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11 アルタニア帝国 帝都2
254 アルタニアの勇者候補6
しおりを挟む「遅いぞ。何やってたんだ」
「すまん。ちょっとイロナたちが……」
地下へと続く階段で待たされたオスカリはお冠。なのでヤルモはイロナの名前を出して、遅れた理由をごまかしていた。説明が面倒だったみたいだ。
それでオスカリは、渋々納得。イロナブートキャンプの生徒は、イロナとあまり関わりたくないのだろう。
その傍らでは、ニコパーティはコソコソやっている。ヤルモたちが戻って来る時に見た、大量のモンスターを簡単に蹴散らしたヤルモとイロナが気になるようだ。
ここまででニコパーティの実力がある程度わかったから、ここからはスピードアップ。オスカリパーティとニコパーティでモンスターを交互に倒している。
さすがは勇者パーティということもあり、モンスターを倒すのがめちゃくちゃ早いし、ダメージを負うこともない。なんなら、後衛のヘンリクとリストですら、杖やモーニングスターで接近戦をしている。
ニコパーティはというと、階が進むごとにモンスターが強くなるので、プリーストのペトラの出番が増える。しかしこれは想定内。聖女マルケッタの出番だ。
ニコパーティの戦闘終わりに神父の立ち会いの元、ペトラとマルケッタに交互に回復魔法を使わせる。
「こいつ……本当に聖女か?? うちの婆様と比べ物にならないぐらい回復してないぞ。こっちの子にも負けてるし……」
すると、早くもマルケッタの化けの皮が剥がれてオスカリたちを引かす。レベルも低く信仰心も低いのでは、本来の聖女としての力を発揮できていないのだ。
「交代に文句ないよな??」
「当然の結果です!!」
神父バンザイ! 元々マルケッタが聖女でいることに納得いっていなかったし、ペトラの実力は本物なのだから、諸手を上げて喜んでいるよ。
聖女問題が早くも解決すると、先を急ぐ一行。相変わらずオスカリパーティとニコパーティでモンスターを倒して進む。
ちなみにヤルモたちは、蚊帳の外。いや、イロナとクラーラは二人でぺちゃくちゃ喋り続けているので、ヤルモだけが蚊帳の外。
なので、ヤルモだけたまに道を逸れて、オスカリたちが無視した宝箱を回収してから、ドタドタ走って合流していた。ヤルモなら道も覚えているし、モンスターも撥ね飛ばせるから楽勝みたいだ。
そうして地図を見ながら最短距離を順調に進んでいたら、地下20階のセーフティーエリアに到着。各々のパーティメンバーが協力して夜営の準備をするが、ヤルモとイロナだけは遠くにテントを張っていた。
「さあ、ごはんよ~」
今日の炊き出しは、イロナを外した女性の仕事。クラーラの指示の元、美味しい料理が作られている。
「うまっ! クラねえ。外でこんなうまい料理が作れるのか??」
皆が美味しく食べているなか、ヤルモは茶色ばかりの料理なのにうますぎるので、クラーラに助言を求めている。
「え? やっちゃんが作ってるの??」
「ま、まぁ……」
「ふ~ん……まぁ得て不得手はあるか。でもね~」
「でも?」
「ちょっと耳貸して」
クラーラがヤルモの耳元でコソコソと語ったことは、戦おかんの秘密。どうやら料理にも戦おかんの職業補整があるらしく、職業が変わってから料理の腕が格段に上がったらしい。ぶっちゃけ、それまでの料理は不人気だったらしい……
「マジか……」
「マジよ。なんだったら、大根を輪切りにしただけでもそこそこ美味しいわよ」
「それってズルくない??」
「だからこうやって、見た目に気を付けてるのよ」
「どこがだ??」
茶色ばっかりのおかん料理の、どこに気を付けてるかわからないヤルモはツッコンでしまったが、クラーラにごまかされてうやむやにされてしまうのであった。
「そんじゃ、ま、ここでやってしまおうか」
食事が終わると、聖女交代の儀式。ヘンリクがマルケッタに命令し、神父の厳かな言葉のあと、ペトラとマルケッタが向かい合わせに膝をつき、指を組みながら同じ言葉を紡ぐ。
その言葉は歌のように聞こえ、皆がうっとりして聞いていたら二人を柔らかく暖かい光が包み、辺りを照らした。
「おお~。なんだかよくわからないけど、凄いな……」
「うむ。よくわからんが凄いと思う」
その儀式に、ヤルモとイロナは感嘆の声を出しているが、ボキャブラリーが足りない。でも、感動はしているっぽい。
その他は、こんな一大イベントは教会の者以外、まず、見ることはできないので率直に感動し、半数は両膝を地面につけて拝んでいる。
そんななか、一際眩しい光がマルケッタの胸から飛び出し、ふわふわとペトラの胸に飛び込んだ。それと同時に柔らかい光は収束し、完全に消え去ると、聖女交代の儀式は終了となるのであった……
わいわいとニコパーティが新聖女となったペトラを囲んでいる離れた場所では、一通り感動の言葉を述べたヤルモがオスカリに質問していた。
「このあと、勇者の転職もするのか?」
「いや、まだだ。勇者就任の儀式は聖女がめちゃくちゃ疲れるらしいしな。ま、元々ニコの性格を見てから判断する予定だったし、それに合格してからだ」
「ふ~ん……力を見るだけじゃないんだ……」
「そうじゃないと、こないだの二の舞になるだろうが」
魔王がダンジョンから出てしまったのは、確実にアルタニア帝国の制度と勇者の性格のせいだから、オスカリは慎重に行きたいようだがヤルモは気になることはある。
「お前もそんな審査を受けたのか?」
「ああ。前勇者のオッサンから、めちゃくちゃ勇者の心得を教え込まれたぞ。もう、うるさいのなんのって」
「……そのわりには、お前の性格って悪いよな?」
「ひでぇ!? 俺のどこが悪いんだ!!」
ヤルモならではの感性。オスカリは超が付くほどガサツで馴れ馴れしいので、いまいちヤルモの目に勇者っぽく映っていなかった。
そのことを指摘したらオスカリはさらにうるさくなるので、ヤルモはますます勇者っぽくないと思うのであったとさ。
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