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09 アルタニア帝国

209 アルタニアの魔王4

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「おっ! できたんじゃね? 見たか??」

 勇者オスカリは支援魔法を重ね掛けしてもらい、空中浮遊の練習中。三歩ほど空中を歩けたようで、仲間と共にやんややんやと騒いでいる。

「見た目はオッサンなのに、中身はガキかよ……」

 そんななかヤルモは呆れていたが、空を見上げてイロナVS魔王の戦闘に目を移すと、動きがあったので焦り出した。

「おい、お前ら! 遊んでる場合じゃないぞ!!」
「あん? それより見ろよ。コツが掴めて来たから、五歩は歩けるぞ」

 オスカリが空中浮遊をしようとしたが、ヤルモは止める。

「離れるな! 魔王が降って来るぞ~~~!!」

 どうやら空では、空中戦を繰り広げていたどちらかが下方向に攻撃したことによって、落下中だったらしい。

「へ……?? うおおぉぉ~~~!!」

 そのことに気付いたオスカリは、必死のエアウォーク。少し雑だが、五歩どころか三十歩ぐらい走れるようになっていた。

 オスカリが走り出した頃に「ドォォォーン!」と地面が爆ぜ、クレーターが作られたのであった。


「あっぶね……」

 城壁に飛び乗ったオスカリは、砂埃で見えなくなった場所を凝視しながらヤルモに問う。

「どっちが落ちて来たんだ?」
「だから魔王って言っただろ」
「ヴァンパイアのほうか」

 オスカリにとってはどっちも魔王なので、確認が必要だったようだ。皆も納得したと同時ぐらいにイロナが着地したので、ヤルモが大声を出す。

「ここからが本番か~~~?」

 その問いにイロナは剣をかかげたので、ヤルモはイエスと受け取った。しかし、オスカリたちには意味が通じない。

「本番って、どういうことだ?」
「第二形態って聞いたことがあるだろ?」
「おお! 魔王が強くなるアレか? 初めて見る……」
「そりゃ、何度も魔王が発生してたら一大事だ」
「俺もちょっとぐらい経験してみたいな……」
「やめておけ。イロナは協力してくれないぞ」

 不穏なことを口走るオスカリに、ヤルモは脅して止める。前回は同じことを言って魔王とサシで戦わされたから、オスカリも同じことになると思って……


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 そんなヤルモたちとは別に、クレーターの中央で魔王が立ち上がった。

「いまのは効いたぞ」
「フンッ……おべっかはいらぬ。さっさと第二形態になれ」
「だから待っていたのか……ならば、少々時間をいただこう!」

 イロナが攻撃しないと聞いて、魔王は安心して第二形態に変身する。
 カーボエルテの魔王と同じく竜巻が発生し、その数十秒後には、魔王第二形態が現れた。

「ふむ……思っていた形と違うな」

 魔王の姿は、血で作られた全身鎧に守られた姿。それに加え、四本の腕が背中から生えて、その全てに血の色をした剣が握られている。

「フフ……この姿で戦えるとは思っていなかったぞ」
「ん? 第二形態でも意識があるのか??」
「他の魔王はどうか知らないが、この程度なら容易たやすい」
「なるほど……それならば、さらに楽しめそうだな!!」

 いつもの魔王ならば、第二形態は力任せになるのでイロナには物足りなかったようだ。だが、今回の魔王は意識があると聞いて、イロナは嬉々として突っ込んだ。

 イロナはまず、小手調べの飛ぶ斬撃。これは魔王の二刀で弾かれ、次の本命の斬り付けも二刀で防御された。
 その神速と言っても過言ではないイロナの攻撃でも、魔王はまだ剣が二本余っているので、反撃。一本は縦に、もう一本は横に振るった。

「チッ……」

 イロナは素早く魔王の二刀を剣で弾いて防御したが、その直後に右斜め上と左斜め下から剣が降って来たので、後ろに跳ぶしかなかった。

「まだまだ~!!」

 そこに追い付く魔王は六刀流の斬り付け。全て不規則に動くものだからイロナも攻撃に移れず、剣で受けたり後退して避けたり。
 防戦一方に追い込まれるのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 一方その頃、オスカリは……

「おいおい……お前の女、てこずってんぞ?」

 イロナが不利に見えているので、ヤルモに質問していた。

「珍しい……」
「珍しいじゃなくて、助けに行くとか考えないのかよ」
「行きたいけど、蹴られるし……」
「お前の女だろ。手綱ぐらい握れよ」

 ヤルモが消極的なことを言うと、オスカリにツッコまれた。

「じゃあ聞くけど、お前が俺の立場なら行くのか?」
「まぁ……時と場合によってはだな……」
「ほれみたことか」

 ヤルモがムッとして反論したら、オスカリは勇者らしからぬ消極的な感じを出す。イロナとはあまり関わり合いたくないのだろう。

「でも、嬢ちゃんが負けたらマズくないか? ぶっちゃけ、俺たちでも勝てるかどうか……」
「う~ん……まだ本気出してないし、大丈夫かな?」
「はぁ!? アレでまだ本気じゃなかったのか!?」

 イロナが本気で戦っていなかったと聞いて、オスカリは声が大きくなる。

「たぶん、アレはアレで本気なんだ。ただ、肉体を強化するようなスキルを使うと楽しめないから自重してるんだと思う」
「それって……まんま魔王の第二形態と一緒じゃねぇか……」

 ヤルモの説明を受けて、オスカリたちは「やはりイロナは魔王なんじゃね?」と陰口を叩くのであったとさ。
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