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12 凱旋

267 ヤルモ家族2

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「うっせぇな~。行きゃあいいんだろ」

 イロナの妻設定を信じてしまっている家族は大合唱で非難するので、ヤルモも嘘を重ねるしかない。結婚もしていないのだから、イロナの両親への挨拶も行く気もないのだろう。

「イロナさん。こんな息子でゴメンなさいね。もしも嫌がったら、引きずってでも連れて行ってくれたらいいからね」

 その嘘は、母親に看破される。結婚のほうも看破してくれたらいいのにとヤルモは思っているが、イロナはずっと腕を組んでいるから母親は見抜けないようだ。

「うむ。主殿を連れて行けばいいのだな。約束しよう」
「お願いね。この子、なんにも知らないから、それまでに仕込んでおくわ。今日は泊まって行くのよね?」

 イロナはヤルモの嘘に乗っかってくれていると信じて、ここからはヤルモが話を奪う。

「宿は取ってあるから、今日はそこで寝るぞ」
「まぁ! 久し振りに会ったんだからそれはないでしょ~」
「見た感じ部屋が余ってないだろ? 近くの宿だから、また明日に顔を出す」

 母親は寂しそうな顔をしたが、本当に部屋は余っていなかったので渋々頷いていた。広い家は居心地が悪いので、家族ギリギリ住める家にしたのは失敗だったと愚痴っていたけど。

「そんじゃあ、また明日な」
「ええ。また明日……うっ……」

 ヤルモが別れの挨拶をして振り向いた瞬間、母親は手を口に持って行った。どうやら、もう二度と会えないと思っていた息子の『また明日』発言がグッと来たみたいだ。
 ヤルモの後ろでは父親が母親を支えていたが、ヤルモはそのまま歩き出したのであった。


「うっ……うぅ……」

 グッと来ていたのは、ヤルモも一緒。母親が泣いていたのは気付いていたようだが、自分もいまにも泣き出しそうだったのですぐに離れたみたいだ。

「また泣くのか?」
「いや、大丈夫……」

 以前、涙の対面を果たした時に、イロナから泣いていたら罰があると言われていたので、ヤルモは必死に我慢。話を変えて感動をまぎらわす。

「なんかごめんな。変なことに付き合わせて。お袋の料理、マズかっただろ?」
「まぁうまいかマズイかで答えるなら、マズかったな」
「やっぱりか……」
「それでも、何か温かみのある味だったと我は思う」

 意外や意外。人の心を持っていないイロナでも、お袋の味は伝わっていた。ヤルモもビックリだ。

「お袋、喜ぶよ」
「こんなことでか?」
「そんなもんなんだよ」
「ふ~ん……」

 今度のヤルモの発言には、やっぱり意味不明な感じになったイロナ。しかし母親の話をしていたので何かを思い出した。

「そうだ。いつ行く?」
「ん? どこへだ??」
「我の家族への挨拶だ。行くと言っていたではないか」
「あ~。アレは嘘だ。イロナも合わせてくれたんだろ?」
「嘘だと……」

 ヤルモは普通に受け答えしていたのだが、何故かイロナの手に力が入って来たので、腕を折られそうになったからギブアップしていた。

「我に嘘をついたのか……」
「痛いって! イロナじゃなくて、お袋たちに嘘ついたんだ!」
「母上と約束したのに、我に約束を破れと言うのか!!」
「わかったから! 行くから手を離して~~~!!」

 ヤルモ、トゥオネタル族の集落へ行くのが決定。なんとか腕は取れずに済んだが、トゥオネタル族の集落なんて行きたくないので、嘘をついたことを後悔するのであったとさ。


 それから三日、ヤルモは家族の元へ毎日顔を見せ、母親の小言に付き合う。やれお土産を持って行けとか、やれヒゲを剃れとか、やれ綺麗な服を着ろだとか。
 ヤルモもそれぐらいはわかっていたので邪険にしていたが、お土産については異議を申し立てていた。

「牛なんて連れて歩けないから!」

 そう。お土産が村人基準だから、ヤルモでもこのプレゼントはおかしいとわかったのだ。
 これは、酒場で冒険者が話をしていたのを盗み聞きしていたからの知識。いいお酒や食べ物、あとはお金を持って行くようなことを聞いていたので、その辺を見繕うと言って母親の土産話は打ち切っていた。

「だから鶏20羽も連れて歩けないって言ってるだろ? ブタも馬も一緒だからな?」

 だって、母親が家畜から離れないんだもん。

 この三日は、イロナ家の挨拶の話だけでなく、子供の頃の話やヤルモがいない間の出来事なんかを多く語り、ヤルモも農業を手伝ったりしていた。
 こんな温い日常はイロナにはつまらないかと思っていたのだが、ヤルモの昔の話を楽しそうに聞き、農業も珍しいのか興味津々で見ていたのであった。
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