上 下
215 / 360
09 アルタニア帝国

195 魔都2

しおりを挟む

 魔王討伐作戦、開始間近……

「おい……あの二人、様子が変じゃないか??」

 ヤルモとイロナを見たオスカリは仲間とコソコソやっている。
 そりゃ、ヤルモがいつもより男らしい顔をキリッとして、イロナが乙女のような顔でモジモジしているのが気になるのだろう。

「なんかあったのか??」

 仲間に聞いてもその謎が解けないので、オスカリは直接聞いちゃった。

「別に……な?」
「ん……な?」
「いや、絶対なんかあるだろ! いだ~~~!!」

 凛々しいヤルモと乙女なイロナにしつこく聞いては、照れたイロナから張り手が来ても仕方がない。
 昨夜は珍しくヤルモが攻めてイロナを喜ばせたから、こんな態度の逆転現象が起こっているのだ。あの魔王を征服したヤルモに自信が現れ、なんだかよくわからない感情に目覚めたイロナ。
 結局は二人の謎が解けないままオスカリがのたうち回るほどのダメージを負って、魔王討伐作戦の開始となるのであった。


「さあ! 前進だ~~~!!」

 ヤルモたちがわいわいやっていても作戦は進み、賢者ヘンリクの号令でアルタニア軍は前進する。ヤルモとイロナは腕を組んで歩き、勇者パーティはイチャイチャする二人に続く。
 そうして帝都前に着いたアルタニア軍が陣形を組んでいると、オスカリがイチャイチャしてる二人に声を掛けた。

「なんかよくわからんが……」
「「うん?」」
「魔王を倒しに行かないのか??」

 イロナなら、アルタニア軍の配置なんて気にせず突っ込んで行くと思っていたので、ヘンリクもそれを想定して作戦を組んでいる。
 しかし二人でチチクリ合っていたから、オスカリはよけいなことを聞いてしまったのだ。

「ま、魔王……」

 そのせいで、イロナの闘志がわなわなと湧き上がり……

「いだっ! 痛いって~!!」

 そのせいで、イロナの締め付けが強くなってヤルモの腕が折られそうになった。

「主殿! 行くぞ!!」
「走るから~~~!!」

 イロナ、完全復活。ヤルモも情けなさ復活。首根っこを掴まれて、イロナに引きずられて行くヤルモであった。

「俺……なんかマズイこと言ったか??」
「「「「お前のせいだ」」」」

 せっかく大人しくなっていたイロナが元に戻っては、オスカリの元へ非難の声が殺到するのであったとさ。


「こんなことしてる場合じゃないだろ! 行くぞ!!」
「「「「おう!!」」」」

 オスカリたちが揉めていても、イロナがヤルモを引きずって進んでいるので遅れるわけにはいかない。勇者パーティは焦って駆け出し、数人の伝令兵がそのあとに続く。

 その前方、先行していたイロナであったが、急に後ろに飛んだがために、ヤルモが宙を舞ってドシャリと落ちた。

「やっと離してくれた……てか、どうして止まってるんだ??」
「上だ」
「うえ??」

 ヤルモは引きずられて後ろしか見えなかったので、イロナの行動に理解が追い付いていない。しかしイロナが上を指差すと、状況を理解した。

「はい? モンスターが籠城戦してるだと??」

 そう。外壁の上にはモンスターらしき影がずらっと並び、弓や杖を構えていたのだ。

「クックックッ。面白いことをして来る……魔王が学習するというのは本当だったようだな」
「マジか~。こんなの兵士が大変だぞ」
「まぁ我らには関係ないことだ」
「そりゃそうだけど……イロナは上を占拠してくれないか?」

