上 下
323 / 360
13 里帰りの道中

294 死の大地1

しおりを挟む

「すげぇな……」

 ハミナから一般人の足なら五日程度、ヤルモたちの速度なら一日半。トゥオネタル族が暮らす領域に入るには必ず通らないといけない場所で、ヤルモは立ち尽くしている。

 ここは死の大地。目の前には砂漠が広がっている。ただの砂漠なら一般人でも越えることもできただろうが、目に見える範囲だけで二十本以上の竜巻が発生しているので、間違いなく生きて帰れない場所だ。

 竜巻の発生メカニズムは、この世界の学者がいろいろ発表していたが、実際には全て大ハズレ。
 ここから先がこのヨーロミ―ル大陸の最北とあり、南と比べて土地が狭くなっているまでは当てた人はいるが、死の大地はすり鉢状になっているとは衛星写真でもないとわからないだろう。
 上空では、南からの暖かい空気と北からの冷たい空気が常にぶつかる場所なので気流が乱れ、その影響で地上では竜巻が発生しやすくなっており、常に発生しては消えと繰り返している特異な土地なのだ。

 当然、竜巻蠢く砂漠を抜けられないのならば、東と西の崖側からトゥオネタル族に会いに行こうと考える者もいるが、やめたほうがいい。
 上空の空気がぶつかった反動で、下から吹き上げるような風が猛烈に吹き荒れているので、空に何キロと吹き飛ばされて帰らず人となってしまうからだ。

 仮に砂漠側で竜巻がクッションとなって奇跡的に助かったとしても、そこは竜巻の巣窟。竜巻を避けようとすれば真っ直ぐ歩けるわけもなく、下手したらグルグルと同じ場所を歩かされてしまう。
 さらに熱波と寒波が1時間おきだったり数分おきだったりと入れ替わるので、体温調節もままならない。竜巻の中を歩いても方角がわからなくなるので、砂漠から出ることもできずに干からびるだろう。

 海側に落ちれば助かる可能性は高いが、それは一時的。海も大荒れで、泳ぐこともままならない。偶然、陸側に押し戻されたとしても、波の圧力と岸壁に押し潰されてしまう。
 海だけでも驚異なのだが、そこには肉食のモンスターがいる。ここは魚が集まりやすい漁場となっているので、人間など間違えて食べられてしまうだろう。


 そんな危険地帯を見て立ち尽くしていたヤルモだが、イロナに早めの昼食をしたほうがいいと言われたので、地面に座って携帯食を食べながら喋っている。

「三年に一度ぐらいの頻度でトゥオネタル族がこっちに来てるらしいけど、こんな所、どうやって抜けるんだ?」
「我もこちらに来る前、何度か行き来していたジイさんに聞いたら、普通に真っ直ぐ走るだけと言っていた。その通りやったら抜けられたぞ」
「へ~~~」

 ヤルモは気のない返事をしているが、本心は「できるか!」とか思っている。強健で健脚なトゥオネタル族だからこそ、竜巻に吹き飛ばされずに走れるのだと悟った。

「ちなみにそのジイさんは、なんでこっちに来てたんだ?」
「なかなか口を割らなかったから半殺しにして聞き出したら、ケーキが食べたかったらしい。まぁダンジョンではたまにしか手に入らないから、わからんでもない。ただ、人族が作っていると知られると、トゥオネタル族が出て行ってしまうかもしれないから黙っていたようだ」
「へ~~~」

 またヤルモは気のない返事をしていたが、見たことも会ったこともない老人には感謝していた。
 トゥオネタル族が大移動となったら「それはもうスタンピードじゃね?」と……あと、半殺しにされるまで口を割らないとは「人族の命の恩人じゃね?」と……

「んで、そのジイさんだと、ここを何日ぐらいで抜けられるんだ?」
「運が良ければ一日。悪ければ三日とか言ってたか」
「それは歩きか?」
「走りだ。丸一日走ったらしい」
「となると……俺の足だと倍どころの話じゃないな~」

 ヤルモはこれからの過酷な旅を想像して、いまのうちから水は節約したほうがいいかと考える。

「確かに主殿では時間が掛かりそうだな……面倒くさい」
「すまん……」

 イロナの時間を奪うのだから、暴力案件。ヤルモは覚悟して頭を出したが、イロナはポンッと手を打っただけで、拳骨は飛んで来なかった。

「我に妙案がある。任せておけ」
「ええぇぇ~」

 イロナのナイスアイデアは、なんだか怖いヤルモ。しかし断れば殴られるのは確実なので、イロナの妙案に乗るしかないヤルモであった。


「これでどうするのかな~?」

 イロナに言われるままに急遽作った背負子しょいこに座ったヤルモは、嫌な予感しかしない。

「我が背負って運んでやるんだ」
「やっぱり……」
「主殿は、影だけ気にしておいてくれ。北から逸れたら教えろ」
「だから早めの昼食にしたのか。ちなみに、刀はなんで握っているんだ?」
「竜巻を斬り裂くためだ。それとモンスターもな。では、行くぞ!」
「待った! モンスター出る、のおおぉぉ~~~!?」

 ヤルモの待ったは無視。質問に答え終わったと決め付けたイロナは、ヤルモが喋っているのにも関わらず、走り出してしまうのであった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

試される愛の果て

野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。 スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、 8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。 8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。 その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、 それは喜ぶべき縁談ではなかった。 断ることなったはずが、相手と関わることによって、 知りたくもない思惑が明らかになっていく。

【完結】言いたくてしかたない

野村にれ
恋愛
異世界に転生したご令嬢が、 婚約者が別の令嬢と親しくすることに悩むよりも、 婚約破棄されるかもしれないことに悩むよりも、 自身のどうにもならない事情に、悩まされる姿を描く。 『この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません』

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

藤なごみ
ファンタジー
※コミカライズスタートしました! 2023年9月21日に第一巻、2024年3月21日に第二巻が発売されました 2024年8月中旬第三巻刊行予定です ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。 高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。 しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。 だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。 そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。 幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。 幼い二人で来たる追い出される日に備えます。 基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています 2023/08/30 題名を以下に変更しました 「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」 書籍化が決定しました 2023/09/01 アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります 2023/09/06 アルファポリス様より、9月19日に出荷されます 呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております 2024/3/21 アルファポリス様より第二巻が発売されました 2024/4/24 コミカライズスタートしました 2024/8/12 アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です

【完結】会いたいあなたはどこにもいない

野村にれ
恋愛
私の家族は反乱で殺され、私も処刑された。 そして私は家族の罪を暴いた貴族の娘として再び生まれた。 これは足りない罪を償えという意味なのか。 私の会いたいあなたはもうどこにもいないのに。 それでも償いのために生きている。

前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙
BL
ハーララ帝国第四皇子であるエルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララはある日、高熱を出して倒れた。数日間悪夢に魘され、目が覚めた彼が口にした言葉は…… 「皇帝なんて興味ねえ!俺は魔法陣究める!」 天使のような容姿に有るまじき口調で、これまでの人生を全否定するものだった。 * * * * * * * * * 母親である第二皇妃の傀儡だった皇子が前世を思い出して、我が道を行くようになるお話。主人公は研究者気質の変人皇子で、お相手は真面目な専属護衛騎士です。 ○注意◯ ・基本コメディ時折シリアス。 ・健全なBL(予定)なので、R-15は保険。 ・最初は恋愛要素が少なめ。 ・主人公を筆頭に登場人物が変人ばっかり。 ・本来の役割を見失ったルビ。 ・おおまかな話の構成はしているが、基本的に行き当たりばったり。 エロエロだったり切なかったりとBLには重い話が多いなと思ったので、ライトなBLを自家供給しようと突発的に書いたお話です。行き当たりばったりの展開が作者にもわからないお話ですが、よろしくお願いします。 2020/09/05 内容紹介及びタグを一部修正しました。

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

処理中です...