行こうとしているので、ヤルモがボソッと呟く。

「全滅しかけておいて、作戦も無しかよ……」
「「「「「ア゙ッ!?」」」」」

 その呟きはけっこう大きかったので、ヤルモは一斉に睨まれた。イロナにも……

「イロナの命が懸かっているから、ハッキリ言わせてもらう」

 ヤルモは皆の気迫に負けず、テーブルを叩いて立ち上がった。

「その魔王は、あんたたち全員を相手取ったのに負けなかったんだろ? んな相手、イロナでも倒せるのか?」

 そう。人族より遙かに強いトゥオネタル族が全員で挑んで負けたのだ。いくらイロナが強くても、命の危機があるからヤルモも譲れないのだ。

「ほう……主殿は我が魔王ごときに負けると言いたいのか……」

 イロナのために説得しているのに、イロナに殺意を向けられたのだからヤルモはブルッと震える。

「いや、俺が言いたいのは、イロナが疲れた状態で魔王と接触するのはやめて欲しいな~……って、ことだよ?」

 さっきまで息巻いていたヤルモは、イロナが指の関節をボキボキ鳴らしていては蛇に睨まれたカエル。ドンドン声が小さくなっている。

「ぶっちゃけ、ここの人全員と同時に戦って、イロナは楽勝で倒せるのか?」
「昔やった時は……楽勝だったな」
「いや、昔のは俺たちの楽勝だ」
「そんなわけあるまい!」
「子供の時ならそんなもんだ!」

 ヤルモの質問からイロナとトピアスがケンカになったので、子供の頃からそんなに強かったのかと呆気に取られていたヤルモは必死に割り込む。

「最新の! 最新の勝敗は!?」
「だから我の楽勝だ」
「いや、俺たちが勝ちを譲ってやっただけだ」
「「なんだと~~~!!」」

 トピアスはどうしてもイロナに負けたと言いたくないのか、ずっと強がっているのでまたケンカ。ヤルモも情報は手に入ったし考えごとをしているから、トピアスを助けられない。
 トピアスがイロナにボコられているのを横目に見つつ、ヤルモは喋り出す。

「やっぱりイロナは温存したほうがいいだろう。それに一番下まで行かなくても向こうから来てくれるんだから、これだけの戦力があるし、待ったほうがよくないか?」

 さすがはヤルモ。魔王発生の日にちと戦力をかんがみて、最善の作戦を立てた。これならば、いきなり魔王との接触は起こらないし、何よりダンジョンを進む疲労を抑えられる。
 さらには、待ち伏せをして先制攻撃ができるし、強い四天王なんかはトゥオネタル族に任せれば、イロナが魔王に集中できる完璧な作戦だ。

「何お前が仕切ってるんだ! 俺はまだイロナとの結婚は認めてないぞ!!」

 なのに、トピアスからNO! 出会ってたった一日とお土産程度では、いまだ結婚の許可は下りないのであったとさ。
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