212 / 360
09 アルタニア帝国
193 ムオニノの町4
しおりを挟む「満足したか?」
四天王を圧倒したイロナに、モンスターを倒しながら近付いたヤルモは背中越しに尋ねた。
「うむ! 一匹ではたいしたことはないが、四匹同時ならけっこう楽しめたぞ」
イロナは満面の笑みでモンスターを斬り裂きながら答えてくれたので、ヤルモはホッとする。
「あとは、こいつらを一掃するだけだな」
「いや、もう一匹いる」
「ん? 魔王もここにいるのか??」
「こないだのコウモリだ」
「コウモリ??」
「我はコウモリを仕留めて来るから、主殿たちは下を片付けていろ」
イロナは質問に答えずに空を駆けて離れて行ったので、ヤルモは迫り来るモンスターを相手取る。その数秒後には空から戦闘音が聞こえて来たが、ヤルモも忙しいので見上げている暇はない。
そうしてモンスターの数が減って来ると、勇者パーティとすれ違い様に進捗状況を確認し、モンスターが残り僅かとなった頃にイロナが降って来た。
「ドーン!」と鳴った方向にヤルモと勇者パーティが一斉に見ると、そこには人型のモンスターが四肢を無くし、胸に剣を突き刺されて倒れていた。
ひとまずヤルモたちは目配せし、代表でヤルモとオスカリがイロナに駆け寄った。
「そいつって……前の町にもいた喋るヴァンパイアロードか?」
「うむ。こいつが空からモンスターを操っていたのだ」
「てことは、指示役ってことか……いったいぜんたい、どうなってるんだ??」
「我に聞くな。こういうのは主殿が詳しい」
「俺も知らないって~」
ヴァンパイアロードが塵となり行く中、オスカリの問いをいきなりイロナに無茶振りされたヤルモは情けない声を出していたが、まだモンスターが残っているのでそれどころではない。
「とりあえず、モンスターを倒そうぜ。考えるのはそれからだ」
「だな。ここさえ終わらせたら、あとは兵士で楽勝だろう。残りは俺たちの取り分でいいか?」
四天王というおいしい敵がいたのに、イロナひとりに取られたからには勇者パーティとしては立つ瀬がない。オスカリはせめて上位モンスターを倒したいようだ。
「そうだな……貴様らの糧にせよ。レベルがひとつでも上がれば、また我が楽しめるからな」
「テンション下がるようなこと言うなよ~」
「俺も行こっと……」
イロナの譲る理由が強者を求むことだったので、オスカリはやる気が下がる。しかしヤルモは、自分も巻き込まれることが確定しているとわかっているので、率先してモンスターを狩るのであったとさ。
「そっちの報告を聞かせてくれるか?」
上位モンスターを殲滅して休憩していたヤルモたちの元へ賢者ヘンリクが走って来たので、そちらは勇者パーティが対応。
ほとんど「お前もパーティに戻ってイロナと戦え!」的な愚痴であったが、ヘンリクは「残りはアルタニア兵で処理する」と言って逃げて行った。
たぶん、イロナと戦うのは一回でお腹一杯なのだろう。
それからしばらく経つと、勝鬨のような声が聞こえて来て、ムオニノの町からモンスターを一掃した合図となるのであった。
今日はここで野営となるので、アルタニア軍は事後処理で忙しく動く。死んだモンスターを運び、使えそうな装備は掻き集める。
この作戦には冒険者も参加しているので、食用のモンスターは冒険者が解体し、町の氷室や保管庫に運ばれる。食用に向かないモンスターや取れる肉が少ないモンスターは焼却処分となり、一ヶ所に集められて兵士が燃やす。
今回は上位種も豊作なので、解体された物は勇者パーティとヤルモパーティの元へと運ばれていた。
「「「「うんめぇ~~~!!」」」」
ただ塩を振って焼いただけの肉なのに、勇者パーティは大満足。両手に骨付き肉を握って貪り食っている。
ヤルモとイロナはそれを横目に見つつ、こちらも手で掴んでかぶりついている。
「うまいけど、あの牛には勝てないな」
「うむ。しかし、カイザードラゴンなど食べられるとは思いもしなかった」
「そりゃ、ダンジョンの下層にいるもんな。こんなことでもないと無理だろ~」
「なるほど……下層から連れ出せばいいのだな」
「かもな……いや、そんなことしたらヤバくない??」
イロナなら余裕でできると思ったヤルモであったが、こんな未来も想像してしまった。
カイザードラゴンを地下深くから甚振って上って来るイロナの姿。それはまだいいとして、カイザードラゴンを見てモンスターが逃げ惑ったとしたら、それはもうスタンピード、もしくは魔王じゃね?? と……
勇者パーティにも耳に入ってしまったのか、食べる手がピタリと止まった。
「おいおい。絶対にそんなことさせるなよ? あの嬢ちゃん、絶対に魔王認定されるぞ??」
「俺に止められると思うのか??」
「いや、止めてもらわないと俺たちが困る。呼ばれても絶対に行かねぇからな!」
魔王の相手は勇者がするもの。しかし、これまで散々イロナに甚振られたオスカリは、すでにお手上げ。せめてユジュール王国以外でやってくれとヤルモにお願いしていた。
「ところで、ここには何日ぐらい滞在するのだ??」
そんなやり取りをしているヤルモとオスカリの元へ、イロナからの死の宣告。
「ヘンリク! ヘンリクはどこだ! すぐに出発するぞ~~~!!」
またここで数日過ごすと、イロナの暇潰しに使われる。オスカリは痛い思いをしたくないので、必死にヘンリクを探し回るのであったとさ。
0
お気に入りに追加
316
あなたにおすすめの小説
試される愛の果て
野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。
スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、
8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。
