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13 里帰りの道中
294 死の大地1
しおりを挟む「すげぇな……」
ハミナから一般人の足なら五日程度、ヤルモたちの速度なら一日半。トゥオネタル族が暮らす領域に入るには必ず通らないといけない場所で、ヤルモは立ち尽くしている。
ここは死の大地。目の前には砂漠が広がっている。ただの砂漠なら一般人でも越えることもできただろうが、目に見える範囲だけで二十本以上の竜巻が発生しているので、間違いなく生きて帰れない場所だ。
竜巻の発生メカニズムは、この世界の学者がいろいろ発表していたが、実際には全て大ハズレ。
ここから先がこのヨーロミ―ル大陸の最北とあり、南と比べて土地が狭くなっているまでは当てた人はいるが、死の大地はすり鉢状になっているとは衛星写真でもないとわからないだろう。
上空では、南からの暖かい空気と北からの冷たい空気が常にぶつかる場所なので気流が乱れ、その影響で地上では竜巻が発生しやすくなっており、常に発生しては消えと繰り返している特異な土地なのだ。
当然、竜巻蠢く砂漠を抜けられないのならば、東と西の崖側からトゥオネタル族に会いに行こうと考える者もいるが、やめたほうがいい。
上空の空気がぶつかった反動で、下から吹き上げるような風が猛烈に吹き荒れているので、空に何キロと吹き飛ばされて帰らず人となってしまうからだ。
仮に砂漠側で竜巻がクッションとなって奇跡的に助かったとしても、そこは竜巻の巣窟。竜巻を避けようとすれば真っ直ぐ歩けるわけもなく、下手したらグルグルと同じ場所を歩かされてしまう。
さらに熱波と寒波が1時間おきだったり数分おきだったりと入れ替わるので、体温調節もままならない。竜巻の中を歩いても方角がわからなくなるので、砂漠から出ることもできずに干からびるだろう。
海側に落ちれば助かる可能性は高いが、それは一時的。海も大荒れで、泳ぐこともままならない。偶然、陸側に押し戻されたとしても、波の圧力と岸壁に押し潰されてしまう。
海だけでも驚異なのだが、そこには肉食のモンスターがいる。ここは魚が集まりやすい漁場となっているので、人間など間違えて食べられてしまうだろう。
そんな危険地帯を見て立ち尽くしていたヤルモだが、イロナに早めの昼食をしたほうがいいと言われたので、地面に座って携帯食を食べながら喋っている。
「三年に一度ぐらいの頻度でトゥオネタル族がこっちに来てるらしいけど、こんな所、どうやって抜けるんだ?」
「我もこちらに来る前、何度か行き来していたジイさんに聞いたら、普通に真っ直ぐ走るだけと言っていた。その通りやったら抜けられたぞ」
「へ~~~」
ヤルモは気のない返事をしているが、本心は「できるか!」とか思っている。強健で健脚なトゥオネタル族だからこそ、竜巻に吹き飛ばされずに走れるのだと悟った。
「ちなみにそのジイさんは、なんでこっちに来てたんだ?」
「なかなか口を割らなかったから半殺しにして聞き出したら、ケーキが食べたかったらしい。まぁダンジョンではたまにしか手に入らないから、わからんでもない。ただ、人族が作っていると知られると、トゥオネタル族が出て行ってしまうかもしれないから黙っていたようだ」
「へ~~~」
またヤルモは気のない返事をしていたが、見たことも会ったこともない老人には感謝していた。
トゥオネタル族が大移動となったら「それはもうスタンピードじゃね?」と……あと、半殺しにされるまで口を割らないとは「人族の命の恩人じゃね?」と……
「んで、そのジイさんだと、ここを何日ぐらいで抜けられるんだ?」
「運が良ければ一日。悪ければ三日とか言ってたか」
「それは歩きか?」
「走りだ。丸一日走ったらしい」
「となると……俺の足だと倍どころの話じゃないな~」
ヤルモはこれからの過酷な旅を想像して、いまのうちから水は節約したほうがいいかと考える。
「確かに主殿では時間が掛かりそうだな……面倒くさい」
「すまん……」
イロナの時間を奪うのだから、暴力案件。ヤルモは覚悟して頭を出したが、イロナはポンッと手を打っただけで、拳骨は飛んで来なかった。
「我に妙案がある。任せておけ」
「ええぇぇ~」
イロナのナイスアイデアは、なんだか怖いヤルモ。しかし断れば殴られるのは確実なので、イロナの妙案に乗るしかないヤルモであった。
「これでどうするのかな~?」
イロナに言われるままに急遽作った背負子に座ったヤルモは、嫌な予感しかしない。
「我が背負って運んでやるんだ」
「やっぱり……」
「主殿は、影だけ気にしておいてくれ。北から逸れたら教えろ」
「だから早めの昼食にしたのか。ちなみに、刀はなんで握っているんだ?」
「竜巻を斬り裂くためだ。それとモンスターもな。では、行くぞ!」
「待った! モンスター出る、のおおぉぉ~~~!?」
ヤルモの待ったは無視。質問に答え終わったと決め付けたイロナは、ヤルモが喋っているのにも関わらず、走り出してしまうのであった。
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