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08 ユジュール王国
178 ユジュール王国の勇者6
しおりを挟むイロナと死闘繰り広げた勇者オスカリは、カーボエルテ王の書状を見て愚痴っていたが大声で人を呼び、その兵士に書状を渡してからヤルモと喋っていた。
「てか、あの手紙の内容はなんなんだ?」
「さあ? もしも会うことがあったら渡せとしか言われていないから俺もしらん」
「ん? ヤルモはカーボエルテの使いじゃないのか??」
「う~ん……いちおう使いみたいになっているけど、アルタニアに用があるだけだ。だからユジュール王国とは関わりを持つつもりはなかった」
「てことは~……」
ヤルモの遠回しの言い方に、オスカリは予想を付ける。
「お前たちは、アルタニアの聖女に雇われて魔王を倒しに行くってことか?」
「まぁ……そんなところだ」
勇者パーティを倒せる実力を見せてしまったのだ。その上、聖女マルケッタを連れているのだから言い訳のしようがないので、ヤルモも目的を言うしかない。
しかし、それは悪手。オスカリは急に両拳を地面につけて大声を出した。
「俺たちも連れて行ってくれ! 頼む!!」
「はあ??」
「この国は平和なんだ。それなら、困っている所に勇者が行くべきだろ? 違うか??」
「……さあ??」
「勇者の使命は民を守ることだ。国なんて関係ない。なのにアルタニアは俺たちを受け入れてくれないんだ。だからアルタニアに入る術を持っているなら連れて行ってくれ!!」
あまりにも価値観が違うことを言うオスカリに、ヤルモは考え込んでしまう。
勇者とは人を蔑むような奴じゃなかったのか?
なのにこいつは民のことしか考えていない……
いやいや、そんなことを言って俺を陥れることを考えているはずだ。
なるほど。イロナが魔王を倒したら、手柄を奪い取るつもりか。
確かに目立たないためには連れて行ったほうがいいかも?
いや、勇者がここまで準備してくれたんだ。期待を裏切るわけにはいかない。
……のか? 俺は何を考えているんだ??
自問自答。勇者クリスタたちと触れ合ったせいでヤルモの思考がブレて、さらに考える時間が延びてしまう。
そこにオスカリが何度もお願いしてヤルモが答えられずにいると、マントを羽織った男がドサッと腰を下ろした。
「ヤルモと言ったか……少しだけ、余の話に耳を傾けてくれないか?」
オスカリ以外の声が聞こえたのでヤルモが目線を上げたら、頭に王冠が乗っている中年男性がいたので固まった。
「ああ。こいつは俺のマブダチで、この国の王だ。気のいいオッサンだから、緊張する必要はないぞ」
「お前だっていいオッサンだろうが。オッサンにオッサンと言われる筋合いはない」
「40オーバーと手前では、大きな壁があるってのにいい加減気付けよ」
オスカリと国王が口喧嘩を始めると、ヤルモはそうっと逃げようと……
「「逃がさんぞ!」」
したが、あっけなく二人に掴まった。オスカリはどうでもいいが、国王に掴まったからにはヤルモはビクビクして言い訳する。「マルケッタを呼びに行こうとしただけ」と嘘をついて大声で呼び、後ろに立たせた。
それから三人のオッサンは膝を突き合わせて話し合う。
「それで……俺に何か用か? です」
「口調ぐらいで怒らんから普通に喋ってくれてかまわない」
「はあ……」
ヤルモはまだビクビクしているが、国王は先の質問に答える。
「書状のことだ。カーボエルテ王から、手を組まないかと書かれていてな。もしもやりたいことがあるなら、ヤルモという男に相談しろとなっていたのだ」
「チッ……またあのオッサンは……」
「その反応は、本当に何も聞かされておらんのだな。先に書状の内容を詳しく説明したほうがよさそうだ」
国王はヤルモにも書状を見せて説明する。
ざっくりとした内容は、カーボエルテ王国から最強の二名を送るから、国境で引き止めないこと。魔王を倒した暁には、アルタニア帝国の内政干渉できるようにすること。
ユジュール王国側も勇者を派遣してアルタニア帝国に貸しを作り、内政干渉を一緒にやらないかとのお誘いだ。
「あのオッサン……アルタニアを狙っていたのかよ」
「まぁいまのアルタニアの内情では、変革をしてもらいたいのは余も同意見だ。だが、一国では手に余るから、うちにも協力して欲しいってのが本音だろうな」
「ふ~ん……で、王様も勇者を派遣したい、と……」
「そうだ。魔王の驚異の度合いにもよるが、最悪、軍隊の派遣まで考えてここに兵を集めていたのだ」
「なんでそこまで……」
ヤルモの質問に、国王は真顔で語る。
「民を守るためだ。いまはアルタニアに動きはないが、もしも不作なんてことになれば周辺国が間違いなく攻められる。うちが標的にならないように、貸しを作っておいたほうが民のためになるからだ」
またヤルモはカルチャーショックを受け、黙り込んでしまった。
嘘のように聞こえない。
てか、なんだよここの王様もカーボエルテの王様も……
王族や貴族ってのは、庶民から搾取して簡単に殺す奴じゃないのかよ。
アルタニアでは、そんな奴ばっかだぞ。
俺の常識がおかしいのか?
いや、アルタニアがおかしかったのか……
俺もこんな国に生まれていれば……
ヤルモはふたつの国の民が羨ましく思い、目に熱い物を感じたので慌てて目を擦った。
「わかった。でも、魔王は俺たちの獲物だ。それに手を出したら、容赦なくイロナに殺されるぞ」
「うん……」
「うむ……」
交渉は成立したのだが、何故かオスカリも国王も口が重い。
すぐ近くで、勇者パーティを圧倒した魔王が微笑んでいるのだから……
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