244 / 360
10 アルタニア帝国 帝都1
223 特級ダンジョン1(アルタニア帝国)
しおりを挟む「さてと……行こうか」
「おう!」
お疲れ様会から二日、装備の整備は終わり、ヤルモとイロナは特級ダンジョン制覇に挑む。
いまのところ冒険者ギルドは営業していないので、ポーション等の回復アイテムは補給できなかったが、ヤルモが持っている物で足りると判断し、どうせこれから増えるから関係ないと割り切っていた。
携帯食だけがろくな物がないので、そこは食堂で貰ったレシピでヤルモが作るみたいだ。
特級ダンジョンの入口は現在、四方を囲む壁が破壊されているので、アルタニア軍が急ピッチで建設作業をしている。
それを横目に見ながらヤルモたちは、申し訳なさそうに置かれたテーブルの前に立つ兵士に入る旨を伝えて、サインしてから地下へと向かう階段を下りて行く。
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない」
階段を下りていたらイロナが笑っていたのでヤルモは質問していたが、はぐらかされたので聞くに聞けない。元々その笑い方が怖かったから……
「前に入った時とは壁の配置が変わってるな……ダンジョンチェンジがあったみたいだ」
少し進んだところでヤルモの記憶と違っていたから、ストップして話し合う。
「モンスターも強いだろうから一気に下りるのは少し面倒だな。150階もあるし、今回はゆっくり行こうぜ」
「致し方ない。まぁ主殿なら、真っ直ぐ下りられるだろう」
ヤルモは経験から、めったに道に迷うことなく次のフロアの階段に辿り着けるので、イロナからの信頼は厚い。特に不満を言われることもなく、ヤルモたちは歩き出したのであった。
特級ダンジョン地下1階は、誰も入っていなかったこともあり、モンスターはそこそこ強い。
しかしイロナからしたら、ザコ。ヤルモも前回潜ってから急激にレベルが上がっているので楽に倒している。
「「お~。もう1階が終わった」」
地下へと向かう階段に着いたら、同時に同じことを口走る二人。ヤルモは前回、足手まといだらけだったので、イロナが頼りになるからの言葉。イロナは、ヤルモの道案内が素晴らしいからの言葉だ。
「ドンドン行こうぜ」
「うむ!」
こうしてヤルモとイロナはモンスターを蹴散らして、次々とフロアを下って行くのであった。
「予定よりめちゃくちゃ早くに着いたな……」
地下20階のセーフティーエリアで夜営をする予定だったが、現在は14時前なので、ヤルモはイロナに意見を聞く。
「どうする? 無理して先に進むか??」
「当然だ」
「だよな~」
聞くだけ無駄。ヤルモもイロナの答えはわかっていたので、大盾を下ろすこともせずにそのまま歩き出した。
またモンスターを蹴散らして進んでいたら、夕食時。昼食と同じく階段に座って、消費期限が近い携帯食を腹に入れる二人。
軽い食事と30分の休憩で気分のリフレッシュをしたら、再び『ガンガン行こう』。
20時過ぎには、地下40階のセーフティーエリアに辿り着いたのであった。
ヤルモはせかせかとテントは張って、イロナはちょっとだけお手伝い。寝床の準備が整ったら、ヤルモクッキングの開始。
レシピを見ながらフライパンを振るい、鍋に食材をぶち込む。イロナはそれを興味津々で見ていたが、獲物でも見るような目だったのでヤルモが怖がっていた。
「う~ん……レシピ通り作ったのに、なんか違うな」
結局できあがった物は、ザッツ男飯。肉が焦げていたり、煮すぎて食材が崩れていたりしているので、見た目は悪い。
「まぁ冷めたらマズくなりそうだし、食ってしまおうぜ」
「うむ」
ヤルモは味にも自信が無いので、早く食べるように促したら、イロナはシチューから口に入れた。
「おっ! なかなかいけるんじゃないか?」
「マジか?? あ……うん。見た目はアレだけど、作ってもらった味に似てる」
見た目は確かに残念だけど、調味料の量は概ね合っていたので、そこそこ美味しいシチューとなっていた。
なのでイロナはステーキにも手を伸ばし、批評。こちらは焼き過ぎで硬かったみたいだが、ソースは貰った物だから美味しかったので、まずまずのできのようだ。
「もうちょっと練習したら、もっと美味しくなるんだろうな~」
ヤルモがパンをシチューに浸して口に入れると、イロナもマネをする。
「前に食べた主殿の料理と比べれば、天か地かってほどだ。そのメモを見ていただけなのに、こんなに腕が上がるのだな」
「まぁ一番簡単で手っ取り早い料理を教えてもらったからな」
「その通り作れば、我でも作れると思うか?」
「俺でもできたんだから、イロナでもできるだろう」
「そうか……ならば、明日は我が挑戦してやろう!!」
「楽しみだな~」
もう忘れているヤルモ。イロナの料理でノックダウンしたことをヤルモは忘れ……いや、記憶から消していたので、イロナを止めずに楽しそうにするのであった。
「その前に、我の仕事だ!!」
「あ、はい。お手柔らかに……」
そして今日もイロナサービスで、HPを減らしてから眠るヤルモであったとさ。
8時間の睡眠を取り、昨日の料理の残りを平らげたヤルモとイロナは、今日も『ガンガン行こう』。
しばらく放置された地下150階もあるダンジョンなので、ダンジョンレベルが上がっていることもあり、地下41階からすでにモンスターが強くなっている。
だが、カーボエルテの特級ダンジョンの下層程度のモンスターなので、二人に取ってはたいして変わらない敵。しかし、質、量ともに倍増しているので、昨日よりダンジョン攻略が遅くなっている。
といっても20階進むのに、一時間遅くなっただけ。15時過ぎには、地下60階のセーフティーエリアに辿り着くのであった。
1
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。
隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。
婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。
しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる