111 / 360
05 カーボエルテ王国 王都2
102 特級ダンジョン5
しおりを挟む「勇者! 俺から離れろ!!」
「うん!!」
ヤルモは後ろを見もしないで指示を出すと、クリスタは大きく跳んで距離を取る。
その直後、テッポから放たれた【ファイアーストーム】にヤルモは包まれた。
「フッ……平民のくせに、勇者様や侯爵家の俺様に命令するから悪いんだ」
「テッポォォ~~~!!」
「がはっ……」
炎に包まれるヤルモをテッポが笑って見ていたら、凄い速さで走って来たクリスタに顔を殴られて吹っ飛んだ。
「なっ……なんで勇者様が俺を……勇者様のためにやったのに……」
「何が私のためよ! 私がいつ頼んだの!!」
「あんなオッサンに命令されたら、勇者様のプライドが傷付くはずです……」
「はあ!? そんな安いプライド、国民のことを思ったら必要ないわ! あなたは何のためにここにいるのよ!?」
「俺は……勇者様のために……」
クリスタの剣幕に押されてテッポの声が小さくなっていくなか、オルガやリュリュも心配して集まって来た。
そうして誰もテッポの味方をしないままクリスタが叱責していると、後ろから声を掛けられる。
「お~い。なに俺一人に戦わせているんだよ」
「「え?」」
「「へ?」」
ヤルモだ。皆が戦闘を離れてしまったので、本気を出してモンスターの群れを一掃し、急いで戻って来たのだ。
暗殺事件の被害者であるはずのヤルモの暢気な声を聞いて、全員の視線が集中した。
「ヤルモさん……体は??」
「あんなしょぼい攻撃、効くわけないだろ」
「あ……そうだった!」
「それより早くアイテムを拾え。イロナに蹴飛ばされるのは俺なんだからな」
当の被害者が意に介さず指示を出すので、クリスタたちは言うことを聞いてドロップアイテムを広い集めるのであった。
それから先を進み、小ボスをイロナが一刀両断した先のセーフティエリアの小部屋にて、休息を取ることにしたヤルモ。
イロナ以外の全員を集めてヤルモは話をする。
「ま、テッポはここまでだ。パーティメンバーに攻撃したんだから異論はないよな?」
「あるに決まってるだろ! 俺様は侯爵家の人間だぞ!!」
「じゃあ、多数決。テッポが邪魔な人~?」
「うっ……」
最後にリュリュがそろりと手を上げると、4対1でテッポのパーティ脱退が決まるのであった。
「くっ……くそ! 父上に報告するからな!!」
捨て台詞を残して転送魔法陣からテッポが消えると、ヤルモは今度はクリスタたちの説教。
「お前らな~。裏切りぐらいで戦闘を止めてどうするんだ。逃げるならまだしも、その場で喧嘩なんかしてたら全滅だぞ」
「え? あ……もしかして、私たちに見せるためにわざと攻撃を喰らったの??」
「そうだ。冒険者なんて、どんなに信じ合っていても裏切る奴がたまにいる。ましては、勇者の元へは利用しようとする者や、最悪、暗殺を企む奴だって現れるかもしれない」
「言ってる意味はわかるけど……」
クリスタは心配しすぎだと思ったが、その言葉は飲み込んだ。
「そんな時、どう生き残るかは考えておけ。生きて帰っての冒険者だ」
「……うん。わかった」
ヤルモの説教が終わったら、夕食の開始。この小部屋は狭いので、携帯食で済ますようだ。
その席で、クリスタは溜め息まじりにイロナを見る。
「はぁ……テッポ君がイロナさんに殺されなくてよかったよ~」
どうやらクリスタは、イロナがテッポを斬り捨てる前に自分から激昂してみせたようだ。
「10階の小ボス手前で攻撃して来るからと主殿から聞かされていたからな。本当に来たと感心して見ていたのだ」
「そうなの!?」
「理想は一階だったんだけどな~。意外と根気強くて参ったよ」
「まさか……わざと煽っていたんじゃ……」
「だって、これぐらいのことがないと帰してくれないだろ?」
そう。ヤルモは最初から、テッポが気に食わないから追い出したかった。なのでわざと失礼なことを言っていたのだが、その都度クリスタが宥めるので、地下10階まで掛かってしまったのだ。
「はぁ~。嵌められたわけだ……」
「リュリュのほうが魔法使いとして有能なんだから、一人に絞るのは早いほうがいい」
「え? もう審査終わったの??」
「そんなもん、1階で終わっていた。ちなみに索敵は勇者たちより、リュリュのほうが上だからな」
「わざわざ言わなくていいでしょ~」
また貶されてクリスタは肩を落とすのであった。
「とりあえず、ここで一泊だ。リュリュ。こっち来い」
「あ、はい」
女性陣が体を拭くので、小部屋の隅に移動するヤルモとリュリュ。二人ともマントを被って見ていないアピールをしている。
そこで無言で待っていた二人だが、沈黙に耐えかねたリュリュが口を開いた。
「どうして部屋から出ないのですか?」
「この部屋は後戻りできないし、外に出たら戻ることもできないんだ。だから一泊しちゃいけない決まりがあるんだ。ま、冒険者は明日から入るらしいし、今回だけは許してもらおう」
「あっ! 冒険者ギルドで聞いた事があります。後続の迷惑になるからって……」
「よく勉強しているな。勇者と大違いだ」
「いえ、そんな、常識の範囲内ですよ」
「私はその常識がないんだ……」
二人が喋っていたら、体を拭き終えて呼びに来たクリスタに聞かれていたようだ。その声に、リュリュは焦って言い訳。
「違います違います! 違うんですぅぅ~」
「何が違うのかな~? 体を拭いてあげるから、お姉さんに教えてくれるかな~??」
「や、やめてください……ヤルモさん、助けて~」
服を脱がされそうになったリュリュが助けを求めると、ヤルモは……
「ぎゃああぁぁ~~~!!」
本日のイロナのお仕事。もうすでに服を剥ぎ取られ、背中を拭かれて悲鳴をあげていた。
なので、プルプル震えているリュリュは涙目で訴える。
「あんな酷い拷問をするんですか?」
「ないない。アレはない」
やはりリュリュにもイロナの奉仕は拷問に見えるらしく、クリスタもその拷問を見たせいでやる気が萎えるのであったとさ。
1
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。
隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。
婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。
しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる