317 / 360
12 凱旋
289 二度目の見送り
しおりを挟むレジェンド装備制作はクリスタの乱入で、国がお金や素材を援助することで話はまとまったのに、口約束だったからヤルモが疑っていた。
「確かにいまは口約束だけど、お父様に直接嘆願書を渡すから、必ずとは言えないけど援助してもらえるはず! それに完全ではないけど、レジェンド武器を作ったなんて世界初だろうから説得に役立つって!!」
クリスタが語れば語るほどヤルモは疑いの目を向けていたが、普通の思考のスロには心に響いていたので、一度話を聞く流れとなっていた。
「ま、やりたきゃそっちで勝手にやれよ。でも、この刀だけは譲れないからな」
我関せずなヤルモがぶっきらぼうに言い放つと、クリスタは両手を合わせる。
「一日だけ……いや、夜まででいいから貸してくれない? お父様に見せたらすぐに返すから!」
そんなお願いされても、人間不信のヤルモには通じない。
「イロナに使い心地を聞いてからだ。あとは好きにしろ」
「やった!」
いや、クリスタの頼みだから、ヤルモは簡単に許可を出す。よっぽどクリスタのことを信頼してるのだろう。
とりあえずイロナは長い刀を握ると、数度素振りして、試し切りまでしていた。
「「「「「おお~」」」」」
切れ味も上々。ヤルモが構えた鈍な剣は、一刀両断。スロが断面を見て最高級の褒め言葉を送っていた。
「うむ。少々軽いが、なかなかいい刀だ。褒めてつかわす」
「いや、嬢ちゃんの腕があってこそだろ。たぶんそいつは、そんじょそこらの剣士には扱えねぇぞ」
イロナとスロが褒め合い、刀談義に花を咲かせているので、話についていけないクリスタはヤルモに助言を求める。
「あの剣って何が違うの?」
「俺たちの剣は、イメージ的には力と重みで叩き斬る感じだろ? 刀ってのは、技と重みで斬り裂く感じらしい」
「う~ん。言ってる意味がわかんないや。ちなみにヤルモさんは使えるの?」
「ちょっと借りたけど、大根すら上手く斬れなかった」
「え!?」
「上手く引かないと斬れない仕組みみたいだ。俺たちの使う剣とは根本的に使い方が違うんだよ」
ヤルモから情報を聞き出したクリスタは刀の試し切りをしたいと言い出していたが、イロナから許可が下りなかった。下手クソに我が子を渡せないんだとか。
なので、スロが練習で作っていた刀を借りて、木で試し切りさせてもらったが、案の定、刃毀れさせていた。
「な? よっぽど器用さが高くないと扱えないんだよ」
「勇者なのに~!」
勇者に扱えない武器があると知って、クリスタはガックシ。しかし、ヒルッカが忍者に転職した際には使えるかもしれないので、武器候補のひとつに入れていた。
武器屋で装備品のメンテナンスや予備のロングソード、各種お店で必要物資を買い揃え、ヤルモに縁のある人に挨拶を済ませたある日……
「何もこんな所までついて来なくてもよかったんだぞ」
王都の外で、ヤルモとイロナは、クリスタパーティと迎え合わせに立っていた。
「だって~。死の大地を越えようとして帰って来た人なんていないんだも~ん」
そう、今日はヤルモたちの旅立ちの日。クリスタたちは今日で最後になるかもしれないと心配でついて来たのだ。
「イロナがいて、どうやって死ぬんだよ。それに、俺より頑丈なヤツはそうそういない。イロナの折り紙付きだ。な?」
「うむ。トゥオネタル族の戦士の中でもトップクラス……下手したら族長より頑丈かもな。……主殿は本当に人族なのか?」
「いまさら!? 両親にも会っただろ~」
「「「「「ブッ……あはははは」」」」」
イロナが出会った頃のようにヤルモの種族に疑いを持つと、ヤルモは情けない声を出す。そのやり取りが面白かったのか、クリスタたちは吹き出して笑い、心配事が飛んで行ったようだ。
「二人が強いことはわかってはいるけど、死なないわけがないでしょ?」
「「……どうだろう?」」
クリスタはこれから喋ることのマクラで「誰しも死は平等」的なことを言ったら、ヤルモとイロナは顔を見合わせる。どちらも相手が死ぬ姿が思い浮かばないらしい。
「そこは『うん』って言って。怖いから!」
なのでクリスタにツッコまれていた。
「えっと……なんだっけ? ……そうそう! 向こうでも式はやると思うけど、私たちも祝いたいんだから、必ずカーボエルテに顔を出してね。盛大な結婚式にするから!」
少し話が逸れてクリスタは話すことを忘れ掛けていたが、なんとかレールに戻してヤルモの返事待つ。
「そんな盛大にやられても困るだけだ。顔を出すのはやめとこっかな~」
「ウソウソ! 顔見知りしかいないから心配しないで!!」
「フッ……冗談だ。必ず会いに来るから心配するな。俺たち友達だろ?」
「うん!」
クリスタの頭を撫でたヤルモは、イロナに視線を向けると頷いてくれた。
「そんじゃあ、またな。土産話、期待しておいてくれ」
「うん! またね」
「「「「また会いましょ~う!!」」」」
二度目の別れは笑顔の別れ。ヤルモもクリスタたちも笑顔で手を振りながら再会を約束するのであった……
* * * * * * * * *
「ホント、人って変わるもんだね~」
ヤルモたちの背中を見送ったクリスタは、オルガに同意を求めた。
「まだ少し疑り深さは残っているみたいですけど、いい傾向ですね」
「やっぱり、オスカリって人と出会ったのがよかったのかな? 歳も近いって言ってたし……」
「たぶん勇者様のおかげですよ。あの件がなければ、ユジュール王国でも人間不信が爆発して、一緒に行動するなんてなかったはずです」
「あははは。人間関係築くの、めちゃくちゃ苦労したもんね」
「本当に大変でした」
二人はヤルモを魔王討伐に送り出した日を思い出して笑い合う。
「さってと……私たちも行こっか」
「「「「はい!」」」」
こうしてヤルモたちを見送ったクリスタパーティは、王都だけでなく各町のダンジョンに潜り続け、カーボエルテ国民からの信頼を築いて行くのであった。
* * * * * * * * *
一方その頃ヤルモたちは……
「さっきまでニコニコしていたのに、急にどうした?」
ヤルモが緊張した顔に変わっていたので、イロナが不思議がっていた。
「いまさらなんだけど……俺ってこれからトゥオネタル族に会いに行くんだよな?」
「そうだ」
「いまさらなんだけど……俺ってイロナの親に会って、結婚報告するんだよな?」
「そうだな」
「緊張するぅぅ!!」
そう。トゥオネタル族でもめったに拝めない種族なのに、そんな種族に「娘さんをください」と言わないといけないことに今さら気付いたヤルモは、緊張マックスとなってしまったのだ。
「ちなみになんだけど、イロナのお父さんって怖い人?」
「我は殴られそうになったら返り討ちにしていたから、よくわからないが……」
「返り討ち……」
「兄たちは何度も半殺しにあっていたな」
「半殺し……」
イロナが父親を返り討ちにしていたから、兄弟が半殺しになっていた逸話がすんなりと入って来なかったヤルモであったが、少しだけ父親に恐怖の天秤が傾いた。
「やっぱ行かないわけには……」
「ほお~う。我に……」
「やっぱりイロナのほうが怖~い!!」
イロナが怒った顔を見せた瞬間、ヤルモはカットイン。恐怖の天秤はズドンッとイロナ側に落ちて行ったのだから仕方がない。
こうしてヤルモは、イロナの恐怖と父親への挨拶に緊張しながら旅立つのであったとさ。
0
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。
隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。
婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。
しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる