上 下
202 / 360
09 アルタニア帝国

184 ケミヤロビの町1

しおりを挟む

「イロナ。ちょっとストップだ」

 皇帝が滞在するというケミヤロビを夕方過ぎに視界に収めたヤルモは、イロナを止めて勇者パーティを待つ。するとそこまで離れていなかったので、すぐに息の荒い勇者パーティが集合した。

「はぁはぁ。もうゴールは見えてるだろ。このまま駆け抜けたほうが楽だ。はぁはぁ」

 賢者ヘンリクを背負ったオスカリは、こんな何もない所で休むよりはベッドに横になりたい模様。しかし、ヤルモはそんなことで止めたわけではない。

「暗いからよくわからないけど、あれって煙じゃないか??」
「ん? あ~。煙だな……ちょっと待て」

 オスカリはヘンリクを下ろすと、地面に耳をつけた。

「かなりの数の人間が動いているな……」
「てことは……いま、まさにってことか」
「嘘だろ~。こんな疲れた状態でやりあうのかよ~」
「ま、一旦全員座ろうぜ」

 全員が腰を下ろし、飲み物に口を付けるとヤルモから案を出す。

「俺たちは疲れてないから先に行く。だから、お前たちは30分後に行動に移せ」
「くそっ! こんな時に俺たちは……」
「悔しがっているところ悪いけど、どうせほとんどイロナに持って行かれるから活躍の場は少ないぞ。下手に近くにいるほうが危ないし……」
「あ……」

 オスカリ、納得。あれほどのバトルジャンキーなら、モンスターを横取りされ、さらには間違ったと言いながら斬り付けられる未来が見えたようだ。

「聖女だけ頼めるか?」
「ああ。無事に送り届ける。でも、ちょっとは残しておいてくれよ」
「規模による。あとは~……」
「だな」

 ヤルモがイロナを見たらうずうずしていたので、オスカリも言いたいことがわかったらしい。

「そんじゃあ行って来る」

 装備を整えたら、ヤルモは一声掛けてダッシュ。イロナに何度もスピードを落とすように言いながら、町の外周を走るのであった。


「あれだな」
「うむ」

 外壁に押し寄せて群がるモンスターを見付けたら、二人は一時停止。状況を確認する。

「壁に穴が開いてるな……」
「あの程度なら、中にあまり入ってないだろう」
「じゃあ、外から削るか。味方の弓や魔法だけは気を付けていこう」

 ヤルモを先頭に走ると、外壁から放たれる弓矢の射程外を左回りに爆走する二人。
 ヤルモは大盾を構えたままスピードを落とさず、モンスターを撥ねながら走り抜ける。
 イロナはヤルモの外側を遅れて走り、目に入ったモンスターを斬り裂きながら走り抜ける。

 モンスターの群れを分断すれば、ヤルモ達を標的にするモンスターも現れ、二人は乱戦に突入。
 ヤルモは剣と大盾で吹き飛ばし、イロナは近付くモンスターを小間切れにする。

「チッ……弱すぎる」

 モンスターの種類は、ゴブリンやオーク、ウルフやオーガが多く占め、ダンジョンレベルで言えば中級程度のモンスターしかいないので、イロナには物足りない。

「確かにな~……外壁に穴開けたヤツが一番強いのかも?」
「そいつはどこにいると思う?」
「中かな~??」
「ふむ。行ってみるか」
「後ろを頼む」

 モンスターを吹き飛ばしながら喋っていた二人は、作戦変更。ヤルモを先頭に走り、外壁から降って来る弓矢や魔法は大盾を頭の上に掲げて防御。モンスターは体で撥ね飛ばし、イロナは後方のモンスターを斬り刻む。
 そうして外壁の穴に近付くと、群がるモンスターは一気に吹き飛ばし、ヤルモは穴を塞ぐように立った。

「味方だ! このあと聖女が連れて来たユジュール王国の勇者が駆け付けるぞ!!」

 大声でそれだけ告げたヤルモがモンスターを吹き飛ばしていたら、一人の男が駆けて来た。

「助太刀感謝する! 聖女様はどちらに?」
「あと20分もしたら勇者が連れて来る手筈になっている。それより、中の状況はどうなってるんだ?」
「モンスターが百は入った。ザコはなんとか倒したが、一匹デカイのが残っていて苦戦している」
「じゃあ、イロナを貸してやる。案内してやってくれ」
「あの女か??」
「お前らじゃ束になっても敵わん。イロナ!!」

 ヤルモがモンスターを吹き飛ばしながらイロナを呼ぶと、モンスターを小間切れにしていたイロナはヤルモの後ろに来た。

「デカイのがいるらしい。そいつに連れて行ってもらえ」
「強いといいがな」
「ここのヤツよりはマシだろ」
「ま、行くだけ行ってみる。案内しろ」
「わかった!」

 ここでヤルモとイロナは別行動。ヤルモは外壁の穴に群がるモンスターを吹き飛ばし、一匹も後ろに通さない。
 そうしていると、アルタニア兵からも安心するような声が聞こえて来た。

「あの戦士、つえぇ……」
「聖女様が雇った勇者の連れらしいぞ」
「その聖女様と勇者はどこにいるんだ??」
「さあ? 外で戦ってるんじゃないか??」
「ま、楽が出来るからいっか」

 ヤルモが来たおかげで、一部のアルタニア兵は気が抜けてその場から動かなくなる。そんななか、イロナは案内役の後ろを走り、遅いとグチグチ言っている。

「チッ……またザコか。高々トロールじゃないか」
「アレがザコだと? 10メートル以上あるぞ??」

 外壁を破壊した犯人はトロールエンペラー。百人以上の帝国兵を相手に大暴れしているのに、イロナはザコ認定。

「すぐ終わらせる。お前は邪魔な奴らを離れさせろ」
「いや、一緒に戦ったほうがいいんじゃ……」
「巻き込んで殺してもいいなら好きにしろ」
「うっ……」

 イロナが脅しと共に殺気を放つと、案内役も恐怖に萎縮して言うことをきくしかない。それどころか、周りの兵士やトロールエンペラーもその殺気に当てられて、イロナに視線が集中した。

「退避! 退避だ~! この女が無茶するぞ!!」
「「「「「うわあぁぁ~~~!?」」」」」

 案内役が大声をあげた瞬間、アルタニア兵は逃げ出した。

「逃がすわけあるまい!!」

 トロールエンペラーまで逃げ出したので、イロナがこんなことを言ったがために、アルタニア兵はマジで逃げ惑うのであったとさ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

異世界転移は定員オーバーらしいです

家具屋ふふみに
ファンタジー
ある日、転校した学校で自己紹介を行い、席に着こうとしたら突如光に飲まれ目を閉じた。 そして目を開けるとそこは白いような灰色のような空間で…土下座した人らしき物がいて…? どうやら神様が定員を間違えたせいで元の世界に戻れず、かと言って転移先にもそのままではいけないらしく……? 帰れないのなら、こっちで自由に生きてやる! 地球では容姿で色々あって虐められてたけど、こっちなら虐められることもない!…はず! え?他の召喚組?……まぁ大丈夫でしょ! そんなこんなで少女?は健気に自由に異世界を生きる! ………でもさぁ。『龍』はないでしょうよ… ほのぼの書いていきますので、ゆっくり目の更新になると思います。長い目で見ていただけると嬉しいです。 小説家になろう様でも投稿しています。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

処理中です...