268 / 360
11 アルタニア帝国 帝都2
244 第二回特級ダンジョン攻略2
しおりを挟む「おお~。これはまた珍しい」
最終フロアに足を踏み入れたイロナは、蛇のような八つの頭と八本の尾を持つ巨大な四つ足のモンスターを嬉しそうに見ている。
「マジか……ヤマタノオロチなんて、伝説級のモンスターだぞ」
ヤルモはというと、攻略本にも一度しか記載されたことがないモンスターなので、そのレア度から鑑みてかなりの強敵と考えている。
「イロナって戦ったことがあるのか?」
「うむ。二度ほどな。たしか200階以降に出たはずだ」
「トゥオネタル族のダンジョンって、こっちの伝説を塗り替えそうだな」
規格外のイロナを育んだダンジョンは、人族の領域の伝説が揃い踏み。それどころか、もっと凄いモンスターが蠢いているのではないかとヤルモは息を飲む。
「さて……あいつをどうしてやろうか……」
珍しくイロナは戦闘方法を考えているので、余裕だと思っていたヤルモは不安になる。
「そんなに強いのか?」
「そこそこな」
「イロナが苦戦するって……」
「首が八本もあるから、全てを綺麗に斬り落とすのが難しくてな~」
「あ、そっちか」
ヤルモ、納得。ヤマタノオロチは八つの頭から属性違いのブレスを吐くと攻略本に書いていたので、イロナが一本の頭に集中したところに、残りの頭がブレスで邪魔をしたと察した。
「う~ん……試したいことがあるから、主殿も協力してくれ」
「いいけど……何をするか先に聞かせてくれない?」
「それは見てのお楽しみだ。主殿は、ただ耐えてくれたらいいからな」
「耐えるだけでいいなら……」
イロナはめちゃくちゃ楽しそうに笑っているからめっちゃ怖いヤルモ。しかし、いつものような無茶振りでもないので、少し安心するヤルモであった。
「さあ! 行け!!」
「おお!!」
いつもならイロナが真っ先に突っ込むのだが、今回はヤルモから。呪いの大盾を前に構えて、ドタドタと突っ込んで行った。
すると、ヤマタノオロチはヤルモにロックオン。遠距離から炎のブレスと風のブレスの同時発射。風で勢いの増した炎がヤルモを襲う。
「うおおおお!」
しかし、ヤルモは押し負けずにそのまま前進。真後ろに笑いが漏れているイロナがいるから、怖くて止まることができないのだ。
「では、行ってくる」
ヤマタノオロチに十分近付いてブレスが途切れると、イロナは後ろから飛び出して空を駆けて行った。
「どおりゃああぁぁ!!」
ヤマタノオロチの注意がイロナに行くと困るヤルモは、ヤマタノオロチの足に剣を振りかぶっての渾身の一撃。さすがはヤルモ。そのパワーは、ヤマタノオロチを後退させるほどの威力だったので、意識させるには十分だった。
そこからは、ヤマタノオロチの猛攻に晒されるヤルモ。八つの頭から属性違いのブレスが放たれ続け、大盾を上に構えて必死に耐える。
ブレス攻撃だけでなく、踏み付けや頭の打ち付け、噛み付きや尾の打ち回しも来るので、一瞬も気を抜けない。
しかし、直接攻撃はヤルモとしてはありがたい。ヤマタノオロチを崩し、いなして渾身の一撃が放てるからだ。攻撃は自分の体勢が崩れそうなのでやりたくないのだが、ヤマタノオロチの標的が外れないためにはやるしかない。
そのせいで、ヤマタノオロチのブレスが直撃するので、歯を食い縛って耐えるヤルモ。さすがは伝説級ということもあり、ヤルモにもダメージが積み重なるのであった。
一方その頃、イロナは空を駆け、とんでもない速度でヤマタノオロチの首に近付いて、一撃離脱。ヤマタノオロチは痛みが走ってイロナを探すのだが、すぐに離れて射程外に出ているので、ヤルモばかりを攻撃してしまう。
その隙を突いてイロナは一撃離脱を繰り返し、着実にヤマタノオロチにダメージが積み重なって行くのであった。
戦闘時間が長くなっているのに、ヤマタノオロチの頭は一向に落ちない。これではブレス攻撃が一切弱まらないので、ヤルモは楽ができないでいる。
「くうぅ~。イロナのヤツ、何をやってんだ。こんだけ時間を掛けてんだから、半分ぐらい斬り落としてくれよ」
そんな攻撃に晒されているヤルモは、すでにボロボロ。何本もポーションを飲んで、ヤマタノオロチの猛攻を耐えている。
そんななか、ヤマタノオロチの攻撃パターンが変わろうとしていた。
「終わった……いや、発狂か!?」
そう。ヤマタノオロチは残りHPが少なくなり、【発狂】に突入。八つの頭を一旦引いてからの、全ての頭から発射される同時無差別ブレスに突入したのだ。
「あ……なるほどな。それがしたかったのか」
だが、無差別ブレスは不発。ヤマタノオロチの頭は全て根本から切り離され、血を吹き出して空を舞ったのであった……
それはもちろん、イロナの策略。イロナはヤマタノオロチの首の根本にばかり攻撃し、斬りやすく準備をしていた。その力加減は絶妙で、全ての首に同じだけのダメージを与えることに成功する。
そして【発狂】の発動は、イロナの待ってましたのタイミング。ブレスを吐くタメの瞬間に凄まじい速度で斬撃を加え、八つの頭をほぼ同時に斬り落としたのだ。
「フフン♪ 八本の噴水は見物だな」
こうしてイロナは、ヤマタノオロチから吹き出す八本の血の噴水や頭が落下する様を見ながら笑うのであった……
10
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。
隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。
婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。
しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる