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08 ユジュール王国
175 ユジュール王国の勇者3
しおりを挟む「「「「「魔王……」」」」」
イロナがとんでもない殺気を放つものだからユジュール軍は後退り、口々に魔王と呟いている。
「ちょっ……ちょっと待った! ヤルモがやるんじゃないのか!?」
ここでオスカリは初めて焦りを見せる。
「俺は……どちらかと言うとお前たち側だ。なんとか生き残ってくれ!」
「こんなのマジもんの殺し合いになるだろ! そいつを止めてくれ!!」
「俺じゃあ無理なんだ……諦めてくれ……満足したら止まるから……あと、手を抜いたら殺されるから、気を付けろ……」
どんどん声の小さくなるヤルモを見て、話にならないと思ったオスカリはイロナに標的を移す。
「じょ、嬢ちゃん……俺の顔に免じて、ここは鞘を収めてくれないか?」
「ここまで来てそれはないだろぉぉぅぅ~? どうしてもと言うのならぁぁ、あいつを殺そうかぁぁぁぁ~??」
「こわっ!? てか、誰を殺そうとしてるんだ!!」
イロナが剣を向けた先には、ユジュール王。国王殺害も意に介さないイロナでは、オスカリも覚悟を決めなくてはならない。
「こいつヤバイぞ! 俺にもしものことがあったら、全員でかかれ!!」
「「「「おう!!」」」」
オスカリは仲間に声を掛けると、剣を構えて前に出た。
「クックックックッ……全員相手も面白そうだ……いやいや、まずは勇者から味見だな。どれほどうまいのやら……クックックックッ。主殿!!」
「はい! ……あ~。はいはい」
いきなりイロナに呼ばれたヤルモは、何故呼ばれたのかわからずにいい返事。しかし、イロナがアゴをくいっとしたら審判役の男が腰を抜かしていたので理解し、オスカリとイロナの間に立った。
「はじめ! どわっ!? うおおぉぉ~!!」
そして、始めの合図をしてから、審判を担いで逃げ回るヤルモであった。
ヤルモの開始の合図で、イロナとオスカリは一瞬で前に出ての衝突。お互い一太刀を合わせてからは、素早く動いて斬り合いを続けている。
「おお~。イロナと互角に斬り合ってる……」
辺りに剣と剣がぶつかる金属音が鳴り響くなか、ヤルモは十分距離を取ったら感嘆の声を出して見守っていた。
「ん、んん~……なんですの? この音……」
気絶していたマルケッタもヤルモに抱えられて避難していたので、ヤルモの足元で目覚めた。
「起きたか……」
「僭越ながら、いったい何が起こっていますの?」
「イロナと勇者が斬り合っているんだよ」
「二人の姿が見えないのですけども……」
マルケッタのレベルでは見えない速度で斬り合いが行われているので、ヤルモは嫌々教えてあげる。
「これが、本物の勇者の実力だ。お前が連れていた勇者は、名前だけのハリボテなのはよくわかるだろ?」
「……はい」
マルケッタは奴隷魔法のせいでよけいなことは言えないので、ヤルモの問いに肯定しかできない。しかし、心の声も似たような感じだ。
(嘘でしょ。人間の動きじゃない……これでは、あの魔王のようですわ……)
マルケッタは、魔王に一人ずつ殺された自分たちを思い出して体を震わせる。おそらく、何をされているかもわからずに殺されたのだろう。
そんなマルケッタを嘲笑うように、イロナとオスカリが姿を現した。
「フハハハハ! なかなかやるな! 肝を冷やした場面もあったぞ!!」
「どこが……まだまだ余裕じゃねぇか。はぁはぁ……」
これは一声掛けようとイロナが止まっただけ。オスカリはすでにズタボロなので、悔しそうにイロナに反論している。
「そろそろ本番と行こうではないか!」
「チッ……俺が派手に散るから、民やダチに手を出すなよ」
オスカリは負けると思いつつも、ヤルモの助言を信じて剣を振り続けていた。人々を守る勇者として、自身の命を持ってイロナを満足させようとしたのだが……
「何を言っている。これからが楽しいところだ。仲間に傷を治してもらって全員でかかってこい!」
「マジかよ……」
「さっさとしろ!!」
イロナに怒鳴られたオスカリはすごすご引き下がり、勇者パーティの賢者ヘンリクに傷を治してもらいながら愚痴っている。
「なんだあの化け物……俺たちが倒して来たラスボスが霞んで見えるぞ」
「失敗した……あんな化け物を陛下の前に連れて来るなんて……」
ヘンリクは自分の策略が裏目に出たと嘆き、項垂れて下を向いた瞬間に顔に掛かった白髪まじりの長い髪を、うっとうしそうに掻き上げた。
「ありゃどこかの魔王だろ。てか、あいつがアルタニアに出た魔王じゃねぇか?」
「それだと世界が終わってしまうぞ」
「冗談だ……と、言いたいところだが、これ、どうすんだよ~~~」
ユジュール王国、絶体絶命の大ピンチ。オスカリが泣き言を漏らすと、ヘンリクたちもため息を吐いていた。
「はぁ~。ま、どっちにしてもヤルモを信じるしかない。あの化け物を満足させれば引き下がってくれるはずだ。死ぬ気で行くぞ!」
「「「「おおっ!!」」」」
オスカリが覚悟を決めると、仲間もさっきまでの情けない顔から引き締まった顔に変わる。そして、ラスボスにでも挑むような陣形でイロナに歩み寄った。
「待たせたな」
「クックックックッ……全員いい顔だ。さすが勇者パーティだ!」
「お褒めの言葉、ありがとよ。だが、俺たちが勝たせてもらうからな!」
「その意気もよし! かかってこい!!」
「「「「「うおおぉぉ~~~!!」」」」」
斯くして、勇者パーティVSイロナの戦闘が激しさを増すのであった。
「僭越ながら……あのイロナさんとは、どこかの魔王ですの??」
「んなわきゃ……ない。たぶん……いや……」
マルケッタの質問に自信のない返ししかできないヤルモに見守られながら……
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