上 下
131 / 360
06 カーボエルテ王国 王都3

119 マッピング1

しおりを挟む

 ウサミミ亭で丸一日体を休め、次の日には買い出しや準備を済ませた勇者一行は馬車に乗り込む。店主のエイニに見送られた馬車は特級ダンジョンに着き、勇者一行は手続きをして地下へと下りた。

「今回の班分けは、俺とヒルッカが組んで、残りは勇者班だ。んで、俺は右に。勇者は左に進んで地図を埋めて行くぞ」

 ヤルモが簡潔に指示を出すと、勇者が手を上げる。

「私たちだけで大丈夫かな?」
「イロナがいるじゃないか。危なくなったら守ってくれる」
「うむ。我に任せておけ」

 クリスタは心の中で「そういうことじゃないんだけどな~?」とか思っているので、たぶん首輪の取れた狂犬から無茶振りが来ないかと心配しているのだろう。
 その心の声はオルガとリュリュにハッキリと聞こえたので、二人も同じことを思って顔にも出ていた。

「やり方は昨日説明した通りだ。壁を左手に見ながらくまなく進むんだぞ。こんな面倒なこと、一回で終わらせるからな」
「わかってるって~。それより、そっちこそ大丈夫なの?」
「こんな若い子に手を出すわけないだろ!」

 またしてもクリスタは「そういうことじゃないんだけどな~?」とか思っている。初めて会った際、あれだけ人見知りが爆発していたヤルモなのに、ヒルッカを連れて歩けるのかと……

「そんじゃあ階段で待ち合わせな」
「は~い」

 こうして第二回特級ダンジョン攻略はぬるりと始まって、勇者一行は二手に分かれて歩き出したのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 ヤルモ班の場合……

 ヤルモを先頭にヒルッカがすぐ後ろを歩き、突き当たりになると壁を右手に見ながら戻る。前回作った地図は模写してあるのでヒルッカに持たせ、歩いた場所を書かせている。

「あ、あの……」

 その間、ヤルモは一言も話さなかったので、無言に耐えかねたヒルッカはヤルモに質問していた。

「どうした?」
「なんで私だけヤルモさんと一緒なんでしょうか……」
「こんなオッサンと一緒じゃ嫌だよな。すまん」

 ヤルモはテンション低く平謝り。さっきまでの偉そうな態度が嘘みたいだ。

「嫌というわけでは……わたし、特級ダンジョンに入れるようなレベルじゃないので、たった二人じゃ不安で……」
「俺は絶対に手を出さないから心配しないでくれ。頼む!」
「それはわかっています。……あっ! その先にモンスターがいますけど……」

 ヤルモが後ろを向きながら手を合わせていたら、鼻と犬耳をピクピクさせたヒルッカがモンスターに気付いたので、作戦会議に移行する。

「これ。使ってくれ」

 ヤルモは、Y字状に加工された鉄にゴムが張られた物と皮袋をアイテムボックスから取り出すと、ヒルッカに手渡す。

「スリングショットですか?」
「そうだ。こないだナイフしか使えないと言っていただろ? シーフだったら装備可能と聞いたから買っておいた」
「使ったことがないのですけど……」
「いまから覚えてくれ。弾も多く買って来たから、いくら外してもいいからな。もう、俺に当ててかまわないから撃ちまくれ」
「そ、そんなことできません!」
「俺は大丈夫だ。そんなパチンコ玉ではダメージにならないからな。じゃ、行こうか」

 ヒルッカの返事は待たず、ヤルモは大盾と剣を構えて前進。ヒルッカも続くしかなく、ヤルモを追った。

 角を曲がった先にはバトルウルフが三匹。ヤルモは大盾を打ち鳴らして惹き付けながら前進する。ヒルッカはスリングショットを構えてみたが、ジグザグ走るバトルウルフに照準が合わず、撃てずにいる。
 スリングショットが一発も放たれないまま、バトルウルフはヤルモに接近。一匹は剣で叩き斬られて撃沈。もう一匹は蹴飛ばされて遠くに転がる。最後の一匹は、大盾で地面に押し潰された。

「いまなら当たるだろ!」
「は、はい!」

 動きがなければとヤルモは思ったが、三発撃って命中は一発。二発はヤルモに当たってしまった。

「ごめんなさいごめんなさい……」
「大丈夫だ。次、行くからな」

 大盾で押さえ付けられたバトルウルフは、ヤルモが力強く押しただけでぐしゃっと潰れる。そんなことをしていると、蹴飛ばしたバトルウルフが向かって来てヤルモの腕を噛んだ。

「ほい。この距離なら当たるだろ?」
「それ……大丈夫なんですか??」

 腕を噛んだバトルウルフはヤルモにベアハッグされて運ばれて来たので、ヒルッカは心配を通り越して首を傾げている。

「大丈夫、大丈夫。でも、暴れてるからあまり近付くんじゃないぞ」
「は、はあ……」

 ヤルモは心配させないようにニカッと笑って声を掛けたが、ヒルッカは引き気味。しかし、やらないことには終わらないと察してスリングショットを撃ちまくる。
 さすがに外れる距離じゃなかったので全てヒットしたが、一向に死ぬ気配がなかったのでヤルモが絞め殺していた。


「どうだ? レベルは上がったか??」

 バトルウルフがダンジョンに吸い込まれるなかヤルモは質問するが、ヒルッカは涙目で首を横に振る。

「な、なんで……すいませ~ん。わたし、ダメダメなんです~」
「わっ! な、泣くな。俺が悪かった。な? 俺が悪いからレベルが上がらなかったんだ」
「そんなことありませんよ~。え~~~ん」

 まったく悪くないヤルモが謝るので、ヒルッカは本当に泣き出してしまうのであったとさ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

試される愛の果て

野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。 スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、 8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。 8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。 その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、 それは喜ぶべき縁談ではなかった。 断ることなったはずが、相手と関わることによって、 知りたくもない思惑が明らかになっていく。

【完結】言いたくてしかたない

野村にれ
恋愛
異世界に転生したご令嬢が、 婚約者が別の令嬢と親しくすることに悩むよりも、 婚約破棄されるかもしれないことに悩むよりも、 自身のどうにもならない事情に、悩まされる姿を描く。 『この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません』

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

藤なごみ
ファンタジー
※コミカライズスタートしました! 2023年9月21日に第一巻、2024年3月21日に第二巻が発売されました 2024年8月中旬第三巻刊行予定です ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。 高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。 しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。 だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。 そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。 幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。 幼い二人で来たる追い出される日に備えます。 基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています 2023/08/30 題名を以下に変更しました 「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」 書籍化が決定しました 2023/09/01 アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります 2023/09/06 アルファポリス様より、9月19日に出荷されます 呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております 2024/3/21 アルファポリス様より第二巻が発売されました 2024/4/24 コミカライズスタートしました 2024/8/12 アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です

【完結】会いたいあなたはどこにもいない

野村にれ
恋愛
私の家族は反乱で殺され、私も処刑された。 そして私は家族の罪を暴いた貴族の娘として再び生まれた。 これは足りない罪を償えという意味なのか。 私の会いたいあなたはもうどこにもいないのに。 それでも償いのために生きている。

前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙
BL
ハーララ帝国第四皇子であるエルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララはある日、高熱を出して倒れた。数日間悪夢に魘され、目が覚めた彼が口にした言葉は…… 「皇帝なんて興味ねえ!俺は魔法陣究める!」 天使のような容姿に有るまじき口調で、これまでの人生を全否定するものだった。 * * * * * * * * * 母親である第二皇妃の傀儡だった皇子が前世を思い出して、我が道を行くようになるお話。主人公は研究者気質の変人皇子で、お相手は真面目な専属護衛騎士です。 ○注意◯ ・基本コメディ時折シリアス。 ・健全なBL(予定)なので、R-15は保険。 ・最初は恋愛要素が少なめ。 ・主人公を筆頭に登場人物が変人ばっかり。 ・本来の役割を見失ったルビ。 ・おおまかな話の構成はしているが、基本的に行き当たりばったり。 エロエロだったり切なかったりとBLには重い話が多いなと思ったので、ライトなBLを自家供給しようと突発的に書いたお話です。行き当たりばったりの展開が作者にもわからないお話ですが、よろしくお願いします。 2020/09/05 内容紹介及びタグを一部修正しました。

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

処理中です...