上 下
278 / 360
11 アルタニア帝国 帝都2

253 アルタニアの勇者候補5

しおりを挟む

「やっぱりお肉は叩いて柔らかくしなくちゃね!」

 オークジェネラル三匹を、大きな四角いハンマーでぺらっぺらにしたクラーラがウィンクしながら戻って来たら、ニコパーティは「さすがっす!」的なことを言いながら出迎える。
 そんななか、オスカリとヤルモは驚き過ぎて口をあんぐり開けていた。

「おい……あのおばちゃん、どうなってんだ?」
「し、しらん……」
「お前より攻撃力なかったか??」
「だからしらねぇっつってんだろ!」

 クラーラの攻撃力は、ヤルモ超え。スピードもヤルモより速かったので、オスカリは同系統のヤルモに意見を求めたようだけど、再会して間もないのでわかるわけがない。

「勇者様のお眼鏡に適ったかしら?」

 二人で揉めていたらクラーラがやって来たので、肘で牽制してからヤルモが口を開く。

「只者じゃないとは思っていたけど、めちゃくちゃ強いんだな」
「あらやだ、そんなんじゃないわ。普通のおばちゃんよ~」
「どこが普通なんだ……」

 クラーラがおばちゃんくさい仕草をしながら喋るが、どこの世界にそんな巨大なハンマーを振り回すおばちゃんがいるんだとヤルモ思っている。
 その会話を聞いていたオスカリは、ヤルモが思い通りの質問をしてくれないので自分から聞く。

「おばちゃんの職業はなんなんだ?」
「職業? 私の職業は変なのよね。『戦おかん』って言うの。本当は戦乙女にクラスチェンジしようと思っていたのにね~」

 戦おかんとは、ヤルモと同じくレア職業。戦士をしつつ多くの子供を7年もの間、必要以上にかまっていたらなれる職業だが、クラーラも偶然なったから知るよしもない。
 クラスチェンジの際にも、ヤルモと同じく間違ってクラスチェンジさせられたので最初は仲間に馬鹿にされたらしいが、さすがは戦おかん。拳骨で黙らせたらしい。

「なるほど……レア職業だから強いのか……ちなみにその大鎚はなんだ??」
「これ? これは偶然引き当てたレジェンド武器よ。ミートハンマーって言ってね。調理器具らしいわ」
「武器じゃねぇのかよ!!」

 変な職業に続き、調理器具で戦っていたと聞いて、オスカリも限界。ついにツッコンでしまった。
 そこで足が止まっていたことに気付き、ダンジョン攻略に戻って行った。たぶん、クラーラのことで疲れたのだろう。


 皆が進んで行くと、最後尾ではヤルモとイロナが喋っている姿がある。

「なあ?」
「ん?」
「クラねえはかなり強いように見えるんだけど、いつものように戦いを仕掛けたりしないのか? あ、やらなくていいんだぞ??」

 ヤルモは失言してクラーラが殺されそうとか思ったが、イロナは何やら首を捻っている。

「う~ん……なんだかる気が起きないんだ」
「イロナにしては珍しい……病気か? あいてっ」
「主殿だって立たない時があるだろ。それと一緒だ」
「うん。わかったからつつかないで。穴開くから。いてて」

 イロナは指でツンツンしているだけのつもりだろうが、ヤルモの腕じゃなかったら、今ごろ穴だらけだ。
 二人がイチャイチャ……ヤルモがイジメられていたらクラーラが下がって来て微笑ましく見ているので、ヤルモは気になったことを聞いてみる。

「こんなことを聞くのは気が引けるけど、その戦おかんってのは、ひょっとしてデメリットがあるのか? あ、言いたくないなら言わなくていいからな」
「あら? やっちゃんは鋭いのね。同郷のよしみで教えてあげたいんだけど、ごめんね。ま、あるとだけは教えてあげるわ」
「ああ。それだけで十分だ」

 戦おかんのデメリットは、子供がいないとその力をフルに発揮できないこと。現在は子供のようにかわいがっていたニコたちがいることで力が発揮できている。
 その気になったら自分の子供のことを思い浮かべるだけで力を発揮できるので、いまのクラーラは最強なのかも知れないが、そのことに気付いていない。
 そのデメリットのせいでムラッ気があるから、イロナの強者センサーに引っ掛からないのだ。

「そういえばやっちゃんも、いい冒険者になったわね。ちょっとあっちでモンスターと戦うところ見せてくれない?」
「俺はいいよ」
「初恋のお姉さんのお願いよ~。あのこと言い振らすわよ~」
「それ、お願いじゃなくて脅しだろ??」

 クラーラの脅しにイロナが興味津々となってしまったので、道を逸れて三人でモンスター退治。しかし、戦っているのはヤルモだけ。

「フフフ。そんなことをしていたのか」
「10歳ぐらいの時にはね~」

 ヤルモは黒歴史を知られたくないがためにオスカリパーティから離れたというのに、クラーラはイロナに喋る喋る。

「おお~い。クラねえが見たいって言ったんだろ~」

 それもヤルモの活躍を一切見ていない。

「そっち行ったぞ~」

 たまにモンスターが二人の元へ向かっても、イロナとクラーラはお喋り継続。モンスターも見ずに、イロナは一刀両断。クラーラもミートクラッシャーでぺちゃんこ。

「もう戻るからな!!」

 なので、ヤルモはキレ気味に本筋の道に戻るのであったとさ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゲームの中に転生したのに、森に捨てられてしまいました

竹桜
ファンタジー
 いつもと変わらない日常を過ごしていたが、通り魔に刺され、異世界に転生したのだ。  だが、転生したのはゲームの主人公ではなく、ゲームの舞台となる隣国の伯爵家の長男だった。  そのことを前向きに考えていたが、森に捨てられてしまったのだ。  これは異世界に転生した主人公が生きるために成長する物語だ。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

【完結】運命の人は虐げられた聖人でした。私があなたを守ります!

金峯蓮華
恋愛
女王である母からの極秘任務を受け、留学と称し母の妹が王妃をしている国に潜入した私はそこで運命の人と出会う。初めて彼に出会った日、私は彼から目を逸らすことができなかった。 ご都合主義の緩いお話です。 独自の世界のお話なので話し言葉等違和感があるかもしれませんが、架空の世界ということをご理解ください。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

婚約破棄され、聖女を騙った罪で国外追放されました。家族も同罪だから家も取り潰すと言われたので、領民と一緒に国から出ていきます。

SHEILA
ファンタジー
ベイリンガル侯爵家唯一の姫として生まれたエレノア・ベイリンガルは、前世の記憶を持つ転生者で、侯爵領はエレノアの転生知識チートで、とんでもないことになっていた。 そんなエレノアには、本人も家族も嫌々ながら、国から強制的に婚約を結ばされた婚約者がいた。 国内で領地を持つすべての貴族が王城に集まる「豊穣の宴」の席で、エレノアは婚約者である第一王子のゲイルに、異世界から転移してきた聖女との真実の愛を見つけたからと、婚約破棄を言い渡される。 ゲイルはエレノアを聖女を騙る詐欺師だと糾弾し、エレノアには国外追放を、ベイリンガル侯爵家にはお家取り潰しを言い渡した。 お読みいただき、ありがとうございます。

異世界で等価交換~文明の力で冒険者として生き抜く

りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とし、愛犬ルナと共に異世界に転生したタケル。神から授かった『等価交換』スキルで、現代のアイテムを異世界で取引し、商売人として成功を目指す。商業ギルドとの取引や店舗経営、そして冒険者としての活動を通じて仲間を増やしながら、タケルは異世界での新たな人生を切り開いていく。商売と冒険、二つの顔を持つ異世界ライフを描く、笑いあり、感動ありの成長ファンタジー!

聖女の加護を受けた一般市民は勇者パーティに必要なのか?~ついでに溺愛も期待してみていいですか?~

椿谷あずる
ファンタジー
異世界で運悪く一般市民に転生した更科しずく。お先真っ暗かと思いきや、偶然出会った少女から加護を受け、勇者パーティに大抜擢。偏屈な魔法使いや訳あり聖女、有能だけどどこか変わり者の仲間達とおりなすファンタジーラブコメディ。第一部完結しました。

処理中です...