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13 里帰りの道中

290 寄り道1

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 クリスタパーティーと王都で別れたヤルモとイロナは、まずは北西に向かう。これは、真北は山があって進みづらいってこともあるが、大きな町が無いので食料の補充や体を休めることができないから。
 といっても急いで向かったので、前回二泊三日で走破した道のりを、一泊した次の日のお昼には目的の町に辿り着いた。

「おお~。懐かしいな」
「ここでイロナと出会ったんだよな~」

 イロナが懐かしみ、ヤルモも感慨深く思っている町は、カーボエルテ王国の最北にあるハミナの町。
 アルタニア帝国から遠く離れ、栄えすぎずかといって廃れてもいないちょ~どいい感じの田舎町なので、ヤルモが潜伏場所に選んだ場所だ。

 町に入ると、二人はいつも買い食いしていた広場に繰り出し、イチャイチャしながら思い出話に花を咲かせ、お腹を膨らませる。
 それからいつも使っていた宿屋に向かい、チェックインを済ませたら、とある立派な建物の扉を潜った。

「いらっしゃいませ。私がこの店の館長です。本日は奴隷をお買い上げでしょうか? はたまたお売りになられるの、で……」

 ここは奴隷館。たまたま玄関で鉢合わせた館長のテーム・トゥーロラがペラペラと饒舌に接客を始めたのだが、イロナの顔を見て固まった。

「ぎ……」
「「ぎ??」」
「ぎゃああぁぁああぁぁぁぁ~~~!?」

 そして大絶叫。テームは猫が驚いたみたいに後方に飛んで壁にぶつかり、床に落ちたと同時に腰を抜かした。

「だ、大丈夫か?」

 さすがにここまで驚かれては、ヤルモも心配して優しく声を掛けていた。

「返品怖い……返品怖い……」

 プルプル震えるテームの呟きを聞いて、ヤルモも納得。テームはイロナのせいで、三度も返品の慰謝料を払わされて信頼も失ったのだから、トラウマになっていたのだ。

「イロナを返品する気はないから安心しろ」
「へ?」
「ちょっと聞きたいことがあるだけだ」
「か、神よ……」

 返品しないと聞いただけで、テームはヤルモのことを神様扱い。さらには超VIP対応。上客用の部屋に通し、一番いいお茶菓子や紅茶まで出してくれた。

「それでお話とは……」
「えっと……イロナがあとどれぐらいで性奴隷から解放されるか……」
「なるほど! それは気になりますよね!!」

 テームも納得が早い。ヤルモが早くイロナを手放したいと思って……
 事実は、クリスタから性奴隷の解除を勧められたのだが、ヤルモとイロナが避妊具代わりになるからと断っただけ。
 ただし、若い女性のクリスタにはそんなことは言えないし、ましては「あと何回やったら解放されるの?」なんてヤルモは口が裂けても聞けなかったのだ。
 なので、トゥオネタル族の領域に行く道中にハミナに寄るから、ここで聞いてから、解除してもらうか決めるらしい。

 テームはさっそく奴隷魔法の専門家を呼び寄せて、イロナを調べさせ、驚愕の表情で結果を告げる。

「嘘みたいな話なのですが……もう三割も消化しております……」
「ん? ペースが早いってことか?」
「ペースもそうですが……よく生きてますね! イロナさんを買った人は、一瞬でスクラップになるんですよ!!」

 嘘みたいなのはヤルモの頑丈さ。こんなハイペースでイロナとやっては、人間なんて削れて無くなるとテームは思っていたのだ。

「ま、まぁなんとかな。それでイロナ……どうしよっか?」

 このままテームに喋らせると殺され兼ねないので、ヤルモはイロナに話を振った。

「我としては、もう少しこのままでいたいのだが……主殿は早く子供が欲しいのだろ?」
「イロナはまだまだ若いもんな。そっちに合わせるよ」
「いいのか?」
「このペースなら、あと1、2年だし、恋人気分や新婚気分を楽しもうぜ」
「主殿……」

 ヤルモとイロナが甘ったるい空気を出して喋っていると、テームはこんなことを思っていた。

(あの猛獣と結婚? こいつ……正気か??)

 絶世の美女だが、それを忘れさせるほど一切言うことを聞かないイロナでは、テームにはヤルモが自殺志願者としか見えなかいのであったとさ。


「ところでなんですが……」

 用事が終わったはずなのに、ヤルモたちは帰る素振りも見せずイチャイチャしているので、テームは気になることを聞いてみる。

「イロナさんのことを調べている人がいたのですが……それも高貴な方が調べているようなのですが、イロナさんはもしかして、他国の王族だったのでは?」
「詮索するな」
「申し訳ございませ~ん!」

 急にヤルモが無表情になるものだから、テームは勘違い。カーボエルテ王国の騎士がわざわざ調べていたのだから、他国の王族が身分を隠して逃げているのだと瞬時に悟った。
 だけどテームは察しがよすぎるだけで、単純にヤルモが詮索されるのが嫌いとまでは気付けなかった。

 奴隷館で聞きたいことも聞けたヤルモたちは、イチャイチャしながら町に消えて行くのであった…… 
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