 弓矢や魔法を掻い潜って中に入るのは自分たちなら余裕だが、兵士に死傷者が出るのは確実なので、ヤルモはダメ元でお願いしてみた。

「うむ……そっちに面白そうなのがいるかもな。任せろ!」
「スタミナは温存するんだぞ~?」

 イロナは強い敵がいると思ってヤルモ案をすんなり受け入れた。その直後、勇者パーティがヤルモに追い付く。

「おい……お前の女……空飛んでるぞ?」

 そして、空を駆けて行ったイロナに驚いた。

「賢者から聞いてないのかよ」
「お前! 知ってたのかよ!?」

 今回はヘンリクも勇者パーティに参加しているので、オスカリたちから文句を言われていた。たぶん驚かそうと思って教えなかったのだろうが、ヤルモが割り込む。

「そんなことより、モンスターが外壁から攻撃して来たんだよ。対策考えろよ」
「なんだと!?」
「いちおうイロナを送り込んだけど、どこまで倒してくれるかわからん」

 ヤルモが報告するとオスカリは驚いているだけなので、会話はヘンリクと代わる。

「それだけで十分だ。その隙に突っ込もう」
「んじゃ、俺が先行する。適当についてこい」
「「「「「おう!」」」」」

 適材適所。ヤルモの頑丈さは勇者パーティにも知られているので、先行しても問題ない。ただし、外壁からの攻撃では角度があるので、ヤルモが守れるのは真後ろの少しだけ。
 ヤルモは大盾をプラカードのように真上にかかげて走り、自分への攻撃は無視。弓矢や魔法を顔や体に喰らっているのに、ものともせずに進んでいる。

 勇者パーティは、伝令で連れて来ていた数人のアルタニア兵を守らなくてはならないので防御重視。直撃しそうな攻撃の数が多ければ、魔法で対応。単発ならば剣等で薙ぎ払う。
 本来ならば数百の攻撃が降り注ぐのだろうが、すでにイロナが外壁の上で暴れているから簡単に守れているのだ。

 そのイロナはというと、襲い来るモンスターを小間切れにしながら品定めしている。

「人型ばかりだな……これはひょっとして、ヴァンパイア……いや、レッサーヴァンパイアか?」

 モンスターの正体は、ヴァンパイアより劣る自我の無いレッサーヴァンパイア。
死して尚、魔王に操られる哀れなアルタニア国民だ。だというのに、イロナは容赦ない。一切躊躇ためらうことなく斬り刻んでいる。

 そうこうしていたら、ヤルモたちも外壁の門に到着。皇帝が暮らす首都ということもあり、その門は大きくて分厚い。

「おらああぁぁ!!」

 だが、ヤルモはタックルで撃破。ちょうどかんぬきがあった場所に穴が開いたので、衝撃で門が少し開いた。

「お前も嬢ちゃんと同類だな」

 そこに数秒遅れでやって来たオスカリは、門の厚さを確認してボヤイている。

「んなこと言ってる場合か。賢者の予想、当たってるぞ」
「「「「「うっ……」」」」」

 そこには、アルタニア国民の哀れな姿。イロナとは違い、そのレッサーヴァンパイアたちに同情して躊躇いが生まれる一同であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

神のおもちゃのラグナロク 〜おっさんになった転生者は、のんびり暮らす夢を見る。~

やすぴこ
ファンタジー
古今東西のお話を元にして神様達が遊びで作った剣と魔法の世界に『活躍を期待しているよ』と言う言葉と『神のギフト』を貰って転生した北浜 正太。 しかし、蓋を開けると『活躍を期待している』にしてはそこそこ平和、『神のギフト』と言うにはそこそこ強い力しか持っていない。 神に騙されたと思いながらも、『活躍を期待しているよ』と言う言葉の通りに英雄を目指して頑張っていたが、そこそこ強い程度の力では活躍なんて出来る筈も無く、どんどん力を付けて行く仲間達に嫌味を言われる日々だった。 そんなある日、とある事件で国を追われて長い逃亡の果てに辺境の街に辿り着く。 今の日課は、小物退治に新人教育、それにのんびり暮らす事! そんな毎日を送っていると、気が付けば38歳のおっさんになっていた。 『今更英雄を目指すのなんて面倒臭い。このままのんびり暮らしたい』 そんな夢を想い描いている彼なのだけど、最近何やら世間が騒がしい。 運命はどうやら見逃してはくれないようです。 なろうカクヨムで公開している物を改稿して完全版として掲載しています。 改題しました。旧題『遅咲き転生者は、のんびり暮らす夢を見る。 ~運命はどうやら見逃してくれないようです~』

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...