8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。
その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、
それは喜ぶべき縁談ではなかった。
断ることなったはずが、相手と関わることによって、
知りたくもない思惑が明らかになっていく。
【完結】言いたくてしかたない
野村にれ
恋愛
異世界に転生したご令嬢が、
婚約者が別の令嬢と親しくすることに悩むよりも、
婚約破棄されるかもしれないことに悩むよりも、
自身のどうにもならない事情に、悩まされる姿を描く。
『この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません』
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。
転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます
藤なごみ
ファンタジー
※コミカライズスタートしました!
2023年9月21日に第一巻、2024年3月21日に第二巻が発売されました
2024年8月中旬第三巻刊行予定です
ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。
高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。
しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。
だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。
そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。
幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。
幼い二人で来たる追い出される日に備えます。
基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています
2023/08/30
題名を以下に変更しました
「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」
書籍化が決定しました
2023/09/01
アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります
2023/09/06
アルファポリス様より、9月19日に出荷されます
呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております
2024/3/21
アルファポリス様より第二巻が発売されました
2024/4/24
コミカライズスタートしました
2024/8/12
アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です
【完結】会いたいあなたはどこにもいない
野村にれ
恋愛
私の家族は反乱で殺され、私も処刑された。
そして私は家族の罪を暴いた貴族の娘として再び生まれた。
これは足りない罪を償えという意味なのか。
私の会いたいあなたはもうどこにもいないのに。
それでも償いのために生きている。
前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます
当意即妙
BL
ハーララ帝国第四皇子であるエルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララはある日、高熱を出して倒れた。数日間悪夢に魘され、目が覚めた彼が口にした言葉は……
「皇帝なんて興味ねえ!俺は魔法陣究める!」
天使のような容姿に有るまじき口調で、これまでの人生を全否定するものだった。
* * * * * * * * *
母親である第二皇妃の傀儡だった皇子が前世を思い出して、我が道を行くようになるお話。主人公は研究者気質の変人皇子で、お相手は真面目な専属護衛騎士です。
○注意◯
・基本コメディ時折シリアス。
・健全なBL(予定)なので、R-15は保険。
・最初は恋愛要素が少なめ。
・主人公を筆頭に登場人物が変人ばっかり。
・本来の役割を見失ったルビ。
・おおまかな話の構成はしているが、基本的に行き当たりばったり。
エロエロだったり切なかったりとBLには重い話が多いなと思ったので、ライトなBLを自家供給しようと突発的に書いたお話です。行き当たりばったりの展開が作者にもわからないお話ですが、よろしくお願いします。
2020/09/05
内容紹介及びタグを一部修正しました。
【R18】らぶえっち短編集
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)
R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。
※R18に※
※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。
※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。
※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。
※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。
戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる