243 / 360
10 アルタニア帝国 帝都1
222 報酬5
しおりを挟むヤルモVS勇者オスカリの模擬戦は、ほぼ同時に放った攻撃を受けてお互いが吹っ飛び、倒れる結果となった。
「「………」」
そして、ダブルノックダウン。
オスカリの会心の一撃を五発もまともに喰らっては、頑丈なヤルモでもダメージは大きい。
片やオスカリは、ヤルモのカウンターの渾身の一撃をまともに受けてしまったので、こちらも立ち上がれないでいる。
二人が倒れてから五秒の経過……イロナから勝敗が告げられる。
「もういい。狸寝入りはやめろ」
「「………!?」」
いや、イロナに死んだふりがバレていると知って、ヤルモとオスカリはギクッとして体が揺れた。
「そのまま永遠に眠りたいのだな……」
「「起きます!!」」
イロナの殺気に当てられて、ヤルモとオスカリは飛び起きた。どうやらお互い死んだふりでやり過ごそうと思っていたようだ。
最後のやり取りはけっこう痛かったので「もう負けでいいや」と立ち上がろうとしなかったのだが、どちらも立ち上がる気配が無かったから「相打ちになるならそっちのほうがいいな~」とか、甘いことを考えていたのだ。
「まぁ、これ以上やっても結果は見えている。引き分けだ」
イロナから模擬戦の終了を告げられたヤルモとオスカリは、小さくガッツポーズ。どちらもHPを半分は減らしていたので、やめたかったようだ。
ちなみにイロナの予想では、長期戦に突入してヤルモが優位と考えているので、これ以上見ても面白くないから引き分けと宣言したのだ。
「では、次は我の番だな……」
「「え……」」
そう。そんな長時間同じやり取りを見るよりも、やったほうが楽しいと思って……
「全員でかかってこい!!」
「「「「「ええぇぇ~……」」」」」
こうしてヤルモプラス勇者パーティは、イロナに甚振られ続けるのであった。
「くそっ! ヘンリクのヤツどこ行ったんだ!!」
いつの間にか消えていたヘンリク以外……
イロナブートキャンプは、思ったより早く終了。全員、まだ完全に疲れが抜けていなかったことと、ヤルモとオスカリが先の模擬戦のせいで動きが悪かったので、本来の力を出せずにすぐに倒れてしまったからだ。
イロナも「失敗した」と呟きながら、残りの三人をぶっ飛ばして終了となった。
「お前がよけいなことを言うから、こんなことになったんだからな……」
「す、すまん。もう、ヤルモのことはからかわない」
フラフラで歩くヤルモとオスカリは、文句と謝罪。その足で、レジェンド装備が置かれている部屋に戻った。
「う~ん……これとこれを貰っておこうかな?」
途中だった報酬受け取りは、呪いの大盾とイロナの剣と軽鎧に加えて、ナイフと片刃の短い剣を追加するヤルモ。
「それ、お前が使うのか??」
「剣はイロナの予備で、ナイフはバラしてもらう予定だ」
「予備はわからんではないが、レジェンド武器をバラすだと??」
オスカリが驚いているので、ヤルモはちょっと説明。
「イロナ用にSSS級の剣を四本作ったんだけど、ニヶ月で三本がおじゃんだ。だから、鍛冶屋でレジェンドが作れないか調べてもらうんだよ」
「ニヶ月でトリプルを三本も折ったのか……そりゃ、金が掛かるわな」
ここでようやくオスカリ納得。高い剣を消耗品のように取っ替え引っ替えされては、金がいくらあっても足りないと悟った。
本当はヤルモが素材を出したからそんなにお金は掛かっていないし、剣を折ったのもオスカリが一本と魔王が二本で、ここ最近の出来事だからヤルモがケチなだけなのだが……
「あ、そうだ。その長い剣って、新しく作れないか??」
イロナのロングソードが残り一本なので、ヤルモは鍛冶職人のアンテロにお願い。残念ながら腕がドワーフのスロよりも劣るので、素材があっても難しいから諦めるしかなかった。
「んじゃ、こっちのヤルモと嬢ちゃんの装備から手入れしてやってくれ」
鍛冶場での用事が済んだら、オスカリが一声掛けて撤退。ヤルモは真っ直ぐ滞在場所に帰ろうとしたら、オスカリから待ったが掛かった。
「面倒だ。金だけ持って来てくれ」
その内容は「皇帝と謁見して金一封を受け取る」だったのでヤルモはこの始末。お金は欲しいけど、目立つことはしたくないようだ。
オスカリもヤルモの返事はわかっていたので、やれやれって顔をして了承していた。
それから分かれ道が来たら、勇者パーティは皇帝の滞在する屋敷へ向かい、ヤルモとイロナはイチャイチャしながら宿泊場所へと向かうのであった。
夕食時……
「いまさらだけど、魔王討伐記念の宴会すんぞ! お疲れ! そしてかんぱ~~~い!!」
「「「「「かんぱ~~~い!!」」」」」
オスカリの雑な音頭で始まる宴会。出席者は、勇者パーティとヤルモパーティ。身内だけと行きたいところだが、料理や酒を運ぶ人が必要なので、アルタニア軍から来た数人が料理人と給仕をしてくれている。
話題は、イロナとヤルモの秘密と言いたいところだが、聞くとあとが怖いので、魔王戦までの苦労話。
あの時はああだったとか、あの時はこうしておけばとか……
ほとんど反省会のようになっているが、ずっと笑いながら語っているので、端から見ている兵士の目には楽しい宴会に映っている。
ただし、戦闘現場はアルタニア兵は見ていなかったので、勇者パーティが倒したと思っていた魔王がイロナひとりに倒されたと知って驚いていた。
さらに、イロナの怖い話で畳み掛けたので、アルタニア兵はこんなことを思っていた。
あの女、魔王じゃね? っと……
この日の宴会は、勇者パーティの笑い声しか聞こえずに、夜が更けて行くのであった……
11
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。
隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。
婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。
しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる