上 下
235 / 360
09 アルタニア帝国

215 アルタニアの魔王10

しおりを挟む
 空には、金色の全身鎧をまとい、背中から生えた真っ白な翼を羽ばたかせるイロナ。地上には、触手剣を全て斬り落とされた魔王と、ボロボロのヤルモと勇者パーティ。

 この場にいる全ての者は、バッサバッサと翼を羽ばたかせ、空から舞い降りるイロナに釘付けになっていた……

「イロナ……だよな?」

 さすがに見たこともない容姿になったイロナがヤルモたちの目の前に舞い降りたならば、確認せざるを得ない。

「我に決まっているだろう。もう顔を忘れたのか」
「いや、天使が舞い降りたのかと思って……」
「クックックックッ。初めて会った時のような顔をしているぞ」
「本当に、イロナは美しい……」
「そう褒めるでない」

 ヤルモがべた褒めすると、イロナは珍しく頬を赤らめる。だが、そんなイチャイチャは、いまはやってほしくないオスカリが前に出た。

「嬢ちゃんには驚かされてばかりだが……ちょっといいか?」
「「ん?」」
「魔王の触手がくっついているんだけど……」
「ああ。すぐに終わらせる。下がっていろ」
「う、うん……」

 イロナが金色の剣を振って構えたら、オスカリはヤルモとトゥオマスに目配せする。

「「「逃げろ~~~!!」」」

 そして、すたこらさっさ。全力疾走で逃げ出した。

 だって、剣を軽く振っただけで地面を削っていたんだもん。こんなに近くにいたら、余波で体が真っ二つになりかねないと思ったらしい……


 ヤルモたちが逃げ出すと、イロナはツカツカと歩き、触手剣をくっつけていた魔王に近付いた。

「さあ! 第5ラウンドと行こうじゃないか!!」
「グオオォォ!!」

 イロナ、魔王、両者の掛け声と共に、戦闘の開始。先手は、触手剣を伸ばした魔王。

「??」

 その触手剣は、イロナの手前で粉々。何かの間違いかと魔王は他の触手剣でイロナを斬ろうとしたが、三本の触手剣も同じ結末となった。

 これは全て、イロナが素早く斬ったのだ……

 イロナの奥の手とは、【戦女神化】。

 翼を生やして飛ぶだけが能力ではない。
 鎧を着て防御力を上げるだけが本来の力ではない。
 金色の剣を何本も作れたり攻撃力を上げるだけが真骨頂ではない。

 【戦女神化】とは、イロナの身体能力を十倍も跳ね上げるのだ。

 あのイロナの身体能力が十倍も跳ね上がるのだから、ただのチート。魔王は一方的に斬られ、ダメージが蓄積されるのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


「おいおいおいおい。なんだありゃ……」

 城壁まで撤退した勇者パーティは、イロナの攻撃力を見て蒼白。そりゃ、今まで苦労して傷を付けるのがやっとだった魔王の触手剣が、イロナに触れるぐらい近付くと消えているのだからそうなってもおかしくない。

「ヤルモ……お前は知っていたのか??」

 異次元の強さのイロナを見たからには、オスカリも誰かに質問せざるを得ない。

「いや……初めて見た……」

 ヤルモも知らないことだったから呆気に取られているので、オスカリも信じざるを得ない。

「てか、なんなんだよお前ら……どっちも変な姿になるし、攻撃力も防御力も異常だし……」
「俺に聞かれても知らん」
「お前のことも言ってるんだよ!」

 もちろんヤルモも自分のことを言われていると気付いていたが、言うわけがない。それよりも、イロナの戦闘に見入っている。

「もう発狂になった……」
「嘘だろ……てか、俺たちもダメージ与えてたし、そのおかげだろうな~」
「それだといいな」
「んなわけないだろ! ツッコめよ!!」

 オスカリだって誰のおかげで魔王のHPが減っているのかは、わかりきっていたこと。ヤルモが思い通りのことを言ってくれないので、ツッコムのであったとさ。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 イロナVS魔王は、【発狂】が発動したからには佳境。

