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12 凱旋

289 二度目の見送り

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 レジェンド装備制作はクリスタの乱入で、国がお金や素材を援助することで話はまとまったのに、口約束だったからヤルモが疑っていた。

「確かにいまは口約束だけど、お父様に直接嘆願書を渡すから、必ずとは言えないけど援助してもらえるはず! それに完全ではないけど、レジェンド武器を作ったなんて世界初だろうから説得に役立つって!!」

 クリスタが語れば語るほどヤルモは疑いの目を向けていたが、普通の思考のスロには心に響いていたので、一度話を聞く流れとなっていた。

「ま、やりたきゃそっちで勝手にやれよ。でも、この刀だけは譲れないからな」

 我関せずなヤルモがぶっきらぼうに言い放つと、クリスタは両手を合わせる。

「一日だけ……いや、夜まででいいから貸してくれない? お父様に見せたらすぐに返すから!」

 そんなお願いされても、人間不信のヤルモには通じない。

「イロナに使い心地を聞いてからだ。あとは好きにしろ」
「やった!」

 いや、クリスタの頼みだから、ヤルモは簡単に許可を出す。よっぽどクリスタのことを信頼してるのだろう。
 とりあえずイロナは長い刀を握ると、数度素振りして、試し切りまでしていた。

「「「「「おお~」」」」」

 切れ味も上々。ヤルモが構えたなまくらな剣は、一刀両断。スロが断面を見て最高級の褒め言葉を送っていた。

「うむ。少々軽いが、なかなかいい刀だ。褒めてつかわす」
「いや、嬢ちゃんの腕があってこそだろ。たぶんそいつは、そんじょそこらの剣士には扱えねぇぞ」

 イロナとスロが褒め合い、刀談義に花を咲かせているので、話についていけないクリスタはヤルモに助言を求める。

「あの剣って何が違うの?」
「俺たちの剣は、イメージ的には力と重みで叩き斬る感じだろ? 刀ってのは、技と重みで斬り裂く感じらしい」
「う~ん。言ってる意味がわかんないや。ちなみにヤルモさんは使えるの?」
「ちょっと借りたけど、大根すら上手く斬れなかった」
「え!?」
「上手く引かないと斬れない仕組みみたいだ。俺たちの使う剣とは根本的に使い方が違うんだよ」

 ヤルモから情報を聞き出したクリスタは刀の試し切りをしたいと言い出していたが、イロナから許可が下りなかった。下手クソに我が子を渡せないんだとか。
 なので、スロが練習で作っていた刀を借りて、木で試し切りさせてもらったが、案の定、刃毀はこぼれさせていた。

「な? よっぽど器用さが高くないと扱えないんだよ」
「勇者なのに~!」

 勇者に扱えない武器があると知って、クリスタはガックシ。しかし、ヒルッカが忍者に転職した際には使えるかもしれないので、武器候補のひとつに入れていた。


 武器屋で装備品のメンテナンスや予備のロングソード、各種お店で必要物資を買い揃え、ヤルモに縁のある人に挨拶を済ませたある日……

「何もこんな所までついて来なくてもよかったんだぞ」

 王都の外で、ヤルモとイロナは、クリスタパーティと迎え合わせに立っていた。

「だって~。死の大地を越えようとして帰って来た人なんていないんだも~ん」

 そう、今日はヤルモたちの旅立ちの日。クリスタたちは今日で最後になるかもしれないと心配でついて来たのだ。

「イロナがいて、どうやって死ぬんだよ。それに、俺より頑丈なヤツはそうそういない。イロナの折り紙付きだ。な?」
「うむ。トゥオネタル族の戦士の中でもトップクラス……下手したら族長より頑丈かもな。……主殿は本当に人族なのか?」
「いまさら!? 両親にも会っただろ~」
「「「「「ブッ……あはははは」」」」」

 イロナが出会った頃のようにヤルモの種族に疑いを持つと、ヤルモは情けない声を出す。そのやり取りが面白かったのか、クリスタたちは吹き出して笑い、心配事が飛んで行ったようだ。

「二人が強いことはわかってはいるけど、死なないわけがないでしょ?」
「「……どうだろう?」」

 クリスタはこれから喋ることのマクラで「誰しも死は平等」的なことを言ったら、ヤルモとイロナは顔を見合わせる。どちらも相手が死ぬ姿が思い浮かばないらしい。

「そこは『うん』って言って。怖いから!」

 なのでクリスタにツッコまれていた。

「えっと……なんだっけ? ……そうそう! 向こうでも式はやると思うけど、私たちも祝いたいんだから、必ずカーボエルテに顔を出してね。盛大な結婚式にするから!」

 少し話が逸れてクリスタは話すことを忘れ掛けていたが、なんとかレールに戻してヤルモの返事待つ。

「そんな盛大にやられても困るだけだ。顔を出すのはやめとこっかな~」
「ウソウソ! 顔見知りしかいないから心配しないで!!」
「フッ……冗談だ。必ず会いに来るから心配するな。俺たち友達だろ?」
「うん!」

 クリスタの頭を撫でたヤルモは、イロナに視線を向けると頷いてくれた。

「そんじゃあ、またな。土産話、期待しておいてくれ」
「うん! またね」
「「「「また会いましょ~う!!」」」」

 二度目の別れは笑顔の別れ。ヤルモもクリスタたちも笑顔で手を振りながら再会を約束するのであった……


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


「ホント、人って変わるもんだね~」

 ヤルモたちの背中を見送ったクリスタは、オルガに同意を求めた。

「まだ少し疑り深さは残っているみたいですけど、いい傾向ですね」
「やっぱり、オスカリって人と出会ったのがよかったのかな? 歳も近いって言ってたし……」
「たぶん勇者様のおかげですよ。あの件がなければ、ユジュール王国でも人間不信が爆発して、一緒に行動するなんてなかったはずです」
「あははは。人間関係築くの、めちゃくちゃ苦労したもんね」
「本当に大変でした」

 二人はヤルモを魔王討伐に送り出した日を思い出して笑い合う。

「さってと……私たちも行こっか」
「「「「はい!」」」」

 こうしてヤルモたちを見送ったクリスタパーティは、王都だけでなく各町のダンジョンに潜り続け、カーボエルテ国民からの信頼を築いて行くのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 一方その頃ヤルモたちは……

「さっきまでニコニコしていたのに、急にどうした?」

 ヤルモが緊張した顔に変わっていたので、イロナが不思議がっていた。

「いまさらなんだけど……俺ってこれからトゥオネタル族に会いに行くんだよな?」
「そうだ」
「いまさらなんだけど……俺ってイロナの親に会って、結婚報告するんだよな?」
「そうだな」
「緊張するぅぅ!!」

 そう。トゥオネタル族でもめったに拝めない種族なのに、そんな種族に「娘さんをください」と言わないといけないことに今さら気付いたヤルモは、緊張マックスとなってしまったのだ。

「ちなみになんだけど、イロナのお父さんって怖い人?」
「我は殴られそうになったら返り討ちにしていたから、よくわからないが……」
「返り討ち……」
「兄たちは何度も半殺しにあっていたな」
「半殺し……」

 イロナが父親を返り討ちにしていたから、兄弟が半殺しになっていた逸話がすんなりと入って来なかったヤルモであったが、少しだけ父親に恐怖の天秤が傾いた。

「やっぱ行かないわけには……」
「ほお~う。我に……」
「やっぱりイロナのほうが怖~い!!」

 イロナが怒った顔を見せた瞬間、ヤルモはカットイン。恐怖の天秤はズドンッとイロナ側に落ちて行ったのだから仕方がない。

 こうしてヤルモは、イロナの恐怖と父親への挨拶に緊張しながら旅立つのであったとさ。 
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