 魔王が放つ地面からそびえ立つ赤黒い槍は、イロナに接触する前に斬られて霧散。辺り構わず振り回される触手剣も、イロナに近付くと消え失せる。その他の触手剣も、イロナは何本もの金色の剣を放ち、斬り刻んで消滅。
 魔王は幾度も触手剣を復活させるが、その都度イロナが消滅させ、胴体には金色の剣が幾百と突き刺さる。


 もう、巨大な魔王の姿なんて見えないぐらい多くの金色の剣を突き刺し、端から見たら金色の剣山のような巨大な山が出現した。

 そうして金色の剣山は徐々に小さくなり、消え去った中心には、最初の姿の魔王ただ一人が立ち尽くしていたのであった……


 魔王の前に舞い降りたイロナは、無言で剣を向けた。

「フハハハハ。ここまで強い者が地上にいたとはな。余の完敗だ」
「貴様もなかなか強かった。楽しかったぞ」
「楽しむ、か……余も、最後に楽しい最後を迎えられたのかもしれん……しかし、負けは負けだ。トドメを刺してくれ」
「その意気も天晴れ! さらばだ!!」

 魔王の言葉に、イロナは笑顔で首をねて終わりとする。

「フハハハハ。これで終わりではない。いつかまた余は復活して、貴様の前に立とうじゃないか! フハハハハ」

 魔王は頭だけとなり、灰となりながらも捨て台詞を残し……

「うむ! また会おう!!」

 イロナは嬉しそうに再戦を約束する。


 斯くしてアルタニア帝国に現れた魔王は、勇者パーティに討伐されず、イロナの手によってほうむられたのであった……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

試される愛の果て

野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。 スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、 8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。 8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。 その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、 それは喜ぶべき縁談ではなかった。 断ることなったはずが、相手と関わることによって、 知りたくもない思惑が明らかになっていく。

【完結】言いたくてしかたない

野村にれ
恋愛
異世界に転生したご令嬢が、 婚約者が別の令嬢と親しくすることに悩むよりも、 婚約破棄されるかもしれないことに悩むよりも、 自身のどうにもならない事情に、悩まされる姿を描く。 『この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません』

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

藤なごみ
ファンタジー
※コミカライズスタートしました! 2023年9月21日に第一巻、2024年3月21日に第二巻が発売されました 2024年8月中旬第三巻刊行予定です ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。 高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。 しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。 だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。 そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。 幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。 幼い二人で来たる追い出される日に備えます。 基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています 2023/08/30 題名を以下に変更しました 「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」 書籍化が決定しました 2023/09/01 アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります 2023/09/06 アルファポリス様より、9月19日に出荷されます 呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております 2024/3/21 アルファポリス様より第二巻が発売されました 2024/4/24 コミカライズスタートしました 2024/8/12 アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です

【完結】会いたいあなたはどこにもいない

野村にれ
恋愛
私の家族は反乱で殺され、私も処刑された。 そして私は家族の罪を暴いた貴族の娘として再び生まれた。 これは足りない罪を償えという意味なのか。 私の会いたいあなたはもうどこにもいないのに。 それでも償いのために生きている。

前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙
BL
ハーララ帝国第四皇子であるエルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララはある日、高熱を出して倒れた。数日間悪夢に魘され、目が覚めた彼が口にした言葉は…… 「皇帝なんて興味ねえ!俺は魔法陣究める!」 天使のような容姿に有るまじき口調で、これまでの人生を全否定するものだった。 * * * * * * * * * 母親である第二皇妃の傀儡だった皇子が前世を思い出して、我が道を行くようになるお話。主人公は研究者気質の変人皇子で、お相手は真面目な専属護衛騎士です。 ○注意◯ ・基本コメディ時折シリアス。 ・健全なBL(予定)なので、R-15は保険。 ・最初は恋愛要素が少なめ。 ・主人公を筆頭に登場人物が変人ばっかり。 ・本来の役割を見失ったルビ。 ・おおまかな話の構成はしているが、基本的に行き当たりばったり。 エロエロだったり切なかったりとBLには重い話が多いなと思ったので、ライトなBLを自家供給しようと突発的に書いたお話です。行き当たりばったりの展開が作者にもわからないお話ですが、よろしくお願いします。 2020/09/05 内容紹介及びタグを一部修正しました。

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

処理中です...